目的地まで、あと何分。
私たちはいつの間にか、スマートフォンの画面に表示される「最短ルート」を疑いもなく歩くようになった。アルゴリズムが導き出す「最速」や「最高評価」に従えば、失敗はない。しかし、その効率性と引き換えに、道端に咲く名もなき花や、路地裏に隠れた魅力的な店との「偶然の出会い」を失ってはいないだろうか。
このように、すべてが最適化され予測可能になった世界で、あえて「誤った方向」を指し示すことで、私たちの冒険心を取り戻そうとする風変わりなアプリが登場した。
オーストラリアのクリエイターであるポール・ミーツ氏とヘンリー・キンバー氏が開発した「Moogle Gaps(ムーグル・ギャップス)」は、いわば「アンチ・ナビゲーション」アプリだ。使い方は従来の地図アプリと同じだが、決定的に異なるのは、提示されるルートが「最も非効率」である点。アプリ上の「Get Wonderfully Lost(素敵に迷子になる)」というボタンを押せば、そこから予測不能な旅が始まる。
筆者も実際に試してみると、その徹底した「不親切さ」に驚かされる。

実際にMoogle Gapsでルートを検索してみた。
例えば、通常であれば徒歩5分で到着する隣駅までの道のりに対して、14時間もかかる壮大な遠回りルートが提示された。また、近くのレストランを探しているのに、あえて数キロメートル離れた隣町の店を勧められることもある。これは単なるバグやいたずらではなく、ユーザーを「いつもの場所」から連れ出し、誰も自分を知らないレストランや、普段なら決して通らない道へと誘うための、意図的な設計なのだ。
最近ではチャットボットではなくあえて人間に質問したり、中身のわからないミステリーボックスを購入したりといった、予測不可能性を楽しむ兆しが出てきている。Moogle Gapsもまた、そうした「脱・最適化」の流れを汲むものだ。
もちろん、このアプリは仕事の打ち合わせに遅れそうなときには何の役にも立たない。しかし、画面の中の青い点線をなぞるだけの移動に飽き飽きしたとき、この「不親切な地図」は私たちを忘れていた街の風景に導いてくれるはずだ。
次の休日は、このアプリを片手に街へ出てみるのはどうだろう。最短ルートでは決して出会えなかった、路地裏の小さな看板や、風に乗って漂うコーヒーの香りに気づくかもしれない。
【参照サイト】Moogle Gaps
【参照サイト】Moogle Gaps serves up misdirections instead of shortest routes — and that’s the point
【参照サイト】Moogle Gaps Rejects Efficient Routes and Offers Only Midsirections
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