「報道の自由度ランキング」日本の順位、評価基準は?守るためにできることまで、徹底解説
報道の自由度ランキングとは?
報道の自由度ランキングは、国境なき記者団(Reporters Without Borders / RSF)によって毎年発表されるランキングである。このランキングは、世界中の180の国と地域を対象に、報道の自由のレベルを評価している。ジャーナリストとメディアが享受している自由のレベルを指数(The World Press Freedom Index)として数値で示したものに基づく。指数が高いほど報道の自由が高いことを示し、低いほどその国や地域の報道の自由が制約されていることを示す。
国境なき記者団とその専門家パネルは、以下の「報道の自由」の定義に基づいて指数の作成を行う。
報道の自由とは、政治的、経済的、法的、社会的干渉を受けず、身体的、精神的安全が脅かされることなく、個人および集団としてのジャーナリストが公共の利益のためにニュースを選択し、制作し、発信する能力と定義される(※1)。
国境なき記者団
国境なき記者団(RSF)は、1985年に4人のジャーナリストによって創設された、フランスを拠点とする国際的な非営利団体である。RSFは、民主的ガバナンスの原則に基づき、情報の自由を擁護し推進している。
RSFは、世界中に134人の特派員を擁し、6つの国際部(ドイツ、オーストリア、スペイン、フィンランド、スウェーデン、スイス)を有している。国際本部はパリにあり、また7つの事務所がロンドン、ブリュッセル、チュニス、ワシントンDC、リオデジャネイロ、ダカール、台北に存在する。
国境なき記者団(RSF)の使命は、すべての人が自由で信頼性のある情報にアクセスする権利を守ることである。この権利は、個人や集団が、重要な問題について十分な認識と理解を有し、意見を表明し、行動するために不可欠なものである。
この目的のために、ジャーナリズムの自由、多元性、独立性、そしてこれらの理想を体現する人々を擁護する。その一環として、報道の自由度ランキングを毎年発表し、世界の報道自由状況に関する情報を提供しているのだ。
評価基準
世界報道の自由度指数(The World Press Freedom Index)は、各国・各地域に0点から100点までの点数をつけ、最高点を100点、最低点を0点としている。
スコアの算出は以下2つの要素に基づく。
- 量的集計:メディアやジャーナリストに対する虐待の量的集計
- 質的分析:報道の自由の専門家(ジャーナリスト、研究者、学者、人権擁護者を含む)による、24か国語にわたるRSFアンケートへの回答に基づく各国・地域の状況の質的分析
次の5つの状況指標を使用して各国・地域のスコアを評価する。
- 政治的状況
- 法的枠組み
- 経済的状況
- 社会文化的状況
- 安全性
これら5つの状況指標の枠組みにおいて、以下の評価を図る。
政治的背景(Political context)
- 国や他の政治的アクターからの政治的圧力に対する、メディアの自律性への支持と尊重の度合い
- 政治的に協調したアプローチや独立したアプローチを含め、専門的な基準を満たすさまざまなジャーナリスティック・アプローチの受容度
- 公益のために政治家や政府の責任を追及するというメディアの役割に対する支持の度合い
法的枠組み(Legal framework)
- ジャーナリストやメディアが、検閲や司法制裁、あるいは表現の自由に対する過度の制限を受けることなく、自由に活動できる度合い
- ジャーナリストが差別されることなく情報にアクセスする能力、情報源を保護する能力
- ジャーナリストに対する暴力行為不処罰の有無
経済的状況(Economic context)
- 政府の政策に関連する経済的制約(報道機関を設立することの難しさ、国家補助金の配分における優遇措置、汚職を含む)
- 非国家主体(広告主や商業パートナー)に関連する経済的制約
- ビジネス上の利益を促進または擁護しようとするメディア所有者と結びついた経済的制約
社会文化的状況(Sociocultural context)
- ジェンダー、階級、民族、宗教などの問題に基づく報道機関への誹謗中傷や攻撃から生じる社会的制約
- その国や地域の一般的な文化に反するという理由で、特定の権力や影響力の牙城に疑問を投げかけたり、特定の問題を報道したりしないようジャーナリストに求める圧力などの文化的制約
安全性(Safety)
-
- 身体的危害(殺人、暴力、逮捕、拘留、強制失踪、拉致を含む)
- 脅迫、強要、嫌がらせ、監視、Doxing(悪意をもった個人情報の公表)、品位を傷つける言論、憎悪に満ちた言論、中傷、その他ジャーナリストやその愛する人を標的にした脅迫から生じうる心理的・精神的苦痛
- 業務上の被害(例えば、職を失う、業務用機材を没収される、施設を物色されるなど)
2023年度の報道の自由度ランキング
2 アイルランド
3 デンマーク
4 スウェーデン
5 フィンランド
6 オランダ
7 リトアニア
8 エストニア
9 ポルトガル
10 東ティモール民主共和国
……
66 リベリア
67 レソト
68 日本
69 パナマ
70 トーゴ共和国
……
176 トルクメニスタン
177 イラン
178 ベトナム
179 中国
180 北朝鮮
【すべての結果はこちら】2023 World Press Freedom Index
2023年度、報道の自由をめぐる世界情勢。フェイクコンテンツ産業とAIが状況を複雑に
image via World Press Freedom Index, ©Reporters Without Borders
2023年度の報道の自由度指数によると、報道の自由の状況は31か国で「非常に深刻」、42か国で「困難」、55か国で「問題あり」、52か国で「良好」または「満足」となっている。つまり、約7割の国や地域が「悪い」評価を受け、約3割の国が「満足」以上に分類された。
この深刻な状況の大きな要因となったのが、フェイクコンテンツ産業である。
近年、フェイクコンテンツ産業が報道の自由に急激な影響を与えている。180か国の3分の2にあたる118か国で、自国の政治主体が大規模なフェイク情報やプロパガンダ・キャンペーンに関与しているとのアンケート回答がほぼ一致したのである。これにより真実と虚偽、本音と建前、事実と作為の違いが曖昧になり、情報への権利が危機的状況にある。
さらに、AI(人工知能)の進展は、メディアの状況にさらなる混乱を引き起こしている。RSFが共同設立したプロジェクト・Forbidden Stories consortiumの調査によると、フェイクニュース業界は、操作的なコンテンツを膨大な規模で発信している。さらに、そのフェイク情報は、厳密性と信頼性の原則を無視した形で、AIによって再送信されている。例えば、AIプログラム「Midjourney」は、極めて高精細な画像を生成し、それを使って、検出が困難なフェイク写真をソーシャルメディアに投稿している。
※「フェイクコンテンツは何が問題なのか」についてはこちらの記事を:「フェイクニュースとは?デマの問題点と拡散の仕組み・騙される心理メカニズム」
地域別指数
image via World Press Freedom Index, ©Reporters Without Borders
ヨーロッパ・中央アジア
ヨーロッパは比較的自由レベルの高い地域ではあるが、状況は国によって異なる。ドイツ(21位)は過去最多のジャーナリストに対する暴力事件や逮捕があり、5つ順位を下げた。ポーランド(57位)は比較的平穏な年で9つ順位を上げ、フランス(24位)は2つ順位を上げた。ギリシャ(107位)ではジャーナリストが諜報機関やスパイウェアによってスパイされており、EU内で最低の順位を保持している。
中央アジアにおいては、キルギス(122位)、カザフスタン(134位)、ウズベキスタン(137位)など、メディアに対する攻撃が増加したことでいくつかの国が順位を下げた。トルクメニスタン(176位)は新大統領の選出後、検閲と監視が再び強化され、最下位から5番目の順位を記録した。
北アメリカ・中南米
2023年度の北アメリカ・中南米において、「良好」評価を受けた国は存在しない。この地域で「良好」と分類されていた最後の国であったコスタリカ(15ポイント減の23位)では、政治的スコアが15.68ポイント低下し、5つランクダウンした。米国(45位)では党派的メディアへの関心が高まり、メディアの客観性が脅かされている。同時に、メディアに対する国民の信頼は危険なまでに失墜している。メキシコ(128位)は今年も順位を下げ、過去20年で最も多くのジャーナリスト(28人)が行方不明になった国である。キューバ(172位)は検閲の再強化や、報道機関の国家独占により、この地域で最も低いランキングになっている。
アフリカ
アフリカでは、ボツワナ(65位)の35ランク上昇など、注目すべき改善も見られるが、全体としてジャーナリズムは厳しい状況にあり、前年度(2022年)の33%より増加した、40%近い国が「悪い」に分類されている。アフリカでは、カメルーンを含む地域で、ジャーナリストが殺害されている。ブルキナファソ(58位)では、国際放送の現地再送信が禁止され、ジャーナリストが国外に追放されている。エリトリア(174位)のメディアは大統領の専制支配下にある。
アジア太平洋地域
アジア太平洋地域には、ジャーナリストに対して非常に深刻な体制が存在する。ミャンマー(173位)は2021年2月の軍事クーデター以来、世界で2番目に多くのジャーナリストを投獄。アフガニスタン(152位)では、女性ジャーナリストが公の場から抹殺されている。
中東・北アフリカ
中東・北アフリカ(MENA)地域は、約52%の国が「非常に深刻」と分類され、ジャーナリストにとって世界で最も危険な地域であり続けている。シリア(175位)、イエメン(168位)、イラク(167位)など、ジャーナリストの行方不明や人質が特に多い国がいくつかある。パレスチナ(156位)は、2022年に2人のジャーナリストが殺害されるなど、治安指標が非常に低い状態が続いている。サウジアラビアは依然として最下位に近い。
日本の順位の背景と要因
2023年度の日本の順位は68位、スコアは63.95で「問題あり」の評価を受けた。順位自体は前年度(71位)から3ランクアップしたものの、スコアは0.42ポイント減少している。これは単に、他国がスコアを下げたことによる順位上昇だ。評価基準別の順位とスコアは以下の通りである。
法的枠組み:47位
経済的状況:47位
社会文化的状況:105位
安全性:60位
RSFの国別の公式見解によると、日本は、国民や住民の代表機関である議会が立法という形で意思決定を行う「議会制民主主義国家」であり、メディアの自由と多元性の原則を支持している。しかしながら、伝統、経済的利益、政治的圧力、そして男女間の不平等が、ジャーナリストが本来果たすべき役割を十分に発揮することを妨げていると評価された。
RSFによる評価基準別の見解
政治的背景
日本では政治的に右派が台頭し、ジャーナリストに対する不信感が広がっていることに、ジャーナリストらは不満を抱いている。日本の「記者クラブ」制度は、主に大手メディア機関のみに取材アクセスを許可し、外国人記者やフリーランスジャーナリストに対して明白な差別を生じさせていると指摘されている。
法的枠組み
日本では、「国家安全保障上の利益」を理由に、ジャーナリストを含む一般人が、福島原発を含む特定の58地域に立ち入ることを制限する法的規制が施行中である。また、政府は「不正に」入手した情報公開を最高10年の懲役刑とする特定秘密保護法の改正を拒否している。
経済的背景
日本では、高齢化が深刻化する中で、伝統的な紙媒体を中心にしたメディアが利用者の減少に直面している。さらに、日本には新聞と放送局のクロスオーナーシップ(一つの企業が複数のメディアを所有すること)に対する規制がないため、極端なメディアの集中化が顕著になっている。
社会文化的背景
政府や企業は主要メディアに日常的に圧力をかけ、センシティブなテーマ(汚職、性犯罪、放射能、COVID-19、公害問題)に対する激しい自己検閲が行われている。2020年には、政府がCOVID-19を口実に記者会見に招く記者の数を大幅に削減させた。
安全性
日本はジャーナリストにとって比較的安全な環境である。しかし、ジャーナリストが「中傷的」とみなされる内容をリツイートしたことで、政治家から訴えられたケースもある。政府批判やセンシティブなテーマを扱うジャーナリストは、容易に「非国民」というレッテルを貼られ、日常的に嫌がらせを受けることも多い。2022年12月には、日本外国特派員協会への脅迫電話もあった。
私たちの役割とは?報道の自由を守るためにできること
人々が触れる情報量が爆発的に増加し、フェイクコンテンツビジネスが蔓延している世の中で、私たちが正確な情報にアクセスしたり、フェイクニュースを見極めることが非常に難しくなっている。メディア・リテラシーの向上は、情報提供者による正確な情報へのコミットメントを促進する。反対に、あらゆる情報を無批判に鵜呑みにする態度は、ジャーナリズムの弱体化につながる。
重要なのは、物事を認識する際に、安易に白黒をはっきりさせようとしないことだ。あらゆる問題は複雑である。すぐに理解できないからといって、表面的で断片的な事実だけに注目することは、他の多くのニュアンスを排除することになる。すべてを理解したと勘違いするのではなく、新しい情報や状況の変化に応じて柔軟に考えを顧みるような、知的謙虚さ(Intellectual Humility)を持つことが肝要である。
まとめ
情報が混沌とし、フェイクニュースが流布する現代、質が高く、信頼のおける正確な情報を提供しようとするジャーナリストを守ることは重要である。なぜなら、正確かつ信頼性のある情報を享受することで、人々はプロパガンダや誤導的な情報に惑わされず、正常かつ適切な判断を行うことができるからである。このような状況において、国境なき記者団(RSF)はジャーナリズムの自由、多元性、独立性を守るために、報道の自由度ランキングを発表している。
※1 原文 ‘Press freedom is defined as the ability of journalists as individuals and collectives to select, produce, and disseminate news in the public interest independent of political, economic, legal, and social interference and in the absence of threats to their physical and mental safety’.
‘Methodology used for compiling the World Press Freedom Index 2023’.
【参照サイト】World Press Freedom Index
【参照サイト】‘Methodology used for compiling the World Press Freedom Index 2023’.
【参照サイト】‘2023 World Press Freedom Index – journalism threatened by fake content industry’. RSF
【参照サイト】Japan. RSF
【参照サイト】‘Who are we?’ RSF