少子高齢化と聞いて、あなたは何をイメージするだろうか。日本では今、急速なスピードで少子高齢化が進んでいる。日本の高齢者(65歳以上)は、全人口の28.8%を占め、その割合は世界でもダントツのトップだ(※1)。
一方、2022年の出生率は1.26となり、7年連続で前年を下回った(※2)。2021年の国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、「理想とする数の子どもを持たない理由」のトップに「子育てや教育にお金がかかりすぎる」(52.6%)が挙げられるなど、「教育」は子育て世代の重い負担となっており、子どもの数は減る一方だ。
そんななか、「高齢者」と「子どもの教育」のかけ算で、少子高齢化に伴う問題を払拭しようとする試みが米国で成果を上げている。米国の非営利団体「オアシス・インスティテュート(The Oasis Institute)」は、高齢者にボランティアのチューターになってもらい、学校などで週に30〜45分程度、子どもたちに「世代間個人指導」を行なっている。シニアチューターの平均年齢は72歳で、対象となる生徒は、幼稚園児から中学3年生まで。学力面や情緒面などで学校の担任教師が「気になる子」と判断した子どもたちだ。
シニアチューターの活躍をちょっとのぞいてみよう。
シニアチューター歴22年というベテランのスーさんが担当するのは、小学1年生のハーラン。今、2人は、子どもたちの間で人気の絵本を読み終えたところだ。ハーランは最近、語彙力はアップしたけれど、話のあらすじを書いたり、話したりするのはまだ苦手。そこでチューターは、「最初はハエがいたのよね」「その後どうなったかしら?」と、優しくも粘り強く、あらすじを思い出すよう語りかける。するとハーランは、一瞬うなってペンを握りしめ、たどたどしく文字をノートに書きつけるのだった。
こんなふうに、オアシスのシニアチューターたちは、米国の教育現場を粘り強く支えている。ある調査では、シニアチューターと一緒に勉強した生徒の97%が様々な試験で読解力の向上を示したという。
得られるのは、学力だけではない。シニアチューターは、子どもたちが家庭や学校の悩みを打ち明けることができる存在にもなる。ペアによっては、何年も連絡を取り合う関係になることもあるという。子どもたちにとって、「親でも教師でもない大人との交流」は、気兼ねなく相談ができる機会なのだ。
一方、シニアチューターのほうはどうだろう。職場を引退して社会的責任を失い、外界から切り離されて孤独に陥る高齢者は少なくない。運動能力や認知能力が衰え、深刻な健康問題に発展しかねない場合もある。
しかし、シニアチューターはボランティア同士や、教え子、学校とのつながりが得られる。さらに、教育を通じて地域社会の一翼を担う役割も持つことができるのだ。高齢者のボランティア参加は、認知症やうつ予防になるという研究もある。高齢者は「サービスの受け手」ではなく、子ども達を支える「サービスの要」となるのだ。
なによりも、高齢者を「サービスの受け手」としてしまうのではなく、彼らが持っている人生経験や知恵という、社会の最も「深く豊かな」部分を活かせる場所を与えている。
このように、高齢者が子どもの学びを支えるシニアチューター制は、多方面に喜びを広げられる。個人指導を組織するイニシアティブがあれば、コストもそれほどかからないというこの仕組み。少子高齢化の進む日本でも取り入れてみる価値のあるアイデアではないだろうか。
※1 令和3年版高齢社会白書(全体版)
※2 令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況 結果の概要
【参照サイト】国立社会保障・人口問題研究所(2021)第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)『結果の概要』
【参照サイト】NHK NEWS WEB 去年の出生率1.26で過去最低 7年連続で前年を下回る
【参照サイト】Why Schools Are Welcoming Intergenerational Tutoring
【参照サイト】The Oasis Institute 公式ホームページ
【参照サイト】At Oasis, St. Louis Tutors Reach Across Generations to Foster Learning
【関連記事】80歳超えても「推し活」を。高齢者とJリーグサッカー選手が支え合う「Be supporters!」
【関連記事】孤立した高齢者も「地域のプレイヤー」に。みんなが得意で活躍できる「えんがお」のまちづくり
【関連記事】高齢者が生き生きと働ける場を。おばあちゃんたちがお菓子作りを教えるオンラインレッスン
Edited by Erika Tomiyama