日本が4連続受賞した「化石賞」って?賞の目的や各国の選出理由まとめ
「化石賞」とは?
「化石賞(Fossil of the Day)」とは、気候変動に関する国際交渉や対策に後ろ向きな役割を果たした国に贈られる、「不名誉」な賞。気候変動問題に取り組むNGOの世界最大のネットワークである、気候ネットワーク(CAN: Climate Action Network)が主催している。
この選考と授賞式は国連気候変動会議(COP)の期間中に行われ、特に日本のメディアの注目を集めている。「化石賞」は、その日の交渉中に、気候変動対策を後退させるような言動をした国を皮肉たっぷりに選んで贈られる。
「化石賞」は、1999年のドイツ・ボンで開催された気候変動枠組条約第5回締約国会議(COP5 / UNFCCC)において、初めて発表された。
2023年、アラブ首長国連邦のドバイで開催されたCOP28では、COP25以来4回連続で日本が受賞することが決まり、石炭火力発電所に対する取り組みが、気候変動改善のための国際的な動きに逆行するものであると指摘された。
「審査員」である気候変動ネットワークは、130か国以上から集まった1,800以上の団体で構成される、気候変動問題に取り組むNGOグループである。彼らは政府や個人に環境保護を働きかけ、気候変動を持続可能なレベルに抑えるための行動を促している。
COP28で日本が受賞した理由
COP28において、日本は今回初めての「化石賞」受賞国となった。その理由は、岸田首相が「排出削減対策の講じられていない」石炭火力発電所の新設を終了するという主張に基づく。
前提として、日本政府は現在、アンモニアや水素などを化石燃料の「移行燃料」と捉え、その使用によって排出量削減に取り組んでいると主張している。
つまり、脱炭素の一環として、燃やしてもCO2を排出しない水素やアンモニアに注目し、火力発電の燃料にアンモニアと化石燃料の混合燃料を使うことでCO2排出量を削減しようとしているのだ。
具体的な目標も設定されている。経済産業省の公式サイトによると、2030年までに石炭火力との混焼アンモニアを20%導入・普及させるという短期目標と、2050年までに混焼率の向上(50%)と混焼専用技術の実用化を目指すという長期目標がある。また、2030年の発電量の1%を水素・アンモニア由来とすることを目指している。
しかし、ここで3つの問題が浮上する。
- 2030年までにアンモニアを燃料として20%使用するということは、残りの80%が化石燃料であり続けることを意味する。
- 水素とアンモニアを化石燃料と混焼する技術はまだ開発途上であり、2030年までに20%のアンモニアが使用されるとは保証できない。
- そもそも水素やアンモニアを燃やすときにCO2が排出されなくても、アンモニアを製造するときに大量のCO2が排出されること。(現在、一般的なアンモニアの製造方法は、主にガスなどの化石燃料を使用している。最新の技術を用いても、1トンのアンモニアを製造する過程で約1.6トンのCO2が排出されている。同様に、水素も主に化石燃料から製造されることが多く、少なくとも現時点では「脱炭素」燃料とみなすことは不適切である。)
この文脈で、岸田首相が「排出削減対策の講じられていない」石炭火力発電所の新設を終了すると発言したことについて再考したい。
ここでのポイントは3つある。
- 石炭火力発電所は、アンモニアや水素を多少なりとも使用している(または使用しようとしている)場合、「排出削減対策あり」と見なされる可能性が高いこと。
- アンモニアまたは水素を使用する(または使用する予定がある)場合、石炭火力発電所の新設は容認されるということ。
- 既存の石炭火力発電所への言及がないこと。つまり、既存の石炭火力発電所を維持する方針と考えられる。
さらに岸田首相は、「アジア・ゼロ・エミッション共同体(AZEC)構想」をさらに拡大し、アンモニア混焼を東南アジア諸国に売り込む意向を表明した。
「CO2排出量削減」、「水素やアンモニアを利用したイノベーション」、「カーボンニュートラル」といったインパクトのある気休めの言葉ばかりで、実際には、少なくとも既存の石炭火力発電所にそのまま依存し、さらにアンモニアや水素を一部利用するという口実のもと、新たな石炭火力発電所を建設しようとしている。これは脱炭素化どころか、CO2の増加につながりかねない「グリーンウォッシュ」政策であるとして、「化石賞」という批判がなされた。
日本が過去に受賞した要因
COP27での受賞
エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されたCOP27でも、日本は「化石賞」を受賞。
受賞の要因は、日本が世界で最も多額の公的資金を化石燃料に投資している国であることだ。オイル・チャンジ・インターナショナルの報告書によると、2019年から2021年の間に日本は年間平均で約106億ドル(1兆5,900億円)、3年間で総額318億ドル(4兆7,700億円)の化石燃料への公的支援を提供していることが明らかになった。COP27での表彰はこの報告書に基づいて行われた。
日本のこの行動は、気候変動に対処するために急務な資金が必要な中で、気候を守るのではなく、むしろ壊すために巨額の公的資金を使用していることを示しており、世界の市民社会から厳しい批判を受けた。
COP26での受賞
英国、スコットランドのグラスゴーで開催されたCOP26においても、日本は「化石賞」を受賞した。
岸田首相が、「火力発電のゼロ・エミッション化」という表現を用い、火力発電を維持する意向を表明したことがこの受賞の要因となった。
世界は、気温上昇を1.5度未満に抑えることを目指す中で、石炭火力の廃止が不可欠とされている。COP26では、脱石炭が優先目標として掲げられていた。
それにもかかわらず、岸田首相は石炭火力の廃止や1.5度目標に触れることなく、むしろ火力発電の今後の必要性を強調し、国内だけでなくアジア全体で、アンモニアや水素を使った火力のゼロ・エミッション化への貢献を主張した。
十分な研究・開発が進んでいないこの技術を盲信し、それに依存した政策を進めようとしていること、そして実際のところは火力発電を拡大しようとしている日本政府に対し、CANは火力発電のゼロ・エミッション化という考え方を「妄想を抱いている」と非難した。
COP25での受賞
スペインのマドリードで開催されたCOP25においても、日本は「化石賞」を受賞した。
この受賞の理由は、梶山経済産業大臣が「石炭火力発電など化石燃料の発電所は選択肢として残していきたい」と発言したことにある。この発言は、地球温暖化が深刻化し「気候危機」とされ、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする必要性が喫緊の課題とされる中で行われたのだ。COP25では、この目標達成に向けた議論が焦点となっていた。
COP25の開幕前、国連環境計画(UNEP)は石炭火力発電所の建設中止を求める報告書を発表した。また、開会式では、グテーレス国連事務総長が石炭依存からの脱却を訴えた。この文脈において、日本の化石燃料への依存を示す発言は、世界に失望をもたらしたのである。
COP28での他の受賞国・地域の受賞理由は?
アメリカ
アメリカもCOP28で複数の「化石賞」を受賞した。同国は、世界最大の石油・ガス生産国であると同時に、ガス・石油製品の最大の輸出国であり、石油・ガス拡張計画の3分の1以上を担っている。COP28では、化石燃料を止めないことを支持し、それによって化石燃料の完全かつ迅速で公平な段階的廃止を採用する可能性を弱めていることが指摘された。
さらに、アメリカは資金調達の優先順位に関しても「化石賞」を受賞した。同国は他国への軍事援助に380億ドルを拠出する一方、損失と損害基金には1,750万ドルを拠出することを約束した。そのため、アメリカは気候変動による被害を補うことよりも、過剰な軍事支出や、2050年までに原子力発電能力を3倍に増やすことに資金を充てていると批判された。アメリカの寄付は「名ばかりの損失と損害の寄付」だと非難され、気候変動よりも紛争を煽ることを優先しているという評価を受けて、COP28の初日に受賞が決まった。
EU
EUが、新規合同数値目標(New Collective Quantified Goal: NCQG)の交渉に、「損失と損害」を含めることに反対し続けたことが、受賞の理由である(※)。CANは、「損失と損害」はNCQGに不可欠な部分であり、気候変動の影響を受ける人々のための長期的な資金を確保したくないというEUの意図が見えたと非難している。
COP28は化石燃料の時代を終わらせるための会議であり、各国がエネルギー転換のための資金を必要としている中、技術支援と資金援助がなされなくてはならない。EUや他の経済国からの支援がなければ、交渉の進展が停滞するという背景から、CANは「化石賞」にEUを選出した。
※ NCQGとは、経済国から途上国への新たな気候変動関連資金の2025年以降の金額目標のこと。
ロシア
ロシアへの「化石賞」は、ロシアが天然ガスを「移行燃料」とする見方を強調し、化石燃料使用を永続させようとする姿勢を批判するもの。
「移行燃料」は天然ガスを前提にしており、実際、COP28の成果文書にも「移行燃料」が盛り込まれた。EUは水面下でこの文言の盛り込みを支援したと言われている。
また、ロシアのカーボンニュートラル目標に関しての遅れや、損失と損害基金への誓約書の未提出など、取り組みに対する消極性を批判した。
そして、ウクライナ侵攻による温室効果ガス排出量は1億5,000万トンにのぼると言及。人権、平和、気候変動の関連性を強調し、「人権なくして気候の正義はない」と訴えた。
「宝石賞」
CANは不名誉な賞「化石賞」だけでなく、気候変動問題に対しての希望の光となる国々に「宝石賞(Ray of the Day)」を授与している。
COP28において、名誉ある「宝石賞」はコロンビアに与えられた。
コロンビアは、COP28におけるビヨンド・オイル・アンド・ガス・アライアンスへの参加と、化石燃料の段階的廃止に向けた対話の推進が評価された。また、人権、労働、ジェンダー、先住民の権利を重視し、市民社会の参加を促進したことも評価された。環境ガバナンスの民主的なビジョンへのコミットメントと、損失と損害、ジェンダー、適応、公正な移行などの分野におけるリーダーシップが認められ、今回の受賞となった。
批判は改善への期待
「化石賞」には、その国への批判と同時に改善への期待が込められていることを、CANは繰り返し強調している。化石燃料の完全廃止やすでに起きている気候危機への対策は極めて困難である。しかし、それを理由に市民を欺くような取り組みを進める事は適切ではないだろう。地球と人間の未来を真に守るためには、環境に配慮していると謳う政策やプロジェクトが本当に実現可能なのか、問題の本質を捉えているのかなど、現状を批判的に捉えることで改善を促す視点も重要となってくる。「化石賞」は、そのような視点を具現化したものである。
【参照サイト】「日本に「化石賞」 “気候変動対策に消極的” 国際NGOが発表」NHK
【参照サイト】「COP28現地発信:日本が「化石賞」を受賞しました」WWF ジャパン
【参照サイト】「日本に再び『化石賞』 COP28、石炭火力巡り」日本経済新聞
【参照サイト】‘FOSSIL OF THE DAY’. Climate Action Network International
【参照サイト】「COP28にて日本が再び『本日の化石賞』を受賞」Climate Action Network Japan
【参照サイト】「COP28にて日本が『本日の化石賞』をニュージーランド、アメリカとともに受賞」Climate Action Network Japan
【参照サイト】「日本が『本日の化石賞』を受賞 1.5℃目標の達成を阻む、石炭火力の延命に対する警鐘」Climate Action Network Japan
【参照サイト】「日本、『本日の化石賞』を受賞 岸田首相の演説で:COP26グラスゴー会議(2021年11月2日)」
【参照サイト】「日本、COP25マドリード会議で2度目の『化石賞』 小泉環境大臣、脱石炭も目標引き上げ意思も示さず、世界の要請にゼロ回答(2019/12/11)」
【参照サイト】「日本、COP25マドリード会議で『化石賞』受賞 梶山経産大臣の石炭火力発電推進発言で(2019/12/3)」
【参照サイト】「CAN-Japanとは」
【参照サイト】‘FOSSIL OF THE DAY AT COP28’ Climate Action Network International
【参照サイト】「水素・アンモニアこれからのエネルギー資源。~「2050年カーボンニュートラル」を達成するために~」独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構
【参照サイト】「水素・燃料アンモニア産業」経済産業省
【参照サイト】「【共同声明】日本政府のGX戦略は化石燃料まみれ 水素・アンモニア混焼およびLNGのような「誤った対策」ではなく真の脱炭素支援を」FoE Japan
【参照サイト】「石炭火力発電所の新規建設終了、温室効果ガス削減で-岸田首相」Bloomberg
【参照サイト】「【COP27】日本が化石賞を受賞しました」WWFジャパン
【参照サイト】「【COP26】日本が化石賞を受賞しました」WWF ジャパン
【参照サイト】‘FOSSIL OF THE DAY 02 NOVEMBER 2021 – NORWAY, JAPAN AND AUSTRALIA’ Climate Action Network International
【参照サイト】「COP25現地発信:日本が化石賞を受賞しました」WWFジャパン
【参照サイト】「[Media Advisory]日本、COP25マドリード会議で「化石賞」受賞 梶山経産大臣の石炭火力発電推進発言で(2019/12/3)」Climate Action Network International
【参照サイト】‘FOSSIL OF THE DAY 3 DECEMBER NEW ZEALAND, JAPAN, USA,’ Climate Action Network International
【参照サイト】‘TODAY’S FOSSIL OF THE DAY GOES TO THE WORLD’S LARGEST OIL AND GAS PRODUCER, THE USA!’ Climate Action Network International
【参照サイト】‘THE BIGGEST AND THE BADDEST, COLOSSAL FOSSIL GOES TO THE USA’ Climate Action Network International
【参照サイト】‘FOSSIL OF THEY DAY: ATTENTION EU: LOSS AND DAMAGE IS PART OF THE NCQG’ Climate Action Network International
【参照サイト】「COP26 における気候変動資金の進展」公益財団法人 地球環境戦略研究機関
【参照サイト】藤井良広「COP28『勝者』はロシア。天然ガス想定の『移行燃料』確保を合意に盛り込み成功。EUも暗黙の了承か。『化石燃料段階的廃止』論議は『目くらまし』(?)」一般社団法人環境金融研究機構 | Research Institute for Environmental Finance: RIEF