社内で埋没しているアイデアを発掘。サーキュラーエコノミー実現のためのツール「サーキュラリティデッキ」とは?
2050年の脱炭素社会実現。そのための必須条件の一つが再生可能エネルギーへのシフトであることは間違いない。そして、新しいエネルギーへの転換とともに求められるのが社会変革である。
その社会変革を実現するために世界で推し進められているのが、サーキュラーエコノミーだ。サーキュラーエコノミーとは、従来の資源を採掘して、作って、捨てるというリニア(直線)型経済システムのなかで活用されることなく「廃棄」されていた製品や原材料などを新たな「資源」と捉え、循環させる経済の仕組みのことである。
では、資源の有効活用や廃棄物の削減など、サーキュラーエコノミーへのシフトをどう実現するのか。そのアイデアやビジネスモデルを考える上で有効なツールを、オランダのマートリヒト大学サステナビリティ研究所に所属し、循環型ビジネスモデルのイノベーションに関する研究に従事するJan Konietzko(ヤン・コニエツコ)教授が開発した。その名も、「Circularity DECK(サーキュラリティデッキ)」だ。日本でも、株式会社メンバーズがデッキを日本語に翻訳し、ワークショップを開催している。
デッキ自体は5つの資源戦略と3つの階層をかけ合わせた、51枚のカードで構成されている。
たとえば、「Slow(よりゆっくり使い延命させる)× Product層」で構成されるデッキは、下記だ。
- Slow×Product1:分解・再組立が容易なデザインにする
- Slow×Product2:物理的耐久性に備えたデザインにする
- Slow×Product3:標準化と互換性を考慮した設計にする
- Slow×Product4:感情的耐久性を備えたデザインにする
- Slow×Product5:アップグレード可能なデザインにする
- Slow×Product6:メンテナンスと修理を考慮したデザインにする
Slow×Productで構成される6枚のデッキを見渡せば、モノづくりをする上での標準化や機能性・メンテナビリティの向上など、物理的な耐久性を追求する商品開発のアイデアが盛り込まれているといえるだろう。
「感情的耐久性を備えたデザインにする」というユニークな視点のデッキも存在する。ユーザーが長期間にわたって愛着を持つことができる商品は、結果的に商品自体の延命につながることを示す「感情的耐久性」は、サーキュラーエコノミーにも寄与する考え方だ。こうした、5つの資源戦略と3つの階層で構成される51枚のデッキは、サーキュラーエコノミーへ移行していくために必要となる項目と言ってよいだろう。
自社のすでにある商品に対しても、「より少なく使うには?」、「より閉じた環境で使うには?」、「データを活用したら?」と、各デッキの施策を照らし合わせることで、比較的容易に新しいアイデアを生み出すことができるはずだ。
アイデアを創出する、サーキュラリティデッキワークショップ
このサーキュラリティデッキを使いながら、アイデア創出のためのワークショップを行うことができる。まず、ファシリテーターを含めた5~6名程度のグループをつくり、参加者全員であらかじめ確定されたワークショップのテーマを共有する。
【テーマ例】
- すでにある商品のサーキュラーエコノミーモデルを考える
- 自社商品を通して解決するプラスチックごみ問題
- 自社で運営する飲食店のサステナブルな施策
- サーキュラーエコノミーモデルによるプロモーション施策
次に、ファシリテーターが51枚のデッキを順番に読み上げ、それぞれのデッキの施策が一般的な商品やサービスの中でどのように実現されているのか、アイデアを出し合う。
たとえば、「標準化と互換性を考慮した設計にする」というデッキであれば、「充電用のスロットは標準的なUSBにする」という考えが浮かぶ。1枚のデッキに対して30秒以内、全てのデッキを終えるのに20分程度を要するが、それほど難しい作業ではないだろう。
全てのデッキの内容の理解をしたら、以下の3つにプロセスに沿って、現状把握とアイデア創出を行う。
- AsIs(現状):すでに取り組んでいる施策
- AsIs+(手の届く現実像):現時点では実現できていないが、デッキの施策を適用することにより、容易に実現できるアイデアやビジネスモデル
- ToBe(近未来):現時点では実現できていないが、デッキの施策を適用(複数枚を組み合わせることも可)することで実現できる新しいアイデアやビジネスモデル
これらプロセスをたどりながら、51枚のデッキがサーキュラーエコノミー実現に向けた施策のチェックリストとして機能することを実感できるだろう。60分ほどの時間があれば、AsIs(現状)のプロセスで現状を整理し、AsIs+(手の届く現実像)やToBe(近未来)のプロセスで新しいアイデアやビジネスモデルが生まれるはずだ。
サーキュラリティデッキを使ったワークショップの開催に興味のある方は、メンバーズによるサーキュラリティデッキ・ワークショップのページをのぞいてみてはいかがだろうか。
開発者メッセージ(日本語字幕あり)
【参照サイト】環境省 令和3年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書
Edited by Erika Tomiyama