本屋や薬局、スーパーなどのレジで従業員が座って接客をしていたら、あなたはどう思うだろうか。「足腰に負担がないので良さそう」「サービスの印象が悪い」……さまざまな意見があるかもしれない。
アメリカでは、小売業など顧客と接する仕事において、労働者は立っているのが当たり前とされることも多く、「仕事中に座ってはいけない」と明確に指示している職場もある。座る権利のない労働者たちは、長時間立ち仕事を強いられることによる健康への悪影響などを問題として取り上げ、長年にわたり訴訟を引き起こしてきた(※1)。
しかし近年、カリフォルニア州、フロリダ州、ウィスコンシン州などでは、労働者に「座る権利」が認められはじめている。そして2024年10月、ミシガン州でも「座る権利」が法的に定められることが決まった。
ミシガン州アナーバー市議会は、製造業、コインランドリー、ホテル、レストラン、美容院といった業種に対し、業務に支障がない限り、労働者に座る権利を認める条例を全会一致で承認した。これでもう、椅子や腰かけの提供をしてもらうために、妊婦や高齢の労働者が雇用主に「立ちっぱなしは困難である」ことを書類で証明する必要はなくなったのだ。
アナーバー市議会議員のアイーシャ・ガジ・エドウィン氏は、Michigan Liveのインタビューでこのように話している。
腰や膝が悪いという理由で、「この職場では働けない」と思っていた人たちや、妊婦、障害のある人に配慮した職場環境を作ることで、すべての人にとってより公平な職場になると思います。この条例は本来の職務を妨げない限り、労働者が座る権利を法的に保護するものです。
さらに、ミシガン州の新法では、企業が従わなければならない市の差別禁止条例に、「座る権利」の項目が追加された。労働者は、コンプライアンスを守っていない雇用主に対して、市の人権委員会に苦情を申し立てることができる。申し立てを受けた場合、雇用者側は特定の職務について法律を守れない理由を示さなければならなくなるのだ。
ちなみに、他地域を見てみると、ヨーロッパではレジ係が座りながら接客をしている光景はごく一般的だ。EU-OSHA(欧州労働安全衛生機関)では、労働者の長時間の立ち仕事によるリスクを防ぐために、適切な座席を推奨している(※2)。日本でも、マイナビバイトによる「座ってイイッス」プロジェクトなどが、労働者にとって働きやすい環境づくりを提案している。
そもそも、生産性が大幅に低下しないならば、スタッフが立っていることに対して雇用側や顧客側が迷惑を被ることはないのではないだろうか。アメリカで座る権利が認められることにより、「従業員は常に立っているべきだ」という考え方が見直されれば、高齢者や障害のある人々をスタッフとして受け入れる職場が増えるかもしれない。
※1 Evidence of Health Risks Associated with Prolonged Standing at Work and Intervention Effectiveness National Library of Medicine
※2 Prolonged constrained standing at work European Agency for Safety and Health at Work
【参照サイト】What is the ‘right to sit’ law, and how could it change retail workers’ lives?
【参照サイト】‘Right to sit’ is now the law in Ann Arbor. Here’s what you need to know.
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Edited by Megumi