エネルギー問題

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エネルギー問題とは(Understanding Energy-Related Issues)
エネルギー問題とは、増加するエネルギー需要に対して限られた資源をいかに活用し、環境への影響をどのように最小限に抑え、安定的な供給を実現するかといった、環境、経済、政治の多方面に強く影響を与える世界的に重要な課題を指します。
日本においても、環境への悪影響のリスク、低いエネルギー自給率、化石燃料への過度の依存、再生可能エネルギーの普及の遅れといった問題が存在しています。
目次
数字で見るエネルギー問題(Facts & Figures)
- 2023年、日本のエネルギー純輸入は、総エネルギー供給(Total Energy Supply / TES)(※1)の87.2%を占めた。(IEA)
- 日本のエネルギー生産(Domestic energy production)(※2)において最大の供給源は原子力であり、全体の38.2%を占めた。次いでバイオ燃料・廃棄物が24.5%を占めた。(IEA)
- 2023年、日本の発電源は天然ガスが32.3%、石炭が28.5%を占めていた。(IEA)
- 2022年の一人当たりの電力消費量(※3)は、アイスランドが約53MWh(メガワット時)で世界一だった。2位はバーレーンの約24MWh、3位はノルウェーの約23MWhとなった。日本は21位で約8MWhだった。(IEA)
- 2023年度、日本のエネルギー自給率は15.2%だった。(経済産業省)
- 2023年度、日本の石油依存度は35.6%、化石エネルギー依存度は80.8%であった。(経済産業省)
- 2023年度、日本の発電電力量は9.854億kWh(キロワット時)となり、2010年度以降で最小となった。(経済産業省)
※1「総エネルギー供給(TES)」とは、国内で生産または輸入されるすべてのエネルギーを指す(輸出または貯蔵されるエネルギーを差し引く)。その国のエンドユーザー(消費者)に供給するために必要なすべてのエネルギーを表している。これらのエネルギー源の一部は直接使用されるが、大部分はエンドユーザーのための燃料や電力に変換される。
※2「国内エネルギー生産(Domestic energy production)」とは、国内で生産されるエネルギーを指す(輸出入は含まれない)。国内で掘削・採掘された化石燃料や、核分裂によって生産されたエネルギー、水力、風力、太陽光発電などの再生可能エネルギー、バイオエネルギー(ここでは、都市ゴミの焼却を含む)を含む。
輸入された化石燃料を利用して火力発電で生産されたエネルギーは、国内エネルギー生産には反映されない。なぜなら、輸入された化石燃料はその時点で既にエネルギー資源としてカウントされているためである。一方、輸入されたウランを利用して原子力発電で生産されたエネルギーは、国内エネルギー生産にカウントされる。これは、国内でのプロセスを経て初めてエネルギーとして計上されるためである。
※3 人口の少ない国では、一般的に一人当たりの電力消費量が高くなる傾向がある。1位のアイスランドは、人口が少ないことに加え、全電力の約3分の2がアルミニウム生産などの電力集約型産業によって消費されているため、一人当たりの電力消費量が世界で最も高くなっている。また、アイスランドでは、水力発電と地熱資源が豊富であるため、電力生産のほぼ100%を再生可能エネルギーが占めている。
エネルギー問題の現状(Current Situation)
環境問題:温室効果ガスの過剰排出
2023年には、化石燃料の消費が拡大した影響で、世界のエネルギー消費量とエネルギー由来の温室効果ガス排出量が過去最高値を更新しました。
CO2を最も多く排出するセクターのひとつが発電部門であり、特に火力発電がその大きな割合を占めています。火力発電では石炭や天然ガスなどの化石燃料を燃焼することでエネルギーを得ていますが、その過程で大量のCO2が排出されます。
経済の拡大や人口の増加に伴い、世界のエネルギー消費量は今後も増加すると予測されています。特に、発展途上国を中心に化石燃料の使用が増加し、それに伴って資源確保をめぐる競争の激化が懸念されています。インドでは、化石燃料消費量が拡大を続けており、2023年にはヨーロッパと北米の石炭消費量の合計を上回りました。アフリカでも、エネルギー消費量における化石燃料の割合は、90%と高い水準を維持しています。日本も、約81%を占めており、エネルギーのほとんどを化石燃料由来となっています。
世界的には温室効果ガス(GHG)を削減する取り組みが進められていますが、現在の排出量は、気候変動の最悪の影響を回避するために必要とされる削減目標にはまだ遠く及びません。
2021年のデータによると、世界全体のエネルギー起源のGHG排出量に占める割合は、中国が32%で最も多く、次いで米国が14%、日本は3%となっています。一人当たりのエネルギー関連CO2排出量には、各国のエネルギーシステムや経済構造による違いが見られます。例えば、化石燃料による発電の割合が高い国、飛行機や自動車の利用が盛んな国、またはエネルギー消費の多い産業が発展している国では、一人当たりのCO2排出量が高くなる傾向があります。

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供給安定性の問題:低いエネルギー自給率
エネルギー自給率の低さは、他国との資源獲得競争や国際情勢の変化に伴うリスクを増大させる要因となります。これにより、急激な価格変動や最悪の場合、供給停止といった事態が発生し、エネルギーの安定供給が脅かされる可能性があります。
日本のエネルギー自給率は低く、これは日本が必要とするエネルギーの大半を海外に依存していることを意味します。日本のエネルギー自給率は、2014年に過去最低の6.4%を記録し、2017年には9.6%、2023年には15.2%まで上昇しましたが、依然として国際的に低い水準にあります。2010年度には20.2%を記録していましたが、東日本大震災後の原子力発電所の稼働停止により、大幅に低下しました。
日本は、石油、石炭、天然ガスといった化石燃料の輸入依存度が非常に高く、この依存構造は国際情勢や地政学的リスクなどの外的要因によって、エネルギー供給の安定性に直接的な影響を与えるリスクを増大させます。たとえば、ロシアによるウクライナ侵攻は、日本のエネルギー事情にも影響を与えました。また、原油の約9割が中東から輸入されており、もし紛争などで輸入が停止すれば、エネルギー不足のリスクが高まります。過去の二度のオイルショックを踏まえると、供給の滞りによるリスクは懸念されています。一方、エネルギー輸出に依存する国々では、エネルギー価格の下落が経済に大きな打撃を与える可能性も指摘されています。
サプライチェーンの寸断やエネルギー価格の高騰が国内経済に与える悪影響を軽減するためには、エネルギー自給率の向上が重要です。そのためには、再生可能エネルギーのさらなる普及や、安全保障を考慮したエネルギー政策の強化が求められます。
安全性の問題
日本は地震や台風などの自然災害が多く、災害発生時におけるエネルギーの安定供給と安全性の確保は大きな課題となっています。
2011年には、東日本大震災による津波の影響で福島第一原発で事故が起きました。1986年のチェルノブイリ原発事故に次ぐ、世界で2例目となるレベル7の事故でした。津波によって電源が失われ、核燃料の冷却が不可能となり、爆発が発生。推定52京ベクレルの放射性物質が放出されたと言われています。
新たな原発の増設や老朽化した原発の建て替えには高額なコストがかかり、テロの標的となるリスクに備えるためには多額の防衛費も必要です。さらに、放射性廃棄物の処分、事故リスク、使用済み燃料の再処理、廃炉費用などの不確実性やリスクも伴い、これらの問題が国民に与える社会的、経済的負担は大きいと予想されます。

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現在、世界では地球温暖化対策として、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」が進められています。電力部門における炭素排出削減策として最も注目されているのが、原子力発電と再生可能エネルギーの2つです。
日本政府もこの「脱炭素化」の議論において、原子力発電を脱炭素電源として位置付けています。しかし同時に、国際的権威を持つ総合科学ジャーナル「ネイチャー」に掲載された研究によると、大規模な原子力発電の導入は二酸化炭素排出量の有意な減少にはつながらないことも示されています。一方で、再生可能エネルギーの推進は脱炭素に大きな役割を果たすという結果が得られました。
この研究では、25年間にわたる123か国の炭素排出量、再生可能エネルギー、および原子力発電の生産量に関する世界的なデータを使用し、各国における炭素排出量の増減の傾向を検証しています。また、原子力発電と再生可能エネルギーの導入規模には負の相関があり、両者が互いに排斥し合う傾向があることが示唆されています。つまり、原発を積極的に採用している国では再生可能エネルギーの採用規模が小さく、逆に再生可能エネルギーを活発に導入している国では原発の採用規模が抑えられる傾向があるということです。
経済的な問題
電気料金の高騰は、経済活動や家計に大きな影響を与える重要な問題となっています。特に、東日本大震災以降、日本の電気料金は上昇傾向にあり、これが家計や企業活動に対する負担を増大させています。この背景には、エネルギー源の価格や供給構造が関与しており、特に燃料価格の変動が電気料金に大きな影響を与える要因となっています。
特に、2022年にはウクライナ情勢に関連する地政学的な緊張が主な原因で、燃料の供給不安や燃料価格の高騰を引き起こしました。この燃料価格の高騰は、電気料金の上昇を引き起こす直接的な要因となっています。
日本は過去の2度の石油危機を受けて、エネルギー源の多様化を進め、石油に代わるエネルギーとして石炭、天然ガス、原子力の開発を進め、エネルギー需給構造の改善を図ってきました。その結果、石油への依存度は減少しましたが、日本の電力供給は価格変動が激しい化石燃料の輸入に依存しています。この依存状態が、日本の電気料金が価格変動に敏感である一因となっています。
さらに、東日本大震災以降は、原子力発電所の長期停止の対応として、火力発電の発電量を大幅に増加させました。その結果、2011年度から2016年度にかけての6年間で約15.5兆円もの追加燃料費が発生しました。
エネルギー問題への取り組み(Action)
S+3E
日本のエネルギー政策は、「S+3E」の原則を採用しています。この原則は、安全性(Safety)を最も重要視し、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に実現しようという考え方です。複数のエネルギー源の強みを最大限活用し、弱点を補完する形で、バランスの取れたエネルギー供給システムを構築することが求められています。
「S+3E」の理念に基づき、2030年度のエネルギー需給見通し「エネルギーミックス」が策定されています。この方針においては、2030年度に2013年度比46%削減という温室効果ガス(GHG)削減目標を達成するため、省エネルギーの推進や非化石エネルギーの増加といった、多くの課題に積極的に取り組む必要があります。
再生可能エネルギーの普及
化石燃料を使った火力発電は、資源が輸入に依存しているため、コストが上昇しやすいという問題があります。そのため、原油価格が高騰してもコストが安定している再生可能エネルギーの普及が進められています。また、温室効果ガス削減のため、供給面で再生可能エネルギーの割合を増やす施策が取られています。
「2050年カーボンニュートラル」の達成に向けて、再生可能エネルギーを主要な電源とする目標の下、2022年に再生エネルギーの電力市場への統合を進める、FIP(Feed-in Premium)制度が導入されました。欧州ではすでにFIP制度が導入されており、再生可能エネルギー発電事業者が卸売市場などで電力を販売する際、市場電力価格に一定額の補助金を上乗せすることで、再生可能エネルギーの導入を促進することを目的としています。
エネルギー問題に関して私たちにできること(What We Can Do)
個人の取り組みとしては、日常生活での省エネルギー実践や、選択を通じてエネルギー問題への取り組みを支援することができます。具体的な方法としては、以下のようなものがあります。
- 再生可能エネルギーの利用率が高い電力会社を選ぶ
- 建物の断熱性能を向上させる
- 太陽光パネルを設置する
- エネルギー消費量が少ない家電製品を使用する
- 家庭での電気使用量を見直す
エネルギー問題を改善するアイデア(IDEAS FOR GOOD)
エネルギー問題を解決するために、できることは何でしょうか?
IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアでエネルギー問題解決に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。
エネルギー問題に関連する記事の一覧
【参照サイト】自然エネルギー庁「2023―日本が抱えているエネルギー問題(前編)」
【参照サイト】IEA. Japan.
【参照サイト】関西電力「世界のエネルギー事情」
【参照サイト】関西電力「日本のエネルギー事情」
【参照サイト】三井物産「日本の3大エネルギー問題をわかりやすく解説!それぞれの対策や解決策を紹介」
【参照サイト】経済産業省「2023年度エネルギー需給実績(速報)参考資料」
【参照サイト】経済産業省「令和5年度(2023年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)」
【参照サイト】KPMG. ‘Statistical Review of World Energy 2024年版’.
【参照サイト】The Energy Institute. ‘Statistical Review of World Energy 2024’.
【参照サイト】エネルギー・金属鉱物資源機構「一次エネルギーとは? 二次エネルギー、最終消費エネルギーとの関係性も解説」
【参照サイト】NHKアーカイブス「史上最悪 チェルノブイリ原発事故」
【参照サイト】NHKアーカイブス「福島第一原発事故」
【参照サイト】読売新聞オンライン「原発事故の放射性物質、52京ベクレル放出…森林に残る[歳月]<4>」
【参照サイト】長濱慎「『脱炭素』に原発を推進すべきでない7つの理由」Alterna
【参照サイト】Sovacool, B.K., Schmid, P., Stirling, A. et al. ‘Differences in carbon emissions reduction between countries pursuing renewable electricity versus nuclear power’. Nat Energy 5, (2020): 928–935.
【参照サイト】資源エネルギー庁「再エネを日本の主力エネルギーに!「FIP制度」が2022年4月スタート」
【参照サイト】Nordic Energy Research. ‘Iceland: World’s highest share of geothermal power’.
【参照サイト】Government of Iceland. Energy