子どものアイデアは、まちを変えられるか。湘南ベルマーレと地域企業がつくる「まざる」授業

2026.10.27

「私たちは、世界を変えられるだろうか?」 そう問いかけられて、「はい!」と即答できる人は、どれくらいいるだろうか。

筆者もこれまでなら、数秒迷った末に小さく頷く程度だったかもしれない。ただ、ある現場に足を運んだ今なら、はっきりとした声で即答できる気がしている。

9月の最終日。長雨が続くなか向かったのは、神奈川県茅ヶ崎市の東海岸小学校。ここで行われていたのが、Jリーグクラブの湘南ベルマーレと株式会社shikakeruが手がける「サステナトレセンProject.(サストレ)」だ。地域企業や行政、教育委員会、地域住民が手を取り合い、小学校の探究学習のなかで子どもたちが自らアイデアを考え、実践していく、次世代のサステナビリティ人財育成プログラムである。

プログラムは、約半年間かけて、「まなぶ」「えがく」「まざる」「うごく」の4つのステップで進んでいく。

  • まなぶ:湘南ベルマーレが各校を訪問し、サステナビリティやSDGsの考え方、地域の課題についてインプット
  • えがく:学んだ知識や地域企業の取り組みを参考に、「住み続けたくなる茅ヶ崎のまち」について自由にアイデアを発想
  • まざる:地域企業が加わり、子どもたちのアイデアに意見やアドバイスを送り、アイデアを磨き上げる
  • うごく:磨き上げたアイデアを、地域や企業と連携しながら実践する

この日開かれたのは、3つめのステップ「まざるセッション」。3年目を迎えた今年は初めて4年生が対象となり、地域でサステナビリティに取り組む企業・団体10社が集まった。食品メーカー、交通インフラ、電力会社、NPOなど、顔ぶれはさまざまだ。

テーマは、食品ロスや海・まちのごみ、緑化といった「環境」と、外国人や高齢者、障害のある人とともに暮らす「インクルーシブ」の2つ。「みんなが住み続けたくなるまちって、どんなまち?」という問いを出発点に、150人の子どもたちがグループに分かれ、事前に練ってきたアイデアを大人たちにぶつけていった。

アイマスクをつけて考えた、困りごとをなくすアイデア

なかでも印象的だったのが、「さわってわかる安全な階段」を考えたグループだ。子どもたちはアイマスクをつけて階段を歩き、「一歩踏み出すのも怖い」「上りのほうが怖かった」と体を通して実感したという。普段は意識しない階段の怖さに気づき、どうすれば誰もが安全に移動できるのか、想像力を膨らませていた。

サストレ

筆者撮影:サストレのセッションの様子

子どもと大人の対話から、次々と新しいアイデアが生まれていた。

「階段あと20段です」「次は右に曲がります」と周りの人たちが声をかけるのはどうだろう?
声をかける側の背中を押すなら、ポスターで呼びかけたり、残りの段数を階段にわかりやすく書いたりできるかもしれない。
湘南ベルマーレの選手が歩きスマホ防止を呼びかけるように、駅でのサポートを促す校内放送をしてみるのもいい。
手すりと点字をつけるなら、流木にやすりをかけたものや、自動車部品の廃材が使えないか。
エレベーターを置くなら、視覚障害のある人の歩行の邪魔にならない場所はどこか。
たくさん電力を使うなら、太陽光や水力などの自然エネルギーでできるだけ賄えないか。

アイマスクをつけて自ら確かめた子どもたちの実感に、企業や自治体の大人たちが、エレベーターや信号機の設置にかかるコストやエネルギーの負荷といった現実的な問いを重ねる。子どもたちはその問いを受け止め、自分たちなりの答えを探していく。どちらか一方だけでは生まれなかったやりとりが、アイデアを少しずつ現実に近づけていた。

会場には、そうした大きな仕組みの話と並んで、自分たちの足元から始められるアイデアもあった。同じく視覚障害をテーマにしたチームが考えた「ろうかすっきり作戦」だ。見えにくい人の歩行を妨げないよう、物の置き場所を決めて整理整頓する。自分たちの過ごす空間もきれいになり、みんなが歩きやすくなるという一石二鳥のアイデアだ。設備や予算をめぐる話から、今日から始められる小さな工夫まで。立場の違う人がまざる場だからこそ、アイデアの幅もこれほど広がるのだろう。

大人も子どもにつられて「変えられるかも」と思わされる

子どもたちに感想を尋ねると、「考えるのは難しかったけど、楽しかった」「勉強になった」という率直な声が返ってきた。このプロジェクトに関わるのは2回目という東海岸小学校の大國先生は、活動の良さをこう語る。

「普段の学校生活だけでは出会えない人や考え方に触れることで、子どもたちの視野がどんどん広がっていきます。大人の方から自分たちにはなかった視点をもらい、『そんな考え方もあるんだ』と気づく。その発見が、さらに考えたい、やってみたいという意欲につながっています。

何より、自分たちの考えを本気で受け止めてくれる大人がいることで、子どもたちも本気になる。子どもたちにとって、社会はただ学ぶ対象ではなく、自分たちも関わり、変えていける場所になる。そこに、この活動の大きな価値を感じています」

プロジェクト開始時から長く関わり続けてきた湘南ベルマーレ ブランド&メディア部長の風村ひかるさんも、子どもたちの姿から手応えと可能性を感じていた。

「今回初めて4年生を対象に行ったのですが、良い意味でアイデアが固まりすぎておらず、大人のアイデアやアドバイスと“まざる”のに良いタイミングでした。みんな前のめりで、誰一人取り残されず関わっていたような印象です。

大人の立場では、サステナビリティには責任や後ろめたさがつきまといがちですが、子どもたちが『変えられた』という手応えを得ている姿を見ると、『本当に何か変えられるかも』と、こちらこそ思わされました」

企業も、クラブも。『まざる』場が生むもの

参加した企業もまた、子どもたちとの対話から多くのものを受け取っていたようだ。昨年度に続いて参加した鈴廣かまぼこの今村さんと髙杉さんは、「海のごみ拾いをゲームにする」というアイデアが特に印象に残ったと話す。

「『やらなければいけない』を『楽しいからやりたい』に変える発想は、大人ではなかなか思いつかない、子どもならではの自由な視点だと感じました。子どもたちの『本気で実現したい』という姿に触れるたびに、私たちも力になりたいという思いが強くなります。これからも地域の企業として、子どもたちと一緒に考え、形にしていく姿勢で関わっていきたいです」

交通のバリアフリーなど、自社の事業とも関わりの深いテーマで子どもたちと対話した神奈川中央交通の横畠さんは、こう語った。

「地域に根差した湘南ベルマーレが中心にいることで、子どもたちが楽しみながら自分たちのまちを考える環境が生まれていると感じました。企業が単独で、サステナビリティの面から次世代の育成に関わるのは決して簡単ではありません。

地域の企業や行政、学校がそれぞれの知識や経験を持ち寄り、子どもたちの可能性をともに伸ばしていけることに大きな意義があります。子どもたちの率直な声は、自社の事業や地域との関わり方を見つめ直すきっかけにもなりました」

筆者撮影:考えてきたアイデアを大人たちや他の生徒に発表する様子

学校と企業が連携する探究学習は、ほかにも数多くある。では、サストレの中心にJリーグクラブがいる意味は、どこにあるのだろうか。

ひとつは、クラブが地域の「ハブ」になれることだ。サストレは、サッカークラブを中心に企業・地域・教育がつながる仕組みとして設計されている。普段は学校と接点のない企業も、地域に根差したクラブが間に立つことで、学校に足を運び、子どもたちと同じテーブルにつくことができる。クラブはここで、教育の専門家としてではなく、立場の違う人たちを「まぜる」つなぎ役を担っているのだ。

もうひとつは、クラブそのものが、地域のみんなにとって身近な存在であることだろう。この日の対話のなかでも、大人の側から、湘南ベルマーレの選手に呼びかけてもらってはどうかという提案が自然と出ていた。地元のクラブが旗を振ることで、子どもにとっても大人にとっても、地域の未来を考えることが、勉強や義務から「たのしいこと」へと変わっていく。

こうした「まざる」場は、すでに具体的な成果も生んでいる。2025年度は茅ヶ崎市内の浜須賀小学校・松浪小学校の2校で実施し、約300名の児童が参加。そこで生まれたアイデアの一部は、地域企業との協働により、実際のイベント開催や商品化といった具体的なアクションにつながっている。

そして2026年度からは、ガンバ大阪、レノファ山口FC、ギラヴァンツ北九州、アビスパ福岡が加わり、Jリーグ5クラブ・全国7校へと広がった。湘南で先行してきたこの取り組みは、全国に広がるサストレの先行モデルとなっている。

「難しかったけど、楽しかった」の先に

セッションの最後、全員で集合写真を撮るとき。スタッフの「世界はたのしく!」という呼びかけに続き、子どもたちと大人が揃って「変えられる!」と叫んだ。体育館いっぱいに響いたその声は、驚くほど力強かった。

もちろん、子どもたちのアイデアがすべて形になるわけではない。この日も、コストやエネルギーといった現実の壁に何度も向き合っていた。それでも子どもたちは「難しかったけど、楽しかった」と話していた。その姿を目の当たりにして、大事なのは、難しささえ面白がりながら、誰かとともに変えていくことなのだと感じた。

子どもたちの「まちを良くしたい」という純粋なパッションと、企業の持つ専門性や実現する力。その2つがまざり合うとき、一人では届かない場所にも手が届く。それは企業にとっても、個人にとっても同じだ。企業なら、自社の知見をまちの誰かの困りごとと掛け合わせてみる。個人なら、暮らしのなかの小さな違和感を、身近な人に話してみる。世界を変える一歩は、きっとそんな「まざる」ことから始まる。

冒頭の問いに、今ならこう答えたい。「はい。ただ、一人ではなく、誰かとまざりながら」と。

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この記事を書いたライター

大学時代、ヨーロッパで数年間過ごし、大学院では移民・難民研究(開発人類学)を専攻。その後、大阪の真ん中から海と山が近い千葉の里山に移住し、山の中の古民家でシェアハウス生活を送りながら、生態系の一部としての人間のあり方を模索している。農や飲食など「食」を通じた地域づくりや高校生への講師活動にも携わり、ライター業のかたわら人と人がつながる場づくりにも取り組む。2020年からIDEAS FOR GOODでの取材・執筆を続け、人間以外の視点にも寄り添いながら、日々の暮らしの感覚と社会の問いを地続きに捉える記事を届けている。最近のテーマは、目の前のものをじっくり感じ、味わい尽くすこと。曖昧なもの、わかりにくいものこそ大事にしたい。