キャンピングカーで医療現場を支援しながら、アウトドア業界を生かす「バンシェルター」

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世界中で大流行している新型コロナウイルス感染症(以後、新型コロナ)。収束に向けて多面的な試みが行われているが、拡大し続ける感染者数に医療現場では厳しい状況が続いている。

NHKの全国的な取材によると、2020年4月28日時点で、北海道・東京都・石川県の3都道県で新型コロナ患者を受け入れられる病床は残り約2割と報告されている。病床の必要性はこれからも増え続ける見込みで、近い未来に患者間での命の選択を迫られるような医療崩壊が起こってもおかしくはない。

また、医療従事者への負担もただならぬものではない。怒涛のように押し寄せる医療業務はもちろんのこと、緊急で対応できるように、休みの間も快適とは言えない病院内のベットで待機したり、自らが感染源として家族にうつさないために家に帰らず車中泊して過ごしたりする医師・看護師も多く、業務時間外でも大きなストレスとなっている。

医療の力なくして、私たちはこの問題を乗り越えることはできない。そこで今回は、全力を尽くしてくれている医療現場を、私たちが支援できる取り組み「バンシェルター(VAN SHELTER)」を紹介する。

このアイデアは社会的な貢献というグッドだけでなく、新型コロナの影響で経済危機に瀕しているレジャー業界を生かしながらサステナブルな運営をしていく、ダブルでグッドなプロジェクトだ。アイデアで危機を乗り越えるという視点で、他の業界にもぜひ応用を検討してみてほしい。

キャンピングカーで医療現場を支援する「バンシェルター」

「バンシェルター」は、医療現場にキャンピングカーを無償で貸し出し、病床の不足や医療従事者のストレスを少しでも解消するプロジェクトだ。キャンピングカー最大の特徴である、水や電気、トイレ、暖房、ベッドなどのインフラ設備を最大限に生かし、それぞれの病院で必要な設備として活用していく。具体的には、病床、医療従事者のプライベートな休憩所、PCR検査所、軽症者の自己隔離施設などの使用用途が挙げられている。

すでにアメリカやニュージーランドでは、政府主導のもとキャンピングカーを自己隔離施設として使用している実例がある中、「バンシェルター」では一般企業がその利用範囲を大きく広げつつ、医療現場をより直接的に支援している点は、注目したいポイントだ。

貸し出すキャンピングカーは、現在日本全国に約12万台ある内から、提供が可能な企業や個人オーナーを募っており、すでに大手のレンタカー企業などが名乗りを挙げている。提供者は有償・無償の貸し出しを選択でき、必要な費用はクラウドファンディングを元に集められている。

バンシェルター

クラウドファンディングのリターンには、キャンプ施設やキャンピングカーの利用権、アウトドア用品が含まれており、支援者は新型コロナ収束後の楽しみを買いながら、収束を早めるサポートができる。

外出の自粛が続く中、自分1人ではどうにもできないとジレンマを抱えている人は多いだろう。そうした“もどかしさ”を、未来の楽しみを得ながら自らの行動で解消できる、支援者をも巻き込んだ解決策という点でもこのプロジェクトの存在意義は大きい。

現在は神奈川県の川崎市井田病院で試験提供が行われており、24時間体制で稼働している医療従事者の休憩スペースとして利用価値が実証されている。他の病院へのサービス提供も5月1日から開始され、まずは関東近郊から数十台の提供を始め、最終的には全国で100台以上の稼働を目指している。

支援の仕組み

「バンシェルター」ができるまでの葛藤

「バンシェルター」を先導する「カーステイ(Carstay)」代表取締役の宮下晃樹氏は、このプロジェクトの立ち上げについて「もともとは違うクラファンをやる予定だった」と語る。

「バンライフ」(キャンピングカーやバンなどの車を移動できる家と考えるライフスタイル)や「ソロキャン」(1人でするキャンプ)などの人気を追い風に盛り上がりを見せていたキャンピングカー業界。

車中泊する駐車場を探しているゲストと、 空き地をシェアしたいホストをつなぐシェアサービスを展開していたカーステイは2020年2月上旬、クラウドファンディングで「世界で1台だけのDIYキャンピングカーをみんなでつくり、シェアする」プロジェクトを準備していた。このときはまだ国内での感染が広まっておらず、人々は好きなところへ行き、好きなことができた時期だ。

Carstay

Image via Carstay

その後、日本でも新型コロナが話題になり始めたものの、過疎地域へのレジャー需要の高まりから、業界はさらなる追い風を受け、3月以降も車中泊スポットの予約は増えていたと言う。キャンピングカー自体をシェアする新たなサービスの準備も進み、企業や自治体との連携も加速していた。

しかしながら、4月7日の緊急事態宣言を受け、順風満帆な流れは一転。旅行やアウトドアはまさに不要不急の外出にあたり、カーステイでもキャンセルの問い合わせが矢継ぎに流れ込んだ。

カーステイだけでなくアウトドア業界は全体的に経営難に陥っており「このままでは、新型コロナが収束し、やっと人々が移動の自由を再び手にしたとしても、そのときには日本中のキャンプ場が閉鎖しているのでは?」と、宮下氏は強い絶望感を抱いたと言う。

まずは動こう。企画を立ち上げよう。細かいことは、後だ

何か手はないのかとアイデアを探していたとき、アメリカで医療従事者が家族への感染を防げるよう、隔離施設としてキャンピングカーを希望者へ寄付するサービスが始まったという記事を目にした。

「海外ではキャンピングカー(RV)がシェルターとして医療現場を支えている。この事実を突きつけられたとき、私の心は様々な感情で溢れました。」と宮下氏はそのときのことを語る。「今は自社利益だけ考えている場合ではないのではないか?新型コロナが早く収束すれば業界全体として復活できるのではないか?今このコロナに最前線で闘っている医療従事者の力に私たちもなれないか?」

宮下氏がカーステイを起業したのは、誰もが好きなときに、好きな場所で、好きな人と過ごせる“より良い世界”を作るためだった。「より良い世界をつくるために起業したのに、人類にとって危機的な状況にも関わらず、今動けないでどうするんだ?」「まずは動こう。企画を立ち上げよう、細かいことは後から考えよう」こうして「バンシェルター」の構想が始まった。

実際に医療現場に持って行ってみると、想像以上の好感触だったという。キャンピングカーを初めて見たという人も多く、その広々とした空間や、キッチンやテレビなどの設備までもが装備されていることにたくさんの医療関係者が驚き、現場での実用性を感じた。同時に宮下氏も「最前線で昼夜問わず戦ってるのは医療従事者の方々であり、今彼らが求めているものの1つが隔離されたシェルターなんだ」と導入への大きな使命感を得たと言う。

その後、プロジェクトを共同運営する「CarLife Japan」など、キャンピングカーやアウトドア用品をこの危機に役立てたいという同じ志を持った仲間が集まり、現在もプロジェクトは様々なつながりを経て拡大している途中だ。

キャンピングカー

社会貢献しながらアウトドア業界を生かす

最後に、医療現場を支援すると同時に、アウトドア業界を生かしていくというもう1つのグッドな側面について触れたい。

新型コロナの影響で壊滅的な危機に瀕しているアウトドア業界。「バンシェルター」はこのうち、稼働できないキャンピングカーに医療現場でのシェルターとしての価値を与え、滞っている業界にキャッシュフローを生み出し、危機を乗り越える仕組みを作っている。

前述したように、その資金はクラウドファンディングで集められ、支援者は新型コロナ収束後の楽しみを前払いすることによって業界を生かす一旦を担っている。宮下氏が立てた旗を目印に、人々が一丸となって早期収束へ動き出しているのだ。

また、世界が経済的に停滞している中で、今は見えないながらも、アウトドア業界はこのプロジェクトを介して確実に前進していることも特筆したい。

キャンピングカーを病院に設置することによってその存在の認知度は高まり、実際に使ってもらうことはその良さのアピールに繋がる。実際、試験運用で触れた医療従事者からは「欲しい」「買いたい」という声も多くあったと言う。

また、クラウドファンディングは、キャンピングカーやキャンプなどのアウトドアに興味があった人々が実際に体験するきっかけにもなる。医療現場への支援と新型コロナの収束を早めるというメリットとセットであれば、試してみようと思う人も多いはずだ。

キャンピングカー

おわりに

キャンピングカーで医療現場を支援するという社会貢献を果たしながら、早期収束を願う人々が行動できる導線を引き、瀕するアウトドア業界を救いつつ、コロナ収束後への展望も作り続ける、一石四鳥とも呼べる「バンシェルター」。

また、このプロジェクトが拡大し、新型コロナ状況下でも発展する1つのロールモデルとなれば、経済的にも心理的にも陰の射す社会全体を照らす大きな希望になるだろう。

ウェブ上で行われた説明会で、宮下氏が最後に笑顔で伝えた「早くみんなでキャンプしたいね」という言葉が筆者の胸に刺さっている。誰もかれもが事態が早く収束し、画面越しではなく、手と手が触れ合える距離で笑い合えたあの頃を取り戻したいと願っている。

私たちにはできることがある。「バンシェルター」はクラウドファンディングで現在も支援を募っており、同時にこのプロジェクトに参加できるサポーターも募集している。キャンピングカーの提供以外にも、アウトドア用品や車用のバッテリーなど協賛が進んでおり、様々なかたちでプロジェクトは広がっていける。

アイデアがより良い世界を作れることを信じて、自分が持っているものが何か活かせないか、いま一度考えてみよう。


【参照サイト】新型コロナ収束後の楽しみが支援に繋がる。キャンピングカーで医療現場を支援しよう
【参照サイト】カーステイ(Carstay)
【参照サイト】(ニュージーランドでの実例)Covid 19 coronavirus: Campervans set up in Auckland, Christchurch for Kiwi travellers to self-isolate
【参照サイト】(アメリカでの実例)米で初の外出禁止令 キャンピングカーの隔離施設も
【参照サイト】Families of health care workers are terrified they’ll catch COVID-19. Your RV could help them.

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