「データセンターが飲み干す前に、海へ飛び込もう」アナログを“古き良き”で終わらせない、インスタントカメラの街角広告

2026.07.13

Natsuki

これは、アメリカ・ニューヨーク州で始まった、夏らしいある広告。同州コニー・アイランド地区の砂浜に、海へ駆け出す2人を写したフィルム写真が主役の看板が登場した。

一見するとビーチにぴったりの楽しげな写真だが、そこに添えられた手書き風のメッセージにはこう書いてある──「データセンターが水を飲み尽くす前に、海へ飛び込もう」と。

この看板は、インスタントカメラブランド・Polaroid(ポラロイド)によるもの。2026年6月、過剰なデジタル化へのアンチテーゼとして、広告キャンペーン「The best of summer is analog(最高の夏はアナログだ)」を開始したのだ。同社クリエイティブ・ディレクターのパトリシア・ヴァレラ氏はその背景について、リリース記事で次のようにコメントしている。

「Z世代にインスタントカメラをどうアピールするか」と問うのをやめ、「AI時代にポラロイドはなぜ存在するべきなのか」を問い始めたとき、私たちは手応えを感じました。ポラロイドにとって、ただ存在することが、ある種の反逆なのです。私たちのキャンペーンは挑発的で、テクノロジーとの関係性に一石を投じるものですが、決してデジタルを否定しているわけではありません。デジタルと共存すべきことは理解している一方、私たちは何よりも「人間らしさ」を大切にし、それがもたらす価値を深く理解しています。そして、それを守らなければ何を失うことになるのかも分かっているのです。それこそが、挑む価値のある戦いなのです。

アナログを単に昔懐かしいノスタルジーとして置くのではなく、デジタル化が急速に進むからこそ、人とのつながりや現実世界における体験と創造性がより価値を持つという同社の姿勢を強調した企画とのこと。昨年に続くキャンペーンとして実施され、ニューヨーク以外にもロンドンや韓国などでも同様の屋外広告を展開している。

「スクリーンを何時間も見続けて終わってしまうなんて勿体無いほどの素敵な日」と皮肉めいたメッセージが書かれた看板は、ロンドンの地下鉄で掲載された|Image via Polaroid

Image via Polaroid

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実際に、AIの急速な普及を裏で支えるデータセンターは、膨大な量の水を消費している。例えば、GPT-3に10〜50回の質問をすると、500ミリリットルの水(ペットボトル1本分)を消費する(※1)。2030年のデータセンター電力に関連するウォーターフットプリントは9兆3,000億リットルに達すると推測され、これはサハラ以南アフリカの13億人の年間生活用水需要量に相当する(※2)。私たちがデジタルデバイスを通じて得る便利さの裏には、気づきにくい形で地球資源への負荷が存在しているのが現状だ。

こうした状況で、ポラロイドが「AI時代に自社が存在するべき理由」を問うたとき、見出された価値は単なる懐かしさだけではなかった。それは、急速なデジタル活用がもたらす物理的な代償に目を向け、過度な効率化の中で見失われうる現実世界の体験や時間を問い直す批評的な力も見えてきたのだろう。その視座から生まれたのが、今回のキャンペーンではないだろうか。

デジタルを生活から完全に切り離すことは、今や現実的ではない。だからこそ、私たちは時に意識的に立ち止まり、テクノロジーの背後にあるコストを意識しながら自らの時間や資源をどこに投じるかを選択する必要がある。インスタントカメラを手にする行為そのものが、直ちにデータセンターの負荷を減らすわけではないかもしれない。しかし、あえてアナログな手段を選ぶという選択は、限りある資源と、守るべき人間らしい暮らしのあり方に対する意志表明になり得るはずだ。

※1 Making AI Less “Thirsty”: Uncovering and Addressing the Secret Water Footprint of AI Models
※2 Rising Emissions, Depleting Water and Vanishing Land—UN Scientists: AI Is Threatening Natural Resources for Billions

【参照サイト】Polaroid drops another provocative reminder that the best of life is analog, this time on Coney Island beach
【参照サイト】ポラロイド、「データセンターが水を全部飲み尽くす前に」海に飛び込もうと呼びかけ
【参照サイト】「反AIマーケティング」が世界で拡大──Dove・Polaroid・Aerieに見る“人間らしさ”の逆襲|AMP
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この記事を書いたライター

Natsuki

Natsuki

仲原菜月(なかはら なつき)。IDEAS FOR GOOD 副編集長。大学在学中は政治経済を学びながら難民支援や環境課題の解決に従事し、スウェーデンに留学。ウクライナ避難民の写真展を都内で開催。脱成長、紛争予防、自然観などを中心に執筆。(この人が書いた記事の一覧