フレキシキュリティとは・意味
フレキシキュリティとは?
福祉国家において重要視されるフレキシキュリティ(Flexiburity)とは、労働市場の「フレキシビリティ(柔軟性)」と「セキュリティ(保障)」を組み合わせた造語のこと。
現在の不確かで流動的な社会のなかで、柔軟な雇用の方法を持っておき、成長産業に労働力の移動をしやすくしておくことと、手厚い社会保障で労働者の生活を守ることを両立させる仕組みを指す。福祉国家と呼ばれるデンマークやオランダなどで行われている政策だ。
具体例:デンマークのフレキシキュリティ
デンマークはフレキシキュリティのモデルを確立させ、労働市場の改革に成功している。モデルの中心要素は、以下の三点である。
01. 雇用主による雇用と解雇の自由化
解雇に過度なコストをかけず、解雇をめぐる訴訟はまれ。雇用と解雇が容易であることから、労働市場外の人にもチャンスを生み出すことができる(雇用者による不公正な解雇に、厳格な規制あり)。
02. 社会保障の充実(失業給付制度)
雇用保険に加入し、料金を支払っていれば、最長2年間の失業手当を受けられる。低所得労働者は最大で前収入の90%を受け取ることができるなど、補償率が高い。病気などの事情で失業手当の受給資格に該当しない人には、国から生活費が支給される。
03. 職業訓練の充実
早期の職場復帰に向けて、失業者に教育・再訓練プログラム、カウンセリングなども行う。
このほかにもデンマークの労働市場には最低賃金がないなど、ユニークな点がある。国民の67%が労働組合に加入しており、労働組合を通して比較的高い賃金で交渉が定期的に行われている。社会全体の利益になるよう合意が行われることが特徴だ。
日本の失業者の現状と、フレキシキュリティが注目されるワケ
ヨーロッパで始まった政策が日本で注目されるわけは、現代社会で非正規雇用が増え、正規雇用との賃金・キャリア格差が課題となっているからだ。
主婦や高齢者を除き、賃金が低く、雇用が不安定(非正規など)な人々は、「アンダークラス」と呼ばれる。アンダークラスが増えることで起こる社会の問題としては、社会保障費の増大や貧困による更なる少子化など、さまざまだ。
また、個人として日常生活の資金以外にも考慮しなければならないのが、失業して無職になった際にも保険、年金、税金などの支払いがあることだ。会社員だった人は離職したことで支払額が増える可能性もある。介護など家庭の事情で正社員を辞めた場合でも、再出発はアンダークラスからというケースも少なくない。
雇用を安定させるには、正社員になるための支援や失業状態の人が再就職しやすい政策が必要だ。たとえば失業手当の給付日数は日本が90日、デンマークは最大730日(2年間)と大きく異なる。デンマークのように最大2年間受け取ることができれば、金銭的にも精神的にも安定して転職先を探せるかもしれない。
フレキシキュリティを導入することで、長期的に安心して働いたり、失業状態でも安心して次の仕事を探したりできるのではないか。注目の背景には、そんな期待がある。
日本でフレキシキュリティを導入する際の課題点
デンマークのフレキシキュリティを、そのまま日本に適用できるとは限らない。根本的な労働市場の仕組みや企業の教育制度に違いがあるからだ。
デンマークの正規雇用労働者と非正規雇用労働者での平等待遇が定着しているが、日本では、賃金格差があるため現状は異なる。
日本の職業訓練においては、非正規雇用の人への教育機会は限られており、スキルアップが難しいケースもある。職業訓練における技能や技術の習得についてや就職メリットなどは未だ整備されていない状況だ。日本では各企業ごとにOJTを通して教育がなされるため、働く企業によって技能や知識に偏りが生じる。
このような点から、フレキシキュリティを導入する前段階で、デンマークと労働市場において異なる点が多く存在することを念頭におく必要がある。
まとめ
フレキシキュリティは、労働者の格差是正をしながら、労働市場を活性化することができる制度だ。日本での格差拡大の解決には、社会全体で取り組んでいくべきではないだろうか。より多くの人が問題に関心を持ち、日本にあった方法で労働市場が変革されることに期待したい。
【参照サイト】Ministry of Foreign Affairs of Denmark The Danish labor market
【参照サイト】Danish Agency for Labour Market and Recruitment Flexicurity
【参照サイト】HITACHI フレキシキュリティ
【参照サイト】マイナビ転職 失業手当(失業保険)はどんな人がもらえる? 金額・期間・手続き方法を解説【社労士監修】