生協で食材を買う。農協を通じて地域の農産物に触れる。信用組合にお金を預ける。地域の人たちが協同組合をつくり、福祉や子育て、まちづくりを担う。
こうした仕組みは、私たちの暮らしのすぐそばにある。共通するのは、利益を最大化することだけではなく、組合員や地域にとって必要な価値を、ともにつくり、支えていることだ。
一方これまで、協同組合、社会的企業、地域企業などは、それぞれ別々の制度として捉えられることが多かった。韓国が今回行ったのは、そうした多様な組織を「社会連帯経済」という一つの経済のあり方として法律上位置づけ、国として支える共通の土台をつくることである。
2026年8月20日、韓国国会で「社会連帯経済基本法」が可決された。2014年に最初の法案が提出されてから、実に13年越しの法制化である。これまで社会的企業、協同組合、マウル企業(地域住民が地域資源を活用し、地域課題の解決や所得・雇用の創出を目指す地域単位の企業)、自活企業(低所得層が共同で起業し、就労や自立・脱貧困を目指す企業)などは個別の法律や省庁のもとで支援されてきたが、今回初めて、それらを横断する共通の法的基盤が整えられた。
法律は社会連帯経済を、以下のように定義する(※1)。
「互恵的な協力と連帯に基づき、共同体構成員の共同利益と社会的価値を実現するための経済活動」
さらに、社会連帯経済を担う組織には、国家や公共機関からの自律・独立、民主的で透明かつ開かれた運営、活動から生まれた利益を地域共同体や社会的価値の実現に用いることなどを原則としている。
つまり今回の法律が認めたのは、単なる「社会貢献活動」の集合ではない。市場で経済活動をしながら、その利益や意思決定を、株主だけではなく地域や共同体へと開いていく。そんな経済のあり方そのものを、一つの政策領域として扱おうとしているのである。
「社会的な価値」に、お金と仕事をどう流すか
今回の法律で特に注目したいのが、「社会連帯金融(Social and Solidarity Finance)」を基本法の中に位置づけたことだ。
社会連帯金融とは、社会的な課題の解決や価値の創出を目的に、協同組合や社会的企業などへ投資や融資、保証を行う仕組みである。法律では、こうした組織に合った金融商品の開発や、社会的価値を測る評価手法の整備、投融資・保証の拡大などを進めることが盛り込まれた。さらに、資金の仲介を担う機関や、それらを支える専門機関を政府が指定できる。
つまり、「社会にとって必要な活動だから補助金で支える」というだけではなく、そこに継続的にお金が流れる仕組みそのものをつくろうとしている。
一般的な金融では、収益性や返済能力が重要な判断基準になる。一方、地域のケアや住まい、コミュニティの再生などが生み出す価値は、短期的な利益だけでは測りにくい。それならば、そうした価値を生む組織の特徴に合った金融の仕組みも必要になる。今回の法律は、「何にお金を流すのか」という金融のルールそのものに、社会的価値という尺度を組み込もうとしているのである。
もう一つ特徴的なのが、公共部門との関係を具体的に定めた点だ。法律では、公共機関が社会連帯経済企業の商品やサービスを優先的に購入する仕組みを設けるほか、行政が公共サービスを民間に委託する際にも、社会連帯経済企業を優先的に考慮するよう定めている。さらに、国有・公有財産の利用や、施設整備への支援も可能になる。
一方で、法律は、社会連帯経済組織が国家や公共機関から「自律的かつ独立して」運営されることも基本原則としている。つまり、行政がお金や仕事、場所を提供して活動を支えながらも、組織の意思決定そのものは地域や当事者の側に残す、という考え方である。
公的な支援を受けるほど行政への依存が強くなれば、地域のニーズより制度の都合が優先される可能性もある。だからこそ、「支えること」と「任せること」をどう両立するかが重要になる。今回の法律は、その関係性まで制度として設計しようとしている。
協同組合を「経済の周縁」にしない。欧州でも広がる制度化
そして、この法律の意味がとりわけ大きいのが協同組合である。対象には一般の協同組合や社会的協同組合だけでなく、農業・水産・森林組合、消費生活協同組合、信用協同組合など、幅広い協同組合組織が明記されている。
それは協同組合を、「善意の小さな事業者」の集合として扱うのではなく、金融、食、住宅、エネルギー、ケアなど、地域の暮らしを支える経済インフラの一部として捉え直す動きとも読める。
こうした動きは、韓国だけのものではない。欧州ではすでに、協同組合や社会的企業などを個別の事業体としてではなく、一つの「経済領域」として制度的に位置づける動きが進んできた。
スペインでは2011年に「社会的経済法」が制定され、協同組合や共済組織、財団などを、資本よりも人や社会的目的を優先し、民主的・参加型に運営される主体として共通の法的枠組みに位置づけた(※2)。フランスでも2014年に「社会的連帯経済(ESS)」に関する法律が成立し、協同組合、アソシエーション、財団、一部の企業までを横断して、民主的ガバナンスや利益の再投資などの原則を定めている(※3)。

フランスの社会的連帯経済の実践例。公益協同組合「Villages Vivants」は、市民や公共部門から資金を集め、地方の空き物件を購入・改修。地域の店舗やコミュニティ拠点として再生している。写真は、同組合の支援で再生したアルデシュ県の「L’Auberge de Boffres」。カフェ、レストラン、郵便局などを兼ねる地域の交流拠点だ。 Image via Living Villages
さらにEU理事会は2023年、加盟国に対し、社会的経済の組織が資金、市場、公共調達にアクセスしやすくなる制度環境を整えるよう勧告した(※4)。
こうして見ると、韓国の今回の基本法も、協同組合や社会的企業を経済の周縁に置くのではなく、社会を支える一つの経済基盤として制度化していく世界的な流れのなかに位置づけることができる。
もちろん、法律ができただけで社会連帯経済が育つわけではない。公共調達の具体的な比率や金融機関の指定要件など、多くは今後の大統領令や予算、運用に委ねられている。基本法は完成形ではなく、いわば土壌をつくった段階である。
それでも、何を公共的な価値として認め、そこへ誰のお金を流し、誰に仕事を託すのかを法律で定める意味は小さくない。市場か、政府か。その二択のあいだには、人々がともに所有し、支え、決める経済がある。韓国の今回の法律は、その領域を例外ではなく、経済を構成する一つの柱として育てようとする試みなのかもしれない。
※1 国会における立法状況(韓国語)
※2 Ley 5/2011, de 29 de marzo, de Economía Social.
※3 LOI n° 2014-856 du 31 juillet 2014 relative à l’économie sociale et solidaire (1)
※4 Council Recommendation of 27 November 2023 on developing social economy framework conditions
【参照サイト】사회연대경제기본법, 국회 본회의 통과…13년 만의 ‘결실’(社会連帯経済基本法、国会本会議を通過……13年越しの「結実」)
【参照サイト】韓国で「社会連帯経済基本法」が成立―協同組合・社会的企業などを横断する社会的連帯経済の基本的な法的枠組みを整備―(JCA)
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