AIが変えつつあるのは、産業や社会の仕組みだけではない。私たちが考え、学び、創造し、他者と関わる方法にも、大きな変化が生まれている。
生成AIを使えば、知りたい情報にすぐにアクセスでき、文章や画像をつくることもできる。便利さが増す一方で、私たちは改めて「人間とは何か」「知とは何か」という問いに向き合い始めている。AIが人間の能力を拡張するなかで、私たちは人間であることの価値をどこに見いだすのか。知識の生み出され方や共有のあり方は、今後どう変わっていくのだろうか。
こうした問いをテーマに、2026年11月20日(金)・21日(土)の2日間、東京大学・安田講堂で国際会議「東京フォーラム2026(Tokyo Forum 2026)」が開催される。
東京フォーラムは、東京大学が韓国の崔鍾賢学術院(Chey Institute for Advanced Studies)とともに2019年に始めた国際会議。「Shaping the Future(未来を形づくる)」を継続テーマに掲げ、世界各地の研究者や政策決定者、経営者らが、現代社会の課題と人類の未来について意見を交わしてきた。
2025年には「資本主義を問い直す:多様性・矛盾・そして未来へ」をテーマに、民主主義や大学、持続可能な未来と資本主義の関係を議論した。第7回となる今年は、AIに焦点を当てる。テーマは、「変革をもたらすテクノロジーとしてのAI:人間・知・文明(AI as a Transformative Technology: Humanity, Knowledge, and Civilization)」だ。
基調講演には、フランス大統領府のAI特使であるアンヌ・ブーブロ氏、AI開発企業Sakana AIの共同創業者・伊藤錬氏、東京大学で人文学を研究する阿部公彦教授の3名が登壇。AI政策・ガバナンス、AI開発・実用、人文学という異なる領域から、AIがもたらす変革を考える。さらに、AIと格差、メンタルヘルスや社会的包摂、デジタルアーカイブによる記憶の継承などをテーマにしたパネルディスカッションも行われる。
AIを単なる技術革新として捉えるのではなく、科学技術、人文・社会科学、政策、産業など、異なる分野や立場から、その可能性と課題を考える2日間だ。
イベントの見どころ
- AI政策・開発・人文学の第一線で活躍する3名が基調講演に登壇。 フランス大統領府AI特使のアンヌ・ブーブロ氏、Sakana AI共同創業者の伊藤錬氏、東京大学の阿部公彦教授が、それぞれ異なる専門分野からAIと人間社会の関係を考える。
- AIは格差を広げるのか、それとも人々の能力を引き出すのか。 AIの「驚異」と「脅威」という二極の議論を、文明論や技術決定論の視点から捉え直す。
- 「標準的な利用者」を想定したAI設計を問い直す。 メンタルヘルスや社会的包摂をテーマに、文化的・社会的・心理的な違いを踏まえたAIのあり方を考える。
- AIとデジタルアーカイブが変える、記憶の継承。 広島・長崎の被ばく体験、ガザ地区の紛争、能登半島地震を例に、記憶や場所、人々の経験を結ぶデジタルアーカイブの可能性と課題を議論する。
- 日本と韓国の学生たちによるユースセッション。 数か月にわたってAIをテーマに共同で研究・議論してきた4グループが、学びや気づきを発表する。
主なセッションのご紹介
Keynote Addresses|基調講演
11月20日(金)13:20〜14:20
基調講演には、政策、AI開発、人文科学の分野から3名が登壇する。
- アンヌ・ブーブロ氏(フランス大統領府 AI特使/高等師範学校〈ENS〉理事長)
- 伊藤 錬氏(Sakana AI 共同創業者・代表取締役社長)
- 阿部 公彦氏(東京大学大学院人文社会系研究科 教授)
続くプレナリートーク(14:20〜15:30)では、ソン・ジエ氏(梨花女子大学招聘教授)が司会を務め、3名による対話が行われる。
Panel Discussion 1|AIとは何か:人間社会から見た技術の進化
11月20日(金)15:45〜16:45
AIは、使う人や置かれた環境によって、その影響が大きく異なる。ある場面では差別を生み、別の場面では人々の能力を引き出すこともある。このセッションで取り上げるのは、そうしたAIと人間社会の関係に生じる非対称性だ。AIが世界の格差をさらに広げる可能性がある一方で、経済的に厳しい状況にある人々を支える力にもなりうる。こうした相反する可能性を、文明論的な系譜と技術決定論という2つの視点から考察する。また、AIをめぐる変化のなかで、次世代を育む大学にはどのような役割が求められるのかについても議論する。
登壇者
- 島津 直子氏(東京大学国際高等研究所東京カレッジ 教授・副カレッジ長/司会)
- ジョヴァンナ・ティネッティ氏(キングス・カレッジ・ロンドン 天体物理学教授)
- アハメド・カシム・バワ氏(ヨハネスブルグ大学ヨハネスブルグ・ビジネススクール 教授)
- オオツキ・グラント・ジュン氏(東京大学大学院総合文化研究科 准教授)
- ゼファン・シュラーメク氏(東京大学東京カレッジ ポストドクトラル・リサーチ・フェロー)
Youth Session|ユースセッション
11月21日(土)11:30〜12:30
東京大学と韓国の大学に通う現役学生20名が、数か月にわたりAIをテーマとした国際共同プロジェクトに取り組んできた。当日は4つのグループが、それぞれの議論を通じて得た学びや気づきを発表する。研究者やビジネスリーダーとは異なる、若い世代からの視点にも注目したい。
Panel Discussion 2|境界なき知:メンタルヘルスと社会的包摂のためのAI設計
11月21日(土)12:45〜13:45
AIに悩みを相談したり、情報を探してもらったりすることが、身近になりつつある。しかし、現在のAIの多くは、いわゆる「標準的な」利用者を想定して設計されており、文化や社会的背景の違い、個人のウェルビーイングへの配慮には課題が残る。このセッションでは、「ウェルビーイング・インテリジェンス(Well-being Intelligence)」という考え方を取り上げる。人間の認知能力を代替・拡張するだけでなく、人と人とのつながりやレジリエンス、社会的包摂を育むAIとは、どのようなものだろうか。地域や文化に受け継がれてきた知識をAIにどう取り入れるか。孤立や認知的な負担を深めないメンタルヘルス支援は可能か。近年の研究を紹介しながら、人間のウェルビーイングを支えるAI設計について議論する。
登壇者
- 矢谷 浩司氏(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授/司会)
- シャラス・チャンドラ・グントゥク氏(ペンシルベニア大学コンピュータ・情報科学科 准教授)
- ネハ・クマール氏(ジョージア工科大学 教授)
- イ・ウィジン氏(韓国科学技術院〈KAIST〉コンピューティング学部 教授)
Business Leaders’ Session|ビジネスリーダーセッション
11月21日(土)14:00〜15:00
東京大学、韓国SKグループ、NTTなど、大学や企業のリーダーが登壇するセッションも予定されている。
登壇者
- 藤井 輝夫氏(東京大学 総長)
- チェ・テウォン氏(韓国SKグループ 会長)
- ヨム・ジェホ氏(テジェ大学 学長)
- 澤田 純氏(NTT株式会社 取締役会長)
- 杉村 美紀氏(上智大学 学長)
東京大学150周年記念セッション|流動する記憶:時空をつなぐデジタルアーカイブ
11月21日(土)15:15〜16:15
歴史的な出来事の記録は、どのように残され、次の世代へ受け継がれていくのだろうか。広島・長崎の被ばく体験の証言や記録を、地図や時間軸と結びつける。ガザ地区の紛争や能登半島地震の記録を、ソーシャルメディアやデジタル情報を通じて残していく。AIを含むデジタル技術の発展によって、歴史資料を保存する「静的な保管庫(ストック)」だったアーカイブは、記憶・場所・経験を結ぶ「動的な基盤(フロー)」へと変わりつつある。そこでは、情報を保存することに加え、異なる立場の人々が記録に関わり、記憶を共有していくことも重要になる。本セッションでは、デジタルアーカイブのこれまでの歩みを振り返りながら、集団的な記憶を現在につなぎ、多様な人々が参加できる形で継承していくための可能性と課題を議論する。
なお、本セッションは「東京大学150周年記念事業 第10回カウントダウンイベント」として開催される。
登壇者
- 渡邉 英徳氏(東京大学大学院情報学環 教授/司会)
- セツ・シゲマツ氏(カリフォルニア大学リバーサイド校メディア・文化学部 教授)
- アラファト・シュクリ氏(アルジャジーラ研究センター シニア・リサーチャー)
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AIがもたらす変革を、異なる分野の知から考える
2027年に創立150周年を迎える東京大学は、自然科学と人文社会科学の双方の知を礎に、先端技術の研究を進めるとともに、科学技術のあり方そのものを問い直してきた。
今年の東京フォーラムにも、そうした分野を横断する姿勢が表れている。AIの開発が進むなかで、技術の性能や利便性だけでなく、それが社会にもたらす影響を考えることが重要になっている。格差や差別、メンタルヘルス、記憶の継承といった問題を考えるには、情報科学の知識に加え、歴史や文化、社会制度についての理解も欠かせない。
今回のフォーラムでは、AI政策に携わる実務家、技術開発を担う企業の経営者、人文・社会科学の研究者、そして次の時代を生きる学生たちが、それぞれの立場から議論に加わる。
AIをどう開発し、使うのか。その問いとともに、AIが広がる社会で、私たちは何を学び、どのような関係を築き、何を未来へ受け継いでいくのか。普段からAIの研究や開発に携わる人はもちろん、教育やビジネス、社会課題、文化などに関心を持つ人にとっても、AIと人間社会の関係を考える機会になるだろう。
開催情報
イベント名:Tokyo Forum 2026(東京フォーラム2026)
テーマ:変革をもたらすテクノロジーとしてのAI:人間・知・文明
日程:2026年11月20日(金)13:00〜16:45、21日(土)11:30〜17:30
会場:東京大学 本郷キャンパス 大講堂(安田講堂)
所在地:東京都文京区本郷7-3-1
言語:英語/日本語同時通訳あり
主催:東京大学、崔鍾賢学術院(韓国)
参加費:無料(事前登録制)
参加方法:Peatixから事前登録
※後日、公式サイト・YouTubeでのアーカイブ動画配信を予定。
※プログラム・登壇者等は変更となる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。
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