コロナが生んだ、地域の絆。関わる誰もが幸せになる、横浜の「YOKOHAMAガーゼマスクships」プロジェクト

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新型コロナウィルスが蔓延するなか、日本ではマスクの供給不足による価格の高騰や、外出自粛要請に伴う外食業や小売業の業績悪化、経済状況悪化に伴う雇用の喪失、給食や外食需要の急速な低下に伴うフードロスの発生など、複数の社会課題が同時多発的に進行している。

そんななか、これらの社会課題を同時に解決し、地域で暮らす人々がお互いにつながり、支えあいながらこの苦難を乗り越えようという新しい取り組みが、神奈川県の横浜で始まっている。

横浜市の旭区に拠点に活動をしている「緑園リビングラボ」がはじめたのは、地域の人々が協力しながら手作りのガーゼマスクをつくる、「YOKOHAMAガーゼマスクships」プロジェクトだ。

リビングラボとは、まちで暮らす市民や地元の企業、NPO、行政、大学など立場を超えた様々な人が集まって協働し、地域課題の解決につながる新たな事業を生み出す活動のことを指す。「Living(生活空間)」の「Lab(実験場所)」という名前の通り、市民が主体となったオープンイノベーションの拠点としても注目を集めており、横浜では各区で盛んに活動が展開されている。

今回緑園リビングラボが新たにスタートした「YOKOHAMAガーゼマスクships」は、横浜市内に住む主婦や特例子会社で働く障がい者スタッフの方々が「クルー」としてガーゼマスクを手作りで縫製・検品・ラッピングし、それらを地域の商店に卸したり、販売会会場で販売。マスク作りを手伝ってくれたクルーには御礼として、そのままではフードロスになってしまう横浜市内の地域産品をお返しするという地域循環型のプロジェクトだ。

プロジェクトのプロデュース、運営は横浜市旭区に本拠を置く株式会社Woo-By.Style(以下「ウッビースタイル」)が担当しており、横浜市が新たにスタートした新型コロナに向き合うたすけあいプラットフォーム「#おたがいハマ」の公認プロジェクトにもなっている。

YOKOHAMAガーゼマスクshipsプロジェクトの様子。写真中央が緑園リビングラボの代表を務める発案者の野村美由紀さん

プロジェクトがもたらす4つのwin

このプロジェクトの秀逸な点は、誰でも気軽に参加することができるだけではなく、参加者全員が恩恵を受けられ、結果として複数の社会課題が同時に解決するという設計になっているという点だ。具体的には、異なる立場でコロナの影響を受けている人々に対し、下記4つのメリットをもたらす。

一つ目のメリットは、マスクの品切れに悩む地域の人々にマスクを届け、地域に安心をもたらすという点だ。コロナ禍において、横浜市内でもマスクの品切れや供給不足状態が続いており、不安が広がっているが、同プロジェクトでは地域住民が協力してマスクを手作りし、一人一人に届けることで地域に安心を生み出す。

また、ガーゼマスクは何度も洗って繰り返し使用できるため、市販の使い捨てマスクと比較して環境にも優しい商品となっているほか、海外からの輸入製品ではないため物流面でも環境負荷が低いと言える。さらに、一般的な手作りマスクとは異なり、ガーゼマスク作りで10年以上の経験を持つウッビースタイルがプロジェクト管理や検品作業を担うことで、製品の品質面も担保している。

二つ目のメリットは、地域の主婦や障がい者の人々に新たな雇用を生み出すという点だ。横浜でも、コロナ禍による飲食店や小売店、工場などの臨時休業、保育園の休業などにより一時的に仕事を失ってしまった主婦や、自宅で子供の世話をせざるをえず仕事に行けない人々、障がいを持つスタッフなどが多くいるが、同プロジェクトはそうした人々に自宅でできる新たな仕事を提供する。仕事内容もガーゼマスクの縫製、ラッピング、販売など様々に分類されており、スキルや経験を問わず誰でも参加できる仕組みとなっている点が秀逸だ。

三つ目のメリットは、マスクを地域の商店に販売してもらうことで、新たな収入源をもたらすという点だ。同プロジェクトでは地域の商店が手作りマスクを仕入れ、自分のお店で販売することができる。取扱店登録をしたお店はマスクの販売によりコロナの影響による収入減を補填できるだけではなく、地域の方がお店にやってくる新たなきっかけをつくることもできるのだ。

そして最後の四つ目のメリットは、マスクの縫製やラッピング、販売などを手伝った主婦や障がい者の方々に御礼として横浜市の地域産品を送ることで、地域の飲食店や農家のフードロスも削減するという点だ。また、ただ単に食料廃棄を防ぐだけではなく、取り組みを通じて生産者と消費者の新たなつながりを生み出し、地産地消型の消費の促進にもつなげることができる。

地域産品は、マスクの卸売や小売販売を通じて得られた収入を使ってウッビースタイルが飲食店や生産者から有償で買い取り、それをクルーに対して発送する。事業としても採算が合っており、持続可能性も担保されている。このように、YOKOHAMAガーゼマスクshipsは市民、商店、飲食店、生産者など地域で暮らす様々な人々がつながることで、それぞれがコロナ禍において直面している課題を解決し、お互いを助け合えるプラットフォームなのだ。

きっかけは給食用のガーゼマスク

プロジェクトを発案した緑園リビングラボ兼ウッビースタイルの代表を務める野村美由紀さんによると、そもそものきっかけは、ウッビースタイルが個人事業として2008年からスタートし、現在まで一度も途切れることなく作り続けている手作りのガーゼマスクだという。

横浜市立の小学校の多くは給食の配膳時や掃除の時間に子どもたちがガーゼマスクを着用しているが、通常のマスクは少し息苦しかったり、もぞもぞしたりするため、中には着用するのが苦手な子どもも多かった。

そこで、ウッビースタイルでは、何とか子どもたちが喜んでつけてくれるようなマスクにしようと、ママたちが選んだ柄のダブルガーゼを使い、特例子会社の障がい者スタッフの方々の協力を得ながら手作りガーゼマスクを製作してきた。

子どもも思わずつけたくなる可愛いデザインの手作りガーゼマスク

新型コロナウイルスの感染拡大によりマスクの供給不足が問題となるなか、せめてこのガーゼマスクで地域の役に立てるのであればと販売会をはじめたところ、1,000枚近くがあっという間に完売したという。

マスク販売会の様子。

そこで、ウッビースタイルではどうにか追加で材料を仕入れてマスクを増産しようと考えていたものの、社内のスタッフも特例子会社のスタッフも緊急事態宣言の影響で出社制限をしていたため生産スピードを上げることが難しく、できる範囲での製作販売を余儀なくされていたそうだ。

そんなときにウッビースタイルが参画する緑園リビングラボのメンバーが制作を手伝うと手をあげ、地域の主婦メンバーによるリモートでのマスク作りが始まった。その御礼として営業自粛により在庫過多状態となっていた地元横浜の産品を贈ったところ、とても喜ばれたという。そしてこの出来事をきっかけに、「YOKOHAMAガーゼマスクships」プロジェクトの原型が誕生した。

誰もが気軽に参加できる5つの仕組み

YOKOHAMAガーゼマスクshipsに参加する方法は、大きく分けて5つある。マスクを縫う「縫製クルー」、縫ったマスクをラッピングする「ラッピングクルー」、そして完成品を販売する「販売クルー」など、クルーとしてマスク作りに関わる「クルー登録」、自社の軒先や駐車場などの空きスペースを活用してマスクを販売する「販売会会場登録」、マスクを仕入れ、取り扱い店として自社の店舗で販売する「取り扱い店登録」、飲食店や農家がクルーへの御礼用に提供可能な食品などの地域産品を登録する「ヨコハマ産品登録」、そしてこれらの取り組みをSNSなどで応援することで、抽選で地域産品がもらえる「シェアして応援」だ。

野村さんによると、すでに複数の市民の方がクルーとして登録をしてくれており、所沢や八王子など、横浜以外の地域でも同じ取り組みができないかと相談が来ているそうだ。

「YOKOHAMAガーゼマスクships」は、地元に密着して長年事業を展開し、地域の中で様々なつながりを培ってきたから野村さんだからこそ実現できた、地域循環・共生型のプロジェクトだ。コロナが地域の人々に新しい絆をもたらし、その絆によって新たな事業が生まれ、お互いを支えあっている。同様の取り組みがぜひ他地域にも広がっていくことを期待したい。

【参照サイト】YOKOHAMAガーゼマスクships
【参照サイト】緑園リビングラボ

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