毎日の朝のタスクである、ごみ出し。日本では、特定の曜日の朝、特定の時間までにその日回収される種類のごみを出しておくのが、多くの地域で行われている一般的なごみ出しのあり方だろう。分別の種目、細かいごみの出し方に違いはあれど、「ルールを守って特定の場所に置いておけば回収してもらえる」というシステムは、他国を見てみても一般的のようだ。
しかし、そんな当たり前と思われる方法とは全く異なるごみ回収システムを運用し、高い資源循環率を誇る国がある。日本からそう遠くない島国、台湾だ。
自分の手でトラックに投げ入れる。台湾のユニークなごみ回収システム
一部のマンションなどを除いて、台湾の多くの場所には「ごみ捨て場」がない。ではどうするのかというと、決められた曜日・時間に巡回するごみ収集車に、住民が自分の手でごみを投げ入れるのだ。
収集車が来るのは夕方から夜にかけて。「エリーゼのために」や「乙女の祈り」といったクラシック音楽を流しながら走り、車の接近を人々に知らせる。住民は音楽が聞こえてきたらごみをまとめて外へ出て、近隣の人々と共に収集車を待ち、通りかかったところでごみを投げ入れる。トラックは通常2台。ごみの種類によって投入先が分けられている。ごみ収集車の横には必ず作業員がつき、分別の方法が間違っている場合には直接住民を指導するという。

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このシステムが導入されたのは、1960年代のことだ。当時の台湾では、急激な経済成長に伴いごみ問題が深刻化。リサイクルインフラがほとんどない地域では埋立地が飽和状態になり、通りに出されたごみが鳥や動物に荒らされることで、土壌や大気などが汚染され、街の衛生状態を悪化させていた。
そこで思い切って、回収場所の設置を撤廃。決められた時間に住民自らが責任を持ってごみ収集車までごみを持っていく、現在のシステムへと転換した。
その結果は概ね良いものだった。まず、街の衛生状態が格段に向上。これにより、当初はこの方法を面倒だと感じていた市民も、システムのメリットを理解し、協力的になったという。収集場所の管理が必要なくなったことも、効率面でのメリットだ。
さらに、リサイクル率の向上にも貢献。台湾環境保護署によると、2020年時点で同国の一般廃棄物のリサイクル率は57.7%に達した(※)。これはさまざまな施策が功を奏した結果ではあるが、ごみ回収システムの変更により市民から排出されるごみの分別率が向上したことは、ひとつの大きな要因だ。
循環経済推進のカギ?ごみ出しを人前で行う「ピアプレッシャー」
決められた、それも限られた時間内に必ずごみを出さなければいけないと聞くと、生活の中に制約が出てきそうだと感じてしまう。
実際に、ごみ出しの日には仕事を切り上げて家に帰らなければならなかったり、トラックの巡回に間に合わずバイクで後を追いかけてごみを出したり、といったことも起こっている。仕事でどうしてもその時間にごみ出しをできない場合、ごみ出し代行サービスを利用する人もいるという。
これに対しては、巡回する収集車の現在地がわかるスマホアプリが開発されたり、一部の都市に限るが、有料で24時間ごみを回収してくれる高機能のステーションが設置されたりしているという。
それでもこのシステムの大きなメリットだと言えるのは、ごみ出しが誰にも見られない「匿名の行為」ではなく、人前で行われる「公共のイベント」であるという点だろう。
先述の通り、回収の際は作業員が目を光らせているため、不適切な分別を行なっていればその場で分別をし直すように言われたり、ごみを回収してもらえなかったりする。人前、それも日々の暮らしで関わる近隣の人たちの目がある中でそうした指導を受けるのは、大抵の人にとって少なからず「恥ずかしい」と感じることではないだろうか。
これが良い意味で「ピアプレッシャー(同調圧力)」となり、人々をルール遵守へと導くナッジとして機能するのだ。
これは、偶然近隣の人と遭遇でもしない限り、誰がそのごみを出したか分からない「匿名性」の高い日本のシステムとは対照的である。匿名性は責任感の希薄化につながり、時に分別の質の低下を招く。
また、「ただ決められた場所にごみを置く」という行為と、「人と顔を合わせ、時には立ち話もしながら時間を過ごす」という行為を比べてみると、前者は一瞬、後者はおそらく数分程度と、日常の中に占めるごみ出しの存在感に違いが生まれるように感じる。
この時間の若干の長さや、わずらわしいとも感じられる手間が、「ごみ」を自分たちが排出しているものであり、誰かが時間をかけて回収してくれているものであり、できることなら減らしていけると良い、ということを強く意識させるのではないか。
台湾のごみ回収システムについて、あなたはどう感じるだろうか。本記事では便宜上「ごみ出し」という表現を多用してきたが、本来であれば「ごみ出し」は「資源を循環のループに乗せること」であるべきだ。
その観点で既存の回収システムを見るとき、回収方法が人々の生活スタイルに合っていることはもちろん重要だ。一方で、資源が循環しやすいように私たちの生活スタイルを調整していくことも、そろそろ必要なのかもしれない。
※ Status of resource recycling stations in Taiwan and recycling work-related health effects
【参照サイト】À Taïwan, des camions-poubelles musicaux pour responsabiliser les habitants
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