シンガポールのストリートアート、認知症の人々の移動を助ける道しるべに

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現在、世界中で5,500万人以上が認知症と診断されている(※1)。その数は、主に人口増加と高齢化によって2050年には3倍になると予測されている(※2)。つまり、2050年には世界人口約97億のうち、約70人に1人が認知症を患うようになる計算だ。

認知症の人々にとっては、家族の支援だけでなく、地域社会とのつながりも重要だ。地域全体が認知症への理解を深めることが、彼らが孤立せず、尊厳を持って暮らせる生活環境を整えることにつながる。地域でできる具体的な施策は、認知症の人々が道に迷わないよう、わかりやすい標識を設置し、移動しやすい交通手段を確保することなどだ。

高齢化が進み、60歳以上の高齢者11人に1人が認知症を持っているといわれるシンガポール(※3)では、ストリートアートを活用して認知症の人々が地域社会に関わり続け、一人でも自信を持って移動できるようにする取り組みが広がっている。この取り組みは、シンガポールの社会サービス機関であるDementia Singaporeによって提案された。

 

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ケブン・バル地区の高層アパートの一階には、緑の花で飾られたティーカップの大きな壁画が描かれている。近くには、鶏が描かれたボウルの絵があり、さらに進むと、別の塔の壁には白ウサギが包み紙に描かれたキャンディの絵がある。これらの壁画は、シンガポールの食文化にちなんだものであり、シニア世代でもすぐに理解しやすいデザインだ。

シンガポールでは、65歳以上の住民の80%以上が公営住宅に住んでいる(※4)。公共住宅は均一に白く塗られた建物であることが多く、認知症の人々は方向感覚を失いやすいという(※5)。また、認知症でない高齢者にとっても、似たようなデザインの建物では区別がつきにくくなる。これらの壁画は、認知症や高齢の住民が迷わず自宅に帰るための目印の役割を果たしているのだ。

ケブン・バルの住宅ブロックの住民調査では、60%が壁画が認知症の人々の移動に役立つと答え、38%が認知症への認識向上につながったと感じていることがわかった(※6)。またDementia Singaporeは、認知症の住民からの意見を反映させ、認知症の人々がバス停を見つけやすいシンプルな標識を導入。2021年には、バスの乗り換えで迷わないよう、色分けシステムや矢印を使った案内を追加した。

認知症の人々が安心して自らの力で暮らすためには、地域社会全体の理解と協力が欠かせない。壁画のようなシンプルでわかりやすい標識や環境整備は、彼らの移動や生活の質を大きく向上させ、孤立を防ぎ、尊厳を保った生活を実現するための新たな道しるべとして役立つことだろう。

※1 Dementia World Health Organization
※2 Dementia statistics Alzheimer’s Disease International
※3 Prevalence of dementia in Singapore: Changes across a decade Alzheimer’s Association
※4 Demographic Profile of Seniors in Singapore Wong Kwok Wing, Household, Income and Population Division, and Wong Wei Lin and Feng Huimin, Household Surveys and Expenditure, Singapore Department of Statistics
※5 Wondering Alzheimer’s Association
※6 Residents’ Perception of Kebun Baru Wayfinding Murals
【参照サイト】Dementia Singapore
【参照サイト】How Street Art in Singapore Is Helping People With Dementia Get Around
【参照サイト】Lost? How about an ang ku kueh to help you find your way home?
【関連記事】認知症でも、もっと生活しやすく。「動き」で記憶を呼び起こすモニターが登場

Edited by Megumi

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