廃棄アマモを肥料に野菜を育て、小学生と商品化。横浜・金沢の地域循環型まちづくり

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横浜の最南端、金沢区。八景島や金沢自然公園など豊かな海と山に囲まれており、漁業で栄えた地域だ。しかし近年は高齢化にともなう生産者の減少が課題となっている。

そんな金沢の地域資源をめいっぱい使いながらまちおこしを行うのが、市民のプラットフォーム「SDGs横浜金澤リビングラボ」。地元企業で働く人や、自治体職員、学校教師など、金沢区で生業を持つさまざまな人々が集まり、地域の隠れた魅力を発信して経済や観光の活性化に取り組んでいる。

中でも興味深い活動が、地域産品づくりによるまちおこし振興プロジェクトである。同団体は、金沢区から三浦半島でとれた山の幸、海の幸を使い、地名「金沢八景」にちなんで、唐辛子と8種類の素材をブレンドした「金澤八味」をつくりだした。ただ完成した名物食品による宣伝効果を目指すだけでなく、地域で問題となっている廃棄物を肥料として循環させながら、生産から最終的な販売までを市民参加型で行うという、“つくる”過程にもとことんこだわった活動だ。

IDEAS FOR GOODは、プロジェクトを主導するアマンダリーナ合同会社の奥井奈都美さんと、七味唐辛子の素材の一つであるしいたけの生産を行う永島農園の永島太一郎さんに話を伺った。

話者プロフィール:奥井奈都美(おくいなつみ)

奥井さんアマンダリーナ合同会社 2014年夏、青みかん(摘果みかん)との出会いを機に、それまで捨てられていた青みかんの美味しさと商品としての価値を見出す。“もったいない!から、おいしい!へ”の思いから立ち上げた「横浜産青みかん商品化プロジェクト」が横浜市地産地消事業に認定され、2015年より事業を本格化。青みかんを活用した様々な商品を開発。2019年横浜環境活動賞を受賞。金澤八味の製造を監修。

話者プロフィール:永島太一郎(ながしまたいちろう)

永島さん神奈川県茅ケ崎市生まれの38歳。サラリーマン家庭に育ち新卒で外資銀行→ベンチャー立ち上げから妻の家業である農業を継ぐために農業の世界に入る。2012年よりおひさまシイタケの栽培、2014年より黒宝きくらげの栽培を開始してほぼ通年でキノコの生産から加工販売まで手掛ける。椎茸狩りやBBQ、収穫体験を通じた食育体験にも力を入れる。

ゴミから肥料へ。地域もうれしい循環の仕組みとは?

金澤八味づくりのユニークなポイントは二つある。一つは、素材の生産につかわれた肥料だ。普通なら特に着目しないような肥料がなぜ特別なのか?と疑問に思う人もいるだろう。

金澤八味

金沢には、横浜で唯一の海水浴場を持つ「海の公園」がある。市は、ここに水質改善・環境保全のためアマモ場(種子植物である海草類を主として、砂底や泥底に形成される海草藻場)を試験整備したのだが、このアマモが思いのほか繁殖しすぎてしまい、市民が海水浴をするエリアにまで拡大したことで、体やサーフボードに絡みつくなどの問題があった。また沖合で発生し、大量に漂着したアオサも、放置すると悪臭を放つため問題になっている。

そのため、例年の海水浴場海開きの前には、大量繁殖した一部のアマモや、通年で大量漂着したアオサを回収して焼却処分するほかなくなったという。しかしアマモに含まれる塩分で焼却炉が劣化するだけでなく、処分のコストも高いため、本来は生態系を整える役目を持ったモノが、いつのまにか処分に困るゴミになっていた。

このアマモに目をつけたのが、奥井さんたちだ。先人の知恵である「海藻農法」から着想を得て、アマモを農業用の肥料にできないかと考えたのである。そうして2015年ごろから金沢区のみかん畑で塩を抜いたアマモを撒き、農作物の生育状況を改善してきた。他の地域では、海藻農法により農作物の甘みが増した、除草の効果があったなどの報告もある。

畑に撒かれたアマモ

畑に撒かれたアマモ

このように、SDGs横浜金澤リビングラボでは、地域資源でありながらゴミとなってしまったモノを価値ある肥料ととらえ、コストも削減しながら循環経済をつくっている。今後は、アマモの適切な塩分量や、発酵時の効果などの成分分析を進めて金澤八味の製品化に役立てるという。

市民参加型の製品づくり

もう一つのユニークなポイントは、製品づくりへの市民の関わり方だ。

金澤八味を形作る8種類の素材(唐辛子、陳皮、しそ、しいたけ粉、昆布粉、山椒、生姜、黒ゴマ、あおさ)のうち4種類は、永島農園を含む金沢区内で生産されている。ここで大きく貢献したのが、なんと小学生たちだった。地元の瀬ケ崎小学校6学年の生徒たちが、素材の一部の栽培から収穫、七味の配合、ラベルのデザイン、販売までをプロデュースしたのだ。

瀬ケ崎タイム

これは同校が行うキャリア教育(自分づくり教育)の一環で、生徒たちは校舎裏のアマモをまいた畑で唐辛子としそを育てた。自ら畑を整備し、植え付けて交代で水やりをし、継続的に記録。そして七味としてブレンドし、奥井さんの監修のもと、商品コンセプトや販売方法を考えるための開発会議を重ねた。奥井さんは「ラベルのデザインを決める生徒投票は、かなり白熱しましたね。ユーザー目線に立ったデザインとは何か?をクラスのみんなで考えられました」と当時の様子を語る。

最終的に完成した製品は、2020年1月に八景島シーパラダイスで開催されたイベントで試作販売された。このときの生徒の呼び込みや自作宣伝テープの効果もあり、1日で約200本の金澤八味が完売したという。生徒たちにとっても、普段できない貴重な経験となったそうだ。

今後は他の小学校や、大学、他の市民たちも巻き込み、この地域産品の生産をしていきたいと二人は語った。容器を捨てずにそのまま使うことができる、詰め替え用の七味唐辛子の製造も検討しているという。

地域産品によるまちおこしで大事なこと

人口が減ってきた地域を“おこす”には、地元の観光名所を宣伝したり、地域産品をつくりだしたりする方法がある。その中でSDGs横浜金澤リビングラボが意識したのは、ものづくりの過程においても「いかに地域課題を解決できるか」ということだ。つくる責任とつかう責任を持ち、その地域に住む人が何に困っていて、何が必要なのかを市民と一緒に考えていかなければならない。

金澤八味の製品開発は、ゴミそのものや市の処分コストという課題を解決すると共に、未来を担う若者の環境教育も行うプロジェクトである。「このアイデアは、他の地域に真似してもらって構いません。たとえば各地域に地元産の八味をつくってもいいですよね」と永島さん。2020年3月まで京急線「金沢八景」駅前で再び金澤八味が試作販売される予定なので、ぜひ味わってみてほしい。

左から奥井奈都美さん、永島太一郎さん

左から奥井奈都美さん、永島太一郎さん

地域資源が盛んで、観光資源もあって——それでも生産人口が減っている街、金沢区。農家の耕作面積も他の産地と比べると限られるのだが、小規模な生産者コミュニティだからこそ、すぐに農園同士がつながることができるのも魅力だと永島さんは語った。

ここでまちおこしに取り組むSDGs横浜金澤リビングラボは、子育て世代のためのオープンラウンジの運営など、地域産品づくり以外にも幅広い活動を行っている。行政が主導するのではなく、さまざまなバックグラウンドを持った市民が参加し、フラットに協力し合うことのできる場だ。

金沢区に新たな風を吹かせるSDGs横浜金澤リビングラボの、今後の活動から目が離せない。

SDGs横浜金澤リビングラボ

超高齢・人口減少社会が急速に進む中、地域の自然や文化、そしてコミュニティに根差し、その魅力を活かしながら、人々がいきいきと活躍できる場や仕組みを組み立てる。共創の場「リビングラボ」により、産学民官の多様な人びとの参画と連携によって、神奈川県横浜市金沢区ならではの地産地消の地域おこしと新しい持続可能な社会経済モデルを構築することを目的としている。