サイバーカスケードとは・意味

サイバーカスケード(cyber cascade)とは?
考えや思想を同じくする人々がインターネット上で集まり、異なる意見を排除し、一方向に偏った情報環境やコミュニティが形成される現象のこと。極端な思想が生まれやすくなる集団極性化の一種といわれる。
アメリカの法学者で、ハーバード大学教授でもあるキャス・サンスティーンが提唱した。カスケードとは連続して水が落ちる階段状の滝のことを意味し、人々がインターネット上である一つの意見に集約されていき、最終的には大きな流れになることを表している。
ソーシャルメディアの発展とともに顕著になり、情報の拡散によって特定の意見や価値観が形成され、短期間で社会に大きな影響を及ぼすことも起こりうる。政治的主張や陰謀論、災害や健康情報などあらゆる情報がサイバーカスケードとなる可能性があり、また個人で意思決定を行うよりも過激化、先鋭化する傾向がある。
エコーチェンバー(echo chamber)やフィルターバブル(filter bubble)との関連性
サイバーカスケードは、エコーチェンバーやフィルターバブルといった言葉とも関連している。これらの概念は、いずれも情報の偏りや意見の同質化を促進するもので、相互に影響し合い、情報の多様性を損なう可能性がある。
サイバーカスケードの事例や影響
選挙
2016年のアメリカ大統領選でのドナルド・トランプ氏や、2024年の兵庫県知事選での斉藤元彦氏はいずれも当初の支持率を覆し、SNS上で起こったサイバーカスケードによって当選したと指摘する声がある。SNS上でフェイクニュースや真偽のわからない情報などが拡散され、多くの有権者が偏った情報に基づいて意思決定を行うことで、政治すら変えてしまう可能性があることが懸念されている。
災害時
大規模災害が発生した際にもサイバーカスケードが起こることがある。2011年の東日本大震災の際に首都圏で起きた石油精製工場の爆発事故に対し『それが原因で有害化学物質を含んだ雨が降る』といったチェーンメールが出回り人々を不安に陥れた。また2014年の中越地震でも支援物資に関する不正確な情報がチェーンメールとして拡散され、結果として過剰な支援物資が届くことになり被災地に混乱をもたらした。
企業や団体の信頼性やブランドイメージ
2023年にアメリカで金融不安を引き起こしたシリコンバレーバンク(SVB)の破綻もサイバーカスケードが一因と言われる。破綻の要因は複合的ではあるものの、SNS上で同銀行の経営危機に関する情報が広がり、オンラインバンキングという特性も相まって、わずか48時間で預金の大半が流出し、経営破綻に追い込まれた。同行は破綻の約1か月前にはForbesによるアメリカのベストバンクにも選出されていたにもかかわらず、まさにSNSによる影響と破壊力を象徴している。
サイバーカスケードへの対策
サイバーカスケードは、上記事例のほかにも、急進的な差別意識や憎悪感情の増幅などにより、思いも寄らない事態を引き起こすことがある。影響を最小限に抑えるためには、以下のような対策が考えられる。
多様な情報源に触れる
ニュースなどを読む際に、特定のメディアやSNSだけではなく、異なる視点を持つ報道機関の情報に目を通すことが重要である。また可能であれば、一次情報まで遡って分析・判断することも必要だ。
検索ワードを工夫する
検索ワードを意識的に変えることはフィルターバブルの回避に有効だ。例えば、「○○の危険性」というワードで検索するとネガティブな情報に偏って表示される可能性があるため、「○○のメリットとデメリット」などバランスの取れたワードを使うことで、多角的な視点から情報を得ることができる。
ファクトチェックの活用
誤情報の拡散を防ぐには、ファクトチェックを習慣化することが重要だ。特に、信頼性の高いファクトチェックサイトを活用すれば、情報の正確性を素早く判断できる。例えば、日本国内では FactCheck Initiative Japanが、メディアや市民と協力して政治や社会に関する情報の検証を行っている。また、国際的なニュースの誤情報をチェックするAFP Fact Checkは、日本語を含む複数の言語で正確な情報を提供している。こうしたサイトを活用することで、誤情報を見極め、サイバーカスケードの影響を受けにくい情報環境をつくることができる。
まとめ
サイバーカスケードは、個人に対する情報の最適化や情報の拡散が加速する現代において、社会に大きな影響を与える現象だ。情報は正しく活用することで人々に利便性をもたらすが、必要としない情報に触れないでいることも簡単にできてしまう。情報を提供する側も受け取る側も常に客観性を持った取扱いが求められる。
【参照サイト】総務省|令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの
【参照サイト】NHK | ポスト真実Post-truthの時代とマスメディアの揺らぎ
【参照サイト】Wedge ONLINE | 斎藤元彦兵庫県知事再選が突きつけたデジタル時代の大手メディアとソーシャルメディアのあり方、民主主義はどこへ行くのか?
【参照サイト】朝日新聞 | シェアされた震災デマ否定 ソーシャル時代の新聞の意義
【参照サイト】Yahoo!ニュース | 「差別的な流言が広まりやすくなる懸念」「ネットだけでは被害状況はつかめない」首都直下地震で混乱をもたらさないためには #災害に備える
【参照サイト】ニッセイ基礎研究所 | 金融システムにおけるサイバーカスケード問題-シリコンバレーバンクの破綻事例から預金者行動について考える