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【2025年版】報道の自由度ランキング、日本がG7最下位の理由は?

国際NGO「国境なき記者団が毎年発表している「世界報道自由度指数(World Press Freedom Index)」、通称「世界報道の自由度ランキング」。

世界180の国と地域を対象に、報道の自由の度合いを数値化して評価するこのランキングでは、数値が高いほど報道の自由が保障されていることを示し、反対に数値が低いほど制約が大きいことを意味する。

では、「報道の自由」が保障されるとは、どういうことだろうか。

それは、ジャーナリストが権力や利害関係者の圧力を受けることなく、社会的に重要な情報を取材・発信できる環境が整っていることを意味する。報道の自由は、単に報道機関のための権利ではない。私たち一人ひとりが、正確で多面的な情報にアクセスし、自ら考え、判断するための基盤でもある。

この自由が損なわれると、社会で起きている重要な事象が見えにくくなり、権力の監視や市民の判断力が弱まり、健全な民主主義そのものが脅かされる可能性がある。

世界報道の自由度ランキングは、国境なき記者団と専門家パネルが、以下の定義に則って各国を評価することで作成されている。

報道の自由とは、政治的、経済的、法的、社会的干渉を受けず、身体的、精神的安全が脅かされることなく、個人および集団としてのジャーナリストが公共の利益のためにニュースを選択し、制作し、発信する能力と定義される(※1)

本記事では、今年度のランキングの内容とともに、日本における報道の自由の現状を検証し、私たちにできることを考えていく。

2025年度の報道の自由度ランキング

1 ノルウェー
2 エストニア
3 オランダ
4 スウェーデン
5 フィンランド
6 デンマーク
7 アイルランド
8 ポルトガル
9 スイス
10 チェコ
……
64 コートジボワール共和国
65 アンドラ
66 日本
67 マルタ
68 ハンガリー
……
176 イラン
177 シリア
178 中国
179 北朝鮮
180 エリトリア【すべての結果はこちら】2025 World Press Freedom Index

報道の自由度、過去最低水準に。世界全体が初めて「困難」評価に

世界的な報道の自由の状況は、指数の歴史上初めて「困難な状況」に分類された。

ジャーナリストへの物理的な攻撃は、報道の自由に対する最も顕著な侵害とされているが、経済的な圧力もまた、深刻でありながら「見えにくい」脅威として指摘されている。RSFは、報道の自由度指数における「経済指標」が2025年も続落し、過去に例のない危機的な水準にあることが、全体の自由度の低下に大きく影響したと分析している。

2025年度の報道の自由度指数によれば、世界人口の半数以上が、報道の自由が「非常に深刻」とされる国・地域に暮らしている。このカテゴリーに該当するのは42か国、約42億5,000万人にのぼり、図中では赤で示されている。

この図は、信頼できる情報にアクセスする権利がどれほど脅かされているかを可視化するもので、各国の表示サイズは人口に比例して描かれている。

一方で、報道の自由が「良好」な国に住む人々は、世界人口のわずか0.8%にとどまり、「満足できる」状況にある国に暮らす人々も8%未満にすぎない。

日本は66位。その背景と要因

2025年度の日本の報道自由度は、180か国中66位、スコアは63.14で「問題あり」の評価を受けた。G7諸国の中では最も低い順位である。

政治的状況:59位
法的枠組み:69位
経済的状況:45位
社会文化的状況:112位
安全性:68位

RSFの評価によれば、日本は議会制民主主義国家として、法律に基づいて意思決定が行われ、メディアの自由や多様性といった基本的な価値も、原則として尊重されている。つまり、制度としては報道の自由が保障されている国とされている。

しかし実際には、社会的な慣習や伝統、スポンサーや広告主とメディアの関係による経済的な利害、政治的な圧力、そしてジェンダー不平等といった構造的、文化的要因が、ジャーナリストの本来の役割である「権力の監視」を十分に果たすことを妨げていると指摘されている。

なぜ日本はG7最下位なのか?RSFによる評価基準別の見解

政治的背景

RSF(国境なき記者団)が特に問題視しているのが、「記者クラブ制度」である。この制度は、政府の記者会見や高官への取材機会を主に既存の大手報道機関に限定する仕組みであり、新規メディアやフリーランス記者にとっては大きな障壁となっている。RSFは、この構造が記者と政府との関係を過度に近づけ、批判的な質問や報道を控える空気を生み出していると指摘。その結果、記者が当局に対して厳しい姿勢を取りづらくなり、自己検閲を招きやすい環境が形成されていると懸念されている。

さらに、フリーランス記者や外国人記者に対しては「明らかに差別的な扱い」がなされていると評価され、報道の自由を実質的に制限する要因として国際的な批判を招いている。

つまり、日本の報道の自由は制度上は保障されているように見えるものの、実際には閉鎖的で、権力に対して批判しにくい構造が存在しているということだ。

法的枠組み

日本では、防衛関連施設やインフラの周辺583か所について、国家安全保障の観点から国民やジャーナリストを含む一般の立ち入りや情報収集が制限されている。対象は、原子力発電所や軍事基地など、安全保障上「重要」とされる場所である。

この法律に違反した場合、最大で懲役2年または200万円の罰金が科される可能性がある。また、政府は「特定秘密保護法」の改正を行っておらず、「違法」に取得された情報を公表した場合には、最大で懲役10年が科される可能性もある。

国境なき記者団(RSF)は、これらの法制度が国家の安全を守るための措置である一方で、報道機関や記者の取材活動に対する制約をもたらすことに懸念を示している。公益通報者の減少や、善意で情報を公開した国民が刑事罰を受ける可能性も指摘されている。

また、「特定秘密」として指定される情報の範囲は非常に広く不明確であり、ほとんどの情報が該当する可能性がある。さらに、その指定は情報を管理する行政機関が行うため、行政側が国民に知られたくない情報を恣意的に「特定秘密」に指定し、情報を隠蔽してしまう危険性が指摘されている。

経済的背景

日本では現在も新聞などの紙媒体が主要なメディアであるが、その今後の存続は不透明である。背景には、世界で最も高齢化が進む国である日本において、新聞の主な読者層が年齢の比較的高い人々に偏っているという現実がある。若年世代では紙の新聞を購読する人が年々減少しており、今後の読者離れに伴って、紙媒体そのものの継続が危ぶまれている。

さらに、日本では新聞社とテレビ局を同一の企業グループが保有する「クロスオーナーシップ」に対する規制が存在しない。この仕組みにより、大規模なメディアグループの形成が進み、一部のメディアグループは2,000人を超える記者を抱え、国内の情報発信に対して極めて強い影響力を持つようになっている。こうしたメディアの集中は、情報の発信源が限られ、多様な視点や異なる意見が伝わりにくくなるという問題を引き起こしている。

その結果、少数の大手メディアによって情報が実質的に独占され、言論の多様性や報道の中立性が損なわれる懸念が指摘されている。これは、健全な民主主義社会を維持し、偏った情報発信やプロパガンダを回避するうえでも、重要な課題とされている。

社会文化的背景

日本では、政府や企業が主要メディアに対して日常的に圧力をかけているとされており、その影響で、汚職、セクシャルハラスメント、健康問題、公害などのセンシティブなテーマに関して、報道機関による強い自己検閲が行われていると、国境なき記者団(RSF)は評価している。

これは、スポンサーや取引先企業、政権との関係性を過度に意識するあまり、報道機関が自ら報道の内容を制限し、波風を立てないように表現を控えたり、問題の扱いを過小にとどめたりする「構造的な自己規制」の存在を示している。

たとえば、旧ジャニーズ事務所における性加害問題に関しては、被害自体やその疑惑は数十年前から指摘されていたにもかかわらず、大手メディアの多くが問題を報じてこなかった。事務所の強大な権力と影響力、業界全体に根付いた「空気を読む」文化、さらにはメディアと芸能界の深い癒着が、被害者が声を上げることを阻んでいた。実際、2023年に英国公共放送BBCの報道という外部からの指摘を受けて初めて、大手メディアはこの深刻な人権侵害問題を本格的に報道し始めたのだ。

報じるべき重大な人権侵害が、企業や権力者への忖度や自己規制によって長期間黙殺されていた事実は、報道の自由にとって看過できない問題である。本来、報道機関は権力や社会問題に対して批判的な視点から正確な情報を伝え、公共の利益に貢献する重要な役割を担っている。しかし、RSFは現在の日本の報道環境において、その役割が十分に果たされておらず、構造的な問題が存在すると指摘している。

安全性

日本のジャーナリストは、物理的な危険の少ない比較的安全な労働環境にあるとされる一方で、報道や表現の自由には依然として課題が残されているという。

特にソーシャルメディア上では、ナショナリスト的傾向のあるグループが、「非国民的」あるいは「反日」と見なすテーマを扱ったジャーナリストに対し、日常的に嫌がらせや攻撃を行っていると指摘している。国境なき記者団(RSF)が、その標的となる具体例として挙げているのは、政権批判、能登半島地震に対する対応の遅れへの言及、さらには福島原発の処理水に関する用語の使い方である。

たとえば、福島県議会の自民党会派は、学校現場で「汚染水」という表現が用いられることに異議を唱える意見書を提出した。さらに、政府や東京電力は、ALPSによって処理された水について「処理水」という呼称を一貫して使用しており、これが中立的な技術用語というよりも、「風評被害」対策で印象を和らげるための政治的レトリックであるとの見方も存在する。

RSFは、このように表現が事実上統一され、代替的な表現が排除される傾向に対し、言論の自由や言語の多様性が損なわれる可能性を懸念している。特定の言葉に対する同調圧力や、それに伴う自己検閲が強まることは、報道の独立性を揺るがし、民主的な議論を萎縮させる要因となりうるとの立場である。

こうした圧力は、センシティブな社会問題についての自由な言論や建設的な議論を困難にし、「言葉狩り」や短絡的なレッテル貼りによって、社会的な沈黙や自己検閲を生み出す構造に加担する恐れがあると指摘されている。

報道の自由を守るために。私たちの役割とは?

戦場フォトグラファー

Photo by Vony Razom on Unsplash

私たちは日々、膨大な情報に晒されて生きている。そうした環境の中で重要なのは、思考力と「知的謙虚(Intellectual Humility)」の姿勢を持つことである。報道に対して無批判に従うのでも、ただの印象で感情的に反応するのでもなく、「伝えられるに値する市民」としての責任を果たすことが求められている。それは、報道に携わる人々が、正確かつ誠実に、倫理的な姿勢で活動できるよう支えるとともに、そうした姿勢を社会として求めていくという役割である。

そのためには、物事をすぐに「理解できた」と思わず、自分の認識を柔軟に保ち、即断即決で白黒をつけない態度が必要だ。背景を知らずに短絡的に意見を形成したり、公的機関や権威の発言を無批判に受け入れたりすることは、社会的な議論の質を低下させる原因となる。異なる意見に対しては、まず理解しようとする姿勢を持つことが求められる。

健全な報道環境を脅かす要因の一つに、感情的な言説に煽られて行動する人々の存在がある。事実の吟味を伴わずに情報を鵜呑みにすることは、結果としてポピュリズムの助長や民主主義の形骸化を引き起こしかねない。メディアが事実よりも印象や影響力を重視するようになれば、根拠のない主張が「真実」として機能してしまう危険性がある。

また、いくら誠実なメディアが根拠や論理に基づいて情報を提供しても、市民がそれを受け止めずに価値を見いださなくなれば、報道機関の努力を支える社会的な基盤は失われてしまう。その結果、メディアの質の低下を招き、市民が必要とする正確な情報へのアクセスが制限されるだけでなく、不正や汚職の温床となり、異論を表明する言説が抑圧されるリスクが高まる。

報道の自由を守るという課題は、報道機関や記者だけのものではない。情報を受け取る私たち一人ひとりが、思考する責任と、対話を可能にする姿勢を持つことで、その基盤を支えていく必要がある。

※1 原文 ‘Press freedom is defined as the ability of journalists as individuals and collectives to select, produce, and disseminate news in the public interest independent of political, economic, legal, and social interference and in the absence of threats to their physical and mental safety’.
RSF. ‘Methodology used for compiling the World Press Freedom Index 2025’.

【参考サイト】RSF. ‘Methodology used for compiling the World Press Freedom Index 2025’.
【参考サイト】RSF. ‘World Press Freedom Index 2025: over half the world’s population in red zones’.
【参考サイト】‘RSF World Press Freedom Index 2025: economic fragility a leading threat to press freedom’.
【参考サイト】参議院「特定秘密保護法案に関する請願」
【参考サイト】日本弁護士連合会「秘密保護法の問題点は?」
【参考サイト】RSF. Japan
【参考サイト】熊谷百合子「ジャニーズ性加害問題 〜「検証番組」の内容分析からみる“マスメディアの沈黙”〜」
【参考サイト】「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるALPS処理水1の処分に伴う当面の対策の取りまとめ(案) 」
【参考サイト】笠井哲也「波紋よぶ自民党意見書 教育現場の「汚染水」呼称を問題視」朝日新聞

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