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紙ストロー、プラスチックストロー、生分解性ストロー。環境に良いのはどれ?

ストロー問題の背景

プラスチック問題を考えるうえで、ストローは特に象徴的な存在となっている。中でも、プラスチックストローが鼻に刺さったウミガメの映像は、多くの人々に衝撃を与え、海洋プラスチックごみやストロー使用について再考するきっかけとなった。この動きを受けて、スターバックスをはじめとする世界的企業が相次いでプラスチックストローの廃止に踏み切り、紙ストローの導入を進めてきた。

しかしながら、紙ストローの使いづらさに対する不満も根強く、「脱・紙ストロー」の動きも世界的に広がりつつある。たとえば、米国ではトランプ大統領が連邦政府機関における紙ストロー使用を廃止したことが記憶に新しい。また、「紙ストローは本当にエコなのか?」という疑問の声も高まり、生分解性素材のストローが新たな選択肢として注目されている。日本のスターバックスも2025年からバイオマス素材のストローへの切り替えを開始した。

もちろん、ストローが海洋生物に害を与えない素材であれば、それはひとつの前進かもしれない。しかしながら、問題は単に「ウミガメの鼻に刺さらない素材」や「分解される素材」かどうかにとどまらない。そもそも海洋汚染が生じるのは、使用後の適切な処理が行われていないことに起因しており、素材だけでなく使用や廃棄のプロセス全体を見直す必要がある。

環境負荷の本質的な削減を目指すのであれば、センセーショナルな映像やわかりやすいシンボルだけに頼るのではなく、ストローの「ゆりかごから墓場まで」すなわち原料調達、製造、使用、廃棄、回収に至るライフサイクル全体を科学的に評価する必要がある。

ウミガメ

Photo by geoff trodd on Unsplash

また、「環境によい」「エコ」などという言葉の曖昧さも問題を複雑にしている。紙ストローがエコだと主張するならその有効性を示すデータが必要だが、紙ストローの優位性を示す実証的なデータは少ないようだ。

素材の変更は、「環境配慮」の姿勢をアピールする手段としても用いられてきたが、素材の選択だけに注目し、消費スタイルや社会構造のあり方に目を向けなければ、根本的な解決にはつながらない。「どの素材が最もエコか」を考えることももちろん重要だが、それ以上に問われているのは、長年続いてきた大量生産・大量消費・使い捨てというライフスタイルそのものを見直すことではないだろうか。

とはいえ、プラスチックストローから紙ストローへの移行には、人々の「環境に配慮したい」という意識の変化が表れているのも確かである。ただし、その意識が海洋プラスチック問題や素材の選択にとどまり、ストローのライフサイクル全体に対する理解に欠けていては、本末転倒になりかねない。結果的に、グリーンウォッシュに加担したり、意図せず環境負荷を増やしてしまうリスクすらある。

そこで本記事では、紙ストロー・プラスチックストロー・生分解性ストローについて、ライフサイクルアセスメント(LCA)をはじめとする科学的視点から比較・検証を行い、より本質的な環境配慮とは何かを考える手がかりを提示したい。

プラスチックストローとは?

  • 主な素材:ポリプロピレン(PP)
  • メリット:滑らかな飲み心地/生産が容易/低コスト/耐水性・耐熱性
  • デメリット:自然界で分解されず、マイクロプラスチック・ナノプラスチック化する

一般に使用されているプラスチックストローの素材は、ポリプロピレン(PP)である。これは石油由来のプロピレンガスを重合することで得られる合成樹脂であり、比重が小さい、耐熱性・耐薬品性が高い、強度や引張強度に優れる、水分を吸収しにくいなどの特性を持つ。このためストローに限らず、自動車部品(バンパー、ガソリン缶、内装材)、おもちゃ、アパレル、スポーツ用品、食品包装など、幅広い用途で使用されている。

ポリプロピレンは、PE(ポリエチレン)、PS(ポリスチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PET(ポリエチレンテレフタレート)とともに、「五大汎用プラスチック」のひとつに数えられる。

環境への影響

しかし、このような利便性の裏で、ポリプロピレンは自然界でほとんど分解されないという大きな環境的課題を抱えている。使用後に適切に処理されないプラスチックストローは、海や川などの水域に流出し、やがてマイクロプラスチックやナノプラスチックへと物理的に細分化されながら環境中に長期残留する。

実際、ポリプロピレンは世界の表流水中で最も多く確認されているプラスチック破片のひとつとされており、世界的な海洋汚染の主要因ともなっている。米国をはじめとする各国の海岸線では、使い捨てのプラスチックストローが代表的な廃棄物として報告されており、世界の海岸に存在すると推定されるプラスチックストローは最大で83億本、そのうち約750万本がアメリカの海岸に存在するとされる(※1)

また、ストローは小型かつ軽量という性質上、リサイクルの対象外となるケースが多く、その結果、回収・処理されずに環境中へ流出する割合が非常に高い。

紙ストローとは?

  • 主な素材:木材由来のパルプ/一部に耐水加工(例:ポリ乳酸(PLA)によるコーティング)
  • メリット:比較的短期間で分解される生分解性(数か月〜1年)
  • デメリット:耐久性に乏しく、製造時に多量の水・エネルギー・森林資源を消費する

紙ストローは、プラスチックストローに代わる選択肢として一時的に急速に普及した素材である。環境意識の高まりや海洋プラスチック問題への対応を背景に、飲食チェーンやイベントなどで導入が広がった。

紙ストローの主原料は、木材由来のパルプである。パルプを重ねて接着し、円筒状に成形することでストローとしての形状を得る(※2)。水に弱いという紙本来の性質に対処するため、外層にはポリ乳酸(PLA)などによる耐水コーティングが施されることもある(※3)

環境への利点と限界

紙は自然界で分解されやすい素材であり、適切な条件下では数か月から1年程度で生分解される。そのため、ポリプロピレン製のプラスチックストローに比べて、廃棄後に環境中に長期残留するリスクは相対的に低いとされる。これが紙ストローの最大の環境的メリットである。

一方で、紙ストローにはいくつかの重要な課題も存在する。まず、耐久性に乏しく、長時間の使用や熱い飲料に対して変形・崩壊しやすいという物理的な欠点がある。また、紙の成形や接着には水や接着剤、コーティング剤などが必要であり、製造工程全体において大量の水資源とエネルギーを消費する。

さらに、原料となるパルプの生産には森林資源の伐採が伴うため、森林の生態系や炭素吸収源への影響も無視できない。実際、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量(CO₂排出量)を評価した研究では、ポリプロピレン製ストローよりも紙ストローの方が環境負荷が高いとされる研究も存在する(※4)

「生分解性プラスチックストロー」とは

  • 主な素材:ポリ乳酸(PLA)などの生分解性プラスチックを中心に、植物由来バイオマスや化石燃料由来のものまで幅広い
  • メリット:特定の条件下で生分解される/プラスチックストローに近い飲み心地を提供できる
  • デメリット:高温・高湿など特別な環境でのみ効果的に分解されるものが多く、自然環境では分解がほとんど進まない場合もある

生分解性プラスチックは、微生物が関与する酵素作用により分解されるプラスチックを指し、天然バイオマス由来、バイオ由来と化石由来の混合タイプ、完全に化石由来の3種類に大別される。好気的条件(酸素のある環境)では二酸化炭素と水に、嫌気的条件(酸素のない環境)ではバイオガス(二酸化炭素とメタン)と水に分解される。

一般的に、自然環境で勝手に分解するわけではなく、適切に管理された下水処理場、コンポスト施設、メタン発酵施設などの有機廃棄物処理施設での処理を前提としている。したがって、生分解性プラスチック製品は「使い捨て」を促すものではなく、使用後は回収され、適切な処理施設で分解・再資源化されるべきものである。

「生分解」とは、プラスチックが物理的に細かくなることではなく、微生物の作用で分子レベルまで分解され、最終的に二酸化炭素と水に変わり自然界へと循環する性質を指す。

生分解性プラスチックの分解性能は、国際的に定められた試験方法と基準によって評価される。加えて、重金属など有害物質の含有や、分解過程で生じる中間物の安全性も厳しく審査されており、これらをクリアした製品のみが生分解性プラマークを付与される。

飲料用ストロー用途では、天然バイオマス由来の生分解性プラスチックが注目されている。特にポリ乳酸(PLA)は、植物(トウモロコシやサトウキビなど)を原料とし、最も一般的に用いられているバイオベースプラスチックのひとつである。しかし自然環境におけるPLAの生分解性については科学的なコンセンサスがまだ十分に得られていない。

2025年にスターバックスが導入したことで注目されているのが、カネカ製の生分解性バイオポリマー「Green Planet®(グリーンプラネット)」を用いたストローである。この製品は植物由来の原料を使用し、バイオマス度は99%とされている。企業側は、紙ストローと比較してライフサイクル全体でのCO₂排出量を削減し、店舗から排出されるストロー廃棄物の重量を約半分に抑えられると発表している。

また、Green Planet®は、海水中や土壌中に存在する微生物によって分解されるとされており、環境中での自然分解が可能な素材として位置付けられている。ただし、慶應義塾大学の報告によれば、実際の分解には数週間から数ヶ月程度かかることが示されており、即時かつ完全な自然分解が必ずしも期待できるとは限らない。

原料が植物由来である生分解性プラスチックは、高いバイオマス度を有する点が強調されがちだが、これらの数値が実際の環境負荷低減にどの程度寄与するかについては、慎重な評価が必要である。環境影響の評価は使用条件や廃棄の前提に大きく左右され、単純な比較では把握しきれない。

「生分解性である」ということが、マイクロプラスチック問題の明確な解決策であるかのように語られることもあるが、自然環境中における分解の実態については未解明な点も多く、過信は禁物である。

生分解性ストローは、環境負荷の低減へのポテンシャルを持つ素材である一方で、分解には適切な条件が必要であり、誤った廃棄や不適切な管理が続けば、環境問題を根本的に解決するには至らない。したがって、こうした素材の特性を十分に理解し、廃棄・回収の管理をセットで考慮することが不可欠であり、今後も実環境下での検証と情報の透明性が求められる。

プラスチック、紙、生分解性ストローの環境影響比較

ポリプロピレン(PP)製ストローに代わる素材として、紙(PA)やポリ乳酸(PLA)が利用されているが、それらの環境影響は一様ではなく、研究の前提や地域条件によって評価結果が異なる。

米国のストロー使用を対象とした2022年発表の研究では、標準的なライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用い、ポリプロピレン(PP)、ポリ乳酸(PLA)と紙(PA)製のストローの環境影響を8つのカテゴリーおよび海洋ごみの影響で定量評価する、複合相対環境影響指数(REI / Relative Environmental Impact Index)を独自に開発して比較している。1日5億本にのぼる米国のストロー使用について、素材にかかわらず、ライフサイクル初期(原料生産段階)に大きな環境負荷が集中するという研究結果となった。

複合相対環境影響指数(REI)の評価では、埋立処理と焼却処理の場合は、ポリ乳酸や紙の方が相対的に高い環境負荷を持つ結果となった。また、仮に海洋ごみの割合が増加した場合でもREIには大きな変化が見られず、ポリプロピレンをポリ乳酸や紙に置き換えることは、海洋プラスチック汚染の抑制にはつながるものの、他の環境負荷を増大させる可能性があると示唆された。加えて、ポリプロピレンのクローズドループリサイクル(完全循環型リサイクル)は、全体的な環境負荷を大幅に軽減するポテンシャルがあると報告された。

つまり、この研究においては、米国のプラスチック海洋汚染を軽減するためにプラスチックストローをポリ乳酸製や紙製ストローに置き換えると、他の影響項目でより多くの環境コストがかかる可能性があると結論付けている。

カフェ

Photo by Maria M on Unsplash

一方、中国のストロー使用を対象とした2023年発表の研究では、同様にポリプロピレン、ポリ乳酸、紙ストローのライフサイクルアセスメント(LCA)を実施し、さらに低炭素電力(LCE)とリサイクル率(RC)を考慮したシナリオ分析を行っている。中国国内のミルクティーなどの飲料を想定し、500mlカップに適したストロー1本を機能単位とした評価を行った。原料準備から廃棄、輸送、回収に至るまで、ライフサイクル全体を対象としている。

この研究では、紙やポリ乳酸の代替素材がすべての環境指標において優位に立つわけではないが、リサイクルや再生可能エネルギーの導入によって、環境負荷の低減が可能であることが示された。特に紙ストローについては、RC100%、LCE50%の条件下で、一次エネルギー需要(PED)を27.9%削減できるとされ、その効果の大部分はリサイクルによるものであると報告された。

結局、どれを選べばいいのか?

一言でいえば、「どれを選ぶか」よりも、「どう使うか」という姿勢が問われている。

ストローには、紙、プラスチック、生分解性といったさまざまな素材の選択肢がある。しかし、どれか一つが「完璧な解決策」だとは言い切れない。温室効果ガスの排出量、資源消費、廃棄物の処理、海洋汚染などといった、どの環境負荷を重視するかによって、科学的な評価は変わるためだ。だからこそ、素材の特性だけに注目するのではなく、製造から使用、廃棄に至るまでのライフサイクル全体で環境影響を捉える必要がある。

まず見直したいのは、そもそもストローが本当に必要かどうかという視点だ。ストローがなくても支障がない場面では、使わないという選択が、環境負荷を抑える最も確実な方法だといえるだろう。もちろん、医療や福祉の現場などで、ストローが非常に役立ち、必要とされる場合もある。だからこそ、「使えるから使う」ではなく、「自分にとって本当に必要なのか」を考える姿勢が求められる。

紙にも、プラスチックにも、生分解性素材にも、それぞれ利点と課題がある。「環境に配慮している」とされる素材であっても、それが免罪符のように機能してしまえば、結果的に使い捨て文化を延命させることになりかねない。また、プラスチック問題や海洋ごみ問題について考える時、ストローばかりに注目が集まりがちだが、ドリンクカップやふた、そのほかのプラスチック製品も同様に、注視されるべき課題として捉えるべきである。

より環境負荷の少ない素材を選ぶことは一歩だが、それだけで満足してしまっては、本末転倒だ。表面的なイメージや「環境にやさしい」の一言に流されるのではなく、情報を主体的に読み解こうとする意識の変化こそが、最もサステナブルな選択と言えるだろう。

※1 Gao, Angela L and Yongshan Wan. Life cycle assessment of environmental impact of disposable drinking straws: A trade-off analysis with marine litter in the United States. Sci Total Environ. 817, no. 15 (2022).
※2 日本国特許庁「紙筒用生分解性積層体、筒状成形体および筒状成形体の製造方法」
※3 Xie, Yao, et al. Investigating interface adhesion of PLA-coated cellulose paper straws: Degradation, plant growth effects, and life cycle assessment. Journal of Hazardous Materials. 480 (2024).
※4 三井化学「【ホワイトペーパー公開】ストローのLCA比較でみたプラスチックとその代替」
【参照サイト】スターバックス「飲み心地の良さと、環境負荷低減を両立 植物などから生まれたバイオマス素材「生分解性バイオポリマー Green Planet®」のストロー提供開始 沖縄県内の全32店舗で2025年1月23日(木)より先行導入し、25年3月上旬より順次、全国に拡大 リソースポジティブ実現へ、環境に配慮した店舗づくりやコーヒーかすのリサイクルも加速」
【参照サイト】スターバックス「スターバックスの緑のストローが帰ってきた。飲み心地が良く、地球にもポジティブに。」
【参照サイト】山本輝太郎「紙ストロー問題はなぜすれ違いが生じたか 科学リテラシーの観点から 」国際環境経済研究所
【参照サイト】熊丸博隆「プラスチック海洋汚染問題がプラスチックから紙への製品素材代替に与えた影響」第33回廃棄物資源循環学会研究発表会 (2022)
【参照サイト】岳川有紀子「ストローのこれから」月刊うちゅう
【参照サイト】Fortune Business Insights.「プラスチック ポリマーおよび樹脂ポリプロピレン市場の規模、シェアおよび業界分析、タイプ(ホモポリマー、コポリマー)、エンドユーザー(パッケージング、自動車、インフラストラクチャおよび建設、消費財、ライフスタイル、ヘルスケア&医薬品、電気&電子機器、農業など)、および地域予測、2024-2032」
【参照サイト】Gao, Angela L and Yongshan Wan. Life cycle assessment of environmental impact of disposable drinking straws: A trade-off analysis with marine litter in the United States. Sci Total Environ. 817, no. 15 (2022).
【参照サイト】Ally Hirschlag. ‘Plastic or paper? The truth about drinking straws’. BBC
【参照サイト】日本バイオプラスチック協会「生分解性プラスチック入門」
【参照サイト】慶應義塾大学「生分解性プラスチック Green Planet をわずか数日で完全分解する微生物を発見! 」
【参照サイト】国岡正雄「生分解性プラスチックの現状と展望–ISO国際基準化を中心に–」マテリアルライフ学会誌. 32, no 2 (2020): 32-39.
【参照サイト】「スターバックス国内店舗で、サステナブルな未来につながるFSC® 認証紙ストローでの提供を開始 2020年1月より段階的にスタート、同年3月に全店約1500店舗に導入し年間約2億本分のプラスチックストロー削減へ」
【参照サイト】Guo, Xin, et al. Multidimensional evaluation for environment impacts of plastic straws and alternatives based on life cycle assessment. Journal of Cleaner Production. 404, no 10 (2023).
【参照サイト】三井化学「【ホワイトペーパー公開】ストローのLCA比較でみたプラスチックとその代替」
【参照サイト】日本国特許庁「紙筒用生分解性積層体、筒状成形体および筒状成形体の製造方法」
【参照サイト】Xie, Yao, et al. Investigating interface adhesion of PLA-coated cellulose paper straws: Degradation, plant growth effects, and life cycle assessment. Journal of Hazardous Materials. 480 (2024).
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