患者にぴったりの野菜を“処方”。屋上農園で「食の薬」を栽培する、ボストンの病院

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滋養のあるものを日々摂取することは重要だ。しかし、毎日の食習慣は、個人の社会的・経済的な状況によって影響を受ける。健康に良い食生活を心がけようと思っても、経済的に余裕がなく、そうできないという人もいるだろう。

アメリカのボストン・メディカル・センター(以下BMC)は、2001年に「Food is Medicine(食事は薬)」というプログラムを開始した(※)。これは、患者が二週間に一度、BMCが運営する食糧配給所を訪れ、病状に合わせてカスタマイズされた食品を受け取ることができるというものだ。

提供される食材は、次回の来院まで患者とその家族を養うのに十分な量だという。食生活への不安がある患者は、誰でもこのプログラムに参加することが可能。2024年現在、このプログラムには約6,800人の患者が参加している。

そして2017年、BMCは地元コミュニティとの共同開発で、約680平方メートルの広さを持つ農園を屋上に設置した。車椅子を使用する患者もアクセス可能な「ニューマーケット農場」だ。そこには2,600個の木箱が設置され、毎シーズン約2.7トンの新鮮な食材が収穫される。

農園では、マラバールほうれん草、白菜、うずら豆、カブ、トマトなど25種類の野菜と果物、花が栽培されている。屋根付きの座席エリアでは、ボストン公立学校の生徒や地元コミュニティのメンバー、患者や病院職員を対象に、屋上農園に関する学びの場を提供している。


この農園では、高血圧症や糖尿病など個々の患者の病状に合わせてカスタマイズされた食材を識別し、その情報を様々な言語で紙に印刷してくれる。たとえば、血糖値のコントロールに役立ちそうな食材は「糖尿病患者に適している」、血圧を下げるのに役立ちそうな食材は「心臓に良い可能性がある」というふうにだ。

農園は、作物の根元に直接水を与えるハイテク灌漑によって、水の無駄を減らして運営されている。また、収穫された野菜や果物の一部は、栽培期間中の週2回、地域コミュニティや非営利団体にも配布される。

BMCのサポート・サービス・シニア・ディレクターであるデイビッド・マフェオ氏は、Washington Postの取材でこのように話している。

屋上農園を設置することで、冬は病院の屋根の寿命を延ばして建物を暖かく保ち、夏場は建物を涼しく保ってエネルギーを節約します。屋上緑化そのものが、病院の経費節減につながっています。

2024年現在、BMCはアメリカ国内で最もグリーンな病院と位置づけられている。屋上農園のプログラムを通じて緑地が増え、そこでできた「薬」によって多くの患者の食習慣が改善されれば、入院や通院を必要とする人の数も減るかもしれない。農園の導入や拡大には多くの資金が必要だが、それは長期的に見ると地域のレジリエンスを高めるのではないだろうか。

Preventive Food Pantry- Boston Medical Center

【参照サイト】Boston Hospital Is Treating Food as Medicine with its Own Rooftop Garden
【参照サイト】Boston Medical Center Codesigns Food Is Medicine Resources with Local Community as Part of New Study
【参照サイト】How this hospital is treating food as medicine
【参照動画】Boston Medical Center Newmarket Farm – Featured Project
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Edited by Megumi

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