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マイクロプラスチック問題

プラスチックストロー

そもそもマイクロプラスチックとは?(What are Microplastics?)

マイクロプラスチックとは、一般的に5ミリ以下の微細なプラスチック粒子を指します。マイクロプラスチックは、より大きなプラスチック製品の分解、商業製品の製造、またはそれらの破壊から生じ、一般的に2つの主要なカテゴリーに分類されています。

一次マイクロプラスチック:商業製品や製品成分として意図的に作られた微細なプラスチック粒子のこと。例えば、化粧品、洗顔料、グリッターなどに使用される。また、衣類や漁網などの繊維から生じるマイクロファイバー。

二次マイクロプラスチック:ペットボトル、プラスチック袋、水筒など、大きなプラスチック製品が、環境要因(太陽の紫外線、波の作用、岩や砂の摩耗など)によって劣化し、細かく砕けたプラスチックのこと。

マイクロプラスチックは何が問題なのか?(Impacts)

マイクロプラスチックの問題は、自然環境で簡単に分解されず、数百年から数千年もの長い期間を要するため、その間に環境に与える影響が顕著であることです。さらに、微小なサイズゆえに回収が困難であり、この問題をより複雑にしています。

海洋汚染

海洋汚染(Marine Pollution)におけるマイクロプラスチックの問題は、海洋環境や海洋生物への影響を含む重要な課題です。

海洋プラスチックは、私たちの日常生活や産業活動から海に流入したプラスチックのことを指します。プラスチックは耐久性が高く長期間残存するため、海に流れついた後はほとんど分解されず、海洋生物や生態系に悪影響を与えることが懸念されています。

マイクロプラスチックは、ダイオキシンやPCB(ポリ塩化ビフェニル)などのPOPs(難分解性・高蓄積性・有害性を持つ物質)を吸着する性質があります。そのため、マイクロプラスチックが海洋を移動することで、海洋中に存在する有害物質の運搬手段となり、海洋汚染を拡大させているのです。

プランクトンが摂取できるほど小さなマイクロプラスチックは、魚や貝などの生物に摂食され、その後中型の魚、大型の魚と食物連鎖を経る過程で、POPsを含む有害物質が生物内に蓄積される可能性が懸念されています。

さらに、マイクロプラスチックがサンゴに摂取されることで、サンゴと共生する褐虫藻の減少を引き起こし、サンゴの白化につながることも示唆されています。海洋内に生息する生物50万種以上のうち、4分の1がサンゴ礁域に生息しているため、サンゴへの影響は海洋全体の生態系に大打撃を与えてしまいます。

人体への影響は?

マイクロプラスチックが環境中の化学物質を取り込んでいることで、人体に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

人は誰もがホコリや砂などの微粒子の摂取を経験していることから、マイクロプラスチックの摂取による人体への影響については現時点ではまだ明確な結論が得られていません。しかし、英国エクセター大学の生態毒物学者のタマラ・ギャロウェイ教授は、潜在的なリスクは高いと言えるとしています。

有害物質が含まれたマイクロプラスチックが生物に及ぼす影響や、その健康リスクに関する研究は現時点でまだ十分には行われていないため、具体的な影響について詳細な研究を進める必要性があります。

先述の通り、有害物質を含むマイクロプラスチックは魚介類の体内に蓄積されます。そして、プラスチック製品には内分泌かく乱作用や生殖毒性作用を持つ添加物も含まれており、食物連鎖を通じて人体に影響を及ぼす可能性が十分にあると考えられています。このため、発がん性、胎児や乳児の発達異常、免疫機能の低下などのリスクが懸念されています。

さらに、オーストラリア、ニューカッスル大学の研究によると、人々は飲料水や食物を通じて、毎週クレジットカード1枚分に相当する5グラムのマイクロプラスチックを摂取しているといいます。このような報告は、人体への影響に関して、マイクロプラスチック問題に取り組む重要性を示唆しています。

マイクロプラスチック問題の現状(Current Situation)

海洋プラスチック

年間115〜241万トンのプラスチックごみが世界の主要な河川から海洋へ流出しており、海洋プラスチックごみが観光や漁業などに与える経済損失は年間60億〜190億ドルに上ると推定されています。そして、世界中の海洋表面を漂っているプラスチック粒子は2019年には82兆〜358兆個あり、その重さは110万〜490万トンに相当すると考えられています。

また、日本周辺海域では世界の平均的な海に比べて、マイクロプラスチックの濃度が非常に高いといいます。九州大学、東京海洋大学、寒地土木研究所の共同研究チームの研究によると、2060年までには海洋中のマイクロプラスチックの重量濃度が現在の約4倍に増加することが予測されています。

様々な場所で発見されるマイクロプラスチック

研究者たちは20年ほど前から、マイクロプラスチックがもたらす潜在的な危険性について懸念を抱いてきました。英国プリマス大学の海洋生態学者、リチャード・トンプソン教授が2004年に「マイクロプラスチック」という用語を提唱して以来、深海、北極の雪や南極の氷、貝類、食卓塩、飲料水、ビール、空気中のごみ、山や都市で雨に含まれて降るものなど、さまざまな場所でマイクロプラスチックが発見され続けています。

オランダのワーゲニンゲン大学の環境科学者、アルバート・コルマン教授は、2021年に空気、水、塩、魚介類に含まれるマイクロプラスチックを調査した結果、子供から大人までが毎日数十から10万個以上のマイクロプラスチックを摂取している可能性があると報告しました。マイクロプラスチックは人間の様々な臓器や、新生児の胎盤からも発見されています。

増え続けるマイクロプラスチック

生物への具体的な影響については確定していないものの、確かなのは、マイクロプラスチック問題が着実に拡大し続けているということです。毎年約4億トンのプラスチックが生産され、その量は2050年までに2倍以上に増加する見込みです。即座に全てのプラスチックの生産が停止されたとしても、約50億トンと推定される既存の埋立地や環境中のプラスチックは、回収や浄化ができない細かい破片に徐々に分解され、マイクロプラスチックの量を増やし続けています。

2020年の予測によると、毎年追加されるプラスチック廃棄物の量は、2016年の1億8,800万トンから2040年には2倍以上の3億8,000万トンに増加するといいます。そして、その中の約1,000万トンがマイクロプラスチックになっている可能性があると推定しています。

マイクロプラスチック問題の背景と要因(Background & Factors)

マイクロプラスチック問題にはいくつかの要因があります。まず、プラスチック生産量の増加です。1950年以降、プラスチックの生産は急速に拡大し、現在は年間4億3,000万トン以上にも達しています。この数字は2040年までに倍増し、2060年には3倍に増加する見込みです。また、使い捨てプラスチックは現在の生産量の35〜40%を占め、この割合は年々増加しています。

日本においては、1人当たりのプラスチック容器包装廃棄量が世界第2位であり、2021年の非OECD諸国への廃プラスチック輸出量は世界第1位を占めています。

また、プラスチックの残留性も挙げられます。前述の通り、プラスチックは環境中で分解されにくく、長期間残留する性質があるため、回収して適切に処理されない限り環境中に残り続けてしまいます。

マイクロプラスチックの回収は非常に困難です。マイクロプラスチックは小さな粒子のため、大規模な回収が困難です。さらに、海洋や環境全体に広く分布しているため特定の場所での回収が不可能で、効果的な回収方法の確立がまだ進んでいません。

さらに、プラスチックの廃棄の問題があります。埋立地や、廃棄物の処理、リサイクルが適切になされていないことなどによって、海洋に多量にプラスチックが流入する事態が起こっています。

マイクロプラスチック問題への対策(Action)

マイクロプラスチック問題の解決には、社会や組織のレベルでの変革が肝要です。プラスチック汚染は国境を越え、特に貧困国に大きな影響を及ぼしています。この問題に対処するためには、プラスチックの循環経済への移行が不可欠です。国際プラスチック条約企業連合によると、循環型経済の採用により、2040年までにプラスチック汚染を80%削減し、2060年にはほぼゼロにできるとしています。解決策の一環として、プラスチックの生産段階からデザインを見直し、そもそもごみを出さないようにする循環型経済ソリューションを活用すること、そして、プラスチックの再利用システムへの移行や使い捨てプラスチックの削減、代替素材の採用など包括的なアプローチが必要です。

ギャロウェイ教授はNatureに掲載された論文の中で、「500年もつものを生産しておきながら、20分しか使わないのでは意味がない」と述べています。

研究の促進

対策の出発点は、まず実態を理解することです。プラスチックに対する世界的な認識、科学的研究、政策介入が拡大するにつれ、世界中の組織はプラスチック汚染を防止する方法を模索しています。そのためには、政策の機能性を評価するための正確な世界的時系列データが必要ですが、現在のところ、このようなデータは不足しています。

そのため、マイクロプラスチック問題を解決するためには、研究の発展が必要となります。この問題の複雑さは、マイクロプラスチックが極めて小さく、回収が困難であることにあります。海洋は大規模に流動しているため、海面に浮遊しているのか、他の物質に付着して沈殿しているのか、マイクロプラスチックの動向を探る調査は非常に困難です。

国連環境計画(UNEP)の海洋・淡水部門責任者であるレティシア・カルバーリョ氏は、特に有害物質やマイクロプラスチックが人間や海洋生物に与える影響を詳細に理解し、対策を講じるためには、これまで以上に迅速かつ優先的に研究を進める必要があると主張しています。

国際プラスチック条約(The Global Plastics Treaty)

国際プラスチック条約」は、2040年までに世界中のプラスチック汚染を解消するための取り組みです。この条約は、国際的な法的拘束力を持つもので、2024年までに条約案が完成する予定です。

その目標は、プラスチック製品が環境へ及ぼす影響を減らし、2040年までにプラスチック汚染を根絶することです。具体的には、プラスチックの設計や生産、使用、リサイクル、廃棄の方法を含む、プラスチック製品のライフサイクル全体を変革し、循環型経済を推進しようとしています。

この条約は175カ国以上によって承認され、政府間交渉委員会(INC)が設立されました。このイニシアティブは、プラスチック業界全体の協力と技術革新を促進し、プラスチックの持続可能な利用と管理に向けた第一歩となることが期待されています。

脱プラスチックへの取り組み

2023年、欧州委員会は、製品に含まれるマイクロプラスチックを制限する新しい措置を導入しました。この規制は、意図的にマイクロプラスチックを使用する製品の販売を禁止し、環境へのマイクロプラスチックの放出を防止するものです。これにより、約50万トンのマイクロプラスチックが環境中に放出されるのを防ぐことができると期待されています。

イングランドでは、2023年10月から、全ての使い捨てプラスチックの使用が禁止されました。この規制は、使い捨てプラスチック皿、トレイ、ボウル、カトラリーなどの広範な製品を対象にしており、これらの製品の購入は不可能となります。政府の調査によると、この措置に対する人々の反応は非常に支持的であり、95%以上の人が禁止に賛成していたといいます。

日本においては、G20大阪サミットで「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が提唱され、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指しています。このビジョンの実現に向けて、個人や企業、団体、行政などが自らの立場で取り組むことが大切だと主張されています。

私たちにできること(What can we do?)

マイクロプラスチック問題の認識を高める

マイクロプラスチックについて学び、その問題を共有することが大切です。私たちの行動が環境に与える影響を理解し、その情報を広めることで、問題解決への第一歩を踏み出せます。

サステナビリティに対する認識の向上

消費者として、私たちが企業に与えられる影響は意外に大きいものです。普段の買い物行動は、企業の方向性や製品開発に影響を与えることが多いため、「買い物は投票」だとよく言われています。消費者としての自身の役割を意識し、実際の行動と価値観を再考することが大切です。

近年、「SDGs」や「サステナブル」といったフレーズが蔓延していますが、これらの言葉が本当に実際の行動を伴っているのかを注意深く考える習慣を身につけることが大切です。私たちが、地球と将来のための選択をするためには、グリーンウォッシュを見極められるよう、サステナビリティに関する認識の向上が不可欠なのです。

そうすることで、消費者がモニター(監視役)として機能するようになり、企業のグリーンウォッシュを防止し、本質的な行動変革を促すことにつながります。消費者一人ひとりの意識向上が、具体的な取り組みや実施の促進につながるのです。

熱心な企業や団体、政治家へのサポート

マイクロプラスチック問題の解決に積極的に取り組んでいる企業、団体、政治家、政党を支援することも、この問題の解決に大きく貢献します。支援には様々な形があり、彼らの取り組みに参加する、彼らの取り組みを共有する、彼らの製品を購入する、彼らに直接寄付する、あるいは嘆願書に署名するなどして、問題解決に向けて後押しできます。

例えば、現在、国際プラスチック条約の締結に向けて、日本の積極的姿勢をサポートできる署名活動がグリーンピースによって行われています。この署名は、日本の政府機関(環境省・経済省・外務省)に提出される予定です。使い捨て文化の終焉とリユース中心の社会への変革を支持したい方は、以下のリンクから署名を行えます。

【参照サイト】「国際プラスチック条約」で使い捨てにさよなら: リユースの時代を始めよう

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで、マイクロプラスチック問題に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。

マイクロプラスチック問題を改善するアイデア(IDEAS FOR GOOD)

マイクロプラスチックに関する記事の一覧

【参照サイト】Lebreton, L., van der Zwet, J., Damsteeg, JW. et al. ‘River plastic emissions to the world’s oceans’. Nature Communications 8, 15611 (2017).
【参照サイト】‘The price tag of plastic pollution: An economic assessment of river plastic’. Deloitte
【参照サイト】‘Plastic ingestion by people could be equating to a credit card a week’ The University of Newcastle, Australia
【参照サイト】Eriksen, Marcus.,Win Cowger, Lisa M. Erdle. et al. ‘A growing plastic smog, now estimated to be over 170 trillion plastic particles afloat in the world’s oceans—Urgent solutions required’. Plos One (2023).
【参照サイト】PJ Landrigan, H Raps, M Cropper, et al. ‘The Minderoo-Monaco commission on plastics and human health’, Ann Glob Health, 89 (2023): 23. In Philip Landrigan, Christos Symeonides, Hervé Raps, and Sarah Dunlop, ‘The global plastics treaty: why is it needed?’. The Lancet.
【参照サイト】「【増え続ける海洋ごみ】マイクロプラスチックが人体に与える影響は?東京大学教授に問う」日本財団ジャーナル
【参照サイト】「一般向けマイクロプラチック発生抑制・流出抑制対策リーフレット」環境省
【参照サイト】「海が汚染され、海の生物も人も危ない! マイクロプラスチック汚染問題とは」千葉商科大学
【参照サイト】‘Microplastics’. National Geographic
【参照サイト】Lim, XiaoZhi. ‘Microplastics are everywhere — but are they harmful?’. Nature 593 (2021): 22-25.
【参照サイト】‘Microplastics: The long legacy left behind by plastic pollution’. UN
【参照サイト】マイクロプラスチックとは・意味
【参照サイト】【2023年最新版】各国の「脱プラスチック」の現状を徹底解説
【参照サイト】国際プラスチック条約とは?
【参照サイト】海洋プラスチック問題
【関連記事】海洋プラ問題だけじゃない。資源採掘から廃棄に至るまでの、プラスチック問題とは?
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