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ポスト・トゥルースとは・意味

ポストトゥルース

ポスト・トゥルースとは

ポスト・トゥルース(post-truth)とは、世論形成という点で、個人の感情や信念の方が、客観的事実よりも人々の意見に影響力を持つ状況を意味する言葉である。日本語で「ポスト真実」「脱真実」と表されることもある。

オックスフォード辞典によるポスト・トゥルースの定義を直訳すると「感情や個人的信念に訴える事象と比べて、客観的事実が持つ世論形成への影響力が弱い状況に関連する、またはそれを示すこと」となる。

ポスト・トゥルースという言葉ができるまで

ポスト・トゥルースという言葉は、辞書を出版するイギリスのオックスフォード大学出版局が毎年11月に発表する「Word of the Year」(日本でいう「流行語大賞」)にて、2016年に大賞に選ばれた。

しかし、現在の意味でのポスト・トゥルースという言葉が初めて使われたのは、1992年に遡る。1992年、アメリカの週刊誌『ネイション(The Nation)』で、セルビア系アメリカ人劇作家のスティーブ・テシックがウォーターゲート事件とイラク戦争について書いたエッセイの中で以下のように述べた。

“we, as a free people, have freely decided that we want to live in some post-truth world”.
私たちは自由な国民として、あるポスト真実の世界に生きたいと自由に決めた。

なお、イギリス・ガーディアン誌の記事によると、「ポスト・トゥルースという言葉はテシックの記事以前にも使われていた形跡があるが、『真実が知られた後』という意味合いで用いられており、真実そのものが無意味になったという新しい意味合いでは使われていなかった」と書かれている。同記事で、オックスフォード大学出版局は近年、接頭辞“post-”の意味が広がっていることを以下のように指摘している。

「post-truthでは、“post-”が戦後や試合後のように、特定の状況や出来事の後の時間を単に指すのではなく、『特定の概念が重要でなくなった、あるいは無関係になった時間に属する』という意味を持つようになった」

このニュアンスは20世紀半ばに生まれ、post-national(1945年)やpost-racial(1971年)といった形で使われてきたという。

時を経て、ポスト・トゥルースは概念的な発展を遂げる。2004年、アメリカ人作家のラルフ・キーズが『ポスト真実の時代(The Post-Truth Era)』という本を出した。キーズは当時、私たちがポスト・トゥルースの時代に生きているのは、その信条が私たちの間に定着しているからだと指摘し、装飾された情報が、真実そのものよりも真実であるかのように提示されることを示した。

2016年、ポスト・トゥルースは「Word of the Year」に選ばれ、広く知られるようになった。ポスト・トゥルースが選ばれた背景には、2016年のこの言葉の使用される量が前年と比較して約2,000%増加したことが挙げられている。使用量が急増した背景には、同年イギリスで行われたブレグジット(EU離脱)の国民投票、アメリカの大統領選挙があげられている。

ポスト・トゥルースを生み出す社会的背景

ポスト・トゥルースという概念が言語的な足場を固めつつある背景には、ニュースソースとしてのソーシャルメディア(SNSやブログ、電子掲示板など)の台頭と、既成事実に対する不信感の高まりがあげられる。

ソーシャルメディアそのものは悪ではないものの、メディアの悪用が、ポスト・トゥルースを生み出す要因とされる。スペイン・ナバーラ大学のマルティン・モントヤ・カマーチョ教授は「ポスト・トゥルース時代は、インターネット上のコミュニケーション・プラットフォームに毎日アップロードされるほとんど中傷に近い侮辱的なコメントや、同じメディア・ソースに投稿されるコメント(多くの場合、匿名)を通じて機関の信用を落とすような、インターネット上のフェイク・ニュースの拡散を指す」と記している

SNS(Social Networking Service:ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及も原因としてあげられる。SNSの普及により、個人的な意見を誰でも簡単に世に表明できるようになり、多くの情報を瞬時に拡散できるようになった。しかし、個人的な意見の影響力が強まったこと、フェイクニュースなど事実と異なる情報が短時間で世界中に広まってしまうことから、オールドメディア(テレビやラジオ、新聞、雑誌など)の影響力が相対的に低下し、客観的事実が軽視されるようになったともいえる。

またガーディアン誌の記者であるキャサリン・ヴィナーは「How technology disrupted the truth(テクノロジーはいかに真実を破壊したか)」という記事の中で、ポスト・トゥルースの背景には特定の社会的・政治的スタンスを代弁する一部のデジタルメディアにおける意図的な事実誤認があることを指摘する

一部のデジタルメディアにおける意図的な事実誤認の他、飯田豊『SNSをめぐるメディア論的思考-常時接続社会におけるマスメディアとの共振作用-』(通信ソサイエティマガジン No.52 春号、2020年)で取り上げられている「ネットの不安や憎悪を拡散する」テレビのニュースや、若年層の間で、検索エンジンに対する信頼性の低下、一部のまとめサイトに対する忌避感などが影響し、SNSで情報を発信している主体のうち、最も信用できるのは「友人」という状況が生まれたことも、既成事実に対する不信感を高めることにつながっているといえる。

加えて、ガーディアン誌のヴィナー記者は、「フェイスブックやグーグルなどの検索エンジンのニュースソースに供給されるアルゴリズムが、大衆が望むものを提供するように設計されているため、私たちが毎日、ポータルサイトを開いたり、検索エンジンで検索したりする時に見つける世界の情報が、閲覧者の信念を強化するように、目に見えない形でフィルタリングされている」と説明する。

ポスト・トゥルースの具体例

ポスト・トゥルースの具体例には、SNSによるフェイクニュースの拡散などがあげられる。そして「ポスト・トゥルース政治」と呼ばれるものもまた具体例の一つだ。

ポスト・トゥルース政治(Post-Truth Politics、ポスト真実政治、ポスト事実政治、ポスト現実政治とも呼ばれる)は、政策の詳細から切り離された感情への訴えや、事実に基づく反論が無視される論点を繰り返し主張することによって、議論が大きく組み立てられる政治文化を指す。

ECPS(The European Center for Populism Studies:欧州ポピュリズム研究センター)のウェブサイトには、2018年時点で政治評論家たちが、オーストラリア、ブラジル、インド、ロシア、イギリス、アメリカなど多くの国でポスト・トゥルース政治が台頭していると指摘している、とある

ポスト・トゥルース政治は、他のポスト・トゥルースの議論分野と同様に、ニュースが24時間ひっきりなしに配信されることやバランスの誤った報道体系、ソーシャルメディアがますます偏在化していることなどの複合的な要因によって引き起こされている。

なお、ポスト・トゥルース政治は現代の問題として語られることが多いが、インターネットや関連する社会的変化の出現以前にはあまり目立たなかっただけで、長年にわたる政治のありかたの一部であると評する専門家もいる。

ポスト・トゥルースへの対策

個人であっても、マスメディアにおいても、情報リテラシーを高めることが求められる。以下は、ポスト・トゥルースを取り巻く現状と、考えられる対策である。

ファクトチェック(事実確認)についての取り組み

情報リテラシーを高める方法の一つに「ファクトチェック」があげられる。総務省はファクトチェックについて「社会に広がっている真偽不明の言説や情報が事実に基づいているかを調べ、正確な情報を人々と共有する『真偽検証』活動」と定義づけている。

アメリカでは2007年から「ポリティファクト(PolitiFact)」というサイトが活動している。ポリティファクトは2008年、St. Petersburg Timesの名称で活動していた頃、大統領選挙に関する750以上の言説を検証したことで、優れたジャーナリズムをたたえるピューリッツァー賞を受賞している。2015年には、国際ファクトチェッキング・ネットワーク(IFCN)という団体が設立された。「Snopes.com」のような事実検証サイトもある。

日本で総務省が2023年7月4日に公開した「情報通信白書」では、日本は他国と比べて、「ファクトチェック」自体の認知度が大幅に低いことが明らかとなっている。

もちろん、ファクトチェックは万能ではない。谷口将紀『問われる政治とメディアの緊張感』(わたしの構想 第31巻 p.4-7、2017年)の一文を以下に引用する。

もちろん、ファクトチェックにも課題は残る。虚偽が広まる前に正確な検証を行うスピードとコスト負担の両方が必要な上、検証結果が「この部分は正しいが、その部分は誇張、あの部分は誤り」などと読みづらい記事になってしまうこともしばしばだ。さらに、真正性よりも自分との親和性を情報選別の基準にする人びとが、ファクトチェックを受け入れるとは限らない。

信頼できる情報を見分けるために、できること

目の前の情報が「偽」か「本物」かを見分ける術はない。すべての情報には、時にはデータでさえも、発信者のバイアスが含まれているからだ。

しかし、日々の情報収集のなかで対策をすることはできる。アメリカ・ベネディクティン大学はファクトチェックのスキルを身につける方法と題し、フェイクニュースの見分け方を紹介している。

まず勧められているのは、その記事を書いた記者の資格や経歴を確認することだ。フェイクニュースを書いた記者が、記事に関係する分野の専門家かどうか、現在その分野で働いているかどうかを確認し、著者がその記事の内容を正確性をもって語れるかどうかを確認する。

記事の情報源を確認することも重要だ。記事で情報源が引用されている場合には、それを確認する。公式団体のように見えて、実は偏ったシンクタンクであったり、大勢の人々のほんの一部の意見しか表していなかったりする場合もある。出典が見つからない場合は、そのトピックについてできるだけ多くの記事を読み、すでに世に出ている情報と照らし合わせ、その記事が正確かどうかを判断していく。

また、以下のような内容がファクトチェックには有効だとして挙げられている。

  • 会社概要を読む:そのリソースに「どのような会社/団体が運営しているか」の情報はあるか。ページ上部のタブにある場合もあれば、ページ下部のリンクにある場合もあるが、会社概要や連絡先が記載されていることを確認する。合わせて、記載されている会社概要を読む
  • 日付を確認する:卵や牛乳のように、情報にも賞味期限がある場合がある。その記事が最新の情報か否かを確認する
  • URLを調査する:近年、ドメインが操作されているのをよく見かける。例えば、.eduドメインのように見えて、その後に.coや “lo”がついているものは、偽サイトや欺瞞的なサイトである可能性が高い。 有名なURLによく似た、少し変わったドメインを見かけたら、少し調査してみよう。センセーショナルな内容を疑う:センセーショナルな内容の記事や投稿を見かけたら、疑うことが重要だ。大文字を多用した誇張された挑発的な見出しや、感情的な表現には注意したい
  • 自分に厳しい判断をする:もしあなたが読んでいるものが、事実にしては出来すぎていたり、極端に自分に都合の良すぎる情報であれば、疑ってみるといい

他にも、「ブラウザでニュース記事を開いたら、2つ目の空のタブを開く」というアイデアもある。これは2つ目のウィンドウを使って、記事中に出てきた主張、著者の資格、団体を調べることを推奨するものだ。

調べ物をする際には、検索する際の自分の態度や偏りをチェックするよう、注意が呼びかけられている。検索する際には、「検索するキーワードに偏りはないか?」「 自分の信念を裏付ける情報に注意を払い、そうでない証拠を無視していないか?」と自分に問いかけてみよう。

視点の偏りを知る際に便利なウェブサイトには、例えばウォール・ストリートジャーナルが運営する「Blue Feed, Red Feed」と「AllSides」というニュースサイトがあげられる。「Blue Feed, Red Feed」では、一つのトピックスに対する保守派とリベラル派のフェイスブックの投稿を確認でき、「AllSides」では、右派、左派、中立派の異なる視点の意見にアクセスできる。

「写真を疑え」ともある。すべての写真が真実を語っているわけではない。グーグルの逆画像検索は、画像の出所やその可能性のあるバリエーションを発見するのに役立つ(この拡張機能を使用すると、検索した画像がどのウェブサイトからのものであるかを見つけることができる)。

ポスト・トゥルースとの付き合い方

最後に、ベネディクティン大学のユニークな文言による注意喚起を紹介する。

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』でマッド=アイ・ムーディが言ったように「不断の警戒!」 常に事実確認の準備を怠らないこと。

ポスト・トゥルースは、客観的事実よりも感情的要素の方が人々の意見形成に大きな影響を与えうる状況を示しているが、客観的事実を受け取る前に感情的要素に飲み込まれそうになったら、目の前の記事やメディアを、そして自分自身が感情的になり過ぎていないかを一度疑ってみてほしい。

【参照サイト】The era of post-truth, post-veracity and charlatanism. Grupo Ciencia, Razón y Fe (CRYF). Universidad de Navarra
【参照サイト】‘Post-truth’ named word of the year by Oxford Dictionaries | Reference and languages books | The Guardian
【参照サイト】The Post-Truth Era: Dishonesty and Deception in Contemporary Life
【参照サイト】SNSをめぐるメディア論的思考
【参照サイト】How technology disrupted the truth | Media | The Guardian
【参照サイト】Post-Truth Politics – ECPS
【参照サイト】〈ポスト真実〉の時代としての現代
【参照サイト】ポスト・トゥルースの時代とは
【参照サイト】日本におけるファクトチェック活動の現状と課題
【参照サイト】2.2 各地のファクトチェック活動 ①ポリティファクト (PolitiFact)
【参照サイト】情報通信白書(令和5年版)
【参照サイト】Media Literacy or Fake News: Develop Your Fact-Checking Skills – Research Guides at Benedictine University Library
【参照サイト】Media Literacy or Fake News: Develop Your Fact-Checking Skills: Tips & Tricks

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