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環境倫理学とは・意味

環境倫理学

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環境倫理学とは?

環境倫理学(Environmental Ethics)とは、人間と自然環境との関係における倫理的な問題を探求する学問のこと。環境価値の概念的基礎や、生物多様性や生態系を保護・維持するための社会的態度、行動、政策をめぐる具体的な問題を扱う。

応用哲学の一分野であり、倫理学においては応用倫理学の一種、環境学においては関連分野に位置付けられる。

環境倫理学の特徴

環境倫理学には人間中心の考え方から自然中心の考え方まで、さまざまな考え方がある。

たとえば「人間中心主義」は、人間やその利益、幸福のみに焦点を当てた倫理へのアプローチである。人間の価値観が世界すべての尺度であるという考え方のため、自然環境には独立した立場がなく、自然環境は人間のために存在するとみなされる。よって、人間中心主義的な考え方における環境保護は、人間の利益を保護するためになされるものとなる。

一方、非人間中心的、自然中心的な考え方では人間と自然環境との関係性が異なる。非人間中心主義的な考え方の場合、人間以外の存在にも内在的価値があり、自然や動物なども倫理的配慮の対象とすべきと捉える。また、自然中心主義的な考え方の場合は、自然全体の価値を最優先に考え、生態系全体の健全性や安定性を重視する。つまり、これらの立場では、自然環境を人間にとっての道具的価値や利用価値の観点からのみ捉えてはいないのだ。

これらの倫理観は、環境問題に対する多様なアプローチを生み出し、環境保護の必要性やその方法について考えるきっかけを与える。

環境倫理学の三原則

先述した通り、環境倫理学にはさまざまな考え方、主張がある。そこで日本の哲学者・倫理学者である加藤尚武は、環境倫理学の主張を以下の3つに整理した。

  • 自然の生存権
  • 世代間倫理
  • 地球全体主義

自然の生存権とは、動物や植物、生態系、地形などの人間以外の自然にも生存の権利があり、人間はそれを守る義務があるという考え方である。

世代間倫理は、今を生きる世代は将来の世代の生存可能性に対して責任があるという考え方だ。

そして地球全体主義とは、地球こそが、すべての価値判断を優先して尊重されるべき「絶対的なもの」であるという思想を指す。

日本の倫理学者・社会哲学者である馬渕浩ニは『環境倫理学と正義の問題』(中央学院大学人間・自然論叢16 p.91〜p.108、 2002年)の中で、これら三原則のうちもっとも基本的な原則は地球全体主義だとしている。

これら三原則の関係を分析するとすれば、(中略)もっとも基本的なものは地球全体主義・地球有限主義の原則であると考えるのが自然である。かりに資源やエネルギー、地球環境の浄化能力が無限だったとしたら、地球環境問題自体が発生しないであろう。人間はエネルギーや資源を好きなだけ浪費してもそれらの枯渇を心配する必要はないし、廃棄物をいくら生み出しても環境汚染を心配する必要もないからである。この意味で、環境問題を成立させる根本的な条件は地球の有限性である。

引用元:馬渕浩ニ『環境倫理学と正義の問題』p.101(中央学院大学人間・自然論叢16 p.91〜p.108、 2002年)

環境倫理学における3つの倫理的アプローチ

また環境倫理学においては、以下の3つの倫理的アプローチがある。

  • リバタリアン・エクステンション(Libertarian Extension)
  • エコロジック・エクステンション(Ecological Extension)
  • 保全倫理(Conservation Ethics)

リバタリアン・エクステンション

リバタリアン・エクステンションは、人間固有とされてきた権利や価値の概念を、人間以​​外の存在(動物、植物、生態系など)にも拡張する考え方である。すべての生命体に在る価値と権利を認めることを目指し、人間の利益だけでなく、自然全体の利益を考慮することを重要視する。

エコロジカル・エクステンション

エコロジカル・エクステンション(Ecological Extension)とは生物的および非生物的な存在すべての根本的な相互依存性と、その本質的な多様性を認識することに重点を置く考え方のこと。生態系のバランスと健全性を維持するために、自然環境とその資源を保全することに焦点を当てている。

保全倫理

保全倫理では、現在の資源が枯渇したり、修復不可能な損傷を受けたりしないようにすることで、将来の世代が利用できる天然資源の保全に重点を置く。資源の適切な利用と環境保護のバランスを取ることを目指すこの概念は、将来の世代のために十分な資源を確保できるよう、個人が責任を持って慎重に天然資源を利用することを奨励するものだ。

これらの倫理的アプローチにはそれぞれ利点がある。環境を保護するために最善な方法を考える際には、それぞれのメリット・デメリットを考慮することが大切だ。

環境倫理学の問題点

上記で示したように、環境倫理学は人間と自然の関係についての道徳的なあり方をさまざまな視点から考える。そのため、下記のような問題が生じることがある。

  • 世代間倫理の不明確性:現世代が未来世代に対してどのような責任を持つべきか、その責任をどのように果たすべきかについて明確な指針を定めることが難しい
  • 普遍的な倫理基盤を構築する難しさ:すべての文化が同じ環境倫理を共有しているわけではないため、グローバルな環境倫理を築くのには困難が伴う
  • 倫理と実践のギャップ: 経済的・政治的な制約によって、倫理的に適切とされる行動が実行されない場合がある

世代間倫理の不明確性について

環境破壊や資源を枯渇させる行為は、今を生きる世代が加害者となり、将来の世代が被害者になるという構造を持つ。しかし今を生きる世代が配慮の対象とする将来の世代はいまだ存在していない。

配慮の対象とする将来の世代のニーズなどが不明確な状態で、今を生きる世代が一方的に将来の世代に対して義務を負うことが可能なのか。将来の世代はいまだ存在せず、今を生きる世代に利益も害も与えられないのだから相互的な責務は成立しないのではないか。世代間倫理の考え方には、このような批判がある。

しかし、繰り返しになるが、人間中心の考え方であっても自然中心の考え方であっても、自然環境という存在は重要な価値を持つ。前者において自然は人間のために存在し、後者において自然は人間と共生関係にあるものだ。だが、このように「自然」が意味するものの多元性を考慮することは、環境倫理学、そして私たちが環境の保護・保全について考え、行動する上で欠かせないことといえる。

環境倫理の実践例

再生可能なエネルギー源の利用

再生可能なエネルギー源とは、自然に補充され、天然資源を枯渇させることなく使用できるものを指し、それらのエネルギー源を利用した事例には太陽光発電、風力発電、水力発電などがある。再生可能エネルギー源は、環境汚染を引き起こしたり、有限な天然資源を枯渇させたりすることがないため、倫理的な選択であると考えられている。

持続可能な農業・林業

環境倫理の実践例には、持続可能な農業手法(以下、農法)もあげられる。持続可能な農法では、農業に使用される土地と資源が生産性を維持し、将来も使用し続けられるように設計されている。その例には輪作、総合的病害虫管理などがある。輪作は、同じ圃場で異なる種類の作物を時期ごとに順番に栽培する農法で、土壌の健康を維持しながら安定した収穫を得るために用いられる。総合的病害虫管理は、化学農薬の使用を最小限に抑えながら、病害虫や雑草の被害を管理する方法で、環境や人間への影響を減らしつつ、農業生産を持続可能にすることを目指す。

持続可能な林業もまた、環境倫理の実践例だ。森林の生物多様性と生態系を維持する方法で森林が管理されるよう設計されており、その方法には選択的伐採や森林再生、原生林の保護などの取り組みがある。

そのほか、環境に関するニュースや情報を扱うウェブサイト「Environment.co」ではこのような取り組みを紹介している。

水の節約、水の保全

水はすべての人が共有する資源であるため、できる限り節約することが好ましい。

なお、淡水の68%近くが極地の氷河や氷冠に閉じ込められており、30%は地下水だ。しかし、人間が消費できるのはごく一部であることから、貴重な水資源を汚染しないよう、清掃活動といった水の保全活動に積極的に参加することを推奨している。

プラスチック汚染の削減

世界では約3億9,000万トンものプラスチックが排出されている。このプラスチック廃棄物の多くは埋立地やリサイクル施設を素通りして海に流れ着き、海洋生物たちの生活を脅かしている。「Environment.co」の記事はプラスチック汚染を減らすため、再利用可能な水筒や買い物袋、ストローを利用すること、生分解性の製品を探し、製品を適切にリサイクルする方法を学ぶことを推奨している。

地元の商品を買う

スーパーマーケットに行く前に、地元のファーマーズ・マーケットや農産物直売所を訪れることも環境倫理の実践例のひとつになる。理由としては、地元の農産物や商品を買うことで輸送時に発生する二酸化炭素の排出量を減らすことにつながるからだ。

環境に配慮した企業や団体を支援する

環境に配慮した企業や団体を支持することは、持続可能性を左右する選択といえる。

人間中心であっても自然中心であっても

環境倫理学は、健全な地球と次世代のための資源保護にとって極めて重要な学問分野である。人間中心的な考え方であっても、自然中心的な考え方であっても、私たちは地球を守るためにより生態学的に健全な決断を下すことができるはずだ。

参考文献:馬渕浩ニ『環境倫理学と正義の問題』p.101(中央学院大学人間・自然論叢16 p.91〜p.108、 2002年)

【参照サイト】Environmental Ethics | Learn Science at Scitable.
【参照サイト】Environmental Ethics – Types, Importance, Examples – GeeksforGeeks
【参照サイト】人間中心主義 – 環境用語集
【参照サイト】倫理学の「環境論的転回」と「一般的観点」
【参照サイト】環境倫理学」|EICネット
【参照サイト】世代間倫理の考察 : 「持続可能性」の学術的側面と 政策的側面
【参照サイト】Environmental Ethics: What it Is and Why it Matters – Environment Co
【参照サイト】環境倫理学と科学批判

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