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フェイクニュース

この写真はトランプ大統領のイスラム教徒入国禁止令に反対するロサンゼルス空港の抗議デモで撮影された。

フェイクニュースとは?

「フェイクニュース」は複雑でニュアンスのある問題であり、定まった定義はありません。しかし、一般的には大きく分けて2つの意味で使用されています。

1. フェイクニュースとは、虚偽の情報のこと。とりわけ、検証可能な事実、引用などに基づかない意図的に捏造された虚偽の情報、あるいは意図的に誤解を招くような表現を用いて歪曲されたナラティブを提供する情報を指す場合が多いです(※1)

2. 自己利益のためのレッテルとして利用される「フェイクニュース」のこと。自分のイデオロギーに反する情報や、自分の利益を損なう可能性のある情報をなんでも「フェイクニュース」であると主張することで、その情報の信用を故意に失墜させようとする行為です。この策略は、情報の真偽を合理的に調査することなく、その価値と信頼性を損なうことに成功する場合が多いです。

このページでは、フェイクニュースの概要とともに、この問題の事例、騙されてしまう心理的なメカニズムと環境的な要因、フェイクニュースへの対処のポイントを詳しくまとめました。

フェイクニュースは何が問題なのか?

虚偽の情報としてのフェイクニュースの問題点

虚偽の情報としてのフェイクニュースの問題点は、その虚偽の情報の出現と存在そのものであり、多くの人々が騙されているという事実です。

フェイクニュースには、読み手を欺くために意図的に作られたプロパガンダの場合もあれば、金銭的なインセンティブ(クリック数やインプレッションによって利益が上がる)を得るために書かれた「クリックベイト(釣り)」の場合もあります(※2)

フェイクニュースは、選挙時の世論操作から宗教的迫害、公衆衛生への対応に至るまで、さまざまな争いの要因として認識されています。フェイクニュースは、判断や意思決定の誤りを招くだけでなく、誤った情報が修正された後も、人々の考え方に長引く影響を与えます(※3)

例えば、科学的コンセンサスがあるにもかかわらず、気候変動の存在を否定したり、予防接種を拒否したりする人がいます。このような拒否反応は、単なる知識不足や無知からくるものではなく、陰謀論、恐怖心、アイデンティティの表明、個人的なイデオロギーに動機づけられた推論といった要因によって引き起こされます(※4)

レッテルとしての「フェイクニュース」の問題点

レッテルとしての「フェイクニュース」の問題点は、ある情報が合理的に正しくても「フェイクニュース」と呼ぶことで、そのように広く認識される可能性があるということです。

この不誠実な策略は、その情報の信憑性を確かめることなく鵜呑みにする人々の存在によって、しばしば成功してしまいます。言い換えると、個人の無批判的な姿勢が、なんでも「言った者勝ち」の体制を強化することに加担してしまうということです。

この現象は、特定の立場から不愉快なものは何でも「フェイクニュース」として片付けられてしまうという深刻な事態を招くことにつながります。

したがって、偽情報としてのフェイクニュースと、レッテルとしての「フェイクニュース」どちらの問題に対処するにも、個人が情報の価値と信頼性を批判的に評価することで、メディアのモニターとなることが非常に重要です。つまり、フェイクニュース問題の改善には、個人のメディアリテラシーの向上が不可欠なのです。

ここで重要なのは、複雑なものを複雑なものとして認識することです。これは、わからないといって考えることを放棄するという意味ではなく、白か黒かではないスペクトルで物事を見て、物事を包括的に捉えることができるという重要なスキルなのです。

フェイクニュースの特性

学術誌「サイエンス」に掲載された論文によると、虚偽のニュースは真実のニュースよりも速く、より広く拡散することが確認されました。この傾向は、X(旧 ツイッター)ユーザー300万人の間で12万6,000件のニュースがどのように流れたかを調査した研究によって明らかになりました(※5)

フェイクニュースの増加にともない、「ポスト・トゥルース (Post-Truth)」という概念が注目されています。「ポスト・トゥルース」とは、客観的事実が世論形成に与える影響力が、感情や個人的信念に訴えるよりも小さい状況を指します(※6)。言い換えれば、何かを信じる際に、その情報が真実かどうかよりも、「なんとなくそう感じるから」「そう信じたいから」といった感情が優先される状況です。

感情の面では、フェイクニュースは鮮烈な感情的反応を引き起こし、人々の既存の物語を土台とするため、誤りが訂正された後も人々の意識に影響し続ける「信念の反響」という現象が起きます(※7)

フェイクニュースの例

2016年アメリカ大統領選挙

「フェイクニュース」という言葉が世間に広く認知されるようになったのは、2016年アメリカの大統領選挙におけるドナルド・トランプ氏によるキャンペーンの時です。その際、両方の意味でのフェイクニュースが流布し、それが選挙結果を左右した可能性が指摘されています(※8)

投票行動に影響を与えるために、偽情報としてのフェイクニュースが捏造されました。ケンブリッジ・アナリティカ・スキャンダルで明らかになったように、ソーシャルメディア(この場合はFacebook)上の個人情報がフェイクニュースの作成に悪用されました。このサービスはトランプ陣営によって多用されました(※9)。また、偽のSNSアカウントを使って選挙を操作しようとしたロシアと、トランプ陣営がロシア政府と協力していたかどうかについて、特別検察官による2年にわたる大規模な捜査が行われました(※10)

ドナルド・トランプ氏による選挙戦の顕著な特徴は、「フェイクニュース」というレッテルを使った策略でした。彼は自分を批判するメディアを総じて「フェイクニュース」と呼ぶことで信用を失墜させようとし、自分の政治イデオロギーに合致した都合の良い情報だけを「真実」として主張しました。彼のそのような荒唐無稽な主張を裏付ける実際の事実はほとんどないにもかかわらず、です。実際、ある調査機関の分析によれば、アメリカ最大の報道機関を信頼する共和党員の数は、ドナルド・トランプ氏が立候補した当時から半減しています(※11)

ドナルド・トランプ氏はこう述べました。

「CNN、MSDNC、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストといった信用を失ったメディアに何が起きているのか、素晴らしいことだ。彼らのビジネスは崖っぷちで、これはアメリカ国民にとって非常に良いことだ。なぜなら彼らは『フェイクニュース』だからだ」(※12)

ドナルド・トランプがここに挙げたメディアは、彼に批判的なメディアです。彼が批判に反論する方法は、これらのメディアを「フェイクニュース」と呼ばわりすることでした。重要なのは、フォックス・ニュースのような彼を支持するメディアだけが、この「フェイクニュース」メディアのリストから除外されていることです。

そして、選挙期間中、政治的フェイクニュースの大半は保守派、特にドナルド・トランプ支持者によって消費され、彼らはフェイクニュースサイトに接触し、訪問する傾向が強かったことが研究によって明らかとなりました(※13)。また、ヒラリー・クリントン支持者は平均して、事実確認サイトを訪れる傾向が高く、フェイクニュースサイトを訪れる傾向は低かったそうです(※14)

歴史的な事例

フェイクニュースの問題は人間社会における普遍的な現象であることを、根も葉もない噂が甚大な被害をもたらした数々の歴史的事例が証明しています。フェイクニュースは特にマイノリティにとって致命的となり得ます。

特に、何か大きな事件が起きたときに既存の差別意識が表面化し、フェイクニュースの作成と拡散を容易にする環境を作り出し、そのフェイクニュースを口実に甚大な被害をもたらしてきました。このプロセスは、後のセクションで説明する「認知バイアスがフェイクニュースを信じさせる」という議論の典型です。

中世ヨーロッパでは、黒死病(ペスト)が大規模な反ユダヤ暴力を引き起こしたと考えられています。「ユダヤ人が井戸や泉に毒を混入した」という噂によって、黒死病流行の首謀者がユダヤ人だとされ、ユダヤ人史上最大規模の大量虐殺が行われました(※15)

日本では、1923年の関東大震災の際、「東京の火災は朝鮮人が放火したものだ」「朝鮮人が井戸に毒を入れた」「朝鮮人が自警団を結成して暴動を起こす」という噂が広まり、少なくとも6,000人の朝鮮人が震災の混乱の中で殺されました(※16)。今でも、戦争や災害が起きるたびに、まったく違う時期や場所の画像がSNSで拡散されたりして、根拠のないデマが信じられ、特定の集団に被害が及ぶことがあります。

集団迫害の発生にはさまざまな要因が絡んでいるため、この問題は単純な因果関係よりも複雑であることに注意する必要があります(※17)。しかし、単なる噂がなぜ支持を得るのか、そもそもなぜそのような根も葉もない噂が発生するのかを考えると、マジョリティによるマイノリティへの共通認識が前提となっていることは明らかであり、その被害をもたらす要因としての重要性を矮小化することはできないでしょう。

大規模な災害や惨事が発生すると、フェイクニュースはしばしば人々の不満や恐怖をスケープゴートにされたマイノリティに向ける役割を果たします。マイノリティに対する差別やステレオタイプ、偏見といった人々の既存の認識が、フェイクニュースを信じさせる強い力として働くからです。混沌の中で、フェイクニュースは目に見えるマイノリティ集団に、見えない敵を投影させる働きをします。

イデオロギーのための過去の書き換え

フェイクニュースが事実を歪めるように、「ユダヤ人迫害はなかった」「朝鮮人虐殺はなかった」といい、客観的事実や明確な証拠があるにもかかわらず、過去に起こったことを意図的に否定したり、矮小化したり、都合よく一側面を誇張したりする歴史修正主義的な言説が出現しています。この歴史修正主義的な言説とその信奉者が生まれるメカニズムには、次のセクションで説明するように、自分にとって都合のいい情報だけを信じようとする確証バイアスが強く働く傾向が見られます。

歴史修正主義とは、自分たちのイデオロギーに合わせて歴史を書き換えることです。「ある真実はある人にとっての真実であり、私にとっての真実ではない。信じるか信じないかは個人の自由である」という無条件の価値相対論を利用することで、確かな証拠と学者のコンセンサスがある、特定の明白な歴史的事実の価値を格下げし、捏造されたストーリーの価値と同列に扱うのです(※18)。証拠のある事実よりも、インパクトのある不確かな情報が優先される状況では、学者も個人も事実を追究する意味を失ってしまうでしょう。

つまり、ある事実を信じるかどうかの判断は、もはや客観的事実の存在ではなく、個人的な好みや「なんとなくそう思うから」という理由に基づくようになってしまっているということです。このように、人が「なんとなく」何かを感じる時、それは自分の潜在意識にアクセスし、特定の物事や人物に対して抱いている既存の、フワッとしたイメージや偏見を利用していることを意味します。

人間は既存の信念を修正することを嫌い、それを避ける傾向があります。考えを変えることは難しいとよく言われていますよね。この心理的なプロセスによって、たとえ根拠がなくても、ある情報が自分の都合に合致したり、信じたいものであったりする場合、それを信じようとする心理がさらに強化されるのです。

もちろん、史料や既存の史実とされているものを常に検証し、評価し、議論し続けること、そしてそれを受け入れる姿勢は重要です。既存の歴史について信頼できる新たな発見や見解があれば、それを修正する必要も出てくるでしょう。しかし、その目的は、「そもそも『真実』とは何か」「歴史はバイアスなしで語れるのか」という自己反省的な議論も含め、真実を追求する果てしなき努めにあるべきであり、特定のイデオロギーを補完することではありません。「人の数だけ真実がある」「すべての人の視点が無批判かつ無条件に正しい」と仮定することは、表面的には多様性を尊重するように聞こえますが、何が正しいか考えることを怠慢に放棄しているに等しいのです。

なぜ人はデマやフェイクニュースに騙されるのか

フェイクニュースの問題は根深く、なぜ多くの人が騙されるのか、そのプロセスは単純化できません。しかし、騙されるメカニズムには傾向や要因があり、それを理解、認識することで、ある程度対策を講じることは可能です。そして、根本的に重要なのは、単に知識の量ではなく、自己反省的にこの問題を認識し、改善しようとする姿勢です。

このセクションでは、フェイクニュースに騙されてしまうメカニズムといくつかの要因について説明します。フェイクニュースを定着させ、人々を誤った信念を形成しやすくする要因には、人間の認知的な脆弱性(弱み)とシステムレベルの脆弱性があります。

つまり、フェイクニュースに引っかかったり、誤った情報が訂正された後も信じ続けたりしてしまうのは、人の頭の中で何が起来ているからなのか(個人レベルの脆弱性)、そして、環境がこの現象をどのように強化しているのか(システムレベルの脆弱性)を説明します。

個人レベルの脆弱性

フェイクニュースに対する個人レベルの脆弱性のひとつに認知バイアスがあります(※19)

人間は「近道」を好む生き物です。複雑な物事を単純化して認識することは、人間が生きていく上で避けられないことであり、状況判断がスピーディーに行えるなどの利点があります。しかし、現代社会の情報過多は、複雑な情報を過度に単純化して認識する習慣を助長し、思考力の低下を招くことで、フェイクニュースに惑わされやすくしています。現代人は認知能力を超える量の情報にさらされており、この過負荷がさまざまな認知バイアスを助長しています(※20)

「認知バイアス」とは、直感や経験、先入観に基づいてこの「近道」を使うことで、物事について非合理的な判断を下してしまう現象のことです(※21)

確証バイアス

無意識のうちに、自分にとって都合のよい情報や自分の考えに肯定的な情報だけに注目し、逆に自分の考えに反する情報や都合の悪い情報を無視したり、その価値を矮小化して認識することを、確証バイアスと呼びます(※22)

自分が信じたい情報だけを信じてしまう現象も、確証バイアスの一例です。 また、自分の信念に合わない情報に出会うと、「バックファイア効果」が働き、さらに自分の信念に固執するようになることもあります。自分の考えを修正するどころか、逆に強化してしまうということです(※23)。例えば、反政府陰謀説を信じる人々が、証拠を提示されたとしても、その証拠を無条件に拒絶し「政府は真実を隠蔽している!」と言うのも、この反応の一部です。

記事の見出しのみに着目する

ニュースの見出しやタグのみに注目し、それに関連する記事を読まない傾向があります。実際、多くの人がニュース記事を一度も読まずに意見を形成していることがある調査で明らかになりました。X(旧ツイッター)の280万件のニュース記事を分析したところ、記事をシェアした人の半数以上が記事を読むためのリンクをクリックしていなかったという結果が出ました。つまり、彼らは一度も読んだことのない記事をシェアしているということです。これは、フェイクニュースの拡散と影響力を強める行動です。例えば、クリックベイトはクリック数で利益を生みますが、これは注目を集める派手な見出しに依存した策略です。

また、記事の内容が疑わしいものであっても、それが多くの人に共有されることで、あたかも真実味が増してきたかのような錯覚に陥る効果もあります(※24)。これは「バンドワゴン効果」と呼ばれ、他の多くの人が何かを肯定的に捉えると、自分もそれを支持するという現象を指します。言い換えると、みんなに人気があるように見えるものを支持したくなる現象です。

錯覚的な真実性の向上

何が真実かを判断するとき、熟考する代わりに直感に従う傾向があります。これには、繰り返し似たような情報に触れているという「親しみやすさ」、単純明快なメッセージという「処理の流暢さ」、一貫したメッセージという「凝集性」などの要素によって、ある情報の真実味が強化されるからです。例えば、2020年3月の調査で、アメリカ人の約3割が「新型コロナが意図的に作成、拡散された」と信じているという結果が出ました。これは彼らが陰謀論に繰り返し接していることが一因だとされています(※25)

情報源の信頼性

情報源は、人々の信念形成に影響を与える重要な要素です。情報源が自分と似た価値観を持つ集団であれば、その情報源をより信頼する傾向があります。人は外集団のメンバーよりも、自分と同じような考えを持つ内集団のメンバーを信じる傾向が強く、自分の考えと他人の考えの重なりを過大評価する傾向があり、偏ったコンセンサスを認識することが多いです(※26)

また、人は情報の出所を忘れることも多いです。センセーショナルな内容しか覚えていなければ、情報源が疑わしいものであっても、情報の質や信頼性を評価することは困難でしょう。それゆえ、フェイクニュースは、情報源の信頼性や証拠の欠如から読み手の注意をそらすために、誇張した表現や、感情的な表現を多用する傾向があります。

真偽を見分ける能力に対する根拠のない自信

人は、真実と虚偽を見分ける能力について、実際よりも自信を持っている傾向があります。人はまた、自分は他の人よりもメディアのメッセージに影響されにくいと信じていますが、これは「第三者効果」として知られる錯覚です(※27)。「あぁフェイクニュースに騙される人もいるよね。自分は違うけど」と他人事としてしまうのです。

それゆえ、騙されているにもかかわらず、事実確認をしたり、ニュース記事の出典を確かめようとしたりする人が少ないのは、この根拠のない自信のために、その必要がないと誤解しているからです。

本稿の出典情報は記事の一番下に記載されていますが、実際に出典のリンクにアクセスしたりして、この記事の信頼性を確認する人はどのくらいいるでしょうか。

システムレベルの脆弱性

SNSやAIなど現代のテクノロジーは、フェイクニュースをよりスピーディに拡散し、より信憑性があるように見せかけ、より容易に膨大な数の人々に影響を与えることを可能にしています。言い換えると、インターネットは正確な情報を犠牲にして偽情報を素早く広めるのに格好の媒体です。何十億もの個人にリーチし、個々のユーザーに合わせて説得力のあるメッセージを調整したり、彼らの価値観に合わない情報に接する機会を制限することができるのです(※28)

エコーチェンバー

エコーチェンバー現象とは、狭いコミュニティ内で同じ意見を見聞きし続けることで、自分の意見の正当性を確信することです。同じ趣味や思想を持つ人と簡単につながることができるインターネット上で起こりやすいとされます。自分のイデオロギー的立場に沿ったニュース記事を読み、共有し、交流する可能性が高まります。

自分の意見が絶対に正しいと信じることは、他の意見や考え方が間違っていると思い込むことにつながります。それは、異なる意見を持つグループ間の断絶や争いを引き起こす場合があります。

人は既存の信念を補強する情報を求め、その信念を疑わせるような情報を避ける傾向があり、これは『選択的暴露』として知られていますが、これとエコーチェンバー現象は互いに補強し合い、フェイクニュースに騙されやすくなります(※29)

フィルターバブル

フィルターバブルとは、過去のユーザー情報に基づいて各人に最適化されたインターネットコンテンツによって、同じような情報や考え方に囲まれている状態のことです。

インターネットには、ウェブサイトを訪れるユーザーを追跡する「トラッキング」機能、アルゴリズムを使用してユーザーの興味や検索傾向を分析し、コンテンツを選択する「フィルタリング」機能、各ユーザーが見たいと思う可能性の高い最適化されたコンテンツを提供する「パーソナライゼーション」機能があります。

ユーザーが見たいページを自動的にカスタマイズしてくれる便利な機能ですが、ユーザーが興味を持ち、信じたいと思う情報にだけに触れるような環境が形成することにも寄与します。

サイバーカスケード

サイバーカスケードという現象は、インターネット上で自分の思想や価値観を共有する人々が強力に結びついた結果、あらゆる異なる考えを排除した、閉鎖的で過激なコミュニティを形成することです。極端なイデオロギーに偏る傾向があります。

フェイクニュース問題への取り組み

フェイクニュースは法規制やフィルターによって解決するのか?

ある情報がフェイクだと合理的に判断できる場合もありますが、多くの場合、正しいニュースとフェイクニュースを区別するのは困難を極めます。これは、特定の立場から情報を見るという主観的なバイアスの影響によるものです。社会からフェイクニュースを完全に排除することはほぼ不可能であり、法的措置やフィルターによってフェイクニュースを規制しようとすると、逆説的に、その時々の決定権を持つ組織によって、その組織とは反対の立場からの情報が「フェイクニュース」と定義されることになりかねません。つまり、決定権を持つ組織が変われば、「フェイクニュース」の基準も変わる可能性があるということです(※30)

したがって、フェイクニュースへの有効な対策は、まず個人のメディアリテラシーを向上させることです。つまり、無批判に外部の規制やフィルターのみに依存するのではなく、情報を自分で検証しようとする姿勢を身につけることが重要なのです。また、複数の違う見識を持った専門的が意見できるプラットフォームを形成することも重要です。

最近では、Xの「コミュニティノート」機能も活用されています。これは、誤解を招く可能性があるポストに、Xユーザーが協力して役に立つノートを追加できるようにすることで、より正確な情報を入手できるようにすることを目指すものです。もちろん、評価はユーザーが行うため、コミュニティノートで「訂正」した情報が誤りである可能性からは逃れられませんが、リプライや引用などを見なくても、デマ拡散防止に役立つ可能性はあります。

フェイクニュースに騙されないためには?

3つの実践的なヒント

1. コンテンツの種類を考える
情報がニュースなのか、コラムなのか、風刺なのかを考える事で、そのコンテンツの意図を把握した上で情報を処理することができます。

2. どこで発表されているのか?
情報源とコンテンツの繋がりを意識することで、複数の情報源からの情報に対して、その内容の詳細についてより深く理解することができます。情報源に注意を払い、記憶の文脈を思い出せないときには自分の知識に疑問を持つことで、より反省的に心を開くよう努力することにつながります。

3. 誰が利益を得るのか?
あなたがその情報を信じることで、誰が得するのかを考えることで、発信者の立場をより客観的に認識できるようになります。そして、自分自身の利益やバイアスが働いていないかを反省することにもつながります(※31)

クリティカルシンキング

フェイクニュースに取り組む際のクリティカルシンキングには、個人的な偏見を意識するマインドセット、情報を評価するバランスの取れたアプローチ、センセーショナリズムや感情的なアピールよりも証拠や情報源の信頼性を重視する見識のある考え方が含まれます。

まず、先入観が判断に影響を与えることを認識し、自分自身のバイアスを自覚する必要があります。そして、物事の本質を探るための疑問を持つ姿勢を育み、情報にアプローチすることが重要です。また、「批判的な思考」とは、出会ったもの全ての揚げ足をとることを目的としているわけではありません。つまり、反射的にすべてを否定するのではなく、思慮深く批判的に情報を分析するということです。

そして、派手な見出しや感情的なレトリックに振り回されず、情報の出所や裏付けとなる事実の信憑性を検討することが重要です。内容を鵜呑みにせず、安易な判断を控えるということです。

グラデーションで考えようとする姿勢
(曖昧なものや複雑なものをシンプルにしすぎないこと)

フェイクニュースに対処する有用な方法は、複雑な問題を、そのニュアンスを消そうとせず、そのまま複雑なものとして認識することです。多くの人が、白黒はっきりした二項対立的な答えを好む傾向がありますが、ほとんどの場合問題は複雑で、単純なカテゴリーに収まるものではありません。しかし、保守vsリベラル、白人vs黒人、アジアvsヨーロッパなど、分断的なレッテルをよく目にします。

情報を伝える際、ある程度の一般化は避けられませんが、過度な単純化と一般化は、分類不可能な「その他大勢」や、その間のさまざまな度合いを省いてしまうことを意味します。この排除は、あらかじめ定義された、わかりやすい用語や概念の枠内に私たちの思考を閉じ込めます。メディアで発信される情報は全体のごく一部であり、完全に中立的な立場から論じる事はできないことを認識した上で、物事をより包括的に捉えようとする姿勢が、本質的にフェイクニュースと戦う上で極めて重要なのです。

フェイクニュースの問題と闘うアイデアたち

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアでフェイクニュースの問題改善に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

フェイクニュースに関する記事の一覧


※1 ‘Fake News and Information Literacy’. University of Oregon.
※2 ‘“Fake News,” Lies and Propaganda: How to Sort Fact from Fiction’. University of Michigan Library.
※3 Ecker, U.K.H., Lewandowsky, S., Cook, J. et al. The psychological drivers of misinformation belief and its resistance to correction. Nat Rev Psychol 1 (2022): 13–29.
※4 ibid.
※5 Soroush Vosoughi et al., The spread of true and false news online. Science 359 (2018): 1146-1151.
Ball, Philip. ‘News’ spreads faster and more widely when it’s false’. Nature.
※6 Evaluating Information: Fake news in the 2016 US Elections, Victoria University (Australia)
※7 Matthews, Julian. ‘A cognitive scientist explains why humans are so susceptible to fake news and misinformation’. Nieman Lab.
※8 Evaluating Information: Fake news in the 2016 US Elections, Victoria University (Australia)
※9 吉田 拓史 「フェイクニュースはヒトの不注意や認知バイアスに容赦なく襲いかかる」 アクシオン
※10 Savage, Charlie. ‘Why the Discredited Dossier Does Not Undercut the Russia Investigation’. The New York Times.
※11 Cillizza, Chris. ‘Here’s Donald Trump’s most lasting, damaging legacy’. CNN.
※12 ‘It is amazing what’s happening to the discredited media like CNN, MSDNC, New York Times, and Washington Post. Their businesses have dropped off a cliff, which is actually a very good thing for the American people, because they are Fake News (likewise the networks, ABC, NBC, CBS)’
Tiihonen, Tapio. NYC Dawn: Looking for Gold. (2022)
※13 Guess, Andrew, Brendan Nyhan, and Jason Reifler. ‘Selective exposure to misinformation: Evidence from the consumption of fake news during the 2016 US presidential campaign’. (2018).
※14 ‘Why We Fall for Fake News’. University of California, Santa Barbara. Center for Information Technology & Society.
※15 14世紀の黒死病と当該のポグロムの前後関係については議論の余地があり、ポグロムは黒死病が流行する前に起こった可能性が高いという見解もある。
「ポグロム」とはユダヤ人に対する集団的迫害(殺戮、略奪、差別)を指す。
Finley, Theresa and Mark Koyama, ‘Plague, Politics, and Pogroms: The Black Death, the Rule of Law, and the Persecution of Jews in the Holy Roman Empire’, The Journal of Law and Economics 61, no. 2, (2018): 253-277.
佐々木 博光. 「黒死病とユダヤ人迫害 : 事件の前後関係をめぐって」 『大阪府立大学紀要(人文・社会科学)』 52巻 (2004): 1-15.
※16 Ryang, Sonia. “The Great Kanto Earthquake and the Massacre of Koreans in 1923: Notes on Japan’s Modern National Sovereignty.” Anthropological Quarterly 76, no. 4 (2003): 731–48.
Soo-Kyung, YI. ‘A study of reportings in Korea and Japan about The Great Kanto Earthquake and the Massacre of Koreans’, Bulletin of the Faculty of International Studies, Yamaguchi Prefectural University 10 (2004): 1-10.
※17 Finley, Theresa and Mark Koyama, ‘Plague, Politics, and Pogroms: The Black Death, the Rule of Law, and the Persecution of Jews in the Holy Roman Empire’, The Journal of Law and Economics 61, no. 2, (2018): 253-277.
※18 武井 彩佳 「歴史修正主義とウクライナ戦争――『歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』」
※19 吉田 拓史 「フェイクニュースはヒトの不注意や認知バイアスに容赦なく襲いかかる」 アクシオン
※20 ibid.
※21 鈴木 宏昭 「認知バイアスとは何か」 『月刊保団連』 No. 1380 (2022).
※22 吉田 拓史 「フェイクニュースはヒトの不注意や認知バイアスに容赦なく襲いかかる」 アクシオン
※23 ibid.
※24 ‘Why We Fall for Fake News’. University of California, Santa Barbara. Center for Information Technology & Society.
※25 Ecker, U.K.H., Lewandowsky, S., Cook, J. et al. The psychological drivers of misinformation belief and its resistance to correction. Nat Rev Psychol 1 (2022): 13–29.
※26 ibid.
※27 ‘Why We Fall for Fake News’. Center for Information Technology & Society.
※28 Ecker, U.K.H., Lewandowsky, S., Cook, J. et al. The psychological drivers of misinformation belief and its resistance to correction. Nat Rev Psychol 1 (2022): 13–29.
※29 Matthews, Julian. ‘A cognitive scientist explains why humans are so susceptible to fake news and misinformation’. Nieman Lab.
※30 山口 真一 「フェイクニュース拡散のしくみと私たちに求められるリテラシー: 消費者問題アラカルト」国民生活. ウェブ版 : 消費者問題をよむ・しる・かんがえる / 国民生活センター 編 100 (2020): 11-14.
※31 Matthews, Julian. ‘A cognitive scientist explains why humans are so susceptible to fake news and misinformation’. Nieman Lab.

【参照サイト】Colhoun, Damaris. ‘The history behind the chocolate hoax’. Columbia Journalism Review.
【参照サイト】スウェーデンで「心理防衛局」設立。デマ、フェイクニュースに対策へ
【参照サイト】フェイクニュースを防ぐAIアプリ「Logically」創始者が語る、“わからない”情報との向き合い方
【参照サイト】フェイクニュースを見破る難しさを示す、“全部ウソ”のドキュメンタリー
【参照サイト】写真の本当のストーリーを知ろう。Canonによる、フェイクニュース防止サイト
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