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スチュワードシップ・コードとは・意味

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スチュワードシップ・コードとは?

スチュワードシップ・コードとは、金融機関を中心とした機関投資家のあるべき姿や行動を示した指針のことである。日本では「『責任ある機関投資家』の諸原則」とも呼ばれる。

投資先企業の価値を向上させて受益者のリターンを最大化するために、機関投資家と投資先企業の建設的な対話を促すことが目的である。スチュワードシップ・コードは投資家にとってのガイドラインであるのに対して、コーポレートガバナンス・コードは企業にとってのガイドラインであり、両者が車の両輪となって機能することで経済全体の成長に繋がることが期待されている。

スチュワードシップ・コードの受け入れを表明した機関投資家にはスチュワードシップ責任が求められる。機関投資家が投資先企業との「目的を持った対話」を通じて、企業価値の向上や持続的成長を促すことで、顧客や受益者にとっての中長期的なリターンの拡大を図ることが必要とされ、スチュワードシップ責任を果たすための機関投資家の行動を「スチュワードシップ活動」という。

スチュワードシップ・コード制定の経緯

スチュワードシップ・コードは、金融機関による投資先企業の監視といったコーポレートガバナンス向上の取り組みが不十分だったことが1つの要因で起こったリーマン・ショックの反省から、2010年に英国で始まった。日本では、安倍政権の「第三の矢」における「日本再興戦略」でその必要性が議論され、2014年2月に金融庁が中心となって策定した。その後、2017年5月と2020年3月に2回の改訂を経て、2021年6月時点でスチュワードシップ・コードの受け入れを表明している機関投資家の数は300を超えている。

2種類の機関投資家

スチュワードシップ・コードにおける機関投資家には以下2つの種類がある。

  • 運用機関(資産運用者)
  • 企業資産の運用等を受託し、自らが企業への投資を行う機関のこと。投資先企業との日々の建設的な対話を通じて、企業価値の向上に寄与することが期待されている。

  • アセットオーナー(資産保有者)
  • 企業経営のために必要な資金を出す機関のこと。スチュワードシップ責任を果たす上での基本的な指針を示し、自らあるいは委託先の運用機関を通じて企業価値の向上に寄与することが期待されている。

    運用機関はアセットオーナーの期待を汲み取り、アセットオーナーは運用機関を評価する際、短期的な視点だけでなく、スチュワードシップ・コードを踏まえた評価に努める必要がある。アセットオーナーは運用機関と比べて企業に対してより間接的な立場だが、運用機関は企業とアセットオーナー双方の意向を尊重する必要があり、二重の責任が伴う。

    2020年の改訂では、機関投資家が実効性のあるスチュワードシップ活動を行うためのサービスを提供する主体(以下、機関投資家向けサービス提供者)の存在と意義について触れられており、投資資金の流れ全体を踏まえたステークホルダー全体の機能向上にとって重要な役割があるとされている。

    日本における8つの原則

    スチュワードシップ・コードは、機関投資家に求める詳細な行動(rule)を規定するのではなく、原則を示すことで投資家それぞれが置かれている状況に照らし合わせて、自らが適切だと判断した行動をとれるように「プリンシプルベース・アプローチ」を採用している。したがって、法的な拘束力はない。

    以下に日本版スチュワードシップ・コードの8つの原則を示す。1から7までは機関投資家向けの原則であり、8は2020年3月に行われた2度目の改訂で追加された、機関投資家向けサービス提供者を対象とした原則である。

    <機関投資家が対象>
    1. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たすための明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

    2. 機関投資家は、スチュワードシップ責任を果たす上で管理すべき利益相反について、明確な方針を策定し、これを公表すべきである。

    3. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を的確に把握すべきである。

    4. 機関投資家は、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を通じて、投資先企業と認識の共有を図るとともに、問題の改善に務めるべきである。

    5. 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。

    6. 機関投資家は、議決権の行使も含め、スチュワードシップ責任をどのように果たしているのかについて、原則として、顧客・受益者に対して定期的に報告を行うべきである。

    7. 機関投資家は、投資先企業の持続的成長に資するよう、投資先企業やその事業環境等に関する深い理解のほか運用戦略に応じたサステナビリティの考慮に基づき、当該企業との対話やスチュワードシップ活動に伴う判断を適切に行うための実力を備えるべきである。

    <機関投資家向けサービス提供者が対象>
    8. 機関投資家向けサービス提供者は、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすに当たり、適切にサービスを提供し、インベストメント・チェーン全体の機能向上に資するものとなるよう努めるべきである。

    スチュワードシップ・コードの受け入れを表明した企業は、上記すべての原則をかならずしも遵守する必要はない。一部の原則を遵守しない、もしくはできない理由を説明することでスチュワードシップ責任は果たしているとみなされる点が特徴であり、「コンプライ・オア・エクスプレイン」と呼ばれる。

    コンプライ・オア・エクスプレインの手法を採用している理由は、各原則の文言を表面的に捉えて、形式が先行しないようにするためである。スチュワードシップ・コードを受け入れる企業はウェブサイトで公表し、毎年の見直しと更新を求めている。

    実情と課題

    スチュワードシップ・コードを受け入れることで、企業は機関投資家との対話を通じて中長期的な高収益を生み出す体質に近づくことができる。とはいえ、コンプライ・オア・エクスプレインだとしても企業と機関投資家にとっての作業負担が増大することには変わりない。

    2020年8月から9月にかけて、あずさ監査法人が従業員数300人を超える企業155社に聞き取り調査を実施したところ、およそ4割の企業がスチュワードシップ・コードの受け入れ表明に関して検討していないという回答だったことからも、業務の増加を避けたい企業が依然として多いことがわかる。今後は、企業と機関投資家の建設的な対話による企業価値向上を目的としたスチュワードシップ・コードのあり方だけでなく、より多くの企業が受け入れやすい形を模索していく必要があるだろう。

    【参照サイト】 「責任ある機関投資家」の諸原則
    【参照サイト】 スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コード
    【参考サイト】 機関投資家の行動指針、受け入れ「未検討」4割 |民間調査|日経新聞

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