使い終わった製品を、もう一度資源として社会に戻す。サーキュラーエコノミー(循環経済)は、そう聞くと美しい仕組みに思える。しかし、ビジネスとして回そうとした瞬間、その理想は一つの現実に突き当たる。
そもそも、使い終わった製品は本当に製造者の元に戻ってくるのか。
どれだけ優れたリサイクル技術があっても、どれだけ再利用しやすい設計があっても、まずは製品が回収され、作り手のもとに戻らなければ循環は始まらない。循環経済の入り口にあるのは、「売ること」だけではない。使い終わった製品をどう集め、どう分解し、どの価値を残したまま社会に戻すのか。その流れ全体を設計することなのだ。
この問いに、自動車産業のなかで長年向き合ってきた企業がある。ルノーグループが80%、廃棄物・水処理大手SUEZが20%を出資する企業「The Future is NEUTRAL」(ザ・フューチャー・イズ・ニュートラル。以下、Neutral)だ。
同社は、設計、回収、解体、再利用、再製造、リサイクルまで、自動車のライフサイクル全体に関わる企業である。年間約40万台の廃車を処理し、900万個の部品を循環に戻してきた実績を持つ。
「設計段階から廃車処理まで、自動車のライフサイクル全体を産業規模でカバーできる競合は、欧州にいない。これが私たちの強みです」
そう語るのは、Neutralのシニア・ビジネス開発マネージャー、ウィリアム・ルフェーヴル氏だ。
今回、パリのオフィスを訪れ、前テクニカルディレクターのロラン・クロード氏、ビジネス開発ディレクターのオリヴィエ・ジャン氏、そしてルフェーヴル氏に話を聞いた。ルノー発の企業でありながら、なぜ競合他社にもサービスを提供するのか。廃車はどのように集められ、再び価値を持つ部品や素材へと変わるのか。そして、自動車産業で培われた循環経済の実装知は、他の産業にも応用できるのか。その問いをたどると、循環経済を「理想」ではなく「産業」として動かすために必要な条件が見えてくる。

Neutralのシニア・ビジネス開発マネージャー、ウィリアム・ルフェーヴル氏(左)と、ビジネス開発ディレクターのオリヴィエ・ジャン氏(右)
ルノー発でありながら、業界内で“中立”を掲げる理由
まず、Neutralはどのような背景から生まれた企業なのだろうか。
ルフェーヴル氏「Neutralは、2022年にルノーグループが立ち上げた企業です。ルノーが長年培ってきた自動車サーキュラーエコノミーのネットワークと、循環を実現するさまざまな役割を持つ企業を一つの傘の下に集め、自動車のライフサイクル全工程(設計から廃車処理まで)をカバーする企業として立ち上げました。
重要なのは、これが『ルノーのためだけの会社』ではないということです。ルノーはもちろん最初の顧客ですが、現在は15社以上のOEM(受託製造業者)、さらにリース会社、損害保険会社、修理ネットワークなど、自動車業界の幅広いプレーヤーに向けてサービスを提供しています」

The Future is Neutralのサーキュラーエコノミー・ソリューション(提供:The Future is Neutral)
ルノー出資の企業が、競合する自動車メーカーにもサービスを提供する。その点は矛盾しないのだろうか。
ジャン氏「そこが、『Neutral(中立)』という名前の核心です。異なるOEMの情報が混在しないよう、社内で情報を遮断する法的な仕組みも設けています。循環経済を事業として成立させるには、一定の量を集める必要があります。たとえば、プジョーのバンパーも、日産のバンパーも、メルセデスのバンパーも、バンパーはバンパーです。コアとなる素材は同じ。だから、処理も同じでいい。
ブランドを問わず集荷し、処理することで初めて、安定した材料フローと収益が確保できます。他のOEMにとっても、自前でこの仕組みを一から構築するより、すでに稼働しているNeutralと組む方が合理的なのです」
循環経済を産業として成立させるためには、安定した回収量が必要になる。自社だけ、あるいは一つのブランドだけで回収・解体・再利用の仕組みをつくろうとしても、十分な規模に届かないことがある。Neutralという名前には、競合企業同士であっても、素材や部品の循環においては共通基盤を持つべきだという考え方が込められているのだ。
設計から廃車処理まで、なぜ一社で持つのか
Neutralの事業は、自動車のライフサイクル全体に広がっている。
クロード氏「Neutralはホールディングとしての本体と、それぞれ専門性を持つ複数の子会社で構成されています。自動車のライフサイクルに沿ってご説明しましょう」

ザ・フューチャー・イズ・ニュートラルがサーキュラーエコノミーを実現するエコシステムにおける主要パートナー(提供:The Future is Neutral)
まず設計段階では、Neutral本体のエンジニアリングチームが「サーキュラリティを前提とした設計」の支援を提供する。
クロード氏「『修理できる設計』というのは、同時に『分解しやすい設計』でもあります。私たちは20年以上前から、車両設計に具体的な技術仕様を落とし込んできました。今私たちが解体している車は、その基準で作られたものです。だから比較的扱いやすいのです」
生産段階では、子会社Boone Comenor Metalimpexが各地の自動車工場から発生する金属スクラップをリサイクルする。年間180万トン超の鉄鋼スクラップが、ここで循環に戻されるという。
使用・整備段階では、パリ近郊フランに拠点を置く子会社The Remakersが部品の「リマニュファクチャリング(再製造)」を担う。故障したエンジンやギアボックスは、完全に分解・検査・再組み立てされた後、新品同等の品質と保証で出荷される。2025年には約32万個の部品が、ここで再び価値を持つ部品として生まれ変わっている。

リマニュファクチャリングの工程

リマニュファクチャーされたエンジン
クロード氏「そして廃車処理段階が、事業の根幹です。フランスの子会社Indra Automobile RecyclingとイタリアのPollini Groupが中心となり、約250拠点の解体センターネットワークを通じて年間約40万台の廃車を回収・解体します。使えるパーツは再利用部品として市場へ、使えないものは鉄・銅・アルミ・プラスチックとして素材ループへ。フランス・イヴリーヌ県フランに位置する『The Refactory』は、解体・再製造・バッテリー修理・3Dプリンティング・車体修理が同一敷地に集約された同社が欧州初と位置づけるフル循環エコシステムです」
バッテリーリサイクルについては、回収からブラックマス化までを戦略パートナーとともに進めている。設計から廃車処理までを一社で束ねることは、競合との差別化にもつながっているのだ。
ジャン氏「まさに差別化に直結していると感じます。競合他社は、解体が得意、あるいは再製造が得意といったように、バリューチェーンの一部に特化しています。 一方で、フルチェーンを一社で持つためには、長期投資とM&Aが不可欠です。それには時間もリソースもかかります。まったく異なる専門性を持つ事業を束ねるのは、非常に複雑なのです。 子会社の中には、設立100年を超えるものもあります。会社としてのNeutralの歴史は浅くても、ノウハウの蓄積は桁違いに深いのです」
循環経済では、設計、回収、解体、再利用、再製造、リサイクルがそれぞれ別々の工程として語られやすい。しかし、実際にはそれらは一つの線でつながっている。分解しにくい設計は、解体のコストを上げる。回収量が安定しなければ、再製造の事業性は揺らぐ。素材の品質が不安定であれば、リサイクル材の利用も進みにくい。Neutralがフルバリューチェーンにこだわる背景には、循環を部分最適ではなく、流れ全体として設計する必要があるという現場の実感がある。

バッテリーのリペア
サーキュラーエコノミーの難しさは「集めること」にある
では、サーキュラーエコノミーを事業として動かすうえで、最も難しいことは何なのか。
ルフェーヴル氏「『売ること』ではなく、『集めること』です。廃車や廃製品を確実に、安定して集めること。これがサーキュラービジネスの急所です。 販売先を見つけることよりも、材料となる使用済み製品のソーシングをいかに確保するかが、ビジネスモデルの成否を分けます。ビジネス開発の仕事の大半は、実は『いかに売るか』ではなく、『いかに集めるか』に費やされています」

TFINにとっての「資源」
自動車産業には、事故車や修理不能車が損害保険会社、修理ネットワーク、解体業者を通じて戻ってくる既存の流れがある。事故車や修理不能車がどこから、どのように戻ってくるのか。その流れがある程度見えているからこそ、解体、再利用、再製造、リサイクルの計画も立てやすくなる。
Neutralの特徴は、その流れを単に受け取るだけではない。400拠点超の解体センターネットワーク、再製造拠点、素材リサイクルの仕組みへと接続し、産業規模の循環基盤として束ねている点にある。
しかし、すべての産業に同じ仕組みがあるわけではない。家具、電子機器、建設資材、繊維製品。多くの製品は、使い終わった後にどこへ行くのかが見えにくい。個人の家庭に眠ったままになるものもあれば、分別されずに廃棄されるものもある。回収されても、品質や状態がばらばらで、再利用や再製造に向かない場合もある。
つまり、循環経済を始めるための最初の問いは、「どう再資源化するか」だけではない。誰が、どのタイミングで、どのように製品を戻すのか。その回収に、経済的なインセンティブをどう組み込むのか。戻ってきた製品を、どの品質で、どの程度の量だけ確保できるのか。そこまで設計しなければ、循環は絵に描いた円のまま止まってしまう。
リユースと再製造が、サーキュラーエコノミーの収益を支える
循環経済をビジネスとして成立させるうえでは、どこで収益を生むのかも重要になる。
ルフェーヴル氏「再利用(リユース)と再製造(リマニュファクチャリング)が、最も収益性の高い事業です。素材としてリサイクルするより、はるかに付加価値が高い。できる限りリユースを最優先し、その次にリサイクルする。この原則で動いています。
そして強調したいのは、このビジネスは規制がなくても成立するということです。車齢が上がるほど残存価値は下がり、高価な新品部品を入れる経済合理性がなくなります。そこには、中古部品への自然な市場需要があります。フランスでは、修理業者が中古部品の選択肢を顧客に提示することが義務づけられていますが、それは追い風であって、前提ではありません」
この言葉は、サーキュラーエコノミーを考える上で重要だ。リサイクルは、製品を素材に戻す行為である。一方、リユースやリマニュファクチャリングは、製品や部品に残っている価値をできるだけ高い状態で維持する行為だ。たとえば、壊れたエンジンを素材として処理すれば、金属としての価値は残る。しかし、分解し、検査し、再組み立てし、新品同等の保証を付けて再び市場に戻すことができれば、部品としての価値を保つことができる。
そこに、リサイクルよりも高い経済性が生まれる。サーキュラーエコノミーを「廃棄物処理」の延長として見るのか、それとも「残存価値を最大化する産業」として見るのか。Neutralの事業は、その見方の転換を示している。

使用済み車両の解体工程
なぜいま、他産業に向けたコンサルティングを始めるのか
Neutralは現在、自動車産業で培った循環経済の実装ノウハウを、他産業に向けたコンサルティング事業「Neutral Consulting」として展開し始めている。その背景には、他業種からの相談の増加があった。
ルフェーヴル氏「多くの他業種企業から相談が来るようになったことが、直接のきっかけです。そこで、私たちの知見を体系化することにしました。 ただ、私たちはコンサルティングファームではありません。きれいなスライドを作るのは得意ではないかもしれない。でも、工場を建てて動かすことは得意です。実際の操業から生まれた、実践的・実業的なアドバイスを提供するという立場を明確にしています。『メーカーによる、メーカーのためのコンサルティング』です」
では、自動車産業で培われたノウハウは、他の業種にもそのまま応用できるのだろうか。
ジャン氏「業種固有の専門知識には限界があります。しかし、サーキュラーエコノミーには、業種を超えた共通の原則があります。バリューチェーンをどう設計するか。回収フローをどう組むか。残存価値をいかに経済的に最大化するか。そこには深い類似性があります。そして、私たちが学んだことは一方向のものではありません。他業種から学ぶことも大いにある。そうした相互的なコラボレーションとして捉えています」
実際、Neutral Consultingのサービスを見ると、同社がサーキュラーエコノミーを単なる「戦略論」としてではなく、実装可能なオペレーションとして捉えていることがわかる。同社のサービスは大きく「戦略」「オペレーション」「変革」の3領域に分かれる。その中には、循環型設計、再生材導入、修理、使用済み製品管理、リマニュファクチャリング、バッテリーリサイクルなど、自動車業界で培ってきた実践的なテーマが並ぶ。
興味深いのは、「オペレーション」に最も多くの項目が割かれている点だ。一般的なサステナビリティコンサルティングでは、戦略や目標設定が中心になりやすい。一方、Neutralは、「どう回収するか」「どう分解するか」「どう再利用するか」といった現場レベルの実装を重視している。そこには、「サーキュラーエコノミーはPowerPointではなく、現場で動かして初めて成立する」という思想が透けて見える。
編集後記
どれだけ優れた技術があっても、製品が回収されなければ循環は始まらない。反対に、安定した回収の仕組みがあれば、そこから再利用、再製造、リサイクルという複数の価値が生まれていく。Neutralの取り組みは、循環経済を「理想」ではなく「産業」として成立させるために、何が必要なのかを示している。
それは、廃棄物を資源と呼び換えることではない。製品が使われ、壊れ、戻り、分解され、再び価値を持つまでの流れを、社会のなかに設計し直すことだ。
サーキュラーエコノミーが次の段階に進むために問われているのは、環境への善意だけではない。戻ってくる仕組みを誰がつくり、誰が担い、そこにどのような経済合理性を組み込むのか。その問いに向き合うことから、循環はようやく動き出すのだ。
【参照サイト】The Future is NEUTRAL
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Edited by Erika Tomiyama







