本コラムは、2026年10月29日にIDEAS FOR GOODのニュースレター(毎週月曜・木曜配信)で配信されました。ニュースレター(無料)に登録すると、最新のコラムや特集記事をいち早く見ることができます。
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久々の出社。オフィスのドアを開けると、フロアは思いのほか静かだった。会いたかった同僚はヘッドセットをつけて画面に向かっていて、目が合うと小さく会釈をして、またすぐ会議に戻っていく。隣の席も向かいの席も、それぞれ画面の向こうの誰かと話している。話しかけるタイミングを探しているうちに、夕方になっていた。
普段は遠方で働いている筆者にとって、オフィスに行く日は、会社のメンバーに会いに行く日。それだけに、この静けさには少し戸惑う。会議をしている人の横では雑談もしづらく、同じ室内にいても視線が交わることはない。筆者の同僚は、会議をしている人がいないか気になって、オフィスに入るときの「おはようございます」が、ささやくような声になると話していた。
かくいう筆者も、自分がオフィスでオンライン会議をする側に回ると、集中力は完全に画面の中に注ぎ込まれる。会議をしている最中は、「これは家でやったほうがノイズがなくていいな」とさえ思うことも。自分自身、オフィスを話しにくい場所にしている一人でもある。
オフィスの価値は「出社するかどうか」ではなく「出社した日に何が起きるか」にあるのではないか。本コラムでは、そうした問いを個人の実感と研究データから考えていきたい。
出社しても、リモートと変わらない日
出社を義務づける企業が増える一方で、出社しても同僚と顔を合わせず、一日中オンライン会議で過ごす「オフィス内リモートワーク」が広がっている──そんな報告が米ニューヨーク連銀からも出てきている。
米国の大卒フルタイム労働者1,835人への調査によると、直近の出社日に、チームの誰かが同じオフィスにいなかった人は70.6%。約半数(48.8%)は、その日に対面の会議が一度もなかった。さらに、全員が同じ建物にいたのにオンラインだった会議が、少なくとも1回あった人が約37%。通勤によって変わるのは、ビデオ会議の背景だけというケースも少なくないのだ。
ある米大手企業の人事・入退館データでも、同じ傾向が見られた。週4日出社が義務づけられていた時期、実際に在宅勤務をしていた人は42.3%。ところが、出社したのに同僚が不在で、実質的にリモートと同じ体験をした人を加えると、リモートを体験した人は84.3%に上った。在宅勤務率だけを見ていると、リモートワークの実態を最大4分の3も見逃してしまう、というのが研究者らの指摘である。
「在席」と「近接」は、別のもの
出社を求める企業の多くは、同僚と顔を合わせることの価値を理由に挙げる。しかし報告書は、出社日数が増えても、同僚との近さが自動的に増えるわけではないことを示している。
報告書の結論に出てくるのが、「Presence(在席)」と「Proximity(近接)」という言葉である。つまり、同じ建物にいること(在席)と、同僚と実際に近くにいること(近接)は、別のものだということだ。
では、なぜ近接が失われるのか。分析によると、対面での接触が失われた要因のうち、約48%はチームメンバーの拠点が分散していること(別のオフィスで働く、または完全リモートのメンバーがいる)、約37%は同僚が出社しないことの影響だという。1人でも欠けると会議ごとオンラインに切り替える慣行(「One Zoom, All Zoom」とも言われる)が、その影響を広げる。会社が求める出社日数は週平均3.74日だったが、実際の出社は2.59日にとどまるという結果もあった。
報告書は査読前の予備的な結果で、調査対象も米国の労働者のため、日本の職場にそのまま当てはまるとは限らない。それでも、状況が重なる部分は多くあり、筆者がオフィスでオンライン会議をするたびに「これなら家でやったほうがいい」と感じるのも、この構造の一部なのだろう。
原因が違えば、処方箋も違う
この結果から見えてくるのは、コミュニケーションや効率化の問題が「出社を増やせば解決する」とは限らない、ということだ。原因によって、考えるべきことが変わる。
まず、同じ拠点に多くの人が通っている会社。課題は、出社しているのに会えない、話せないことにあるため、打ち手は場の設計に寄る。出社する曜日をそろえる。会議はオンライン会議用の個室や会議室に寄せる。フロアの一角を話してよい場所、別の一角を集中する場所と分ける。カフェに通話のしにくい席があるように、オフィスにも場所への配慮があってよいはずだ。
ただ、場所を整えるだけでは、人が話すようになるとは限らない。雑談や相談が仕事として位置づけられていなければ、忙しいときほど後回しになり、話しかけること自体が相手の作業を止める行為に感じられてしまうからだ。たとえば、出社日の最初の30分は予定を入れずに話す時間にする。会議の前後に余白を設ける。同僚との対話や相談を、「手を止める時間」ではなく業務として認める。人と関わる時間を仕事の一部としてどう位置づけるかも、場の整備と同じくらい重要な点だろう。
次に、チームが複数の拠点に分かれたまま働いている会社。たとえばチームの一部が東京、一部が大阪にいる場合、全員がルールどおり出社しても、チームの会議は結局オンラインになる。出社を個人単位ではなくチーム単位で考えて、同じ日に同じ拠点へ集まる日を決める。拠点を決めるときに、チームごとまとめる。そうした形が考えられる。さらには、新しい視点や業務円滑化のため、チームを超えて人が交わる機会をどうつくるかも、あわせて考えたい点だ。
そして、フルリモートの人が多い会社。毎日通うオフィスを前提にすること自体が現実的ではない。そう考えると、オフィスは「日々の作業場」ではなく、「集まる理由がある日に開く場所」になる。新しいメンバーを迎える日、半年の振り返りや次の目標を話し合う日、普段は画面越しにしか会わない、チームや部署を超えた人たちと一緒にランチをする日。会議や作業は各自の場所でできるのだから、その日は、会わなければできないことに時間を使う設計が必要になってくるだろう。
問うべきは「出社した日に、何が起きるか」
どの形でも共通するのは、問うべきなのが「いかに出社させるかどうか」ではなく、「出社した日に、何が起きる場所にするか」ということではないだろうか。
オフィスを「関係・学習・偶発性を生む場所」と捉え直すなら、そこで得られるものは、会議や相談のように仕事に直接つながる成果だけではない。何気ない雑談から生まれる信頼や、組織への帰属意識は、すぐには数字に表れない。しかし、雑談は仕事の外にあるものではなく、頼みやすさや相談しやすさといった、仕事の前提を支えている可能性がある。対面の時間は、その日の成果をあげる時間というより、その後の仕事の前提をつくる時間と考えることもできる。
だとすれば、出社日を効率や生産性だけで測ると、見えにくい価値から先に削られてしまう。費用をかけて集まるなら、その日を「何のための日にするか」を先に決めておく。成果を出す日なのか、新メンバーを迎える日なのか、部署をまたぐ連携の日なのか、チームで意思決定をする日なのか。目的が決まれば、予定の入れ方も、その日に見るべき指標も変わる。
皆さんの職場の出社日は、「何のための日」になっているだろうか。
【参照サイト】Federal Reserve Bank of New York, “Remote Work from the Office” (Staff Reports, no. 1211, October 2026)
【参照サイト】The Atlantic, “The Rise of In-Office Remote Work” (October 14, 2026)
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