Enshittificationとは・意味
Enshittification(メタクソ化)とは?
Enshittification(メタクソ化)とは、オンラインプラットフォームがサービスの品質を徐々に低下させ、収益追求を優先する現象を指す。この言葉はカナダの作家コリー・ドクトロウ氏によって創作された造語だ。
この現象は、本来であればユーザーフレンドリーな体験を提供するように設計されているオンラインプラットフォームが、ユーザーのニーズよりも利益を優先するようになるにつれて、徐々に質が低下し、使い勝手が悪くなっていくプロセスを指す。このプラットフォームの衰退は多くの場合、広告の増加、搾取的なビジネス慣行、ユーザーの満足度から収益の最大化への焦点のシフトによって引き起こされる。
なお、Enshittificationは直訳すると「うんこ(shit)化すること」。日本語では統一された訳語はなく「メタクソ化」「改悪化」「カス化」「エンシット化」「ガラクタ化」などと表されている。
また、この言葉は、2023年にAmerican Dialect Society(アメリカ方言学会)から、2024年にはオーストラリア英語の辞書Macquarie Dictionaryから「今年の言葉」として選出されている。
これは、多くの人々が「デジタルサービスの劣化」を実感していることの表れといえよう。
Enshittificationのプロセス
コリー・ドクトロウは、Enshittificationの進行プロセスを下記の三段階で説明している。このモデルは、ベルリンに設立された技術系スタートアップ企業「tchop™」がウェブサイトにて分かりやすくまとめられている。
- ユーザー中心の段階
- ビジネス中心の段階
- 自己中心の段階
1.
この段階におけるプラットフォームの目標は、できるだけ多くのユーザーを引き付け、市場での足がかりを得ることだ。そのため、プラットフォームは多くのユーザーを惹きつけるためにポジティブなユーザー体験を提供することに注力する。手厚いインセンティブや無料サービスを提供することで、ユーザーが製品やサービスをストレスなく、一貫して利用できる状態を生み出すことを優先するのだ。「tchop™」は具体例として、広告なしで友人とのつながりを中心にした初期のFacebookや、顧客を呼び込むために割引や送料無料を提供したAmazonをあげている。
2.
プラットフォームが成長するにつれて、焦点はビジネス顧客(広告主や販売者など)の獲得へと移っていく。この段階においてプラットフォームはユーザーではなく、広告主や販売者などを優先し始めるため、ユーザーは微妙な変化に気づき始めることになる。たとえば広告が頻繁に表示されるようになったり、アルゴリズムがスポンサー付きのコンテンツを促進するようになったりする。
3.
この段階になると、プラットフォームはユーザーと企業の両方を利用して、自らの利益を最大化する。この時点で、ユーザーに体験の質は急降下する。ユーザーは圧倒的な量の広告にさらされるようになり、できるだけ多くの価値を引き出すように設計された不透明なアルゴリズムによって操作される。一方、企業もまたコストの上昇とプラットフォームへの投資に対するリターンの減少に直面することになる。たとえば、Facebookの広告主は上昇し続ける広告料と向き合うことを、Amazonの小規模販売者はAmazonの自社ブランド商品と競争することを余儀なくされている。
Enshittficationの代表例
ソーシャルメディアプラットフォームの変化
FacebookやInstagramは、かつては、無料で広く拡散できるSNSとして機能していた。しかし現在ではアルゴリズム変更により、企業やクリエイターは、オーガニック投稿だけでは十分なリーチを得にくくなっている。広告活用の重要性が増しているのだ。その結果、かつての「無料で広がるつながりの場」としての魅力は薄れてきている。
Twitter(現X)も同様のことがいえる。かつての魅力、リアルタイム性や公共性の高い空間といった形は失われつつある。イーロン・マスク氏による買収後、広告や有料認証(X Premium)を重視する設計となり、有料アカウントがアルゴリズムで優先表示されるようになった。結果、信頼性より収益性が優先され、一般ユーザーの投稿が埋もれやすくなったという指摘もある。
Google検索も、当初はシンプルで質の高い検索体験を提供していたが、近年は広告枠やAI要約の表示が拡大し、ユーザー体験に影響が出ているとの指摘がある。
デジタル・サービスにおける広告の増加
Amazonは当初、豊富な商品と迅速な配送でユーザーに支持されていた。しかし現在は、出品者が広告を出稿しなければ検索上位に表示されにくい構造が強まっており、検索結果にスポンサード商品が多く並ぶようになっている。そのためユーザーは目的の商品にたどり着きにくくなり、出品者も広告コストの負担が増している。
また、ストリーミング・サービスにおいてもEnshittficationが見られる。たとえば、アマゾンプライムビデオでは、すでに料金を支払っているユーザーに対しても広告が表示されるようになった。
価格の上昇とサービスの質の低下
Uberはローンチ当初、低価格と高いインセンティブで急成長したが、競合が減った後は価格の引き上げが進み、地域によってはドライバー報酬の低下や不安定化が指摘されている。その結果、ユーザーはコストの増加に不満を持ち、ドライバーの待遇も悪化したことで、プラットフォーム全体の満足度が低下することとなった。
Airbnbも、初期はホテルに代わる安価な宿泊手段として機能していたが、近年は価格が上昇傾向にある。
ゲーム開発プラットフォームのUnityはこれまで、無料または低料金でゲームエンジンを提供し、インディー開発者を支援してきた。しかし2023年に従量課金型の新ライセンス制度を導入する旨を発表。過去作にも遡って課金対象とする方針が反発を招いた(最終的には開発者たちの反発を受け、方針を修正している)。
Enshittficationはなぜ起きてしまうのか
Enshittficationを提唱したドクトロウ氏は、これは偶然の産物ではなく、プラットフォームが意図的に進めている戦略だと指摘する。広告の増加、アルゴリズムの操作、API制限などを通じて、かつての「開かれたインターネット」は「利益中心の閉鎖的なエコシステム」に置き換わっているのだ。
この背景にあると考えられるのが「chokepoint capitalism(ボトルネック資本主義)」という構造だ。
chokepoint capitalismは同氏と法学者であるレベッカ・ギブリンが提唱した概念で、巨大プラットフォーム企業が市場の「狭い通路(chokepoint)」を支配し、供給者(クリエイターや中小企業)と消費者を挟み込んで、不公平な収益配分を強いる構造を指す。
言い換えれば、巨大プラットフォームは、ユーザーや出品者(クリエイターや中小企業など)、そして株主の三者のあいだで「誰からどれだけ搾り取れるか」という視点で動いている、ということだ。
プラットフォームが成長するにつれて、投資家により高い利益を提供する必要が生じ、その結果、短期的な利益を優先して、長期的な健全性を犠牲にする決断が下されてしまうのだ。
Enshittficationを推し進めるもの
Enshittficationを推し進めてしまうメカニズムには以下の3つがあげられる。
独占力
プラットフォームが市場を掌握し、ユーザーや企業に代替手段をほとんど与えない。いったんユーザーが囲い込まれると、プラットフォームは自由にエクスペリエンスを低下させることができてしまう。
データ抽出
プラットフォームはしばしばユーザーデータを収集し、収益化する。このデータは、ユーザーの幸福よりも利益を優先するターゲット広告を促進してしまう。
アルゴリズム操作
アルゴリズムは、多くの場合、センセーショナルまたは偏向的なコンテンツを促進することによって、エンゲージメント(したがって広告収入)を最大化するように設計されている。
Enshittficationを止めるために
Enshittficationは、プラットフォームに対する信頼の喪失やユーザーの不満などを引き起こす。そして最終的にはEnshittficationを推し進めるプラットフォームにもダメージを与える可能性がある。人々がより良い体験を提供する代替手段を求めることにより、プラットフォームのユーザーベースの減少につながる可能性があるからだ。
しかし、ドクトロウ氏はEnshittficationは避けられないものではないと明言する。
Enshittficationへの対策を以下に示す。
- ネットサービスの基本となる技術やプロトコルを「誰でも使える」形(=オープン)にして、特定企業に依存しないようにする
- 巨大プラットフォームの独占状態に対抗するために、法律によって競争を促す
- アルゴリズムの中身をもっと透明にし、ユーザー自身が表示される情報を選べるようにする
- クリエイターたちが協力し合って「協同組合」のような仕組みをつくったり、より強い交渉力をもつために労働運動のような形で団結する
デジタルサービスを含むテクノロジーの未来は、個人が独立して活動し、直接ユーザーとつながり、中央集権ではない形でつながりを築けるかどうかにかかっている。
【参照サイト】Pluralistic: How monopoly enshittified Amazon/28 Nov 2022
【参照サイト】Among Linguists, the Word of the Year Is More of a Vibe
【参照サイト】Australia’s Macquarie Dictionary picks ‘enshittification’ as word of 2024 | News | Al Jazeera
【参照サイト】‘Enshittification’: What does Australian dictionary’s Word Of The Year mean? | Euronews
【参照サイト】What Is ‘Enshittification,’ Australia’s Word of the Year? – Newsweek
【参照サイト】Macquarie Dictionary names ‘enshittification’ as 2024 Word of the Year. But what does it mean? – ABC News
【参照サイト】Enshittification: how social networks and platforms decline
【参照サイト】Enshittification of Technology Platforms | by Mark Carey | Medium
【参照サイト】Enshittification 💩 Why the internet stinks now
【参照サイト】What is Chokepoint Capitalism?
【参照サイト】There’s a reason why it feels like the internet has gone bad | CNN Business