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性別不合とは・意味

性別違和

性別不合とは?

性別不合(Gender Incongruence)とは、WHO(世界保健機関)が世界中の医療・保険従事者に向けて作成した基準「ICD-11(国際疾病分類第11版)」のなかに登場する言葉。出生時に割り当てられた性別と、自身の持つジェンダーの認識が一致しておらず、持続的に違和感を持っている状態を指す。

たとえば、生物学的には女性の身体でも、自分自身の性を男性だと認識している人や、出生時に割り当てられた性別が男性でも、そこに継続的に違和感・不安定感を持つ人などが挙げられる。Science Directに掲載された論文によると、性別不合の多くは思春期に感じられるという。

性別不合の状態は、かつては「性同一性障害(Gender identity disorder)」と呼ばれていた。2022年現在は、性同一性障害という言葉ではなく、性別不合や、アメリカ精神医学会(APA)などが定義する「性別違和(Gender dysphoria)」と表される。

多様な性の存在は、病気とされていた

世界には、性を「男」と「女」のどちらかに分類する二元的性別概念以外にもさまざまな概念がある。たとえば、インドやパキスタンなどの南アジアにおける、男性でも女性でもない第三の性「ヒジュラ」や、ハワイの「マフ」(ハワイ語で第三の性を表す)などの多様な存在が知られている。

その一方で、近代以降の精神医学では、非典型的なジェンダーアイデンティティや性的指向などは「治療すべき」対象とされてきた。たとえば同性愛は、性的倒錯という精神疾患に位置付けられていた。同性愛は、1960〜70年代の非病理化運動を経て、1987年に国際的診断基準から削除され、精神疾患とは見なされていない。

性同一性障害から性別違和・性別不合へ

かつての名称である性同一性障害は、2010年10月10日発行の「六訂版 家庭医学大全科」によると 「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別であるとの持続的な確信をもち、かつ、自己を身体的および社会的に別の性別に適合させようとする」障害 ”と解説されている。

そんな「性同一性障害」の名称は、世界で代表される精神疾患に関わる以下の疾病分類、

  • 米国精神医学会発行のDSM(Diagnostic and Statistical Manual Disorders 精神疾患の診断 ・ 統計マニュアル)
  • 世界保健機構(WHO)が作成する ICD (International Statistical Classification of
    Disease 国際疾病分類)

の2つにおいて、2013年にはDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版)で「性別違和」に、2019年にはICD-11(国際疾病分類 第11版)で「性別不合」に変更された。ICD-11では名称の変更だけでなく、精神疾患の分類から外された。

性別不合と性別違和の違いとは?

性別不合(Gender Incongruence)も性別違和(Gender Dysphoria)も、その言葉が表すものに大きな違いはない。たとえば米国精神医学会は、性別違和(Gender dysphoria)を「出生時に割り当てられた性別と自分の性自認との間の不一致から生じる心理的苦痛」としている。

しかし性別不合の場合は、精神疾患ではなく、「性の健康に関する状態」の項目に含まれているのに対して、性別違和は、米国精神医学会による精神疾患だけのリスト(DSM)に含まれており、医療保険を受けやすくしている。

性別違和が精神疾患の診断・統計マニュアルであるDSMに含まれることに違和感を覚える人がいるかもしれない。

確かにDSMは主に臨床医や研究者が精神障害の診断と分類のために使用するものだが、米国精神医学会は性別違和に関する項目にて「多様な性表現は、多様な性自認と同様に、精神障害を示唆するものではありません」と述べている。

もちろん、出生時の性別と自身の性自認の不一致は病気ではないという流れは進んでいる。ICDはDSMとは異なり、精神疾患だけの疾病分類ではない。性同一性障害は「第6章、精神・行動・精神発達の障害」から外れ、「第18章、性の健康に関する状態」に移り、その名称はなくなった。

このことにより性別不合は精神疾患ではなくなったし、疾病分類のリストには残ることで、当事者が望めば、従来通り、ホルモン療法や外科的手術などの医療行為を受けることができる。

まとめ

心と体の性が一致しないことの名称が「性同一性障害」から「性別不合(性別違和)」へと変わり、病気という扱いではなくなった。そして先でも述べたように、当事者が望めば医療行為を受けることはできる。

ただし世界各国で、性別の変更や名前の変更など、当事者が自ら望む性で暮らすために設けられている制度は対応が異なる。特に、性別の変更については生殖能力をなくす手術の必要性について議論が続いている。

2014年にはWHOが性別変更のために手術を受ける必要性について反対する声明を発表し、2017年には欧州人権裁判所が「性別を変更するために生殖能力をなくす手術を課すことは人権侵害である」とする判断を下した。

アメリカでは、手術を受けなくても性別を変更できる州や手術を受ければ変えられる州、性別の変更を認めない州など、州ごとに対応が分かれている。

日本の場合、2003年に成立した現行の法律(性同一性障害者特例法)によると、手術を受けなければ戸籍上の性別を変えることはできない。また、日本学術会議が2020年9月に発表した提言では、“生殖不能要件を廃止することを提案する”と記載している。

「性同一性障害」から「性別不合(性別違和)」と呼ばれるようになり、「本人の望む性」を尊重する流れがあるなか、日本どう動くのか。引き続き注目していきたい。

【参照サイト】Gender incongruence and gender dysphoria in childhood and adolescence—current insights in diagnostics, management, and follow-up
【参照サイト】WHO/Europe | WHO/Europe brief – transgender health in the context of ICD-11
【参照サイト】Psychiatry org. – What is Gender Dysphoria?
【参照サイト】性同一性障害を「精神障害」の分類から除外へ WHO|NHK – サイカルジャーナル
【参照サイト】ジェンダーの多様性をめぐる概念の登場と変遷 – J-Stage
【参照サイト】性の多様性,性同一性障害について – J-Stage
【参照サイト】法的性別変更に関する日本及び諸外国の法制度

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