都市鉱山とは・意味
都市鉱山とは?
携帯電話やパソコンといった廃棄される小型家電製品に含まれる金・銀やレアメタルなど、都市部に蓄積された資源を鉱山に見立てた言葉で、資源の再利用を促す概念のこと。1988年に東北大選鉱製錬研究所の南條道夫教授らによって提唱された。
これまでにも小型家電リサイクル法などはあったが、2022年、環境省が2030年までに循環経済の市場規模を現在の50兆円から80兆円にする方針を示し、循環経済工程表案を発表した。電子機器に含まれる金属リサイクル原料の処理量も倍増させるという計画を打ち出しており、改めて「都市鉱山」が注目されるようになったのだ。
日本における都市鉱山
世界の中で比較してみると、2008年の時点で、日本の都市鉱山とされる金の埋蔵量は6,800トンと、世界全体の埋蔵量42,000トンの約16%を占めると言われていた。また、銀は約23%に匹敵する60,000トン、その他、レアメタルのインジウムやタンタルはそれぞれ16%と11%、また錫も11%と1割を超えていた。現在は、日本経済の衰勢もあり、当時の量からは多少後退している。それでも天然資源のない国として知られている日本において、都市鉱山に関しては世界有数の保有国と言えるだろう。
すべて活用できれば、国内需要の数十年分にも匹敵する量とみなされているが、実際にリサイクルされているのは、金においても10%にも満たない程度だ。金属資源を輸入に頼る我が国では都市鉱山の有効な活用が期待されている。
都市鉱山活用のメリットと課題
天然資源の採掘の場合、例えば金鉱石1トンあたりに金は約5グラム程度しか含まれていない。しかし、回収された携帯電話1トン(約1万台)の金の含有率は約280グラムにも及ぶ。天然の鉱物の採掘には、多くの鉱石や土砂を掘り出さなくてはならず、環境に大きな負荷がかかっているが、都市鉱山はそれを大きく縮小できる。品質においても、加工を経て使用されたものであるため、一般的に高品位とされる。
また、E-wasteとも呼ばれる電子廃棄物には、鉛、水銀、カドミウムなどの有害物質が多く含まれる。アフリカや東南アジアに流出したこれらの廃棄物は適切に処理されず、有毒ガスなどを発生する最悪な環境下で働く人々の健康を害し、世界的な問題になっている。都市鉱山の活用はこうした問題の解消にもつながる。
さらに、レアメタルやレアアースの資源の偏在や、今後見込まれる地球資源の枯渇に対しても有用な手段として検討されている。
一方で、実際には埋蔵量としてカウントされているものでも、実際は消費者の手元にあったり、ごみとして投棄されたりと散逸しているものも多く、すべてを資源化できる訳ではない。まずは効果的な回収システムを整えることが喫緊の課題とされている。
他にも、小型電子機器には、取り出せる金属以外にプラスチックなどその他の素材も含まれており、分離、解体には手間がかかり、高度な技術も必要だ。品質の劣化を伴う「カスケードリサイクル」ではなく、同品質の原料にリサイクルされる「水平リサイクル」を行うためにも技術の開発や向上が必須だ。
コスト面でも課題は多い。携帯電話でも1台から取り出せるレアメタル類は100円程度の価値とされており、それを下回るコストで金属を回収しなければ事業化が困難だ。低コストで安全に実現できる仕組みを実用化することが、都市鉱山の有効活用につながる1つの道であり、個々でなく全体で取り組んでいかなければならない。
都市鉱山の活用例
以下では過去の都市鉱山の活用事例をいくつかご紹介する。
東京オリンピックのメダル
「都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクト」として、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、アスリートに授与されるメダルが、小型家電から回収するリサイクル金属で製作された。これは、オリンピック史上初の試みであり、国民参加型のプロジェクトとして約5000個の金・銀・銅メダル用の金属を集めた。対象となったのは「小型家電リサイクル法」で扱われている携帯電話やパソコン、デジカメなどの全28品目。オリンピック終了後も「アフターメダルプロジェクト」として、小型家電のリサイクル制度の普及促進が行われている。
電気自動車(EV)用の車載蓄電池
脱炭素化へ向け、世界では電気自動車の需要が高まり、電池に使用されるレアメタルの価格が高騰している。さらには新型コロナウイルスによる生産への影響や、ロシアへのウクライナ侵攻、産地の偏在など様々な懸念材料も後を絶たない。そうした中、ヨーロッパでは2020年12月に欧州電池規則案が発表され、レアメタルをリサイクルする都市鉱山に再び注目が集まった。この規則案は2030年1月1日以降、EV用蓄電池などに用いるニッケル、コバルト、リチウムについてリサイクル材の最低含有率を義務付けるというものだ。日本などのEU域外の国でも、自国の電池やEVがEU諸国に販売できなくなる危機感があり、この流れは拡大していくだろう。
サステナブルジュエリー
環境に強い関心を持っていない人にも、都市鉱山の存在や、リサイクル金属を知ってもらうきっかけになるものとして、サステナブルジュエリーを製作するブランドも生まれている。オランダの「NOWA」はアフリカで問題となっている廃棄スマホの再資源化を推進する「Closing the Loop」と提携し、サーキュラーエコノミーの仕組み作りに取り組む。また、日本の「YURI SATO JEWELRY」はジュエリーの採掘現場で起っている環境や人権の問題や、資源の枯渇などに目を向け、不用品とされごみとなるものに新たな価値を与える活動を続けている。
まとめ
人間の経済活動によって既に利用されている資源量が、地球の地下資源量を上回る時代。都市鉱山に眠っているものを回収することで、地球から新たに天然資源を採掘する量を抑えることもできる。
これまでは、新たな材料を調達し、新しいものを作るのが当たり前とされていた。しかし、限りある資源を守るためにも、不用品やごみとされているものに目を向け、新たな価値を与え再生する、サーキュラーエコノミーへの転換が必要だ。循環社会の実現には国による仕組み作りや、企業の技術向上などの課題もまだまだ多い。まずは私たちが、適正な回収方法を知ることや、リサイクルを前提とし設計された商品を選ぶなど、消費者としての意識を変えることから始めてみてはどうだろうか。
【関連記事】「都市鉱山」生まれの”循環するジュエリー”。デザイナーが伝えたい2つのサステナビリティとは?
【関連記事】廃スマホからジュエリーをつくるスタートアップ「Nowa」
【参照サイト】NIMS レアメタル・レアアース特集 | 各種データ- 都市鉱山
【参照サイト】三井住友フィナンシャルグループ |「都市鉱山」に眠るレアメタルの資源化に向けて
【参照サイト】読売新聞オンライン | 「都市鉱山」からのレアメタル回収、30年度までに倍増へ…廃基板の輸入ルート開拓
【参照サイト】NHK | WEB特集「都市鉱山」からメダル
【参照サイト】環境省_エコジン 2017年10・11月号 VOLUME.61|特集 RECYCLE for 2020
【参照サイト】日経ESG | 都市鉱山、EVで再び走り出す
【参照サイト】産総研:SUREコンソーシアム | 金属資源循環社会とは(金属のリサイクル)
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