再生可能な資源から作られ、特定の環境下で分解して堆肥化できる生分解性製品は、近年、食品包装材、化粧品、衛生用品など幅広い分野で利用されている。さらに近年では、包装材や建築材、衣類や家具、さらには代替肉製品の開発において、「菌類」が持つ力に注目が集まっている。
2025年1月、スイス連邦材料科学技術研究所(Empa)は、生分解性の真菌(※)電池を開発したことを発表した。この電池は、セルロースを使った印刷インクに真菌細胞を混ぜて3Dプリントしたもので、従来のリチウムイオン電池のような金属や化学物質に依存せず、廃棄の際に有害物質が出ないことが特徴だ。
※カビやキノコ、酵母などを含む生物の一群。光合成は行わず、外部から栄養を吸収する。自然界では、腐敗や分解を通じて有機物を分解し、土壌の栄養循環に貢献する。
従来のバッテリーは、エネルギーがなくなると再充電するか交換しなければならない。一方この「真菌微生物燃料電池」は、必要な水と栄養分を供給すると、酸素との化学反応によって活性化し、継続的に電力を生成する。言い換えれば、餌を必要とする「生きたバッテリー」というわけだ。
Empaの研究チームは、二種類の菌類を組み合わせて「微生物燃料電池」を作り出した。陽極側には代謝過程で電子を放出する真菌を配置、陰極側では別の菌がその電子を受け取り、電流を流す。
現在の研究では、キノコの生きた細胞は大量の電気を生成するにはまだ不十分なため、大型の電子機器の動力源として使用するには限界がある。しかし最大62時間の使用ができるため、たとえば温度センサーを数日間稼働させるのに十分な電力は供給できる可能性があるのだ。
また、電池が不要になった場合、使用後は内部で自然に分解されるため、環境への負荷が非常に少ないというのも優れた点だ。Empaは、菌類を従来のエネルギー源に代わる有望な選択肢と捉え、このキノコ菌類電池をさらに強力で長持ちするように開発を続けている。
真菌の持つ潜在能力は完全には明らかになっていない。しかし、この技術革新は、将来的により持続可能なエネルギーソリューションの実現に繋がる可能性を秘めていると言えるだろう。
【参照サイト】Empa (Swiss Federal Laboratories for Materials Science and Technology)
【参照サイト】Swiss scientists have taught fungi to generate electricity. How do mushroom batteries work?
【参照動画】The fungal battery that digests itself
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Edited by Megumi