ナッジ(行動経済学)とは・意味

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ナッジとは、行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチのこと。多額の経済的インセンティブや罰則といった手段を用いるのではなく、「人が意思決定する際の環境をデザインすることで、自発的な行動変容を促す」のが特徴だ。2017年、シカゴ大学のリチャード・セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことがきっかけでナッジは大きな注目を集めることとなった。英語でナッジ(nudge)は「ひじで小突く」「そっと押して動かす」の意味。行動変容をそっと促すナッジは、しばしば母ゾウが子ゾウを鼻でやさしく押し動かすようすに例えられる。
英国キャメロン政権(BIT)、米国オバマ政権(SBST)などのように、人々が、自分たちにとってより良い選択をできるようにすることを目的として、政府内に行動インサイトの活用を試みる組織を置く例も見られる(日本にも、BEST<Behavioral Sciences Team>と呼ばれる日本版ナッジ・ユニットが存在)。また、世界銀行(eMBeD)、ハーバード大学(BIG)といった非政府組織でも、ナッジ等の行動インサイトを採用した組織を設置する例が増加している。
ナッジの活用事例
1、「思わず登りたくなる」しかけで健康促進
階段のそばにエスカレーターやエレベーターがあると、つい楽をしたくなりそちらを選んでしまうもの。この例では、階段を鍵盤に見立て、足を乗せると実際に音が鳴る仕掛けを施すことで「楽しそう」「登ってみたい」という気持ちを引き出すことに成功した。
階段利用を促すもっと身近な仕掛けとして、「ここまで登ると○○カロリー消費!」などと書かれたステッカーの活用が挙げられるだろう。エスカレーターと階段、どちらを使おうかと迷ったときにこのステッカーが目に入れば、「健康になるためにも階段にしておくか」という気にもなるというわけだ。
2、ポイ捨て防止に!吸い殻で投票するゴミ箱
煙草のポイ捨てを防ぐために用意されたのが「吸い殻で投票するゴミ箱」。こちらのゴミ箱の中は2つの空間に分かれており、投入口も2か所ある。「世界最高のサッカー選手はロナウド?メッシ?」といった2択の質問が用意されており、自分が投票したい答えが書かれているほうの投入口から吸い殻を投入するという仕組みだ。
ただゴミ箱に捨てるよう言うのではなく、楽しい要素を加えることで自発的にポイ捨てをやめるよう促すことに成功した事例である。
3、メッセージの内容を変えて、受診率アップ
大腸がん発見には毎年のリピート受診が必要だ。八王子市では、前年度の受診者に採便容器を送付し、リピート受診を促していたのだが、キット送付対象のうち受診率は約7割にとどまっていた。キット送付には費用もかかっているため、市はナッジを用いた受診勧奨通知を開発することにした。Aグループには「検診を受けてもらえれば、来年も検査キットを送ります」という対象者にとって得になるメッセージを、Bグループには「受診しないと来年は検査キットは送付されなくなります」と、これまで自分が享受していたサービスを失う可能性のあるメッセージを送付。すると、損失回避に働きかけたBグループの受診率は、Aグループよりも7.2%高くなった。

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ナッジを活用する際、留意したいこと
ナッジ、と聞くと「新しいモノ」「難しいモノ」と考えてしまう人もいるかもしれないが、そんなことはない。例えば、新型コロナウイルス感染対策として、ソーシャルディスタンスが保たれる距離がわかるよう、地面に線を描くのもナッジの一つ。気をつけてみると日常のあらゆるところにナッジが潜んでいるのに気づくはずだ。
人々の自然な行動変容を促すナッジ理論は、社会の共通の利益のため使用することもできれば、悪用することもできる。意図して悪用しようとしていなくても、そもそもの「目的」がズレていたら、良い結果を生み出さないこともあるだろう。ナッジ理論を活用する際には、それが人々の行動を大きく左右することを理解し、「望ましい行動」「導くべき方向」とされるものが本当に皆にとって望ましいものかどうかをきちんと議論する必要がある。
【参照サイト】受診率向上施策ハンドブック 明日から使えるナッジ理論|厚生労働省
【参照サイト】日本版ナッジ・ユニット(BEST)について|環境省
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