誰もが専門家から助言を貰えたら?「金融アドバイスの民主化」で格差やメンタルヘルス問題の解決へ

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経済的な不安や悩みを抱えているとき、誰に相談しようと考えるだろうか。家族やかなり親しい人を想像するかもしれない。しかし、その人数は限られており、その中に金融に詳しい人がいるとは限らない。お金の管理は生活や精神的な安心を大きく左右しうる一方で、家計のことをオープンに話せる場を見つけることは難しいだろう。

そんな時に頼りになるのが金融の専門家によるアドバイスのはずだが、現代社会ではそうしたサービスが商品化され、財政的に余裕のある人の方が相談しやすい環境になっているという。これでは、本当にサービスを必要としている人に助けは届かないのだ。金融の知識や助言を、誰でもアクセスできるものにすることはできないのだろうか。

(以下、世界経済フォーラムのウェブサイトより「金融アドバイスの民主化、その方法と利点」の全文掲載)


経済的な問題や不安定さは、誰にとっても常に心配の種であり、ストレスの原因となります。

あらゆる金銭的な悩みを解決できる魔法の薬はありません。しかし、家賃、食料品、燃料、医療費といった短期的なニーズや、老後の貯蓄や住宅購入といった長期的な目標の達成には、公正で効果的な金融アドバイスが役に立つでしょう。

では、収入レベルや経歴、学歴に関係なく、誰もが自分のライフステージや経済的な目標に合わせた適切な金融アドバイスを受けられる世界を想像してみてください。理想ではあるものの、現時点では実現していないビジョンですが、金融アドバイス業界におけるイノベーションは、これを目標として着実に前進しています。

世界経済フォーラムの新しいレポート「金融アドバイスの未来(The Future of Financial Advice)」は、金融アドバイス業界を再構築し、すべての人々のアクセス拡大に役立つ主要なトレンドを明らかにしています。

金融アドバイスとは何か、その重要性

金融アドバイスとは、金融の専門家が個人に提供する、あらゆる助言、ガイダンス、専門知識を指します。目的は、個人が財務管理について十分な情報を得た上で意思決定を行うことができるよう支援することです。これには予算作成のサポート、貯蓄や投資の計画、退職後の生活設計、債務管理などが含まれ、様々なチャネル(対面式、最近ではデジタル化を前面に押し出したデジタルファーストモデルなど)を通じて提供されます。

金融アドバイスを利用することで、個々の状況やライフステージに合わせた、より賢明な財務上の意思決定が可能になります。例えば、高金利の貸付、不適切な投資選択、不十分な貯蓄といったよくある落とし穴を避けることができます。

実際、米国で行われたある研究では、偏りのない金融アドバイスや金融計画へのアクセスと利用により、平均的な世帯が年間所得の7.5%を毎年貯蓄できるようになったと推定されています。

最終的には、金融アドバイスへのアクセスは、個人レベルでも社会全体にとっても重要な、個人の経済的なウェルビーイング(幸福)を総合的に向上させる可能性を秘めているのです。

経済的ウェルビーイングを得るということは、個人が現在および将来にわたって生じる金銭的義務を果たし、経済的な将来に安心感を持つことができることを意味します。

アジアで行われた調査によると、個人が経済的ウェルビーイングを確保するために講じるいくつかの対策のうちの2つが、専門アドバイザーの利用とデジタル資産管理ツールの使用であることが分かりました。支出をモニタリングし、長期的な財務目標を設定するという同様の戦略は、ヨーロッパでも採用されています

経済的ウェルビーイングを確保するためにアジアの人々が最も定期的に行っている対策|Image via 世界経済フォーラム「金融アドバイスの未来」レポート

ヨーロッパの個人が利用している、経済的ウェルビーイングのための戦略|Image via 世界経済フォーラム「金融アドバイスの未来」レポート

また、経済的ウェルビーイングがストレスを軽減し、メンタルヘルスを改善することも分かっています。そのためには、ファイナンシャル・アドバイザーに相談して負債の管理、緊急資金の準備、将来の支出計画などに向けた戦略を立てることができるでしょう。しっかりとした資金計画と頼れる専門家のアドバイスがあれば、多くの人が不安を軽減し、生活の質を向上させることができます。

金融アドバイスへのアクセスを拡大することは、社会レベルでの富の不平等を減らす上でも重要な役割を果たす可能性があります。一般的に、低所得者ほど金融アドバイスから大きな恩恵を受けることができるからです。しかし、そうした人々にはそれを求める余裕がなく、どこでアドバイスを受けられるのかも分からないのが現状です。

金融アドバイスが利用されにくい理由

金融アドバイスといえば、薄暗いオフィスでスーツに身を包んだ専門家と向き合う状況を思い浮かべるかもしれません。その人は聞き慣れない専門用語を使い、時間当たり多額の報酬を要求します。このような先入観が多くの人々を遠ざけていますが、それは誤解です。

確かに、従来の金融アドバイスは一般的に裕福な個人を対象に、対面式で行われるものでした。しかし、状況は変わりつつあります。

現在、金融アドバイスモデルはハイブリッド型が主流。中にはデジタルファーストのモデルもあります。また、アプリをダウンロードするだけで、金融アドバイスを利用できるようにもなりました。AIをはじめとする新しいテクノロジーを導入することで、様々なサービスへのアクセスを拡大し、規模を拡大し続ける大きなチャンスが生まれます。

個人の金融知識と情報を求める際の快適さに関しても、やはり障壁が存在します。ソーシャルメディアやRedditといった海外版コミュニティ掲示板は、こうした情報格差の一部を埋める役割を果たしています。

今や、多くの人々が商品やサービス、言葉遣いなどに慣れる手助けをしてくれる「フィンフルエンサー」と呼ばれる金融インフルエンサーにアクセスできるようになってきています。規制のないこのような形の金融情報にはリスクも伴いますが、情報が豊富な今の時代にアクセスが拡大されることが、金融アドバイスに対する障壁を越えるのに役立っています。

コストと不透明な価格設定も、人々を遠ざける要因です。特に、Z世代とミレニアル世代は透明性の高い価格設定モデルを好み、複数のアドバイザーに相談する傾向があります。業界はこの需要に応えつつあり、現在、顧客のニーズの度合いに合わせて様々な価格体系で幅広いアドバイスモデルが展開されています。

もう一つの大きな障壁は、ファイナンシャル・アドバイザーと、提供されるアドバイスに対する信頼の欠如です。例えば、ヨーロッパでは成人人口の62%が、銀行、保険会社、またはファイナンシャル・アドバイザーから受ける投資アドバイスが自分にとって最善の利益なのかどうか確信が持てないとしています。特にZ世代やミレニアル世代の顧客からの信頼を構築し、維持するためには、さらなる取り組みが必要です。

金融アドバイスへのアクセスを真に民主化するには

ここで描かれている未来は、誰もが経済的ウェルビーイングに手の届く世界です。それは、金融アドバイスが贅沢品ではなく、誰もが利用できる不可欠なサービスとなる未来。このような未来がもたらす恩恵は計り知れないものですが、このビジョンを実現するには長い道のりがあります。

同フォーラムの「金融アドバイス業界の未来」レポートでは、金融アドバイスへのアクセスの民主化に向けた基盤を築くために、金融アドバイス業界、政府、規制当局、ソーシャルメディア企業が取り組むべき以下のような行動指針を提示しています。

  • 新たな個人の取り込み
  • 経済的ウェルビーイングを含めた範囲の拡大
  • ニーズに基づくファイナンシャル・プランニング
  • 変革的で効果的なビジネスモデルの選択肢
  • 双方向的で実践的なソーシャルメディアの交流の構築
  • テクノロジーによる効率化

金融アドバイスの価値を引き出す方法|Image via 世界経済フォーラム「金融アドバイスの未来」レポート

伝統的な金融機関と新興イノベーターの両方が、個人の多様なニーズに応えることを目標にテクノロジーを自社のモデルに組み込むことで、提供する金融アドバイスの範囲を広げることができます。

誰もが金融アドバイスを受けられるようになるのは、現時点ではまだ現実的ではありません。しかし、金融アドバイスの対象範囲が拡大される日は近いでしょう。この業界の進化は、すべての人をサポートする、利用しやすく信頼性の高い金融アドバイスへの道を開いています。

レポート「金融アドバイスの未来」と世界経済フォーラムの個人の経済的ウェルビーイングに関する取り組みの詳細については、こちら

著者:Hallie Spear(Specialist, Capital Markets and Resilience Initiatives, World Economic Forum)
※ この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

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