今年も母の日が終わった。カーネーションやプレゼント、感謝の言葉が飛び交う一日。しかし、もし働く母親たちが本当に心の底から求めているものが、華やかなギフトではなく、もっと切実な「時間」と「経済的な安心」だとしたらどうだろうか。
アメリカでは、連邦政府による有給の育児・介護休暇制度が、2025年5月時点でも法的に保障されていない。このため、民間企業で働く約4人に1人が、出産、育児、家族の病気や自身の治療などに際して、無給で仕事を休むか、働き続けるかという厳しい選択を迫られている。特に、比較的賃金の低い仕事に従事する女性たちが、この制度の不備によって影響を受けているのが実情だ。
この現実に「ノー」を突きつけ、すべての働く人々が安心して家族や自身のケアに時間を使える社会を目指すムーブメントが、いまアメリカで広がっている。その名も「Paid Leave for All(すべての人に有給を)」だ。
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非営利団体でもあるPaid Leave for Allは、ベビーカーブランドや、Eileen Fisherなどのファッションブランドなどを含む約50社と連携し、母の日という象徴的なタイミングで、社会に鋭い問いを投げかけた。「母の日に、母親たちは本当は何を望んでいるのだろうか?」その答えは、一輪の花や豪華な食事ではなく、「有給休暇」という、生活を支える具体的な制度だと彼らは主張する。
Paid Leave for Allのアドボカシー・アライアンス担当ディレクターであるドーン・ハックニー氏は、米メディアFast Companyに対し、こう語る。
「母の日に母親を称えたいというのは美しい感情ですが、母親が本当に必要としているのは有給休暇です。これは、赤ちゃんが生まれたときに休めるということだけではありません。病気の子どもの世話や、高齢の親の介護、あるいは自分自身の深刻な健康状態に対処するために休めるということなのです」
有給休暇制度の欠如は、個人の経済的困窮に直結するだけでなく、ジェンダー間の不平等を助長し、人種間の格差を拡大させる要因ともなっている。ハックニー氏はFast Companyの取材で「有給休暇がないと、人々は健康、家族、そして給料という、不可能な選択を迫られる。有給休暇はジェンダー正義の問題であり、人種的正義の問題であり、経済的正義の問題なのだ」
と訴えた。
Paid Leave for Allは、ウェブサイトやSNSを通じて個人の体験談を共有し、政策立案者への働きかけを強化することで、この問題を社会全体の課題として認識させようと努めている。彼らの活動は、単に労働者の権利を主張するだけでなく、有給休暇制度が企業にもたらすメリット、たとえば従業員の定着率向上や生産性の向上といった側面も啓発している。
母の日の華やかな賑わいの裏で、働く多くの親たちが抱える切実な願い。それは、特別な贈り物ではなく、誰もが尊厳を持って働き、家族をケアし、自分自身の健康を守れるための、「当たり前の制度」なのかもしれない。このムーブメントは、私たち自身の社会における「働く」ということ、「支え合う」ということの意味を、改めて問い直すきっかけを与えてくれる。
【参照サイト】Paid Leave for All