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フィルターバブルとは・意味

フィルターバブル

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フィルターバブルとは?

フィルターバブルとは、過去のユーザー情報をもとに、各人に最適化されたインターネットコンテンツが表示されることで、似たような情報や、視点に囲まれてしまう状態のこと。2011年、アップワージー社のCEOイーライ・パリサーが著書の中で提唱した概念である。

インターネットには、ウェブサイトを訪れたユーザーを追跡する「トラッキング」機能、アルゴリズムによりユーザーの興味関心や検索傾向を分析し、コンテンツを選り分ける「フィルタリング」機能、そして、各ユーザーが見たいだろうと思われる最適化されたコンテンツを提供する「パーソナライゼーション」機能がある。

ユーザーの利便性を高めるためのこれらの機能により、ウェブページの表示はより個人好みのものになる。その一方で、個人が似たような情報に囲まれ、異なる意見が目に入らなくなる、すなわち偏った価値観の中でしか情報が得られなくなる。この状態を表現したのがフィルターバブルの概念だ。

なお、この文脈では、バブルという言葉は隔離の同義語であり、「泡の内部のように、外部と遮断された状態・区域・領域」「外部で起こっていることに気付いていない、あるいは、外部から影響を受けない状態(にある人々の集団)」を意味する。米国の情報サービス企業TechTargetが運営するフリー百科事典WhatIs.comの定義では、1970年代に免疫不全の若い患者を隔離するために使われたプラスチック製のバブル、「アイソレーター」と呼ばれる医療機器に由来する、と書かれている

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エコーチェンバーとの違い

フィルターバブルとよく一緒に語られるのがエコーチェンバーである。エコーチェンバー(echo-chamber)は直訳すると「反響室」を意味する。エコーチェンバー、または「エコーチェンバー現象」とは、自分と同じ意見があらゆる方向から返ってくる「反響室」のような狭いコミュニティで、同じような意見を見聞きし続けることによって、自分の意見が増幅・強化されることを指す。ツイッターなどのSNSやインターネット掲示板など「同じ趣味・思想の人とつながることができる」場で起こりやすい現象だ。サイバーカスケードとも呼ばれる。

ロイター・ジャーナリズム研究所は、エコーチェンバーとフィルターバブルの違いについてこう説明する

エコーチェンバーはフィルターバブルの一種といえるが、エコーチェンバーは一部の人が能動的に選択した結果である可能性もある。一方、フィルターバブルとは、私たちが能動的に選択することなく、受動的なパーソナライゼーション機能に基づいて生み出されるエコーチェンバーのことである。

フィルターバブルによって生じる問題

フィルターバブルのネガティブな側面には以下のものがあげられる。

多様な視点に触れる機会が限られる

フィルターバブルがエコーチェンバーを生み出すことで、自分の信念や意見が増幅・強化されるようなコンテンツにしか出会うことができなくなり、異なる意見を目にすることが難しくなる。このことは異なる意見に対する共感や理解の欠如につながり、社会分裂や分極化を招く可能性がある。

認知バイアスがかかる

認知バイアスとは「直観や先入観、自らの願望やこれまでの経験、他人からの影響によって論理的な思考が妨げられ、不合理な判断や選択をしてしまう心理現象のこと」を指す(出典元:認知バイアス|証券用語解説集|野村證券)。

アルゴリズムが欠陥のあるデータや偏った仮定に基づくフィルターバブルを作り出すと、認知バイアスがかかり、既存の偏見が強まったり、不公平な結果や差別的な結果につながったりする可能性がある。

フィルターバイアスは確証バイアスを助長する可能性もある。確証バイアスとは「自分の願望や信念を裏付ける情報を重視・選択し、これに反証する情報を軽視・排除する心的傾向」を指す(出典元:小学館 デジタル大辞泉)。これにより批判的思考が損なわれ、別の視点を考慮することができなくなる。

重要な情報に触れる機会が減る

フィルターバブルによって、重要性や関連性のあるコンテンツよりも娯楽性や人気のあるコンテンツが優先された場合、ニュースや時事問題など重要な情報に触れる機会が減ってしまう。

セレンディピティの欠如

フィルターバブルは、新しい予期せぬコンテンツを発見する機会を制限してしまう。その結果、セレンディピティ、すなわち偶然の産物と出会う機会が失われる。創造性と革新性の制限にもつながる。

フェイクニュースや誤った情報の拡散が加速する

フィルターバブルにより、人々は自分の信念に疑問を投げかける情報に遭遇しにくくなる。「やっぱりこうなんだ」と自分が信じるストーリーを裏付ける情報ばかりに出会うことで、批判的思考が損なわれるのだ。正確な情報と不正確な情報を区別できなくなることから、フェイクニュースや誤った情報が拡散するのを加速させることがある。

フィルターバブルの具体例

最も一般的な例には、ウェブ検索結果やソーシャルメディアのフィード、ストリーミング・サイトの映画や楽曲、YouTubeの動画、いくつかのニュースサイトで最初に表示されるコンテンツがあげられる。これらはアルゴリズムによって決定されている。

フィルターバブル内にいるかどうかを実感する簡単な方法は、友人に同じことを調べてもらうことだ。同じキーワードを検索したり、動画を見たりした後、検索結果や提案される動画を比較すると、必ずしもあなたが経験したものとは一致しないはずだ。

フィルターバブルを有名にした出来事といえば、2016年に行われた米国大統領選挙があげられる。2016年の大統領選挙では、マスメディアなどによる事前予想や直前の世論調査結果とは異なり、ドナルド・トランプ氏が勝利した。

前嶋和弘著『トランプ政権の対外政策と日米関係』(日本国際問題研究所、2020年)「第10章 さらに顕著になった『危機に瀕するアメリカのメディア』現象」によると、この大統領選挙直前には、主要メディアの選挙ニュースより偽の選挙ニュースの方がfacebookで多くのエンゲージメントを獲得していた、とある。選挙前3ヶ月間で、トランプ氏に有利とされる115ものフェイクニュースは約3,000万回シェアされ、ヒラリー・クリントン氏に有利とされる41のフェイクニュースも約800万回シェアされていた。

保守派とリベラル派のユーザーによってFacebookのフィードに変化が生じたことも度々話題にあげられる。ヴァージニア大学教授のブレント・キッチンズとスティーヴン・ジョンソンの研究によると、Facebookのアルゴリズムにより、保守派のユーザーが長期間にわたって、リベラル派のユーザーより圧倒的に過激なコンテンツに触れるよう仕向けられていることが明らかとなった。

2021年に起きた米国議会議事堂襲撃事件もまた、フィルターバブルの影響がうかがえる。2020年の大統領選挙でジョー・バイデン氏に負けたドナルド・トランプ氏の支持者の間で「選挙に不正があり、トランプ氏が落選した」というフェイクニュースが拡散された。一部の支持者たちがフィルターバブル内のフェイクニュースに触れ続け、その情報を信じたことによって引き起こされた事件ともいえる。

日本においては、新型コロナウイルス感染症の本格的な流行が始まった2020年の「トイレットペーパーが無くなる」というデマ情報が事例としてあげられる。独立行政法人国民生活センターのウェブマガジン「国民生活」に掲載された記事には、この騒動の主犯とされるデマ情報は、実はほとんど共有されていない、と書かれている。一方で多くの人がこのデマ情報を否定する投稿を発信したが、その結果、ソーシャルメディアやマスメディアを通じてデマ情報の存在が広く知られることとなり、トイレットペーパーが全国的に品薄・品切れ状態となる騒動の引き金となった。

フィルターバブルから抜け出す方法

まず、インターネットのシークレットモード機能を使うことがあげられる。ウェブブラウザには、シークレットモードやプライベートモードと呼ばれる機能がある。これは閲覧履歴やオンラインフォームに入力したデータが自動的に削除される機能だ。この機能を用いることで、フィルターがかけられていない状態での検索が可能になる。

ウェブサイトや接する情報による対策には以下のものがあげられる。

複数の情報源に触れる

池上彰著『池上彰の新聞勉強術』(文藝春秋、2011年)では、1つの情報をさまざまな視点から見るために2社以上の新聞を読むことが推奨されているが、複数の情報源から多角的に物事を見ることはフィルターバブルから抜け出すために有効といえる。インターネット以外の情報を活用することもおすすめだ。新聞や雑誌、書籍などの紙媒体、テレビやラジオなどの情報源を通じて、自分とは違う視点で情報を見るように心がけたい。

幅広い視点を提供することを目的としたニュースサイトを活用する

情報を得る際、幅広い視点を提供することを目的としたニュースサイトを活用することも重要だ。たとえばウォール・ストリート・ジャーナルやザ・ニューヨーカー、BBC、AP通信などのメディアはバランスのとれた世界観を提供することを掲げている。

ウォール・ストリートジャーナルが運営する「Blue Feed, Red Feed」は、同じトピックスにおける保守派とリベラル派のFacebook投稿が比較・表示されるものだ。青と赤、2つのフィードの情報を読み比べることで、多角的な視点を得ることができる。

同じく海外だが、「AllSides」というニュースサイトもある。1つのトピックスに対して、右派(Right)、左派(Left)、中立派(Center)の3つの視点の記事が掲載されているものだ。異なる視点の意見に自らアクセスすることができ、フィルターバブル外の情報に触れられる。

フェイクニュースを見分ける場合には「Snopes.com」のような事実検証サイトが有効だ。

フィルターバブルに飲まれないために

情報の泡に飲まれないためには、自身と反対の立場の意見に耳を傾ける機会をつくる、調べものをするときはいくつかの情報源にアクセスするなど、メディアとの向き合い方を普段から意識しておくことが大切である。そして自分自身に対して、「自分は幅広い情報に接しているだろうか」と自問することも重要だ。

【参照サイト】総務省|令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの
【参照サイト】What is filter bubble? | Definition from TechTarget
【参照サイト】Echo chambers, filter bubbles, and polarisation: a literature review | Reuters Institute for the Study of Journalism
【参照サイト】Digital Media Literacy: How Filter Bubbles Isolate You
【参照サイト】How Filter Bubbles Distort Reality: Everything You Need to Know
【参照サイト】Filter bubble: Definition and examples | NordVPN
【参照サイト】米大統領選挙の結果を受け、私たちにできること – 日本経済新聞
【参照サイト】第 10 章 さらに顕著になった「危機にするアメリカのメディア」 現象
【参照サイト】Facebookでニュースに触れ続けると、偏向した考えから抜けられない:研究結果が示す「フィルターバブル」の現実 | WIRED.jp
【参照サイト】SNSがきっかけとなった トイレットペーパー騒動
【関連記事】エコーチェンバー現象とは・意味




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