海洋プラスチック問題
海洋プラスチック問題とは?(What is Ocean plastic pollution?)
海洋プラスチックとは、私たちの普段の生活や経済活動から海に流れ着いたり、直接海や川に捨てられたりして、最終的に海洋を漂うプラスチックごみのことを指します。プラスチック製品は丈夫で長持ちするために、一度海に流れついてしまうとほとんど分解されることなく、海洋生物の生態系や私たちの生活にも悪影響を及ぼすとして、今さまざまな国や企業がこの問題について取り組んでいます。
今回は、そんな海洋プラスチック問題についての原因や解決策をわかりやすく紹介します。
目次
マイクロプラスチックとは・意味(What is Microplastic?)
海洋プラスチック問題を語るうえで欠かせないのが、マイクロプラスチックの存在です。マイクロプラスチックとは、5ミリ以下の微細なプラスチックのことを指します(※1)。マイクロプラスチックは、発生源の違いによって「一次マイクロプラスチック」と「二次マイクロプラスチック」に分けられます。いずれも、海に流れつくと魚やサンゴなどの生態系や、自然環境全体を脅かすものになります。
※1 マイクロプラスチックの測定方法には世界基準での定義がなく、異なる水源に含まれるマイクロプラスチックの量を確認するために異なるフィルターを使っていることもあり、1mmよりも小さいものと定義する研究者もいれば、5mmよりも小さいものを定義とする研究者もいる。
一次マイクロプラスチック
製造時点ですでに細かいプラスチックのこと。歯磨き粉や洗顔料に含まれるスクラブ剤やオシャレのために使われるグリッターなど、製品や製品原料として使用されることを目的に製造されたプラスチックです。非常に細かいため、回収や製品化された後の対策が難しいことが特徴です。
- 洗顔料や歯磨き粉のスクラブ剤として使われるプラスチック粒子(マイクロビーズ)
- プラスチック製品をつくるときに使用される粒状の中間原料ペレット
- 合成ゴムでできたタイヤの摩耗でできたもの
二次マイクロプラスチック
ポイ捨てや埋立地で、ペットボトルやビニール袋などのプラスチック製品が、太陽の紫外線、波の作用や岩・砂などのなんらかの外的要因によって劣化し、細かくなったプラスチックのこと。こちらは、もともと小さいものではないので、ごみの発生を抑制し、マイクロ化する前であれば、ある程度の対策も可能です。
データ・数字で見る海洋プラスチック(Facts&Figures)
海洋プラスチック問題の現状に関する数字と事実をまとめています。
一般
- 世界の海に存在しているプラスチックごみは、合計で1億5,000万トン(McKinsey & Company 2015)
- 海洋プラスチックごみの内訳1:海洋プラスチックの80%以上が、漁業や漁船などの海で発生したものではなく、陸から発生して海に流出したものである(McKinsey & Company 2015)
- 海洋プラスチックごみの内訳2:その80%のうち、4分の3は収集されなかった廃棄物によるもので、残りは廃棄物管理システム自体からの発生である(McKinsey & Company 2015)
- 毎年、少なくとも800万トンに及ぶプラスチックごみが新たに海に流出している(Jambeck Research Group 2015)
- 現在、海へ流入しているプラスチックごみはアジア諸国からの発生によるものが全体の82%を占める(世界経済フォーラム 2016)
- アジア太平洋地域でのプラスチックごみによる年間の損失は、観光業年間6.2億ドル、漁業・養殖業では年間3.6億ドルになる(APEC 2009)
生物への影響
- 海鳥の90%がプラスチックごみを摂取しており、2050年までに海鳥全種の摂取量が99%に達すると予測されている(Wilcox, Chris, Erik Van Sebille, and Britta Denise Hardesty 2015)
- 2050年には、海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超える(世界経済フォーラム 2016)
日本とプラスチックごみについて
- 海に流出するプラスチックごみのうち、2〜6万トンが日本から発生したもの(Jambeck Research Group 2015)
- 日本はプラスチックの生産量で世界第3位。ここでいうプラスチックとは、熱可塑性プラスチック及びポリウレタンを指す(Plastics Europe 2017)
- 世界のプラスチックの4%(一人あたり114キログラム)を日本が生産(Plastics Europe 2018)
- 特に1人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量については、アメリカに次いで世界第2位(Plastics Europe 2018)
- 国内で年間に流通するレジ袋の枚数は推定400億枚。1人あたり1日約1枚のペースで消費される(京都大学 環境安全保健機構)
- ペットボトルの国内年間出荷は227億本に達する(PETボトルリサイクル推進協議会 2017)
- 海で回収されたペットボトルの製造国別の割合は、奄美では外国製の割合が8割以上を占めたほか、対馬、種子島、串本、五島では外国製が4~6割を占めている。根室、函館、国東では外国製の割合が2割以下で、日本製が5~7割を占めている(環境省 2019)
- 日本は廃棄されるプラスチックの有効利用率が84%。しかし全体の57.5%は、燃焼の際にエネルギー回収をするものの燃やす「サーマルリサイクル」という処理方法に頼っており、これは世界基準で「リサイクル」と認められていない(プラスチック循環利用協会 2018)
- 日本は年間約150万トンものプラスチックくずを、「資源」という位置づけでアジア諸国に輸出(環境省 2018)
2050年にはプラスチックが魚の量を超えるのは本当?
2050年には海洋中のプラスチックごみの重量が魚の重量を超える―― 2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)での試算をきっかけに、この文言は、さまざまな報道においてセンセーショナルに使われています。
2015年時点でのプラスチック総生産量は、3億2200万トン。そして毎年5%増で生産されています。(※2)このままの勢いでプラスチックが生産された場合、2050年までに累計330億トンのプラスチックが生産されます。
なお、生産されたプラスチックが海に流出する率は3%です。2050年まで生産されるであろう330億トンのプラスチックのうち、3%が海に入りこむのであれば、約10億トンになります。
海の魚類の全生物量は、およそ8億トン。(※3)2050年にはプラスチックが10億トンになる計算なので、約2億トンほど魚の量を超えることに…… この説は、現時点で集まっているデータをもとに計算すると正しいということになります。
※2 Plastic Europe
※3 Wilson et al. 2009
海洋プラスチックはなぜ問題なのか?(Impacts)
海洋プラスチック問題は何が「問題」なのでしょうか。主な理由としては下記が挙げられます。
- 海洋生物(魚類、海洋哺乳類、海鳥など)の生命を脅かす
- 生態系への影響による、生物多様性や環境保全機能の損失
- 漁獲量の低下(漁業への悪影響)
- 海洋プラスチックごみによる景観の悪化(観光業への悪影響)
- プラスチックの成分を取り込んだ魚・貝を摂取することによる、人体への長期的な影響
まず一番注目されるのが、海洋生物への影響でしょう。ポリ袋などは、海鳥や魚、海洋哺乳類などがエサと間違えて食べてしまいます。プラスチックは体内で消化されないため、内臓を傷つけ、炎症反応や摂食障害、窒息や腸閉塞を起こして死んでしまうという事例が後を断ちません。

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また、マイクロプラスチックは、PCB(ポリ塩化ビフェニル)などのPOPs(難分解性・高蓄積性・有害性を持つ物質)を吸着する性質を持っています。プランクトンが飲み込めるほど小さいものなので、プランクトンを食べる魚や貝の体内にもその物質が取り込まれ、蓄積されます。
そんなマイクロプラスチックがサンゴに取り込まれることで、サンゴと共生関係にある褐虫藻(かっちゅうそう)を減らし、光合成ができる共生関係を崩すことも報告されています(※4)。海に住む50万種の動物のうち4分の1がサンゴ礁域に暮らしており、海水のCO2濃度調節にも欠かせない役割を持つサンゴへの影響は、海全体の生態系への影響ともいえます。
海洋プラスチック問題と私たちの健康
以前、市場で購入された魚の体内にプラスチックが蓄積されていたことが報道され、食の安全への大きな懸念となりました。しかし現時点では、吸着・含有された有害物質の生物への毒性影響や、その健康リスクに関する研究はまだ事例が少ない状態です。近年ではマイクロプラスチックによる影響を中心に、さまざまな報告がされています。
先述のように、魚介類の体内には、海に漂う有害物質を吸収したマイクロプラスチックが蓄積されます。プラスチック製品には、構成ポリマーのほかに、酸化防止剤やノニルフェノール、ビスフェノールAなど、内分泌かく乱作用や生殖毒性を持つ添加剤も含まれており(※5)、これが魚や貝を通して人体に入り込むと、発がん性、免疫機能低下、胎児・乳幼児の発達・発育異常などを引き起こすことが報告されています。
また、最近のヨーロッパでの大規模な疫学調査では、ヨーロッパの成人男子の精子の数が過去40年で半減しているという結果も示しています。原因は特定されていませんが、農薬・殺虫剤やプラスチックに含まれる化学物質も要因の候補として挙げられます。その他にも子宮内膜症の増加など、生殖に関連する疾病の増加が観測されています。
海洋プラスチック問題が起こる原因(Causes)
海洋プラスチック問題が発生する原因はさまざまですが、主な原因としては下記が挙げられます。
- プラスチック製品生産の増加(社会・人的要因)
- ポイ捨てや不適切な処分方法(人的要因)
- 大雨や風などの天候により海へと流される(自然・環境要因)
- 洗濯や歯磨きなど、日々の生活によるマイクロプラスチック流出(人的要因)
- プラスチックという素材の特性(物質の要因)
結論からいうと、海洋プラスチックの8割が陸から流出したもので、そのプラごみを出している地域の多くがアジア諸国ですが、日本も一因となっています。(データ・数字一覧 より)
海洋プラスチック汚染というと、よく想像されるのが海岸での「ポイ捨て」ですが、海に直接ごみが投げ込まれるというよりは、どこかに捨てられたポリ袋やストローが、ごみの埋め立て地などから雨に流されて川に流れつき、そして最終的に海に漂うことになっていることもあります。
プラスチックごみを多く流出する地域は、アジア諸国。世界全体の80%を占めています。2010年の世界経済フォーラムの推計によると、プラスチック流出第1位は中国、そしてインドネシア、そしてフィリピン、ベトナムなどの東南アジアの国々が続きました。アジア諸国では、コストの関係から廃プラスチックの再利用をすることが多く、他国から劣化したプラスチックを輸入して再利用し、最終的には廃棄することになっています(2017年に中国はプラスチック輸入を禁止、タイも規制を強めています)。
ちなみに、当時の推計では日本は30位でしたが、海洋プラスチックに関しては他人事ではありません。プラスチックの純粋な生産量はアメリカ、中国に続いて第3位です。そして、私たちに身近なフリースなどの衣服にはマイクロファイバーが含まれ(※6)、歯磨き粉のスクラブ剤にはマイクロプラスチックが含まれています。それを日常の中で使い、洗濯したり水に流したりすることで、知らないうちにプラスチックを海に流出させているのです。
プラスチック製品には合成ポリマー(高分子)が使われ、とても安定した構造を持っています。なので一度海に流れ着くと、陸のように熱酸化分解や光分解が起こりづらく、いつまでも水に残ります。陸にあったときよりも、海に入ってしまったほうがむしろ寿命がのびるのです。(※7) だからこそ私たちは、「プラスチックを陸から海に流出させないためにはどうするか」を考える必要があります。
※6 英国とオーストラリアの研究によると、ポリエステル製の毛布、フリース、シャツを洗濯したところ、フリースがもっともマイクロプラスチックファイバーを放出し、1回の洗濯で1点の衣服から最大1900本以上のファイバーが放出されるという。(Browne et al. 2011)
※7 Andrady 2015
海洋プラスチック問題への対策(Actions)
海洋プラスチックへの対策に関する国際的な団体としては下記が挙げられます。
世界では、さまざまな地域や企業で使い捨てプラスチック製品の使用が次々に禁止されています。たとえば飲食店のプラスチックストローが紙ストローになったり、レジ袋が有料になったり、ヨーロッパを中心に使い捨て容器を使う必要のない「量り売り」のショップが流行したり、ということですね。
日本でも、2020年7月からレジ袋の有料化が始まりました。政府は、根本的に国内のプラスチックごみを大幅削減するというよりは、人々のライフスタイルを見直すきっかけだと今回の取り組みを位置づけています。実際に、NHKの報道によると大手コンビニではレジ袋の辞退率が70%を超えたといいます。(※8)
※8 レジ袋の辞退率コンビニで70%超 一方ネット通販では購入増も
海洋プラスチック問題に関して私たちができること(What should we do)
では、海洋プラスチック問題に対して私たちは何ができるのでしょうか。
これまでIDEAS FOR GOODで公開した「サステナブル×ファッションの50のヒント」「サステナブル×食の50のヒント」を参考に、明日からすぐにできるアクションをまとめてみました。
基本
- ゴミを地域のルールに沿って分別して捨てる
- ゴミのポイ捨てはしない(道にも川にも池にも)
- リデュース、リユース、リサイクルに加えて、リフューズ(断る)の4R を意識する
- 生活からできるだけ「使い捨て」をなくす
買い物
- マイボトル・マイバッグを持参する
- 飲食店のテイクアウト時に、持参した容器を使えないか尋ねてみる
- ものを買う前に「これは本当に必要な物なのか?」を考える
- 過剰包装されていない食品を選ぶ
水回り
- 詰め替え可能な洗剤を使う
- ボディーソープから固形石鹸に変える
- シャンプーバー(固形状のシャンプー)を使ってみる
- スクラブ材の含まれないスキンケア用品を使う
-
ファッション
- 天然素材の服を買う
- アクリル、ナイロン、ポリウレタンなどプラスチック由来を買わない
- 目の細かい洗濯ネットを利用し、洗濯時のマイクロファイバーの流出を防ぐ
- コーラボール(Cora ball)と呼ばれるグッズ(洗いたい物と一緒にこのコーラボールを洗濯機に入れると、化学繊維製の洋服を洗った時に抜け落ちるマイクロファイバーを集めてくれる)を使う
食卓
- 使い捨てラップのかわりに繰り返し使えるエコラップを使う
- 個包装ではなく大袋入りのお菓子を買ってみる
- 化学繊維製のスポンジではなく、ヘチマたわしや植物繊維からできたスポンジを使ってみる
+α
- 楽しみながらゴミ拾いをする(プロギングにトライ)
- 無理せずにできるプラスチックフリー生活のコツを周りの人と話してみる
海洋プラスチック問題を解決するアイデア(Ideas for Good)
IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークな発想で海洋プラスチックの問題解決に取り組む国内・国外の企業や団体、個別プロジェクトを紹介しています。