ニッチな領域で環境に貢献する。バイオマス樹脂で塗料を作る中国塗料

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Sponsored by 三井化学株式会社

私たちの日常を静かに支える塗料。住宅の壁や屋根、自動車、電車、船、航空機に至るまで、その存在を意識することは少ないかもしれない。けれども、建物の劣化や金属の腐食を防ぎ、私たちの暮らしを長く快適に保つうえで、塗料は欠かせない役割を担っている。

特に、船やインフラ構造物など非常に大きく、かつ過酷な環境にさらされるものに用いられる塗料には、高い耐久性、防食性(金属などの腐食を防ぐ性質)、耐候性をはじめとした様々な機能が求められる。そのため、船舶向けなどでは一般的なものよりも、高性能な塗料が使われている。

こうした高性能な塗料の製造には、それに適合した塗料用樹脂原料が不可欠であり、その多くは石油由来のものが使用されている。そのため、温室効果ガス排出量削減の観点では課題があった。

しかし今、この「当たり前」を変えようとする動きが始まっている。従来の石油由来ではなく、バイオマス由来の樹脂を用いた高性能塗料の開発である。サーキュラーデザインの文脈で「素材」そのものの重要性が高まるなか、環境に配慮した原料の調達は、持続可能なものづくりの根幹を成している。

IDEAS FOR GOODでは、三井化学との共創連載『素材の素材まで考える』を通じて、素材そのものを変革しようとする同社とパートナー企業の挑戦を追ってきた。

第9弾となる今回は、三井化学が提供するバイオエポキシ樹脂を塗料原料に採用した中国塗料株式会社を取り上げる。この樹脂は、ISCC PLUS認証を取得したマスバランス方式で製造されたバイオマス由来のものだ。

船舶塗料というニッチな領域で、いかに「サステナビリティ」と「機能」を両立させ、自社のみならず海運業界全体の環境負荷低減を推進しているのか。その取り組みの背景にある想いや、未来への展望を掘り下げる。

(左)秋山耕司さん(右)野上雅人さん

(左)秋山耕司さん(右)野上雅人さん

話し手:

秋山耕司(あきやま・こうじ)
中国塗料株式会社 常務執行役員 営業本部 本部長

野上雅人(のがみ・まさと)
中国塗料株式会社 営業本部 営業統括部 東京支店 営業第一グループ 主務

生活に欠かせない船舶塗料の素材を変えることで、CO2削減に貢献

中国塗料株式会社は、船舶用塗料の分野で長年にわたり技術革新を続けてきた企業だ。特に、船底に塗装することで燃費を向上させる防汚塗料や、タンカー船の積み荷タンク内壁を保護する高機能塗料で世界トップクラスのシェアを誇る。

同社は今回、船舶用重防食塗料の主要原料である石油由来のエポキシ樹脂に代えて、三井化学のバイオエポキシ樹脂を採用した製品を開発した。この樹脂はISCC PLUS認証を取得したマスバランス方式で製造されており、CO2排出量削減に貢献するバイオマス由来の樹脂である。

秋山さん「船舶は私たちの生活を支える物流の要であり、その巨大な船体に使われる塗料は地球環境に大きな影響を及ぼします。特に、新造船で最も多く使われるエポキシ樹脂塗料の原料を変えることは、CO2排出量削減に直結するのです。

私たちは、サステナブルな取り組みにおいて他社に先駆け挑戦したいという強い意志を持っています。ですから、このバイオマス由来の樹脂を、ぜひ採用したいと考えました」

※ ISCC(International Sustainability and Carbon Certification、国際持続可能性カーボン認証):全世界に販売される主にバイオベースや再生由来等の原料や製品について、サプライチェーン上で管理・担保する国際的な認証制度。

秋山耕司さん

秋山耕司さん

こうして開発されたバラストタンク(※)用の新たな重防食塗料が、「CMPノバ 2000(Bio)」だ。2025年7月には、警固屋船渠株式会社が建造する液化アンモニア運搬船のバラストタンクにこの塗料が採用された。中国塗料の調べによれば、バイオエポキシ樹脂塗料が船舶向けに採用されるのは世界初となる。

※ バラストタンク:積荷の代わりに海水を重りとして汲み入れるためのタンクで、積荷を降ろした後に船の安定性を保つ役割がある。

品質や使い心地に違いなし。従来の塗料と「変わらない」メリット

バイオマス由来の「CMPノバ 2000(Bio)」は、既存製品と比較し、塗料1トンあたり約660キログラム相当(暫定値)のCO2排出量削減効果が見込まれる。これは、中国塗料だけでなく、同社の塗料を採用する企業のCO2排出量削減(※ Scope3 カテゴリ1の削減)にも寄与する。

これまでバイオマス由来の塗料原料の多くは、物性面で課題があり、塗料の機能性を損なうリスクがあった。しかし、三井化学のバイオエポキシ樹脂は異なる。従来の石油由来エポキシ樹脂と分子構造が全く同じであるため、機能性や品質、使い心地に一切違いが出ないのだ。この「変わらない」という特性が採用の決め手となり、製品化プロセスもスムーズに進行した。

野上さん「塗料としての機能や使い心地は、従来品と全く変わりません。しかし、石油由来の原料をバイオマスに切り替えることで、CO2排出量削減に貢献できるという、大きなメリットが生まれます」

野上雅人さん

野上雅人さん

三井化学のバイオエポキシ樹脂がISCC PLUS認証という国際的な第三者認証を取得していることも、製品開発における信頼性を高めるポイントだ。今後は、国内外での需要増加に貢献していくことが期待されている。

野上さん「環境規制が進むヨーロッパでは環境性能に特化した塗料への関心が高く、国際的なルールが整備され始めています。そんな中、今後はますます環境に配慮した塗料が求められるようになると考えています」

高機能塗料が拓く、海運業界の環境負荷低減と経済性の両立

環境配慮型原料への切り替えは、多くの場合、コスト増を伴う。今回のバイオエポキシ樹脂塗料の採用も例外ではなかった。従来のエポキシ樹脂の原料は、石油由来のナフサ(粗製ガソリン)であるのに対し、今回のバイオエポキシ樹脂では、廃食油などからつくられるバイオマスナフサ(バイオマス由来の炭化水素)が大元の原料になる。石油は一箇所から効率的に収集できるが、廃食油など植物性資源は分散型であるため、収集の手間とコストがかかる。それがバイオエポキシ樹脂のコストを押し上げる要因になる。

それでも、中国塗料は高いコストをかけてもバイオエポキシ樹脂の採用に踏み切った。そこには、短期的な経済合理性だけではなく、「企業として環境への責任を果たしたい」という、揺るぎない強い思いがあった。

秋山さん「企業としてサステナビリティに取り組むことは非常に重要だと考えています。ですから、新しい技術が出れば積極的に取り入れ、検証し、製品化へとつなげることを心がけています」

秋山耕司さん

中国塗料のサステナビリティへのコミットメントは、バイオエポキシ樹脂の採用だけに留まらない。その一例が、船舶の燃費を向上させ、間接的に環境負荷低減に貢献する製品の開発だ。

野上さん「低燃費型船底防汚塗料『シープレミア2000 PLUS』は、船底へのフジツボなどの生物付着を防ぐ効果に加え、なめらかな塗膜に仕上げて船体と海水との抵抗を軽減することで、航行に必要な燃料を削減します。

これにより、従来の船底防汚塗料と比較して燃料消費量を約5%から8%程度削減できると見込んでおり、船主にとっては燃費向上による燃料コスト削減という経済的メリットとともにCO2排出量削減にも大きく貢献します。つまり、環境保護と経済性を両立できるのです」

野上雅人さん

他にも、これまで重油を積んでいたタンクに、IMO IBC Code(※ 危険化学薬品のばら積みの運送のための船舶の構造及び設備に関する国際規則)に記載され、船舶の代替燃料としても注目されているメタノールや水素などを積むことを可能にするカーゴタンク用塗料「エピコンT-2000」も開発。この塗料により、IMO IBC Codeに記載されている積荷の積載許容範囲は同社の従来品と比較して約140種類増加し、積荷種にして80%以上を積載することが可能になる。

世界的に環境負荷の低いエネルギーへのシフトが進む中で、今後、船舶の積荷として様々な代替燃料が積載されることが見込まれている。そのため「エピコンT-2000」により積載可能な積荷が拡大することは、結果として船舶の運用効率を飛躍的に向上させるだけでなく、物流全体の最適化、そして環境負荷が低い代替燃料の輸送手段の拡充に貢献する。

サステナビリティと機能性は、ときにトレードオフの関係になる。しかし、中国塗料の低燃費型船底防汚塗料「シープレミア2000 PLUS」などは、機能を高めることで環境負荷低減を実現しており、船舶用塗料業界においても新たな可能性を提示している。こうした環境性能が高い塗料への関心は、国際的な規制の進展とともに、ヨーロッパだけでなく、今やアジアや日本でも急速に高まっているという。

船の模型

「ニッチだけど、世界を変える」中国塗料の挑戦と企業哲学

船舶の塗料は、私たちの日常生活とは直接関係がないように思えるかもしれない。中国塗料自身も、自社の立ち位置を「ニッチなマーケット」と認識している。しかし、このニッチな業界が、実は環境問題の解決に大きく貢献する可能性を秘めている。

秋山さん「最終製品に塗料のブランド名が明記されることはありませんから、会社の認知度はどうしても低くなりがちです。しかし、船舶という巨大な構造物の全面に使う塗料の原料を変え、あるいは機能性を高めて燃費を向上させられれば、それは膨大なCO2排出量の削減に直結します。

私たちは、塗料を通じてこの巨大なインパクトを生み出そうとしています。だからこそ、こうした船舶用塗料を中心に奮闘する企業があることを、より多くの方に知っていただけたらと願っています」

(左)秋山耕司さん(右)野上雅人さん

中国塗料グループでは、2030年までの長期ビジョンのキーメッセージを「サステナブルで高収益なグローバル・ニッチ・トップ企業」としている。ここには、塗料を通じてソリューションを提供し、社会に価値を生み出す姿勢が表れている。「自分たちの塗料でCO2排出量を減らしてもらえることに喜びを感じる」と語る秋山さんと野上さんの言葉からも、同社の環境への取り組みに対する誠実で積極的な企業文化が感じられた。

秋山さん「私が生きているうちに結論が出ないかもしれませんし、2050年の世界がどうなっているかは想像もつきません。しかし、だからこそ今、できることを一つでも早く、そして改善を重ねながら続けていきたい。そうすれば、必ず持続可能な社会は実現できると信じています」

編集後記

今回の取材を通して、普段意識することのない船舶用塗料の奥深さに触れた。そして、見えない場所でサステナビリティを追求する企業努力の深さに、改めて感銘を受けた。

また、CO2排出量削減という喫緊の課題に対し、中国塗料の取り組みは単なる素材転換に留まらない。燃費効率の向上や多様な燃料への対応といった「機能」との掛け合わせにより、より大きな環境インパクトを生み出している点が特に印象的だった。

三井化学のようなサプライチェーンの上流に位置する素材メーカーが率先して変革に挑戦し、中国塗料のように確固たる企業哲学を持つパートナーがそれに共感し協働する。この事例は、社会が持続可能性へと歩みを進める確かな道筋を示してくれる。

海という広大なフィールドで繰り広げられる彼らの挑戦は、きっと私たちの未来を鮮やかに塗り替えてくれるはずだ。

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【参照サイト】中国塗料
【参照サイト】ISCC認証取得のバイオエポキシ樹脂塗料 三井化学の液化アンモニア運搬船に採用 ~高付加価値塗料による船舶の環境対応強化~

聞き手:Tomoko Ito
写真撮影:cicaco

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