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エスニック・ツーリズムとは・意味

group of multi-ethnic female friends diversity enjoying the city tour. Young tourists having fun in China town.

エスニック・ツーリズムとは?

エスニック・ツーリズムとは、少数民族などの独自文化や伝統、生活様式に焦点を当てた観光形態のこと。

国内外にかかわらず、旅行者が自己とは異なる民族集団の衣食住や伝統文化を実際に体験したり、その民族と交流したりする観光のことを指す。一般的に、近代化された都市社会に住む旅行者が、遠隔地で独自の生活を営む少数民族を訪れることが多い。

観光地の自然や生活環境、伝統文化を破壊しない観光のあり方である「サステナブル・ツーリズム(持続可能な観光)」の考え方が広まったこと、また個人旅行の割合が増加したことにより、近年注目されつつある旅行の仕方だ。

エスニック・ツーリズムは文化ツーリズムの一つで、「少数民族観光」や「先住民ツーリズム(インディジネス・ツーリズム:Indigenous Tourism)」、「アボリジナル・ツーリズム(aboriginal tourism)」などと呼ばれることもある。

先住民ツーリズムとの違い

エスニック・ツーリズムは「先住民ツーリズム(インディジネス・ツーリズム)」と同義で扱われるが、厳密には「対象とする民族がその土地の先住民とは限らない」という点で異なる。

エスニック・ツーリズムが対象とするのは、旅行者と同じ社会に暮らす少数民族や隣国からの移民の場合もあるのだ。

しかしどちらも特定の民族の生活文化を観光の対象としており、山岳地帯や僻地などで独自の生活様式や伝統を守りながら暮らす民族が先住民である場合も多いことから、この二つは明確に区別することが難しい。

エスニックツーリズムの事例

以下が実際に行われているエスニック・ツーリズムの一例である。

ベトナム

発展途上国の子どもの支援・援助を行う国際協力NGOのFIDR(ファイダー)が地域活性化支援として、エスニック・ツーリズムを取り入れている。ベトナム中部の山麓、クァンナム省ナムザン郡に住むカトゥー族の伝統的な暮らしや文化行事を体験するツアーだ。

カトゥー族は「森の民」とも呼ばれ、独自の伝統文化や言語を持ち、農業や採集、狩猟をして生活しているという。ツアーには「村祭りコース」と「村探索コース」があり、カトゥー族の伝統舞踊、生活体験、伝統のおもてなし料理、村散策や村民との交流などが体験できる。

台湾

台湾には2014年時点で政府が認定する原住民族が16部族あり、各地でエスニック・ツーリズムが企画されている。

▶︎ 台湾の“昔ながら”を体験できる。山奥のビレッジ「台湾原住民族文化園区」

台東市から10kmほどの山間部にあるブヌン族の部落内では、ツアーリーダーによる村案内や生活・歴史紹介のほか、伝統楽器の体験や狩猟体験、森林探検、伝統舞踊の披露などが行われている。

また台北の南郊外の山間部、烏来(ウーライ)では、一帯に住むタイヤル族の民族舞踊や伝統料理、足湯、民族衣装などの生活体験ができる。

このほかにも阿里山(ありさん)の南側一帯に暮らすツォウ族の伝統舞踊や文化体験、東部海岸沿いに暮らすアミ族の舞踊ショーなどを見られるツアーもある。

エチオピア

エチオピアでは主に南西部サウスオモ県とベンチマジ県でエスニック・ツーリズムが盛んで、アリ族、ハマル族、バンナ族、ツァマイ族、スルマ族など多くの少数民族を対象とした旅行が企画されている。旅行者は各民族の特色あるマーケットを巡ったり、農牧民・農耕民の伝統文化や生活を体験したりする。

その中でも農耕民であるアリ族が実施するツアーでは、農村独特の生活が体験できるという。具体的には、現地の農業紹介や収穫物を使った調理体験、地酒の試飲、鍛治職人と土器職人の手仕事見学、収穫時期などに披露される伝統的な歌やダンスの見学などが実施されている。

エスニック・ツーリズムのメリット

エスニック・ツーリズムを行うメリットは、大きく三つある。まず一つが雇用創出や収入・生活向上など、少数民族のコミュニティに経済的な利益を生むことである。

単に観光事業からの収入が得られるだけではなく、伝統工芸を産業化のほか、政府の補助を受けて就学したり、外国語を習得したりすることにより職業の選択肢が広がる場合もある。

二つ目に、観光開発が少数民族がもつ希少な伝統文化の保護や継承につながることだ。エスニック・ツーリズムを通して、後継者不足などで失われかけていた伝統文化が再認知されるケースは実際にある。

先述の事例であげた台湾のブヌン族の場合は、「ブヌン文教基金会」 という原住民中心の財団法人が行った観光開発の取り組みで、ブヌン族の祭示の由来、 歴史、 民謡・舞踊、 伝統工芸などの聞き取り調査・データベース化が実施され、伝統文化の再発掘が図られたという。

三つ目に、民族間の相互理解や多様性の受容につながることだ。エスニック・ツーリズムにより自己とは異なる民族の生活や文化に触れ、そこに暮らす人と実際に交流することで、偏見や差別を減らしたり、文化の違いを肯定的に捉えたりすることができる。

エスニック・ツーリズムの問題点

とはいえ、エスニック・ツーリズムがもたらすものは利益だけとは限らない。上記でメリットとして挙げた経済、文化保護といった側面も、エスニック・ツーリズムのあり方次第では少数民族にとってマイナスに影響してしまう。

例えば経済面では、現地民が観光客からの現金収入のみに依存してしまうことで、他種産業が育ちにくくなったり、現地民の自活意欲を低下させてしまうことが考えられる。そのほか少数民族間でも、旅行者に注目される地域とそうでない地域で経済格差が生まれてしまう可能性もある。

また急速な観光開発により周辺の自然や生活環境が破壊されたり、文化が商品化されることで古来の伝統文化が破壊されたりする可能性もある。

エスニック・ツーリズムが行われる地域の一部では、観光客のために文化伝統が過度に装飾され、本来の形態が失われてしまうケースもあるという。

エスニック・ツーリズムにおいて気をつけるべきこと

エスニック・ツーリズムは少数民族の生活文化そのものが観光対象となる。だからこそ、その地域に暮らす人々や環境に与える影響を長期的に検討しながら、旅行者とホストの相互にとって持続可能な観光のあり方を模索していかなければならない。

国連世界観光機関(UNWTO)は、持続可能な観光を以下のように定義している。

訪問客、業界、環境および訪問客を受け入れるコミュニティーのニーズに対応しつつ、現在および将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光

また、「観光地コミュニティが持つ本来の社会文化を尊重しながら、文化遺産と伝統的な価値観を守り、異文化に対する理解と寛容性を持つこと」が求められるとしている。

エスニック・ツーリズムは、旅行者が少数民族の文化的価値を一方的に享受するだけのものであってはならない。

観光開発が契機となって、少数民族やその地域一帯の活性化や伝統文化の保護が進み、長期的に地域社会や経済の安定が確保されていくような観光形態を作っていくことが理想だ。

【参照サイト】持続可能な観光の定義|UNWTO 国連世界観光機関
【参照サイト】MAKING TOURISM MORE SUSTAINABLE A Guide for Policy Makers
【参照サイト】ナムザン郡地域活性化支援| FIDR
【参照サイト】台湾における 「少数民族観光」 の現状と課題
【参照サイト】エチオピア西南部における民族文化観光の展開−新規参入のアクターに着目して−
【参照サイト】エスニックツーリズムが少数民族に与える利益と損失
【参照サイト】台湾少数民族(原住民)

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