検索窓に言葉を打ち込めば、数秒後にはいくつもの「答えらしきもの」が並ぶ。わからないことをAIに尋ねれば、「それっぽい解説」がすらすらと返ってくる。かつてないほど情報を手に入れやすくなった今、それでもメディアには、果たすべき役割があるのだろうか。
そんな問いを、それぞれ異なる立ち位置から考え始めている二つのサステナブルメディアがある。アミタ株式会社の「おしえて!アミタさん」と、アーティクル株式会社の「IDEAS FOR GOOD」だ。
アミタ株式会社が運営する「おしえて!アミタさん」、通称「おしアミ」は、廃棄物管理や環境法令、サステナブル経営など、主に企業・自治体の実務に役立つ情報を丁寧に発信してきたメディア。
そして、アーティクル株式会社が運営するIDEAS FOR GOODは、国内外の社会課題や、それを解決するアイデアを紹介しながら、アクションにつながるインスピレーションを届けようとしてきたメディアである。
読者層も、扱うテーマも、記事の語り口も異なる。しかし、両社ともソーシャルグッドな未来のあり方を目指す点で、お互いに重なりあうところが多いと感じていた。そんな中で、偶然にも両メディアが2026年にサイトリニューアルを経験。
なぜ今、それぞれのメディアのあり方を問い直したのか。これからの「伝える」をどのように捉えているのか。おしアミとIDEAS FOR GOODのメンバーが集い、リニューアルの裏側からこれからサステナブルメディアが担っていく役割までを語り合った座談会の様子をお届けする。
「おしえて!アミタさん」運営 アミタ株式会社
宮原伸朗(アミタ株式会社 代表取締役社長)

2007年にアミタに合流後、環境管理リスクとコストを同時低減するシステムの導入支援、および企業へのコンサルティングに従事。その後、経営企画部門、新規事業開発のリーダーを経ながら、サーキュラーエコノミーの実践集団としてのコンソーシアム(J-CEP)の事務局を担当。2023年からは内閣府が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期の研究開発テーマ「自治体協力回収プラスチックの分別・供給システムの確立」の研究開発責任者を務め(5年任期)、2026年1月より現職。
木下郁夫(おしえて!アミタさん編集部)

2002年アミタ合流。企業向けのリサイクル提案やコンサルティング、廃棄物管理に係わるシステムや業務フローの構築などに携わる。現在は『おしえて!アミタさん』の編集を含めたメディア運営、イベント企画、情報発信を担当。特にサーキュラーエコノミー領域に感度高く、アミタ社外との共創を日夜模索中。鳥取在住。
「IDEAS FOR GOOD」運営 アーティクル株式会社
加藤佑(アーティクル株式会社 代表取締役)

社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」創刊者。循環経済専門メディア「Circular Economy Hub」、横浜市における循環都市移行プラットフォーム「Circular Yokohama」を展開。企業・自治体・教育機関との連携によりサステナビリティ・循環経済推進に従事。ニッコー株式会社・社外取締役。大学院大学至善館 Circular Futures Design Center センター長・特命准教授。東京大学教育学部卒。
仲原菜月(IDEAS FOR GOOD 副編集長)

大学在学中は政治経済を学びながら、難民支援NGOやEarth Company、mymizuなどの活動に従事。スウェーデンへ留学し、環境・開発問題を学んだ。2023年から自然環境・オルタナティブ経済の領域を中心に取材。海外先進事例の企業向けリサーチ業務や、ウェブマガジンの立ち上げ支援・コンテンツ作成、気候変動と創造性を交差させた企業共創プロジェクトの企画運営に従事。脱成長、紛争予防、自然観などを軸に執筆・編集を担当するほか、移住先の地域でまちづくりや環境教育にも携わっている。
おしアミで蓄積した情報を、いまの読者へどう届けるか
おしアミのメディアとしての原点は、2005年頃までさかのぼる。当時、アミタは工場で働く人たちに向けて、廃棄物管理に関する法律のアップデートなどを含め、サステナビリティに関する情報をFAXで届けていた(アミタの「リサイクル通信」)。
木下氏「お客様のなかには、『いつもこれで勉強しているんですよ』と、FAXで届いた『リサイクル通信』をすべてファイリングした様子を見せてくださる方もいらっしゃいました」
現場で実際に役立つ情報を、わかりやすく届ける──「リサイクル通信」のコンセプトをウェブサイトとメールマガジンでも展開しようと、2008年から始動したのが、「おしえて!アミタさん」だ。
ウェブサイトに移行したことで、届けられるものが増え、読者層も広がっていった。一方で、サイト上に情報が積み重なり、読者の関心事も多様になるほど、誰に何を届けるメディアなのかを改めて整理する必要も生まれてきたという。
情報が手に入りにくかった時代には、正確な情報を集めて整理し、わかりやすく届けること自体に大きな価値があった。では、誰もがAIや検索を通じて、瞬時に情報へアクセスできる時代には、何を届けるべきなのか。
そうしてたどり着いたのが、「サステナブルな価値を発掘しあい、新たな可能性と出会う」というコンセプトだった。

木下氏
検索では見つからない、現場の「暗黙知」を届ける
2026年2月、おしアミのウェブサイトがリニューアルを実施。このとき重視されたポイントの一つは、「価値の源泉を届けること」だ。すでにインターネット上に公開されている情報を、整理して解説するだけではない、もっと深い届け方を模索した。
宮原氏「AI時代、私たちが手を伸ばさなければいけないのは、一次情報なのではないか。つまり、現場に息づく暗黙知がこれからの価値の源泉になると考えました。そこにいかにリーチできるかが、非常に重要になると思ったんです」
たとえば、現場で実際に法律に沿ったルール運用をしていると、「これは本当に問題ないのか」「もしかしたらグレーなのではないか」と判断に迷うケースが数多く出てくるという。サステナビリティやサーキュラーエコノミーの取り組みにおいても、これだけ押さえていれば大丈夫、という安易で汎用的な正解はほとんどない。
そのとき、ほかの企業は、同じような問題をどのように解釈し、運用しているのか。何に注意して、どのように工夫しているのか。こうした「生きた知識」は、法律の原文や公開資料を検索するだけでは、なかなか得ることができない。だからこそ、同じ課題を抱える企業にとっては、それこそが「喉から手が出るほど欲しい情報」になるのだ。
実際に現場へ行き、担当者に会い、話を聞く。そこで行われていることを自分の目で確かめて、「これは!」と思えたものを、ほかの企業にも伝えていく。表面的なトレンド情報ではなく、現場で試行錯誤を続けてきた人の経験、そこから得られた本質的な気づきを拾い上げる。それが、おしアミがAI時代に届けたい「価値」なのである。
また、木下氏は「今現場で起こっていること」を語る意義について、こうも語る。
木下氏「サステナビリティ担当者の方って、結構孤独だと思うんです。何となく『利益を生みづらい部署』と見られがちですし、そんななかでも一人あるいは少ない人数で黙々と仕事を進めているんですから。だからこそ、『おしアミ』を見たら、こうすればいい、こんなことができそうといったヒントだけではなく、その向こうに自分と同じ状況にいる人が感じられる──そんなふうに、サステナビリティ担当者にとって励みになるような場も目指したい、とも思っていましたね」

宮原氏
互いに「発掘しあえる」メディアへ
次に語られたリニューアルコンセプトは、「お互いに発掘しあう」ことだった。
対話を通じて、その人、その企業がまだ気づいていない価値や素晴らしさ、新たな可能性をともに見つける。そして、企業や読者から寄せられた反応から、メディア自身も新たな気づきを受け取る。これまでの「お役立ちサイト」から一段進化をして、情報を一方向的に手渡すのではなく、まだ見えていないものを互いに掘り起こしていく関係でありたいと、木下氏は話した。
さらに宮原氏は、発掘した価値を、記事のなかに保存して終わりにはしたくないとも語る。
宮原氏「情報を知識として所有するのではなく、現場で試してほしい。そして、そこで新たに得たものを、再び誰かへ返していく。そうして初めて、情報は『生きた知恵』になると思うんです。だからこそ、そうした動きを促せるメディアでありたいと思うんですよね」
おしアミが目指しているのは、単に情報が蓄積される場所ではなく、知恵が循環していくメディアなのだ。
読者とともに編むメディアへ
一方、IDEAS FOR GOODをリニューアルするきっかけは何だったのか。その背景には、おしアミの課題感と同じように、AIの普及によりデジタルメディアの事業のつくり方そのものが、大きな節目を迎えていると感じていたことがある。
加藤「テレビがまだ地域に一台しかなかったころは、みんなで広場に集まって見ていた。それが一家に一台、一部屋に一台となり、今では一人が一台以上のスマートフォンを持つ時代です。分ければ分けるほど製品は売れるかもしれないが、一方で人と人が一緒にいる機会やつながりは失われていく。AIとのコミュニケーションも、その延長線上にあるのではないでしょうか」
だからこそ、デジタルのなかだけで完結するのではなく、実際に会い、話し、考える。そのフィジカルな場まで含めて、メディアを設計する必要があると加藤は語った。

加藤
また、IDEAS FOR GOODでは、リニューアルにあたり「問い」を提示するメディアへの転換を、大きなコンセプトの一つとして掲げた。
近年は、サステナビリティの概念が日本でも浸透し、国内でもユニークな解決策の数が増えてきた。一方で、加藤は語る。
加藤「つまり、解決策に対して、問いの供給が不足している状態なのではないでしょうか。だからこそ、問いを立てることが重要となるのだと思います。思わず考えたくなるような面白い問いがあれば、その問いを解きたい人が集まり、共創が始まっていくはずです」
最後に、リニューアルにおいて重要視したものの一つとして「ともに編むメディア」への移行があげられた。
IDEAS FOR GOODでは、以前から、記事を書くことではなく、その先の未来をよりよくすることこそがメディアの目的だと考えてきた。このリニューアルは、その考えを一歩先へと進めるものになったのだ。
加藤「私たちが本当につくりたいものは、記事やメディアではなく、その先にあるより良い未来そのもの。それなら、その未来に向けて、現在をみんなで共同編集していくという姿勢が必要になるのではないかと考えました」
発信する側と受信する側、書き手と読み手を分けるのではなく、一緒に未来を編み直していく。
加藤「これからのメディアの成功指標は、『どれだけ関係性をより良いものへ編み直すことができたか』だと思っています。記事を何本公開したか。どれだけ多くの人が読んだか。そうした数字だけではなく、記事やイベントを通じて、どのような対話が生まれ、どれだけ新しい関係性が生まれ、人と人との関係性が変わったのか。それらもメディアが生み出す価値として捉えていきたいです」
答えをつくることと、メディアが問うことの責任
先にIDEAS FOR GOODが示した「問い」というキーワードに、宮原氏と木下氏も強く共感した。制度への対応方法など、現場で必要とされる答えを届けてきたおしアミもまた、正解の決まっていない問いを読者とともに考えることを、これからのメディアの役割として捉えているからだ。
宮原氏・木下氏は、情報が溢れる現代を、みんなが答えを求める時代だと表現する。だが、絶対的な答えなどなかなか存在しないものだ。
木下氏「今は皆、『答えは絶対に“どこか”にあるはずだ』、そしてその『どこかにある正解』を見つけてこなくちゃいけない、と身構えすぎて、自分の意見を言うことに対して臆病になっている人が多いと思います」
宮原氏は、この状況を「マークシートのように、すでにある答えから選んでいる状態」だと表現する。
だからこそ、思ったことを臆病にならずに言える場をつくりたい。そして、答えのない問いに対して、人々が『自分たちなりの答え』をつくれるよう、ともに進んでいきたい、という考えを強調した。唯一の答えを提示するのではなく、人々が考え、それぞれが答えをつくりあげる過程を支えることが、これからのメディアに求められることなのかもしれない。
IDEAS FOR GOOD仲原も、この考えに共感を示す。そのうえで、問いを掲げる際に、読者とのあいだにどのようなやり取りを生み出すかまで考える必要があるのではないか、と語った。
仲原「編集部内ではよく、『問いっぱなしにしてはいけない』と話しています。たとえば、記事で問いを提示し、それに対して寄せられた声を受け取る。イベントの場で読者と考え、そこで生まれた気づきを、次の記事や企画へつなげていく。そんなふうに、問いを一度投げて終わるのではなく、返ってきた問いをメディアで受け取り、さらに次の問いの発信に活かす。そうした循環を止めたくないんです」
どのような形で届けるのか。誰と一緒に問いをひらくのか。返ってきた反応を、どう受け取り、次にどうつなげるのか。そうしたやりとりが巡っていくなかで、問う力も、ともに答えをつくる力も養われていくのかもしれない。

(左から)仲原、加藤
2つのサステナブルメディアは、どんな夢を描くか
では、二つのメディアは、リニューアルの先にどのようなメディアの姿を見据えているのだろうか。
おしアミがこれまで培ってきた強みの一つは、複雑な法律や制度を、現場で実際に使える言葉へと翻訳してきたことだ。この実務的な信頼性を守りながら、今後はもっと記事の向こう側にいる人の姿を丁寧に伝えていきたい、と両氏は語る。
木下氏「この記事は、誰が、どのような立場から書いたものなのか。あるいは、インタビューなら、企業としての取り組みの内容だけでなく、それを担った人が何を考え、どのような苦労を重ねたのかまで伝える。人の背景や考え方に踏み込む、いわば『ウェット』な記事も増やしていけたらいいなと思っています」
宮原氏「さらに今後は、オンライン上でつながってきた読者や顧客と、実際に顔を合わせられるコミュニティのあり方や、サイトの中での表現も探っていきたいですね」
そんなおしアミが目指したいのは、完璧な将来像を提示し、読者を先導するようなメディアのあり方ではないという。まだ答えを持たない者同士として、読者と同じ出発点に立ち、一歩、二歩……ほんの少し先の足元を照らす。そして、あくまでも読者自身がしっかりと歩き出せるよう隣で支える。そんな伴走の仕方をしていきたいのだと語っていた。
一方、IDEAS FOR GOODはどのような未来を描いているのだろうか。
IDEAS FOR GOODは、リニューアル後の今、読者の声を聞きながら、その先に何をつくりたいのかを改めて考え直しているところ。率直に言うと「どんな未来をつくりたいか」まだ具体的に描ききれていないのも現状だ。ただ、その「未来」が見えたとしても、それを明示したいわけでもない──そんな曖昧さの中にいるのだと仲原は言った。
仲原「私たちは『未来はこうなります』と、絶対的な方向を明示したいわけではないんです。世の中で語られている『将来こうなるだろう』という予測に対して、『いや、こういう可能性もあるよね』と話せる場をつくる。そうして、読者の方と一緒に考えることで、未来を編み直していきたいと思っています」
一つの正解としての未来を見つけるのではない。すでにある未来の筋書きとは異なる可能性を探し、読者とともに歩むメディアのあり方を模索しているのだ。
2つのメディアに共通しているのは、あらかじめ用意された正解を一方的に届けるのではなく、読者とともに探していくこと。問いによって人を立ち止まらせるだけでなく、その先へ歩んでいくための道筋をともに探すことだ。それこそが、これからのメディアが担う大切な役割なのかもしれない。

編集後記
AIがますます多くの情報を集め、整理し、出力できるようになったとしても、現場で交わされた言葉や迷いの跡、試行錯誤のなかで身につけた知恵、まだ言葉になっていない想いまでを掬い上げることはできない。
足を運び、直接人の話に耳を傾ける。まだ気づかれずに埋もれていた知恵を発掘し、色々な人に届くかたちに翻訳する。問いを投げかけ、声を受け取り、また問いなおす。そんな手間を、2つのメディアはこの時代に、もう一度改めて引き入れようとしていた。
答えらしきものがすぐに見つかる時代に、それでも人がメディアをつくる意味はどこにあるのか。「より良い未来」の輪郭をはっきりと捉えることは誰にもできない。だからこそ、そのわからなさを受け入れながら、ともに道を編んでいくことが重要なのだろう。
【参照サイト】おしえて!アミタさん
【参照サイト】アミタ株式会社
【参照サイト】社会課題の「解決策」を届けるメディアから、ともに未来を「編む」メディアへ。IDEAS FOR GOODがサイトをリニューアル






