※ 本記事は、ハーチ株式会社が運営する「Circular Economy Hub」からの転載記事となります。
欧州ではここ数年、自動車の廃車(ELV)や工業廃棄物から金属・プラスチックを回収するリサイクル産業が、着実に高度化してきた。
その背景は一つではない。EUで進むELV規則改正の議論、埋立コストの上昇、そして資源安全保障(資源主権)という政策的な要請。サーキュラーエコノミーは理念ではなく、産業として成立させることが求められるフェーズに入った──現場では、そんな実感が共有されている。
日本でも状況は少しずつ重なり始めている。自動車由来プラスチックやASR(シュレッダーダスト)をどう扱うか、再生材の需要をどうつくるか、解体とシュレッダーの役割分担をどう設計するか。かつては周辺論点だったテーマが、いまや前面に出始めている。
本記事では、ベルギーとフランスを拠点に、欧州有数の規模でリサイクル事業を展開するGalloo(ガルー)への現地インタビューをもとに、同社の技術や工程設計が、制度や市場の設計とどう結びつき、実際に「循環」を成立させているのかを紐解いていく。

Galloo本社ビルエントランス(筆者撮影)
話者プロフィール:Nico Resseel(ニコ・レッセール)氏
Gallooグループ 営業統括/Head of Sales and Business Development。40年近くにわたりGallooグループ同社の商業戦略と市場展開を長期にわたって牽引してきた。1980年代後半より営業・事業開発分野を担当、金属・非鉄・プラスチックを含む統合型リサイクルモデルの市場を読み、原料調達から再生材販売までの需給バランスを統括。Gallooの技術投資と事業成長を商業面から支える。
話者プロフィール:エマニュエル・カトラキス(Emmanuel Katrakis)氏
Gallooグループ ポリシー・渉外ディレクター(Director of Public and Regulatory Affairs)。法学をバックグラウンドに欧州委員会で政策関連業務に携わった後、欧州リサイクル産業連盟EuRIC(現・Recycling Europe)において、鉄鋼・紙・計量分野など複数団体の事務局長を約10年にわたり務め、欧州循環産業の制度形成に深く関与してきた。現在は、Recycling Europe傘下の鉄鋼リサイクル部会European Ferrous Recovery and Recycling Federation(EFR)会長、国際リサイクル局(BIR)国際貿易委員会委員長、フランスの業界団体FEDERREC理事も兼任し、フランス・EU・国際レベルでELV規則、EPR、資源安全保障を含む循環経済政策の議論を牽引する。
Gallooの競争力──迅速・柔軟な意思決定と戦略的な統合型工程
Gallooは、西ヨーロッパにおける金属リサイクルの主要企業の一つだ。北フランス、ベルギー、オランダに広がる拠点ネットワークを基盤に、自動車や電気製品などの使用済み製品に加え、解体由来の金属や製造工程から発生するスクラップを集荷し、再び資源として市場に戻している。
同社はもともと、製造業から出るスクラップを扱うリサイクル事業からスタートした。1970年代には自動車シュレッダーの導入など、大規模な設備投資を実施。これを転機に、廃車(ELV)や電子機器廃棄物(E-waste)といったポストコンシューマー由来のリサイクルへと事業の軸を移してきた。
現在は約45の拠点を展開し、広域からの収集、前処理、高度選別を拠点ごとに担いながら、全体として一つの循環システムとして機能する体制を築いている。

Gallooの拠点。ベルギーを起点に、フランス、オランダに全45拠点を展開(同社プレゼン資料より)
「何を入れるか」ではなく、どこまで処理できるか。工程設計が生む競争力
歴史的にスクラップ起点の企業であるGallooは、拠点によってはいまも工業スクラップの比率が高い。しかし同社の強みは、投入される素材の種類そのものに依存しない点にある。
解体・前処理からシュレッダー、さらにポストシュレッダー処理までを一続きの工程として設計し、最終的に鉄・非鉄金属、そしてASR(シュレッダーダスト)残渣の高度処理へと到達できる。この「工程をつなぐ設計」こそが、Gallooの競争力の中核にある。
プラスチックについても、単なる乾式の機械選別にとどまらない。洗浄や比重分離といった湿式工程を組み込み、最終的なペレット化(溶融・押出)までを視野に入れた設計がなされている。工程の途中の都合ではなく、最終的に自動車・電機向けなどの顧客仕様を満たせるかを常に念頭に置き、出口品質から逆算して全体が設計されている点が特徴的だ。

Gallooの事業概念図(同社プレゼン資料より)
技術よりも、判断力。投資の積み重ねが工程をつくる
Gallooの強みの核心はどこにあるのか。37年間にわたり同社の商業戦略を牽引してきたニコ・レッセール氏は、自身のキャリアを振り返りながら、その変化を次のように語る。
「私が入社した37年前と比べると、最も大きな違いは事業の規模ですが、それ以上にビジネスの構造そのものが劇的に進化しました。私たちの強みは、結局のところ、現場の状況と市場の動向を冷徹に見極めながら、『どこにお金を使い、どこで止めるか』を常に判断し続けてきたことにあります」
レッセール氏がその象徴として挙げるのが、ASR(シュレッダーダスト)への向き合い方だ。鉄や非鉄金属はリサイクル価値が分かりやすいが、ASRは長らく「最後に残る厄介な廃棄物」として埋立処分されるのが常識だった。
「私たちは、ASRを最終処分物ではなく、一つの資源ストリームとして扱ってきました。早い段階からポストシュレッダー処理に投資し、残渣からさらに価値を引き出す能力を磨いてきたのです。だからこそ、他社が処理しきれないASRがGallooに集まり、地域の循環を支える『最後の一手』を担えるようになりました。ASRは単に捨てるものではありません。条件さえ整えば、確実に価値を生む資源の流れなのです」

解体・前処理からシュレッダー、ポストシュレッダー処理までを一続きの工程として設計する思想が、同社の事業の中核を支えている。(写真提供:Galloo)
こうした投資判断を支えているのは、技術の先進性そのものではなく、徹底した経済合理性だ。
「技術の採用基準は、常に費用対効果にあります。技術的に可能かどうかではなく、それが採算に見合うかどうかで工程を判断するのです。回収率を極限まで上げようとすればコストも跳ね上がるため、私たちは工程をあえて固定化しません。市況や規制、買い手の要求水準に応じて、どこまで深く回収するか、どの設備を稼働させるかを柔軟に最適化しています。この柔軟性こそが、景気変動の中でも事業を持続させ、投資を続けられる土台となります」
さらに、リサイクルの「出口」、すなわち需要側が求める品質から逆算した工程設計も同社の大きな特徴である。
「単に資源を回収するだけでは不十分です。需要側が受け入れられる品質、つまり『売れる仕様』にまで作り込む必要があります。鉄スクラップの低銅化や再生プラスチックのペレット化はその最たる例です。仕入れの状況と販売先のニーズを同時に見ながら、供給の設計と需要の設計を合わせていく。これこそが経営の要諦だと考えています」
レッセール氏は、こうした独自の判断基準があるからこそ、変化をチャンスに変えられると断言する。
「ASRの資源化、投資の可変性、そして出口の品質設計。この三点が重なることで、私たちは制度や市場の変化を受け身でやり過ごすのではなく、変化そのものを投資と事業機会に変換できます。循環経済が再生材の利用義務化や資源安全保障の強化といった次の段階へ進むいま、こうした考え方はより重要になるはずです」

金属を取り扱う工程の一部。単なる回収にとどまらず、「どの品質で市場に出すか」という出口を前提に工程が組まれている。(写真提供:Galloo)
工程設計を「外に出す」。Adremというもう一つの循環装置
Gallooが培ってきた「工程を設計する」という思想は、自社内にとどまらず、外部へも展開されている。その象徴的な存在が、合弁会社「Adrem(アドレム)」だ。
Adremは、Gallooが自社で開発・導入してきたASR分離・高度選別のノウハウを外販・ライセンス供与するために設立された合弁会社だ。同じくベルギーの機械製造グループValtechとGallooの50:50出資によるJVで、Valtechの機械設計力と、Gallooが長年の操業を通じて蓄積してきた工程知を組み合わせている。
Adremが提供するのは単なる装置ではない。ELV由来ASR、電子スクラップ、都市ごみ焼却炉のボトムアッシュなどを対象に、設計から製造、据付、試運転までを含むターンキー方式で高度選別プラントを構築する。工程の順序、分離条件、どこまで回収するかという判断基準そのものがパッケージ化されている点に特徴がある。
言い換えれば、Adremは「Gallooが自社内で回してきた工程設計を、他地域の循環インフラへ移植するための器」である。装置の高度さではなく、工程をどう組み、どこで止めるかという思想が外部に共有されている。Galloo発の技術と判断力、プロセスが、Adremの提供する機材を通じて各地の循環インフラ構築に寄与する。

解体から高度選別までを一続きの工程として設計する思想が、現場で具現化されている。(写真提供:Galloo)
Gallooが見る欧州リサイクルの現在地
欧州の循環産業がいまどのような局面に立たされているのか。欧州リサイクル産業連盟(Recycling Europe)などで長く制度形成に携わってきたエマニュエル・カトラキス氏は、Gallooのポリシー・渉外ディレクターとして、その現在地を語る上で避けて通れないテーマがあると言う。
「いま欧州のリサイクル産業で最も象徴的な議論になっているのが、ELV(使用済み自動車)規制です。Gallooのように、解体、破砕、ポストシュレッダー処理、ASR(シュレッダーダスト)高度処理までを一体で担っている事業者にとって、ELVは単なる自動車リサイクルの制度改正ではありません。工程全体をどう設計し、どこまで投資するのかという判断そのものに直結するテーマなのです」
カトラキス氏は、今回の規制改正が、リサイクル現場が長年向き合ってきた課題を公の議論へと引き上げたのだと分析する。
「ELV規制の議論が重要なのは、解体・破砕・選別・残渣処理、さらには再生材の需要創出まで含めて、循環産業にどの水準の能力が求められているのかを一気に可視化するからです。私たちが日々の操業や投資判断の中で直面してきた論点が、制度の側から改めて問い直されているとも言えます」
前提として、EUでは2000年制定のELV指令を実質的に置き換える形で、新たなELV規則の最終交渉が進んでいる。2025年12月には理事会議長国と欧州議会は車両の循環設計とELV管理に関する規則案について暫定合意(※)。年明け以降は、理事会・欧州議会それぞれの承認を経て正式採択へ進み、規則は発効後2年で適用開始となる見通しだ。カトラキス氏は、環境保護という側面に隠された「産業のリアリティ」を強調する。
「再生材含有義務、特定部品の事前解体義務、循環設計の強化といった論点が並んでいますが、Gallooの立場から見ると、これは環境目標を掲げる議論というより、産業コストをどこで誰が負担するのかを再設計する議論といえます。実際、義務の中身次第では、私たちリサイクラー側のコスト構造は大きく変わります。一台あたり数十ユーロ、場合によっては100ユーロ規模の追加コストが発生する可能性もあります。こうした負担は、個々の事業者が努力だけで吸収できる水準ではありません。だからこそ、制度設計が投資判断そのものを左右するのです」
Gallooはすでに高度な処理能力を有しているが、カトラキス氏は、技術の有無以上に、その技術を「使い続けられる市場環境」が整っているかどうかが重要だと訴える。
「私たちは高度な解体や選別、ASR処理の能力をすでに持っています。しかし、能力があることと、それを事業として回せることは別です。制度がその能力をどう評価し、どの工程に価値を認めるのかによって、投資は進むこともあれば止まることもあります。私たちが強調したいのは、技術の有無ではなく、その技術を合理的に使える環境が整っているかどうかです」
特にカトラキス氏が懸念するのは、政策が特定のプロセスを固定化してしまうこと。結果を出すための手段を事業者に委ねるべきだと主張する。
「この点で、ELV規制は循環産業に対して『何ができるか』ではなく、『どこまでやることが合理的なのか』を定義します。事前解体をどこまで義務化するのか、後工程で回収する選択肢を残すのか。政策が特定の工程を固定化してしまえば、すでにポストシュレッダー処理に投資してきた事業者にとっては、かえって非効率になる場合もあります。私たちが技術中立性を重視するのはそのためです」
「ASR高度処理についても同様です。埋立コストが高い地域では、高度処理に投資することが合理的な判断になります。ベルギー・フランデレン地域の制度では、高度処理の効率に応じて埋立税が軽減されます。こうした設計があるからこそ、Gallooは長期的な投資判断が可能になります。一方で、処理の有無にかかわらず一律の埋立税が課される制度では、高度化するほど負担が増えるという逆転現象が起きかねません」

ベルギー・フランス国境にまたがるGalloo本社とリサイクル施設。金属・廃棄物を処理する産業インフラとして、ベルギ、フランス、オランダの地域の循環ネットワークの重要な立ち位置を占める。(写真提供:Galloo)
最後にカトラキス氏は、欧州のリサイクル産業が直面している「制度設計という名のコスト配分」について、強い確信を持って締めくくった。
「いま欧州のELV・ASRリサイクルは、制度設計で存続成否が決まる段階に入っています。ここで言う制度設計は、環境目標を掲げることではありません。現場の採算、投資回収、循環の成立を左右する『コスト配分とインセンティブの再設計』なのです。
実際に、新しい規則の中には、産業側にとって前向きな可能性も確かに含まれています。たとえば、プラスチックを起点とした再生材含有義務や、将来的にアルミニウムや鉄鋼へと広がっていく議論は、リサイクラーと自動車産業の間に、これまで以上に実務的な協業を促す契機になり得ます。再生材を単に“使う”のではなく、どの品質で、どの用途に、どの程度まで使えるのか。その水準を一緒に引き上げていくことで、新車への再生材利用を本質的に増やしていくことができます。これは、循環を理念としてではなく、低炭素で競争力のあるバリューチェーンとして成立させていく上で、非常に重要なポイントです。Gallooは、こうした協業の分野において、技術と工程の両面から長く関わってきました。だからこそ、制度の変化を単なる制約ではなく、産業としての次の成長機会として捉えることができるのです」
編集後記
日本では、自動車リサイクル法に代表されるメーカー主体のスキームによって、処理の安定性は高い水準で確保されてきた。一方で、プラスチックのマテリアルリサイクル率向上やシュレッダーダスト最終処分量の削減といった次の課題が、まさに顕在化しつつある。欧州の先行事例が示しているのは、技術を高度化する前に、その技術が機能する前提条件、すなわち制度と市場の設計をどう描くかという問いである。
Gallooの事例が示しているのは、その問いに対する産業側の一つの現実的な応答である。解体、破砕、ポストシュレッダー処理、ASR高度処理を分断せずにつなぎながらも、回収深度を固定せず、市況や制度、需要に応じて運用を調整する。
競争力の源泉は、工程設計と意思決定を積み重ねてきた時間そのものにある。循環を理念ではなく産業として成立させるために、どの能力を要請し、どの能力を評価するのか。その設計次第で、循環の行方は大きく変わるのだから。






