建設業界は世界全体のCO2排出の約3割を占めており、2060年までに世界の資源利用量は2倍に増えると予測されている。こうした状況に対処すべく、世界では建物の解体後に建材を再利用することを前提に設計する「サーキュラー建築」の取り組みが広がりつつある。
建物そのものを一時的な素材の保管庫と捉える「Buildings as Material Banks(素材の銀行としての建造物)」という概念や、都市に蓄えられた資源を掘り起こす「アーバンマイニング(都市鉱山)」といった考え方も少しずつ浸透し始めている。一方で、建物は数十年単位で使われるものであり、解体後に建材がいつどこでリユースされるのかを設計時に決めることはできない。それゆえに、サーキュラー建築の実装は常に将来の不確実性を前提とした投資でもあり、次の循環を生み出すためにはシステム全体の設計も求められる。設計・施工・維持管理・解体のすべてに関わる総合建設会社にとって、この課題にどう向き合うのかは大きな問いだ。
その問いに一つの答えを示そうとしているのが、株式会社竹中工務店の設計部が提示する「サーキュラーモデル2050」だ。本モデルは、グループ企業のテナントオフィス兼工場の計画をきっかけに、同社の若手の設計者や技術者らが、建物が長く使われ続け、最小限の資源でつくられ、将来解体して転用できる建築のあり方を一つのモデルとしてまとめたものだ。
本モデルでは、外周部を囲むメンテナンス用のテラス、乾式で解体できる構造、地中の杭まで引き抜いて次の建物に再利用できる基礎など、建物の骨格そのものを循環させるための工夫が随所に盛り込まれている。さらにそのアイデアの一部は、2027年に横浜で開かれる国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)の木造仮設事務所として実際に形になっている。
今回は「サーキュラーモデル2050」の策定に携わった竹中工務店の横山大貴氏(建築設計)、海野玄陽氏(環境設計)、森唯人氏(構造設計)、軽部達也氏(設備設計)、鹿嶋渉氏(環境設計)に、同社が描くサーキュラー建築の姿と、その実現に向けた課題について話を聞いた。前編・後編の二回に分けてお届けする。
循環する建築の未来を描いた「サーキュラーモデル2050」
プロジェクトの始まりは、グループ企業のテナントオフィス兼工場の計画をめぐる社内コンペだった。設計者として選ばれた横山氏たちは、設計を進める中で、早い段階から「廃棄物を出さない建築」を目指すことを決めたという。
横山氏「コンペを取って設計を進めていく中で、これから竹中工務店グループとして建築をつくり進めていく上で、未来に向けてなるべくゴミを出さないような建築のあり方をこのプロジェクトで模索すべきではないかという方針が早いタイミングで定まりました。そのときは私たちも何の知見もなかったのですが、欧州で先進的な取り組みをしている設計事務所や環境コンサルティング会社や建材メーカーなどへのヒアリングを行ったり、国内で同じ悩みを抱えている建設業界外のメーカーとの勉強会を行ったり、都心部近郊の中間処理施設で廃棄物の現状を調査したりと、様々な研究を行いながら、設計を進めていきました」

左:設計者向けの中間処理施設視察の様子 右:中間処理施設の建設副産物の山積み状況
その後、プロジェクト自体は中止となり、モデルが実装されることはなかったが、設計の中で検討された内容は、社内の技術者の取り組みとあわせて一冊のコンセプトブックとしてまとめられた。その根本にあるのは、建物のライフサイクルすべてに関わるゼネコンだからこそ描くことができる循環の形だ。
横山氏「私たちは設計者という立場ですが社内には、施工して、維持管理をして、解体して、また資源を回収して、それをどう使っていくかを企画して、技術開発をする様々な専門知識を持った技術者と部門があります。だからこそ、それを一つのサイクルの中で回していくようなゼネコンでしかできないプロセスをつくれないかという考えが根本にありました」
調達を中央に据える。「サーキュラーデザインビルド®」が目指す未来
サーキュラーモデル2050のベースとなる考え方が、「サーキュラーデザインビルド®」という竹中工務店独自のサーキュラーデザイン戦略コンセプトだ。サーキュラーデザインビルド®は、従来の大量生産・大量消費を前提とする設計・建設・運用・解体や建材の流通など各フェーズの概念と役割を見直し、新しい社会と建築のあり方を追求するコンセプトだ。「建物が長く使われ続けるための仕組みをデザインする」「最小限の資源でデザインする」「将来に向けて解体しやすく多用途に転用できるようにデザインする」という3つの原則を持つ。
サーキュラーデザインビルド®のコンセプト図の特徴は、一般的な循環型ダイアグラムとは異なり、図の中心に「調達」が置かれている点にある。ここには、竹中工務店としての特別な思いがある。
横山氏「中心に『調達』とあります。解体した資材を捨てるのではなく調達に戻し、そこからまた部分的に補修したり、別の場所に持っていくなど、本当は施工やバリューアップにつなげたいのです。アーバンマイニング(都市鉱山)と言われるように、すべての建材は都市の中、もしくは山の中にあります。どうすればバージン資源を採掘することなく回し続けることができるでしょうか。一つ実現可能性があると思っているのは、壁だったものを壁のまま使い続けるのではなく、家具にしたり、建築産業にとどまらず都市全体の様々な産業も含めて調達し、建築で使ったりする形です」
建築は、木材からプラスチック、金属にいたるまで、重さも循環のスピードも異なる多様な素材を扱う産業でもある。だからこそ、建築にとどまらず様々な産業の循環のリズムを調整し、全体最適を実現していくためのファシリテーション装置としての可能性も秘めている。その意味で、循環建築のデザインとは循環都市のデザインでもあり、広く言えば木材を供給する森林も含めたより広範な地域全体の循環システムのデザインでもあるのだ。
また、「調達」が中央に置かれている理由には、そのような建築業界が担うべき可能性の表現に加え、設計者としての責任の意味もあるという。
横山氏「設計者はやはり最初に図面を描く立場ですし、寸法を決めるのも私たちですから、中間処理施設の視察で自分たちが当たり前に選定していた建材がゴミになり、最終埋め立て処分場に埋めるしかない現状を目の当たりにしてから、設計者の責任の重さをより感じるようになりました。だからこそ、自分が選ぶ建材がどこから来ているのか、その素材の成り立ちをしっかり理解するというマインドセットを持つ意味も込めて、調達を真ん中に置いているというのもありますね」
建築を「都市鉱山」として捉え直す
横山氏らが手がけた「サーキュラーモデル2050」では、このサーキュラーデザインビルド®の原則が4つの視点からより詳細に具現化されている。
一つ目は、建築計画の視点だ。建築計画においては、4面からアクセスできる配置計画、将来対応可能な階高設定、専有部に入らないメンテナンス動線、将来的な転用を想定した部材選定などが設計された。

出典:竹中工務店
上図にあるように、メンテナンス動線を兼用した外周のテラスに面して設備配管シャフトを配置することで、専有部を経由せずアクセスを可能にし、外部からの更新を可能にしている。これにより、テナント分割の変更や上下階の接続、将来的な用途変更への対応が可能となる。
サーキュラーデザインとしての「免震」
二つ目は、構造計画の視点だ。柱、梁、床の乾式化により天井高が可変な構造計画としているほか、鉄やコンクリート、木のあらゆる部材のリユースを想定した解体・再組立可能な構法を採用しており、杭まで解体・再利用を想定した乾式基礎架構計画となっている。

出典:竹中工務店
森氏「通常は構造躯体の転用はハードルが高く、仕上げ部材などから転用していくと思うのですが、このモデルでは構造躯体自体も使い回せるようにするために、まずは免震構造を採用することにより、想定内の地震であれば基本的に躯体が損傷しないという計画にしています。また、地面に埋め込んだ杭も逆回転して取り出して次に転用できる設計となっています。
さらには地下の擁壁や敷いてある土間コンクリートもピースにして敷き詰め、擁壁もブロックにして最終的には取り外して次に持っていけるようにするなど、建物の構造躯体を全部再利用できるという提案をしている点が今までにないところですね」
免震構造にすることで免震層にエネルギーを吸収させることで、その他の部材の再利用可能性を高めるという点も、地震が多い日本ならではのサーキュラーデザイン戦略の視点だ。免震構造は、上部架構の歪みをおさえて、健全な状態で10年、20年と建物を使い続けられるため、利用者の安全に寄与するだけではなく、建物の将来的な循環可能性にも影響するのだ。
竣工後のランニングコストや改修コストの削減を目指したサーキュラーデザイン
そして三つ目は、設備・環境の視点だ。用途変更までを見越した余裕のあるスペース計画に加え、モジュール化による更新しやすい計画、設備機器の容量・物量を減らす環境計画が採用されている。

出典:竹中工務店・竣工時点のテナントフロア内観パース
横山氏「内観について、通常私たちがオフィスの建築設計をするときは、空間がいかに魅力的になるかを考えていくのですが、このプロジェクトでは30年後、50年後、この骨格がどうなるかを見越した設備計画としています。例えば、水回りもオフィスの中で作ろうとすると、階間の床下がりを作らなければなりません。すると、スラブ(鉄筋コンクリートで作られた床材や屋根材)の段差をあらかじめ作る必要があります。後から作ろうとすると床が上がって段差になってしまうので、あらかじめ外周部のところに水回りのラインを設定していくことで、将来的な用途変更に対応しやすくしています」
軽部氏「電気や水のインフラのルートを後から構築するのは非常に大きな労力が必要なので、新しいルートを構築するために建築部材をどんどん壊すということが起こらないようにするというのが、建築計画と設備計画の始まりでした」
用途変更を見越して適応性の高い設計にしておくことは、将来の改築、レイアウト変更のコストなどを大きく下げ、環境面のみならず経済面においてもテナントに恩恵をもたらす。サーキュラーデザインは一般的にコストアップにつながると捉えられがちだが、実際には将来の「コスト回避」につながるのだ。サーキュラーモデル2050は、本体建物としての工事費(イニシャルコスト)だけでなく、将来のランニングコストや改修コストの削減までを追求した経済合理的な選択の帰結としてのサーキュラーデザインとなっている。

出典:竹中工務店・竣工後に使いながらカスタマイズされていくイメージ

出典:竹中工務店
また、空間設計においても、一つ一つの空間が多様な意味や価値、機能を持つという点も特徴だ。
横山氏「こちらは断面図の拡大です。一階は工場エリアとして、道路の搬出入ルートになっていて、二階はオフィスや展示エリアがあり、将来的に使いたいときは階段を作ることもできます。また、茶色い部分が木製のCLTデッキで、ここで部分的に吹き抜けにできるようなつながりを作ることを考えていました。さらに、外周部のテラスは、メンテナンスにも使えますし、働いている人の休憩スペースにもなるというようなことが考えられます」
海野氏「環境視点では、外周部のバルコニーはメンテナンステラスとしてだけではなく、日射の遮蔽効果や植栽の蒸散効果なども期待でき、エアコン設備なども減らせます。そのためには、建築の最初の骨格をどう整えておけるかが重要となります。資源をなるべく使わないというところから出発すべきであり、その『資源』には、建築の材料だけではなくエネルギーも含まれると考えています。だからこそ、パッシブ建築など極限まで自然の力に頼り、最小限の設備機器容量で空調していくという考え方が良いのではないかと思っています」
目に見える建材だけではなく、その土地が持つ光や風といったエネルギーもサーキュラー建築の資源と捉え、できる限り少ない資源で利用者のニーズを満たしていく方法を考えるというのは、他の産業も参考にすべききわめて重要な視点だろう。また、海野氏はこうした地域の資源に対する見方が、サーキュラーデザインに新たな価値をもたらすと語る。
海野氏「サーキュラーデザインの面白い点は、周辺環境を巻き込んでいけることだと思っています。地域から建材を持ってくるという話もそうですし、より小さい関係人口の中で資源が循環していくという話ができると思うので、ただ資源を循環させるだけではなく、地域の活性化にもつながっていくというサブストーリーができるのです」
サーキュラー建築を突き詰めると、必然的に地域の活性化にもつながっていく。一つの建物の循環性を実現するためには、周辺地域も含めたシステムの設計が必要となるが、それは、裏を返せば周辺地域に恩恵をもたらす機会でもあるということだ。
循環性のためのモジュール化と、個性とのバランス
最後のポイントは、まさにそのような都市・まちづくりの視点から捉えるサーキュラー建築だ。建築に使う素材を様々なスケールで転用できるよう、なるべく小さな単位で部材を構成し、地域で循環しやすい資源を採用することで、地域全体における資源循環を実現する。

出典:竹中工務店
サーキュラー建築は、建物一つだけでは完成しない。解体可能性の高い建物を設計したとしても、実際に解体後に回収された建材が次に使用される出口がなければ、資源は循環していかないからだ。その意味で、「サーキュラーデザインビルド®」が目指すように、サーキュラー建築を実現するためには、建材が様々に形を変えながら都市の中を循環し、ストックされていくシステムのデザインが必要となる。
上図のサーキュラーモデル2050のコンセプト図は、まさに建物自体がマテリアルバンク(素材の銀行)となり、一時的にストックされていた資材が役目を終えた後に再び地域の別の場所にストックされたり、逆に都市の中から建材が再び調達されていく、というイメージを表現している。
一方で、実際には都市の中でも建物の新築と解体が常に同じタイミングや量で起こっているわけではないため、需要と供給のマッチングは量、質、時間など様々な点で決して簡単ではない。お金が入るタイミングと使うタイミングが異なるからこそ銀行が必要なのと同じ理屈だ。サーキュラー建築をシステムレベルで実現するためには、マテリアルバンクとしての建造物以外にも、調整弁としてのストックヤードなども求められる。このような循環型システムを構築する上では、どのような点が課題となるのだろうか。
森氏「やはり、モジュール化をすればするほどやりやすくなるとは思うのですが、だからといってモジュール化しすぎると均一になってしまうというのが難しいところです。例えば、ある程度最低限のストックヤードもあって、世の中の鉄骨の梁がモジュール化されており、3種類の長さと3種類の断面で3×3=9しかありませんという状態であれば、部材をリユースする流れもうまくいくと思うのですが、今の建築はそうではありません。世の中にいろいろなモジュールがあると、やはりタイミングが合わず、ストックヤードがもっと必要になってしまうので、難しいですよね」
横山氏「ALCなど、すでに規格化されて流通している部材であれば、ある程度ストックで管理して持ってくるという仕組みが考えやすいと思うのですが、私たちもやはりデザインは好きですし、自分にしかできないデザインをやろうとすると、新しい素材を使ったり、変わった使い方をしたりしてしまいます。そこのジレンマはありますね」
森氏や横山氏の言う通り、シンプルに資源の循環や需給マッチングの効率だけを考えるのであれば、規格を標準化し、モジュール化していくことが最適な戦略と言えるのかもしれないが、それを突き詰めていくと、次第に建物から個性が奪われてしまう可能性もある。
それは、巡りめぐって都市景観に、ひいては土地や都市の持つ価値にも影響するかもしれない。唯一無二性が建築物や都市景観の価値を高めるという点もまた真実であり、そのようなジレンマを抱えながら最適解を探していく必要があるのが、サーキュラーデザインの難しく、面白いところでもあると言える。
後編では、このサーキュラー建築の実践におけるジレンマや難しさ、そのうえで日本が目指すべきアジアの風土に根ざした循環のあり方についても模索していく。
【参照サイト】竹中工務店設計部 CIRCULAR MODEL 2050







