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生物多様性損失

動物

生物多様性損失とは?(What is Biodiversity loss?)

生物多様性とは、文字通りこの地球の生物の多様性が失われることを言います。生物多様性は、近年世界中で気候変動と共に注目を集めるキーワードとなっており、両者に同時に取り組むべきだという認識が急速に広まっています。2021年10月末から11月初旬にかけて開催されたCOP26でも、今世紀半ばまでに世界全体でネットゼロを確実に達成することに加え、そして“生態系を保護し回復する”ことが示されました。

本記事では、そんな生物多様性の損失の原因や影響、世界の動き、私たちできることなどをわかりやすくまとめました。

生物多様性の基本理解

生物多様性には、以下の3つのカテゴリがあります。

種の多様性
海底に存在する微生物から地上の動植物や菌類、藻類、私たち人間まで、さまざまな種類の生き物が存在すること。その数は動物だけで125万種、植物は30万種にのぼるといわれており、これらが互いに補完し合うことで生態系が成り立っている。

遺伝子の多様性
同じ種の中にもさまざまな遺伝子が存在し、形や模様、生態などに多様な個性が存在すること。種の遺伝子が全て同じだと、特定の病気や気候の変化によって全滅してしまうリスクがあるが、それぞれが異なる遺伝子を持っていることで、あらゆる環境変化への適応力が高まり、種の全滅を防ぐことができる。

生態系の多様性
森林、河川、湿原、干潟、サンゴ礁、マングローブ林など、いろいろな種類の自然環境が存在すること。生態系が多様であることで、上記の種の多様性も担保される。また、私たち人間も含め、生物は生態系を構成する森林や淡水、雨林などから、食料や水、木材などの提供を受けて生きており、これを「生態系サービス」と呼ぶ。

これら全ての生物や生態系は単体で存在しているわけではなく、お互いに補い合い、影響し合って生きています。そのため、ひとつの種や遺伝子、もしくは生態系が失われると、その影響が他の生物にも及び、全体のバランスが崩れてしまいます。

たとえば、ある地域に生息していた昆虫が何らかの理由で減少、もしくは絶滅すると、その生物を食料としていた動物の食料がなくなり、その種もまた減少するか、もしくは新たな食料源を求めて別の土地に移動していきます。すると、今度はその動物が移動してきた土地で保たれていた生態系のバランスが崩れることとなり、そこで特定の植物が減少すれば、またその植物を食料としていた昆虫や動物が影響を受け、場合によっては気候にも影響を及ぼす……といった具合です。

数字で見る生物多様性損失(Facts & Figures)

生物多様性の現状に関する数字と事実をまとめています。

生物多様性損失の原因(Causes)

昨今問題となっている理由の多くは、人間の活動によって作り出されています。以下は、その一例です。

  • 人間活動由来の温暖化とそれに紐づく気候変動
  • 農地開墾や都市開発のための森林伐採
  • 特定の種の大量捕獲や密猟
  • 自然界で分解されない廃棄物の土地や海への投機

上記のうち、特に大きな影響を及ぼしているのが食料生産のための土地利用や森林伐採であり、生物多様性の損失を食い止めるためには食料システムの転換が不可欠だとされています。

生物多様性損失はなぜ問題なのか?(Impacts)

生物多様性が失われると、その影響はもちろん私たち人間にも及び、さまざまなリスクが生まれたり、これまで受けられていた生態系サービスの損失につながったりします。以下は、その一例です。

災害抑止力の減少

生態系は、あらゆる自然災害を抑制し、その被害を減少させる力を持っています。たとえば、森林は土砂崩れを防いだり、海岸にあれば防風・防砂の役割を果たしたり、津波被害を軽減したりします。また、サンゴ礁は高潮被害を軽減する力や、塩性湿地は波の影響を軽減する力を持っています。このため、生態系の多様性が失われると、災害抑止力も減少するのです。

気候変動や温暖化の加速

CO2を吸収してくれる森林という生態系が大きく失われると、それにより温暖化が加速し、気候変動の加速や異常気象につながります。近年観測されている多くの異常気象や想定外の規模の台風などは、すでに私たちの生活に大きな悪影響を及ぼしています。

感染症のリスクの高まり

エボラ出血熱やSARSなど、近年発生している感染症のうち60%は動物が起源とされており、1960年以降に報告された新規感染症の30%以上は、森林破壊や居住地の拡大、穀物や家畜生産の拡大といった土地利用の変化がその発生要因とされています。生態系の在り方が変化したことで、これまで接触しなかった動植物と人間や家畜が接触するようになり、それにより新たな感染症発生の頻度やリスクが高まっていると指摘されています。

人間の健康への影響

上記に加え、近年注目されているのが、人間の健康と地球の健康はつながっているという、「ワンヘルス」の考え方です。人間の生活や健康は、その多くの部分が自然によって支えられています。たとえば、湿地がもつろ過や浄化機能によって淡水が供給されたり、医薬品の成分には5〜7万種もの植物が貢献しています。また、栄養価の高い農作物は、多様な微生物が生息する「良い土」によって育ちます。したがって、生物多様性の損失、つまり自然の衰退は、人間の健康にあらゆる面で影響します。

生物多様性損失をめぐる世界の動きや団体(Organization)

そんな生物多様性損失をめぐる、世界の動きを見てみましょう。

1992年6月、生物多様性を最も包括的に取り扱う国際会議である国連環境開発会議(リオ地球サミット)で、「国連生物多様性条約(Convention on Biological Diversity,以下、CBD)」が立ち上げられました。さらに1994年には「CBD第1回締約国会議(Conference of Party,以下、COP)」が開かれ、198の国と地域がこの条約を批准しています。ここでは、「締約国が2010年までに、地球や国レベルで、貧困緩和と地球上すべての生物の便益のために生物多様性の現在の損失速度を顕著に減少させる」という「戦略計画」が採択されましたが、結局それらを達成することはできませんでした。

その後、2010年に愛知県で「CBD COP10」が開催され、2050年までに「自然と共生する世界」を実現することを目指し、20の具体的な数値目標を含んだ「愛知目標」が採択され、2020年までに達成することを締約国間で約束しました。しかし、2019年、2020年でこの目標に対する世界的な評価が行われたところ、20の目標のうち達成できたものは1つもなく、全体としての達成度も1割程度に終わりました。

現在は愛知目標に次ぐ「Post2020生物多様性枠組み(2030年までのグローバル目標)」について議論されている最中です。これについては、2021年10月に「CBD COP15」の第一部が中国の昆明で開催され、会期中に中国の主導で作成された「昆明宣言」が採択されました。ここでは、生物多様性保全と並び、生物多様性の「持続可能な利用」が重要な位置付けとなっており、生態系に基づいたアプローチや気候変動適応策との連動、食料生産やワンヘルスの重要性、海洋保全などについても記載されています。

他にも、生物多様性に関する団体には以下のようなものがあります。

Leaders Pledge for Nature

2020年9月の国連総会(生物多様性サミット)で示され、EU及び64か国の首脳が2030年までに生物多様性の損失を回復することを誓約。ここには、生物多様性保全に関連する投資額の増加の必要性やワンヘルスのアプローチが必要であること、陸上や大気中の汚染を削減することなどが含まれています。

Science Based Targets (SBTs) for Nature

2019年に創設された非営利団体「SBTi」が作成する「SBTs」は、企業や都市等が地球の限界内で社会の持続可能性目標に沿って行動できるようにするための、科学に基づく測定、行動可能な期限付きの目標です。気候変動に関するSBTsはすでに設定されており、現在は自然や生物多様性に焦点を置いた「SBTs for Nature」の開発が、2022年6月を目処に進められています。

Task force on Nature-related Financial Disclosure(TNFD)

金融機関や企業に対し、自然資本および生物多様性の観点からの事業機会とリスクの情報開示を求める、国際的なイニシアチブ。2020年に国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、国連開発計画(UNDP)、世界自然保護基金(WWF)、英環境NGOグローバル・キャノピーによって、2021年6月に正式に発足しました。TNFDは、2015年に設立され、すでに投資ファンドなどの間で重要な要素として定着しつつあるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の生物多様性版と言われています。

生物多様性損失を防ぐためにできること(What We Can Do)

生物多様性損失を防ぐためには、私たち個人が「責任ある消費」を行うことが必要です。

たとえば、日本でも多くの食材や日用品に使用されているパーム油は、生産のために多くのインドネシアなどの森林が破壊され、生物多様性損失が引き起こされてきました。そのため、私たちが日々食べている特に輸入商品がどこからきて、どのような生産方法で作られたものなのかを知った上で選択をすることが重要です。以下は、国際的な認証の一例です。

さらに、今後もこういった生物多様性を破壊しない商品を選んでいくためには、生産に関するトレーサビリティの確保を、消費者として企業に要求していく姿勢も必要です。

生物多様性損失の問題を解決するアイデアたち(Ideas for Good)

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで生物多様性の問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

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