海洋プラ問題だけじゃない。資源採掘から廃棄に至るまでの、プラスチック問題とは?
キッチン用品、容器包装、電子製品、建材、家具、乗り物など、さまざまなものに使われているプラスチック。
2022年2月のOECD(経済協力開発機構)の発表によると、世界のプラスチックごみの約半分は、OECD諸国で発生しているという(※1)。日本もOECDに加盟しており、私たちの消費のあり方が、プラスチックのサプライチェーンに与える影響は決して小さくない。
近年、海洋プラスチック問題などに関心が集まっているが、プラスチックのライフサイクル全体で発生する環境負荷や、人への影響を意識したことはあるだろうか。
製品の環境への影響を把握するには、資源採掘、製造、使用、廃棄に至るまでの全ての工程を見ることが大切だ。私たちは、なかなか採掘や製造の現場を知る機会がないが、なるべく広い視野を持つと、プラスチック問題を問題として認識しやすくなるかもしれない。
以下、欧州環境庁(EEA)の報告書などで指摘されているプラスチックの問題点を、採掘、製造、使用、使用後の廃棄という、4つのカテゴリーに分けて紹介する。プラスチックを取り巻く状況をどう変えていけばいいのか、ファクトを捉え、今までと少し違う角度から考えるきっかけになれば幸いだ。
1. 採掘時の問題
石油・ガスの大量採掘
- プラスチックの99%以上は、石油やガスといった化石燃料資源からつくられている
- プラスチックに使われる石油の約半分は原料として、残りの約半分は製造工程の燃料として使われる
- 今後プラスチックの消費量が増え続ければ、2050年にはプラスチック産業が、世界の石油消費量の20%を占めると予測されている(2020年時点では7%)
- 2020年時点では、石油の大部分は自動車などの燃料として使われているが、電動化により需要は減っていくと考えられている。2030年までの石油需要の増加に最も寄与するのは、プラスチックなどの石油化学製品だと予測されている
- 近年、石油製品の一種であるナフサの代わりに、シェールガスからプラスチック原料を製造する取り組みが行われているが、シェールガスの採掘も環境を汚染する
石油・ガスの採掘に伴う、温室効果ガス(GHG)の排出
- 石油やガスの採掘時には、タービンで天然ガスを燃焼させたり、ディーゼル燃焼を行ったりすることにより、多くのGHGが排出される
- CO2だけでなく、メタンも排出される。意図的に排出されることもあれば、パイプラインやガスエンジンからの漏洩という非意図的なケースもある
- 油田を掘るために森林破壊などを行い、GHG吸収源を減らしている
- 原油を精製してナフサなどの石油製品にしたり、ナフサを水蒸気分解(スチーム・クラッキング)したりするときに、多くのエネルギーを消費し、GHGを排出する
石油・ガスの採掘に伴う、大気と水の汚染
- 石油やガスの採掘時には、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、粒子状物質(PM)、揮発性有機化合物(VOC)、重金属などの大気汚染物質が排出される
- 採掘時に産出される随伴水には、油分の他、重金属、芳香族炭化水素、アルキルフェノール、放射性核種などの有害物質が含まれる
- 一般的に、随伴水の油分濃度や有害物質含有濃度は低いが、その量が多いと影響も大きい。たとえば、ヨーロッパの北海には、随伴水と船舶から最も多くの油が排出されている
- 石油流出のリスクがあり、海洋生物に長期的な影響を及ぼす可能性がある
- 水圧破砕に使われる170以上の化学物質は、がんや免疫系への悪影響など、健康被害をもたらす恐れがある。特に、採掘現場の近くで暮らす人には影響が出やすい
2. 製造時の問題
プラスチックの製造に伴う、温室効果ガス(GHG)の排出
- プラスチックの製造は、世界の化学製品の製造の約3分の1を占めている。これは、化学産業の中で最も大きな割合
- 化学産業は、製造業の中で最も多くのエネルギーを消費しており、鉄鋼、セメント、紙パルプといった業種より多い。また、化学産業は、世界で3番目に多くのCO2を排出する産業である
- EUにおける、プラスチックの製造に伴うGHG排出量(石油精製および製品の製造における直接排出を指す)は、年間約1,340万トン
プラスチックの製造に伴う、大気と水の汚染
- プラスチック製造時には、鉛、カドミウム、水銀などの有害金属が、空気中や水中に排出される。これらが、植物や動物に及ぼす影響が懸念されている
- プラスチックの製造および廃棄は、水域の栄養分を増やしすぎてしまい、富栄養化を引き起こす原因になっている
3. 使用時の問題
化学物質による、人の健康への影響
- 難燃剤、内分泌かく乱物質、フタル酸エステルなど、プラスチックに含まれるさまざまな化学物質へのばく露は、繁殖障害、行動障害、糖尿病や肥満、喘息、がんなど、さまざまな健康被害に繋がる恐れがある
- 化学物質や添加剤などの移行により、人が害を受ける可能性がある。また、一般的に化学物質へのばく露量は、繰り返し使うプラスチックより、使い捨てプラスチックの方が多い(化学物質の移行のほとんどは、プラスチックの初使用時に起きるため)
環境中に流出するプラスチック
- ポリエステルでできた服を着て日常生活を送っているだけで、20分で1gあたり最大400個のマイクロファイバーが空気中に放出される。また、洗濯をすると、繊維から抜け落ちたマイクロプラスチックが流出する(※2)
4. 使用後の廃棄の問題
環境中に流出するプラスチック
- 環境中に流出するプラスチックのほとんどが、海に行きつく。毎年1,100万トンのプラスチックごみが海に流出しており、海の環境を汚したり、海の生き物に悪影響を及ぼしたりしている
- 海洋プラスチックの80%以上は、漁業や漁船などの海で発生したものではなく、陸から発生して海に流出したものである(※3)
- 5ミリ以上のプラスチックであるマクロプラスチックは、流出するプラスチックの88%を占め、生物への絡まりや誤食といった影響が報告されている
- 5ミリ未満のプラスチックであるマイクロプラスチックが、生物や人体に及ぼす影響は、明らかになっていない部分が多い。海中だけでなく、大気中や土壌中のマイクロプラスチックの影響も懸念されている。人は、食物や飲料水を通してマイクロプラスチックを摂取している
大量のプラスチックごみの発生、適切に処理されないプラスチックごみ
- 私たちは1950年以降、80億トン以上のプラスチックを製造しており、2015年時点で、そのうち63億トンが廃棄されている
- 2050年までに、250億トン以上のプラスチックが製造されると予測されており、その多くが埋め立てられたり、環境中に流出したりする可能性がある
- リサイクルされるプラスチックごみは9%。19%が焼却され、50%が衛生埋立地に行き、22%は管理されていないごみ捨て場に捨てられたり、環境中に流出したりしている
- パッケージや繊維製品など、製品寿命の短いプラスチック製品から、大半のプラスチックごみが発生している
プラスチックのリサイクルに伴う課題
- プラスチックをリサイクルすると、化石燃料から同量のプラスチックを製造する場合と比べて、排出量をCO2換算で1.1~3トン削減できる。だが、リサイクルにはごみの回収、分別、加工が必要で、この際に燃料を消費する
- 多くのプラスチックが、複数の素材が混ざっているなどの理由により、回収後にリサイクルされず廃棄されている。2016~2019年にかけて、EUでは毎年2,100万トンのプラスチックごみが回収されたが、そのうち再生プラスチックとして新製品に使われたのは、年間あたり520万トンだった
- 自動車や電子廃棄物をリサイクルする際、価値の高い金属のリサイクルが優先され、プラスチックのリサイクル率が低くなる。また、これらの製品には、複合材料などリサイクルしにくいプラスチックがよく含まれている
- プラスチックに使われる添加剤には有害なものがあり、そういった添加剤を使うプラスチックは、リサイクルできない
- プラスチックのリサイクルは、焼却や埋め立てよりは好ましい方法だが、最も好ましいのは、ごみの排出を抑制することである
プラスチックの焼却に伴うCO2の排出
- プラスチックの焼却時、エネルギーリカバリーを行うか否かに関わらず、プラスチック内に固定されていた炭素が大気中に排出される
- 1トンのプラスチックを焼却するごとに排出されるCO2は、平均で2.7トン(熱エネルギーの利用による潜在的な削減量は考慮していない)
プラスチックを埋め立てることの影響
- プラスチックの埋め立ては、少なくとも理論的には、プラスチック内の炭素を固定し、放出を先送りすると見なすことができる。だが、プラスチックが何百年もかけて分解されれば、最終的にはGHGが大気中に放出される可能性がある。また、合法・違法を問わず、埋立地で焼却が行われると、GHG排出に繋がる
まとめ
いかがだっただろうか。プラスチックを取り巻くさまざまな問題を知ると、その解決策もひとつではないことに気付かされる。
植物などの再生可能な資源からできたバイオマスプラスチックを使う、リサイクルしやすくするために添加剤の使用量を減らす、使い捨てプラスチックの使用を減らす、プラスチックを適正に処理できない発展途上国にプラスチックごみを輸出しない、海洋プラスチックごみを回収するなど、さまざまなアプローチが考えられる。
こういったアプローチを進める中で、新たな課題に直面することもあるだろう。その課題は何なのか、それにどのように対処するのかも含めて考えたい。
※1 廃棄物の管理とリサイクルが不十分で、プラスチック汚染の拡大が止まらない – OECD
※2 Microfiber Release to Water, Via Laundering, and to Air, via Everyday Use: A Comparison between Polyester Clothing with Differing Textile Parameters | Environmental Science & Technology
※3 Saving the ocean from plastic waste | McKinsey
【参照サイト】 Plastics, the circular economy and Europe′s environment — European Environment Agency
【参照サイト】 Executive Summary | Global Plastics Outlook : Economic Drivers, Environmental Impacts and Policy Options | OECD iLibrary
【関連ページ】 海洋プラスチック問題とは?数字と事実・原因・解決策、マイクロプラスチックの影響など | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD