マレーシア、土地開発前に地元の「完全な同意」義務化へ。先住民の森林を守る

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日本が木材の供給を国外に頼っていることは、多くの人が知っているだろう。特に、ベトナムやEU、中国からの輸入が多いが、実は合板の主な輸入先の一つがマレーシアである(※1)。マレーシアの熱帯雨林の広葉樹は、「薄く、強度が高く、滑らか」という合板に適した特徴を持っているからだ(※2)

そんなマレーシアではかつて、ボルネオ島北西部のサラワク州で、先住民の強い反対を無視した、政府関係者の賄賂までも絡む大規模な森林伐採がおこなわれ、その木材の主な輸出先が日本であることが明らかになった(※3)。先住民の意に反した森林伐採は決して他人事ではなく、私たちの身の回りに潜む現実であるかもしれない。

この現状に、先住民の人々は立ち向かい続けてきた。そしてついに、彼らが長きにわたって政府に求めてきた権利が現実のものになろうとしている。

2025年2月初旬、マレーシア首相府法務局が公開した「ビジネスと人権に関する国家行動計画の草案」において、土地の開発前に地域コミュニティの完全な同意を得ることが義務化される計画が示されたのだ。具体的には、2030年までに「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(以下、FPIC)」の国家ガイドライン作成と、国全体で標準化するための法律制定が計画されている。

FPICとは、ある事業が先住民族などの土地、領域、資源などに影響を及ぼす恐れがある場合に、その事業に対して先住民族ら自身が事業に同意するかどうかを判断する権利を持つという原則のこと(※4)

サラワク州では、パーム油や木材のための森林伐採、さらに近年は再生可能エネルギーやカーボンオフセット事業においても、先住民コミュニティが議論の場から疎外されていることが指摘されている。Eco-Businessによると、先住民グループであるオラン・アサル女性協会の副事務局長イタ氏は、公正なエネルギー転換に向けた報告書の発表イベントでこう語ったという。

今日でも、先住民コミュニティは「再生可能エネルギー」の意味をまだ理解していません(中略)土地の権利であれ事業であれ、私たちの生活に影響を与えるプロジェクトが先住民コミュニティに害を及ぼしてはならないのです。

今回の方針発表は、イタ氏のように先住民コミュニティが先陣に立ち、市民がそれに続いたことも少なからず後押しとなっただろう。気候変動法案において、民間団体が先住民の権利保護の重要性を訴えかけていたのだ。

一方で、日本企業にも前進が見られる。SOMPOホールディングス株式会社は2025年1月15日、日本の損害保険会社として初めてFPICを含む先住民の権利を尊重する方針を策定すると公表した(※5)。環境NGOはほかの大手損害保険会社にも策定を求めているところだ。

森林伐採や先住民の権利について認識が広まってきた中で、ついに法律や企業方針の整備が進み始めた。ただしこれは、スタートラインに過ぎない。法律やガイドラインが真に先住民の権利を守っているか、私たち自身が加担してはいないか、注視していかなくてはならない。

※1 材輸入の状況について(2024年12月実績)令和7年1月林野庁 木材貿易対策
※2 サステナブル(持続可能)な木材の利用について|WWFジャパン
※3 ボルネオ事件―熱帯林を破壊するダークマネー
※4 REDDにおけるFPIC | 世界の森林と持続可能な森林管理 | 森林・生物多様性 | 活動紹介
※5 共同声明「SOMPOが日本の損保で初めてFPICを含む先住民族の権利を尊重する方針を設定」

【参照サイト】Malaysia to introduce laws that require full consent of local communities to be secured before new developments|Eco-Business
【参照サイト】How Indigenous communities in Malaysia stopped the chop|Eco-Business
【参照サイト】Malaysia civil society asserts need for climate change bill to protect local and Indigenous consent|Eco-Business
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