KPIを超えたものづくりを。 “好きだから”で手元に残り続ける、KINTOの「愛着」の設計

2026.08.05

窓の外をゆったりと通り過ぎる自転車と、古い建物の隙間に差し込む澄んだ夏の光。コペンハーゲンのカフェにいると、歴史的な建築物からパブリックスペースに至るまで、この街ではデザインが暮らしの動線に自然と組み込まれていることに気づかされる。

3daysofdesignというデザインの祭典で街全体が熱気に包まれるなか、ローカルコミュニティに親しまれるカフェ「studio x kitchen」の窓辺に、手触り感のある佇まいのプロダクトが並んでいた。 日本のライフスタイルブランドであるKINTO(キントー)が、同フェスティバルへの初出展で掲げたテーマは、日本語の「手間(Te-ma)」、あるいは「意図的なスローワーク(intentional slow-work)」だ。

近年、「長く使えること」や「壊れにくいこと」は、サステナブルなものづくりの重要な条件として繰り返し語られてきた。しかし私たちは、そうした正しさのロジックだけで、モノを本当に愛し続けることができるのだろうか。

新作「MUI」や「Futo」などに込められた情緒的耐久性(愛着)の思想と、それを支える数字に縛られないフラットなガバナンスについて、同社チーフブランディングオフィサー(CBO)の小出慎平氏に話を聞いた。

話者プロフィール:小出 慎平(こいで しんぺい)

小出慎平2007年に経済学部を卒業後、米系消費財メーカーのマースジャパンに入社し、ペットフードのブランドマネージャーを担う。 2019年、父・美樹が代表を務める株式会社キントーに入社。テーブルウェアやドリンクウェア等を展開する同社にて、チーフブランディングオフィサーとしてマーケティングから組織開発までブランディングの司令塔を務める。あわせてKINTO USA/EU/UKのCEOとして、グローバル展開を牽引。

滋賀から世界へ。日々の暮らしに寄り添う「KINTO」の歩み

今や世界中のセレクトショップやカフェで見かけるようになったKINTOだが、その原点は1972年、滋賀県彦根市にて創業された食器の卸売業にある。その後、「自分たちの思い描くライフスタイルにあったものを届けたい」との想いから、オリジナル商品の企画開発を本格的にスタートした。

2010年からは国内のみならず、ヨーロッパ、北米、アジア、中東などへのグローバル展開を開始し、2016年にはヨーロッパ子会社、2019年にはアメリカ子会社、2025年にはイギリス子会社を設立。「使い心地と佇まいが調和するものづくり」を一貫して追求し、テーブルウェアやドリンクウェア、インテリアアイテムなどを世界中に届けている。

カジュアルな使い心地を目指した、ロングセラーのティーウェア「UNITEA」シリーズ|Image via KINTO

「こころ豊かな日常のきっかけに」という彼らの思想は、商品のデザインだけでなく、素材選び、販売後の仕組みにも表れている。普遍的で空間に馴染むデザインやスペアパーツの販売、プラスチック廃棄物を原料とするサステナブル素材の採用(KINTO ♾️:キントーループ)など、プロダクトに愛着を持って長く使うという価値観を、ビジネスの仕組みそのものを通して実証し続けているのだ。

五感の心地よさに忠実な、新作「MUI」と「Futo」

3daysofdesignに合わせて開催されたコペンハーゲンでの展示。その核となっていたのが、新しいコレクションであるテーブルウェアの「MUI」と、テキスタイルの「Futo」だ。

民芸を一つのインスピレーションとして開発された「MUI」は、長年KINTOがパートナーシップを築いてきた岐阜県・東濃地区の赤土で作られている。手にとると、土ならではの素朴な温かみと、かすかな個体差が指先に伝わる。

「日々の生活に馴染み、自分にとってのしっくりくる定番になっていくということを願って開発した商品です。緊張感がある形ではなく、日々家族と話しながらご飯を食べるような空間が、自分にとってお気に入りの時間になっていくように、という思いを込めています」

テーブルウェアの「MUI」|Image via KINTO

一方、KINTOが初めて本格的に展開するテキスタイルブランド「Futo」は、「気がつくと自分のそばにあって、ふと手を伸ばしてしまう存在」を目指している。その心地よさを実現するため、ものづくりは「布への徹底的なこだわり」から始まっている。

「同じ機械を使うのでも、旧式でゆっくり動く機械を使っています。ゆっくり動くからこそ、そこでしか出せない密度の高さや、質感、肌触り感が実現できる。そうした布で商品を作っています」

和歌山の吊り編み機で作られたTシャツ、浜松のシャトル織機で織られた高密度コットンのエプロン、長野のホールガーメント技術によるバッグ。目指しているのは、単に長持ちする服や道具ではない。使うほどに手に馴染み、持ち主との関係が育っていくものだ。小出氏はこれを「情緒的価値」という言葉で表現する。

「現実的には、本当に商品が壊れて使われなくなるという話よりも、飽きられて別の商品が買いたくなってしまうことの方が多いのではないかと思います。だからこそ、いかに情緒的価値をしっかりと持って届けられるか。それが結果的に『長く大切にしてもらう』という点で重要になってきます」

テキスタイルの「Futo」|Image via KINTO

コペンハーゲンに溶け込んだ「手間(Te-ma)」という暮らしの余白

展示のタイトルとなった「手間(Te-ma)」という言葉について、小出氏は「あえてスローであることの豊かさを選び、丁寧な想いで手をかけること」と説明する。

会期中、その思想はstudio x kitchenの空間全体で表現されていた。キッチンスタッフが着用するFutoのエプロン、MUIの器に盛り付けられた季節の素材を活かした料理や、LUXグラスで供される冷たいデザート。

Exhibition at studio x kitchen|Image via KINTO

さらに最終日には、日本の茶舗「io いほ」とのコラボレーションによる冷茶のテイスティングイベントも行われた。UNITEAのカラフェに注がれた煎茶やほうじ茶をゆっくりと味わう時間は、せわしないフェスティバルの最中に、訪れた人々が立ち止まり、深呼吸できるような「余白」をもたらしていた。

「手間というのは、暮らしの中の小さな儀式のようなものです。例えば、夕食の後にハンドドリップでコーヒーを淹れる時間。その時間自体が、日頃の忙しいことから少し解放され、お湯の落ちる音や香りに自分のセンスが研ぎ澄まされる心地よいものになります。また、例えば家族のために淹れることで、感謝を表す所作として意味を持つこともある。自分自身がしっくりくる、人間として元々持っているような心地よいことに時間をかけていく。そうした、自分にとっての『手間』を選択することが大事なのだと思います」

カフェを訪れる人々の間に流れる穏やかな時間と、KINTOが提示した「手間」の思想は、互いに深く共鳴し合い、studio x kitchenの空間に自然に溶け込んでいた。

個人(N=1)の感性を信じる、企業としてのガバナンス

KINTOは生活における「手間」の価値を提案するだけでなく、ものづくりのプロセスにおける「手間」も大切にしている。効率化やスピードが最優先され、KPIや数字に追われて疲弊する人々が多い現代において、なぜ同社は「手間」という一見コストに見える要素を大切にできるのだろうか。その背景には、数字で現場を縛らないフラットな意思決定の仕組みがある。

「採用のときから、自分の生活にまつわることに強いこだわりや、高い興味レベルを持っている人を大切にしています。第三者の生活者視点になるというよりは、自分自身がこれが素敵だと思う、不便に思うという『自分の主観(N=1)』を大事にすべきだよね、ということを社内では常に共有しています」

Image via KINTO

一人の人間としての主観やこだわりを、組織の都合で潰さずにフラットに活かす。それを制度として担保しているのが、「短期的な売上目標(KPI)を持たない」という徹底した姿勢だ。

「短期的な売上の最大化を考えようとすると、『今流行っているこれを出そう』『商談しやすいように新商品をたくさん出そう』という話になりがちですが、うちはそこを一切考えない。長期的なブランドの成長だけをゴールに置くことを、大前提として徹底しています。だからこそ、高頻度で流行の商品を出すことに囚われず、定番となる商品を丁寧に育てることに集中できるのです」

小出氏は祖父が創業したKINTOの3世代目でもある。株主が一族であるファミリーカンパニーだからこそ、外部のステークホルダーから短期的な売上プレッシャーを受けにくい。世代を超える長い時間軸を見据え、この「人間への信頼」をベースにした穏やかでしなやかなガバナンスが機能しているのだ。

資本主義の中で、プロダクトを「定番」として守り続ける

KINTOはグローバル市場で戦うれっきとした営利企業である。利益の追求という市場のルールに真摯に参加しながら、大量生産の波に飲み込まれないという絶妙なバランスを、小出氏はどのようにコントロールしているのだろうか。

「数字と情緒的価値のあいだでの『板挟み』という感覚は、実はありません。なぜなら、自分たちが素敵だと思うものを届けることと、長期的な成長はトレードオフではなく、同じ方向にあると思っているからです。ただ、そのアクションが本当に正しいのか、長期的な成長を今年どう測るのかという点については、常に悩みながら進めています。規模を大きくすること自体が目的ではないですが、少しずつでも成長していくことで、同じような価値観を持つ生態系と刺激し合い、結果として社会に良いインパクトを残していけたら良いなと思っています」

Image via KINTO

この「長期的に定番を売り続ける」という姿勢は、製造を担う長崎県波佐見町や岐阜県東濃地区などの伝統的な国内産地やパートナー工場とのフェアな関係性を築く上でも、大きな意味を持っている。

「長く同じ商品を発注し続けるということは、工場にとっても、お互いにwin-winの関係を築くために非常に重要です。うちの商品づくりは手間がかかって面倒なことも多いのですが、時間と労力をかけて一緒に開発したからこそ、長く一緒に売り続けていきたい。日本の陶磁器のように、ある程度量を作れつつ高い品質を守れる産地は世界的に見ても貴重で、素晴らしい価値を持っています。メーカーのため、と偉そうに言える立場ではないですが、その価値をきちんとお客さまに伝えて共感していただくことが、私たちの役割だと思っています」

編集後記

モノを長く大切に使うこと。その行為を「地球に優しいから」という大義名分や義務感だけで持続させるのは、思いのほか難しい。私たちが本当に求めているのは、義務ではなく、暮らしの中で「つい手を伸ばしてしまう」という極めて主観的な愛着だ。

KINTOのプロダクトから感じ取れる「情緒的耐久性」という思想は、そうした人々の素直な好意に寄り添う。そしてその美しいアウトプットを裏側で支えているのは、短期的な売上目標で現場を縛らず、一人ひとりの「一人の生活者としての主観」を信じるという、組織の意思決定だった。

目標の数字を追いかけたり、最大公約数のニーズを分析したり……客観的なデータや「他人のものさし」を正解としてビジネスが動く現代において、KINTOが貫く姿勢は、ひとつの重要な事実を突きつけている。それは、市場やペルソナという主語の大きなデータに自分を無理に合わせるのをやめ、他ならぬ「私」という最小単位の主観(N=1)を信じることの可能性だ。

誰かの作った正解をなぞるのではなく、一人の人間としての「これが好きだ」「これが心地いい」という固有の感覚に、もう一度ビジネスも暮らしも立ち返っていくこと。このものづくりのあり方は、自分の内側にある主観をどこまでも信じ切る、新しい時代の選択肢を示している。

【参照サイト】KINTO
【参照サイト】KINTO at 3daysofdesign
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この記事を書いたライター

伊藤 恵(いとう めぐみ)。京都生まれ、東京育ち。大学院では都市社会学を学び、シンガポールを対象としたフィールドワークを通じて、大都市における人々の暮らしと都市の緑との関係を探究。現在はロンドンを拠点に、イギリスをはじめとする欧州のサーキュラーエコノミーに関する情報発信、レポート執筆、講演などを行っている。関心テーマは、まちづくり、ジェンダー、新しい経済や働き方。認定ファシリティマネージャー、CSRリーダー。(この人が書いた記事の一覧