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IUU漁業

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IUU漁業とは?(What is IUU Fishing?)

IUU漁業とは、Illegal(違法)、Unreported(無報告)、Unregulated(無規制)で行なわれる漁業を指します。国内法・国際法に反した漁獲はもちろん、獲った魚を数を無報告・不正確に報告することや、旗国なしの漁船の使用、地域漁業管理機関(RFMOs)の対象地域での、認可されていない漁船による漁業などがIUU漁業と見なされます。また、漁業での強制労働・児童労働といった深刻な人権問題も含まれます。

水産資源の持続可能性や漁業そのものの持続可能性を保っていくためには、そんなIUU漁業を厳しく取り締まっていくことが求められています。

今回は、そんなIUU漁業についての原因や対策をわかりやすく紹介します。

データ・数字で見るIUU漁業(Facts&Figures)

IUU漁業の現状に関する数字と事実をまとめています。

  • 過剰に漁獲されている状態の資源の割合は、1974年の10%から2015年には33%まで増加。(FAO 国連食糧農業機関
  • IUU漁業によって漁獲される水産物の量は、約1,100〜2,600万トン、金額的価値は 最大で年間2兆6100億円(WWF
  • IUU漁業のリスク評価において、日本は152か国中、ワースト12位(IUU Fishing index
  • 日本に輸入されるIUU漁業リスクの高い水産物は、ウナギ類、ヒラメ・カレイ類、サケ・マス類、タラバガニ類、ズワイガニ類、ニシン類、サバ類、タコ類など(WWF

IUU漁業は特定の国や地域だけではなく、世界中で蔓延しています。

中でもIUU漁業の問題が大きいのが、中国やロシア、韓国や台湾、ソマリアやイエメン、そして日本といった国々です。英の環境コンサルタント企業が作成する、IUU漁業のリスクを評価する「IUU Fishing index」のランキングによると、日本は152か国中、ワースト12位となっています。これは、上記のIUU漁業のリスクが高い国々からの水産物の輸入量が多いためです。WWFが行った調査でも、日本市場にIUU漁業由来の水産物が流入しているリスクは中~高程度であると判明しています。

日本はアメリカに次ぐ世界第2位の水産資源輸入国であり、魚介類の消費量が非常に多いこと、また、排他的経済水域(EEZ)が広いため、その範囲内でIUU漁業が行われているリスクが自然と向上してしまうという背景があります。しかし、こういった状況は方による規制などを通して改善していく必要があります。

IUU漁業はなぜ問題なのか?(Impacts)

IUU漁業はなぜ大きな問題となっているのでしょうか。主な理由としては、下記が挙げられます。

  • 水産資源の持続可能性の損失
  • 正規の漁業者の利益損失
  • ゴーストギア(海中へ遺棄された漁具)の発生
  • 強制労働、児童労働、長時間労働といった人権問題

IUU漁業の問題点としてまずあげられるのが、水産資源の持続可能性の観点です。今、世界では健全な水産資源やさまざまな魚種の個体数が大きく減少しており、その主な原因の一つだと言われているのが、定められた漁獲量以上を獲ってしまう「乱獲」です。乱獲が行われると、その種が減少してしまうだけではなく、海の生態系そのもののバランスが壊れてしまうため、将来的な水産資源の持続可能性に大きな影響を及ぼします。

また、IUU漁業由来の水産物は、多くの場合規制を守っている漁業者の水産物よりも安価で販売されているため、その分正規の漁業者の利益を損なっていることも大きな問題です。消費者に安価な水産物が選ばれれば、正規の漁業者の収入は減少し、漁業の継続が難しくなり、適切な漁業を行う事業者が減少してしまいます。

魚網をはじめとした漁具を海中へ遺棄することにより発生する、ゴーストギアの問題も指摘されています。これらの多くはプラスチックでできており、海洋プラスチックの10%程度を締めていると言われています。

さらに、前述の人権問題も深刻です。そのひとつの事例が、2020年5月に発覚した中国漁船Longxing 629号事件です。

この漁船は、中国の大連海洋漁業会社の指示により、13か月間連続して西太平洋海域で航海し、IUU漁業に該当するフカヒレ漁を行っていました。そこには移民労働者のインドネシア人乗組員が多数乗船しており、彼らの1日の労働時間は18時間以上、食事も十分に与えられないという過酷な労働環境に置かれていました。彼らの数名が1年以上の乗船期間中に原因不明の病気で死亡し、中には遺体がそのまま海に遺棄されていたといいます。

他にも、タイの養殖エビの加工場では児童労働が高頻度で行なわれており、危険な作業や長時間労働に従事しているという報告も存在します。

IUU漁業が起こる原因(Causes)

IUU漁業が存在する原因はさまざまですが、主な原因としては下記が挙げられます。

  • 水産物の流通が複雑であり、必要情報の正確な伝達方法が確立されていないこと
  • 関係当局に訓練された人材がいないこと
  • 貧困国では、IUU漁業に関連する人材への投資が難しいこと
  • 船主が漁業者の給与が低いことを利用し、自分たちの活動を隠蔽するためにオブザーバーや漁業管理者に不規則な支払いを行っていること
  • 巡視船や航空機の購入、維持、運用コストが高いため、効果的な管理ができないこと

IUU漁業が起こってしまう要因としては、水産物の流通が複雑であること、必要な漁獲情報の記録、保持、流通の過程での正確な伝達をする仕組みなどがないことがあげられます。

ワールドオーシャンレビューによると、IUU漁業の蔓延は、汚職の蔓延や法律の未整備といった問題が存在する、国家のガバナンスが脆弱な発展途上国において特に顕著だといいます。

IUU漁業は取り締まるべきものですが、漁業に従事する人々の経済的な持続可能性も同時にケアして行かないと、根本的な問題解決は難しいとも言えます。

IUU漁業への対策(Actions)

では、世界ではIUU漁業に対してどのような対策が取られているのでしょうか。まず、IUU漁業の規制と取り締まりの支援に取り組んでいる国際NGOのWWF(世界自然保護基金)があげる対策は以下の通りです。

  • 各国の漁業が、それぞれの国内法、また国際法を遵守した形で行なわれるよう、法執行を徹底すること
  • 漁獲した水産物の流通経路(サプライチェーン)上で、違法なものと、合法的なものが混ざらないよう、管理を徹底すること
  • 環境や社会に配慮して生産される水産物を積極的に取り扱い、流通市場からIUU漁業による水産製品を締め出すこと

また、世界や日本の具体的な取組のうち代表的なものを紹介します。

違法漁業防止寄港国措置協定(PSMA:Port State Measure Agreement)

2016年にFAO(国連食糧農業機関)により発行された、IUU漁業の防止・抑制・廃絶を目指した、法的拘束力のある世界初の国際協定。IUU漁業の疑いが高い船舶の入港および港の利用の拒否や船舶の取り調べなどを可能とします。30か国の参加によって成立し、日本は2017年に批准しました。2022年現在、71か国と1地域経済統合機構が加盟しています。

地域漁業管理機関(RFMO:Regional Fishery Management Organization)

マグロやカツオなどのように、自国の領海や排他的経済水域を超えて分布・回遊する水産資源を管理するためには、漁業を行なう国々が協力して資源管理規則を定め実行する必要があり、これらの委員会では、魚種ごとの資源量の推定、国別漁獲割り当て、管理方針、混獲対策、IUU対策などが検討されています。

GDST(Global Dialogue on Seafood Traceability)

WWFとグローバル・フード・トレーサビリティ・センター(GFTC)の呼びかけにより、世界中の水産物のトレーサビリティシステムの相互運用と検証とができる新たな標準を策定することを目指して発足した国際的な対話の枠組です。IUU漁業由来の水産物の輸入や流通を防止する際の前提として重要な、水産物の生産・加工・流通・販売での一貫したトレーサビリティを確保するために必要な情報・データセット(KDEs)がまとめられています。現在までに100以上の企業・団体が参加しています。

MSC認証、ASC認証

MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)認証とASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)認証は、持続可能な漁業や養殖業であることを示す国際的な認証制度です。この認証がついているシーフードを選ぶことで、IUU漁業由来の水産物を避けることができます。

水産物流通適正化法(日本)

2020年、日本ではIUU漁業対策を目的として、特定水産動植物等の国内流通の適正化等に関する法律(水産物流通適正化法)が制定されました。

これによりIUU漁業リスクが高い特定の水産物において、漁獲者、漁獲海域(水揚げ港)、漁獲日、漁獲量などの情報を登録管理する「漁獲証明制度」が施行されるとともに、輸入水産物についても輸出国に対して同様の情報の提示を求める「輸入管理制度」が施行されます。この法律は2022年末までに適切に施行することを目指しています。

国内におけるIUU漁業については、漁業法改正を機に、最大で3年以下の懲役または3,000万円以下が課されることになりました。

またこれらの情報の記録、発行、遡及のための電子化技術の導入も検討されています。

IUU漁業に関して私たちができること(What should we do)

では、IUU漁業に対して私たちは何ができるのでしょうか。

1.サステナブルなシーフードを選ぶ

IUU漁業を防ぐために個人ができるアクションとしては、前述のMSCおよびASC認証マークのついたシーフードを選ぶことがあげられます。適切な漁業者のシーフードを購入することで彼らを応援することにつながり、それが積み重なればIUU漁業の減少につなげることができます。

2.IUU漁業について知る

また、まずはこういった問題についてよく知ることが重要です。2022年に日本で公開されたIUU漁業にひそむ奴隷労働を扱うドキュメンタリー映画『ゴースト・フリート知られざるシーフード産業の闇』を視聴してみたり、Youtubeで権威ある団体が投稿しているIUU漁業に関するさまざまな動画を視聴してみるのも良いでしょう。

IUU漁業を解決するアイデア(Ideas for Good)

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークな発想でIUU漁業の解決に取り組む国内・国外の企業や団体、個別プロジェクトを紹介しています。

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