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紛争鉱物問題

石

UnsplashUSGSが撮影した写真

紛争鉱物問題とは?

紛争鉱物問題は、鉱物から得られる利益が、紛争主体の主要な資金源となる問題です。特に、コンゴ民主共和国の東部で採掘されるスズ、タングステン、タンタル、金(3TG)がその典型的な例として挙げられます。

「紛争鉱物(Conflict Minerals)」は「紛争資源(Conflict Resources)」の一種です。紛争資源とは、その採掘、加工、取引、管理、徴税などから生じる利益が、紛争の発生や継続の原因として利用される資源のことを指します。冷戦後、大国からの援助が絶たれた結果、武装勢力が資金源として資源を利用する傾向が増し、それが紛争の発生や継続における紛争資源の役割を一層強化しているのです。

紛争資源は、深刻な人権侵害や国際人道法違反、あるいは紛争に結びついた組織的な開発や取引のきっかけとなるだけでなく、それらの問題の結果でもあります。

その中で、「紛争鉱物」とは、ある地域において、鉱物の取引が武装勢力の資金源となり、強制労働や人権侵害、汚職、マネーロンダリングを助長する鉱物を指します。主にスズ、タングステン、タンタル、金などの鉱物がこれに該当し、携帯電話や自動車、宝飾品など、あらゆる日用品に利用されています。一方、消費者が購入した製品が海外の暴力や人権侵害、その他の犯罪の資金源になっているかどうかを知ることは非常に困難です。

紛争鉱物がもたらす問題(Impacts)

2018年のノーベル平和賞を受賞したコンゴの婦人科医、デニ・ムクウェゲ医師は、受賞スピーチにおいて、紛争鉱物問題について警鐘を鳴らしました。彼は、コンゴには金やコバルトを含む豊富な天然資源がありながらも、皮肉にもその利益が、人々を豊かにするのではなく、戦争や残虐な暴力に使われることで絶望的な貧困に追いやっていると指摘しました。利益はわずかな指導者たちによって独占されており、その一方で、何百万もの人々や子供たちが極度の貧困に苦しんでいる現実を浮き彫りにしたのです。

住民に対する暴力、レイプ、殺人の横行

1996年の紛争勃発以来、コンゴでは紛争資源を利用する武装勢力や国軍による襲撃、殺害、組織的な性暴力が横行しています。紛争状況下では、性暴力が「紛争の武器」として用いられ、コミュニティーを支配し破壊する手段として悪用されているのです。

戦闘に伴う性暴力だけでなく、戦略的で大規模な性暴力も行われています。村を襲撃する武装勢力は、家族や村人の目の前で女性を集団でレイプしたり、彼女らの性器をナイフや銃で傷つけたりします。被害女性は身体的・精神的な苦しみを経験するだけでなく、多くの場合、家族や村から追放されています。紛争主体は、このように性暴力を手段として利用しコミュニティの断絶を生むことで、その地域の支配を目論んでいるのです。

2010年7月30日〜8月2日の間には、コンゴ東部の13地域で、少なくとも387人(女性355人、男性32人)に対する性暴力がありました。2012年11月20日〜30日の間には、国軍兵士が、少なくとも126人に性暴力をおこなっています。2018年9月にも組織的な性暴力事件が発生(※1)。国軍と自衛集団は元々、住民を保護する役割を担っているはずが、両者とも住民を攻撃する側になっているのです。

紛争鉱物への依存

紛争の混乱が続く中、伝統的な生計手段である農業を行うことが困難となり、代わりに鉱山労働への依存が生じています。若者や子供たちは鉱山労働や過酷な労働でわずかな現金を得るか、武装グループに徴兵される可能性もあります。紛争が終息せず、さらには新型コロナウイルスの影響下で、貧困層が新たな収入源を確保することはますます困難になり、鉱物資源への依存は、児童労働を含む低賃金での労働搾取を助長し、その結果、貧困の悪循環が続いています。

紛争鉱物問題の現状(Current Situation)

国連環境計画(UNEP)によれば、過去60年間における州内紛争の少なくとも40%は、天然資源との関連が指摘されています(※2)。アンゴラ、カンボジア、リベリア、シエラレオネなどの国々では、紛争資源からの収益が戦争を支える手段として利用されていたことは広く認識されていますが、この問題に対する国際社会の取り組みはまだ十分とは言えません。

コンゴは金、銅、スズ、ダイヤモンドなどの豊富な鉱物資源を持つ世界有数の国ですが、国連開発計画(UNDP)の人間開発指数(HDI)によれば、世界で最も貧しい国の一つです(191地域中179位)(※3)。東部ではウガンダやルワンダとの国境地域で紛争が絶えず、毎年1,000人以上が犠牲になっています。1996年の紛争発生以来、犠牲者数は600万人以上に上り、難民や国内避難民も400万人に達しています。Armed Conflict Location and Event Data(ACLED)によると、2018年には1,598件の暴力事件が発生し、3,043人が犠牲となりました。2023年には1,000人以上の死者が報告されています(※4)。こうした紛争状況が続く主因のひとつが、豊富な鉱物資源なのです。

1996年の紛争勃発以来、武装勢力は継続的に存在し、2015年には70以上の組織が確認されました。さらに、これらの勢力に対抗する名目で、地元のグループや地域の自衛組織が結成され、協力したり敵対したりして、紛争構造がより複雑化しました。また、国連の報告によれば、住民に対する人権侵害の30%は国軍の兵士や警察官によって行われています(※5)。現在も約130の武装勢力が活動しているといいます(※6)

紛争鉱物問題の背景と要因(Background & Factors)

資源が紛争に関与することは古くから存在する現象です。石油やダイヤモンドなどの資源、木材や茶、タバコなどの農産物、さらには麻薬や土地権利など、さまざまな資源が紛争の発生や継続に関係してきました。例えば、19世紀のアヘン戦争は、イギリス、中国、インド間の茶、アヘン、銀などの資源取引から生じた問題に端を発しています。

特定の国や地域が紛争鉱物の原産国となるリスクが高くなる要因は、大きく分けて以下の4つです。

  1. 世界的に需要が高い鉱物が産出されている国・地域
  2. 内戦や紛争の影響で脆弱な状態にある国・地域
  3. ガバナンスが弱い国・地域
  4. 国際法の侵害が経常的に行われている国・地域

鉱物資源は、現代の産業に不可欠であり、工業製品の製造に欠かせない存在となっています。鉱物資源の産出量は地域によって偏りがあり、特に中南米やアフリカ大陸に豊富に存在しています。その中でも、コンゴは世界有数の鉱物資源を有する国であり、コバルト、スズ、銅などの埋蔵量は世界トップクラスです。

紛争主体は鉱物資源を資金源として利用しており、特に2000年代以降は3TG(スズ、タングステン、タンタル、金)が利用されています。これらの紛争主体が鉱物から利益を得る方法には、鉱山や取引所を襲って略奪する方法、鉱山を支配し採掘した鉱物から利益を得る方法、鉱物の輸送と取引に課税する方法、採掘や取引のための機械や許可証に関連するその他の方法があります。

紛争鉱物問題への取り組み(Action)

2010年、OECDは「紛争地域及び高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を発表しました。これにより、企業は資源調達ルートから紛争鉱物を排除することが求められるようになりました。同様に、アメリカでは2010年の金融規制改革法(ドット・フランク法)1502条によって独自の紛争鉱物の取引に関する規制が導入。これにより、アメリカ証券取引委員会(SEC)上場企業は、自社製品に3TGが必要かどうかを評価し、3TGの原産国を調査し、原産国がコンゴとその周辺地域の場合は紛争鉱物でないかを調査し、SECへ年次報告を行い、ウェブでの情報開示をすることが求められるようになりました。一般的にこれらの取り組みは、倫理観からのみではなく、社会的責任投資(SRI)の一環として位置づけられています。

これらの国際的な規制導入前後、紛争フリー鉱物を証明する制度が数多く設立されました。例えば、2009年には地域認証メカニズム(RCM)が立ち上げられ、基準をクリアした鉱山に緑色の紛争フリータグが発行されるようになりました。タグ付きの鉱物しか購入しないことで、紛争フリー鉱物のみが流通するシステムが構築されたのです。その結果、2014年までにコンゴ東部の鉱山の約60%が紛争フリーになったとの報告もあります(※7)

しかし、こうした取り組みが効果的に機能しているのか、認証制度が十分に信頼できるものなのかは疑問が残ります。というのも、生産地での違法な徴税や、紛争フリーではない鉱山で認証タグが利用されるなど、認証システムの実施に関わる問題が生じているからです。さらに、紛争は依然として続いており、武装集団の増加や紛争関連事件の増加も見られます。コンゴ内外で、紛争が続くことで利益を得る勢力の存在や、近隣諸国の関与など、複雑な要因がこの紛争の継続に寄与しているのです。

日本の私たちと紛争鉱物のつながりとは?私たちができること(What can we do?)

世界とのつながりが密な現代では、自国での日常的な経済活動が、遠く離れた国や地域の問題に強い影響力を持っています。特に、途上国や紛争地域から輸出される資源を主に消費しているのは、経済先進国の市民です。私たちの日常的な消費行動が、生産地における問題と密接に関連していることを認識し、責任ある消費選択をしたり、消費者世論を形成して企業の行動を監視することで、私たち消費者は紛争解決・緩和に貢献できます。

日本などの先進国は、ハイテク機器の生産に携わっています。しかし、そのハイテク機器に使用されるコンゴの鉱物資源は、目を覆いたくなるような人権侵害や女性への性暴力、武装勢力の利益誘導に悪用されているのです。この点において、コンゴの紛争鉱物問題と日本の私たちとのつながりは明らかでしょう。例えば、紛争鉱物が使われたスマートフォンを購入することは、問題を助長する原因となるのです。このような事実を知り、私たちの消費がどのような影響を及ぼしているかを広く認識することが重要です。

最後に、紛争鉱物研究分野で活躍する東京大学特任講師の華井和代氏が強調するように、「形而上的なつながり」、つまり同じ人間としての尊厳の問題という点で、我々は遠く離れたコンゴの人々とつながっているのだということを認識することに大きな意味があります。そこに目を向けられなければ、この問題の根本的解決は不可能でしょう。

紛争鉱物問題を改善するアイデア(IDEAS FOR GOOD)

IDEAS FOR GOODでは、最先端のテクノロジーやユニークなアイデアで、紛争鉱物問題に取り組む企業やプロジェクトを紹介しています。


※1 華井和代「コンゴ民主共和国における紛争資源問題の現状と課題」日本国際問題研究所『国際問題』No. 682 (2019): 17-28.
※2 United Nations Environment Programme. From conflict to peacebuilding: the role of natural resources and the environment. (2009)
※3 Human Development Insights by United Nations Development Programme
※4 華井和代「コンゴ民主共和国における紛争資源問題の現状と課題」日本国際問題研究所『国際問題』No. 682 (2019): 17-28.
Democratic Republic of Congo: Re-elected President Tshisekedi Faces Regional Crisis in the East
※5 華井和代「コンゴ民主共和国における紛争資源問題の現状と課題」日本国際問題研究所『国際問題』No. 682 (2019): 17-28.
※6 「【vol.2】見えない“つながり”から、平和に貢献できることを自分事として考える!」三菱グループ
※7 「紛争鉱物と、日本の消費者はどうつながっている? 『解決へのつながり』に目を向け丁寧に知ることが始まり。」『af Magazine〜旭硝子財団 地球環境マガジン〜』公益財団法人 旭硝子財団

【参照サイト】華井和代「コンゴ民主共和国における紛争資源問題の現状と課題」日本国際問題研究所『国際問題』No. 682 (2019): 17-28.
【参照サイト】華井和代「現代アフリカにおける資源収奪と紛争解決 ―紛争資源を対象とするターゲット制裁は紛争解決をもたらすか―」東京大学大学院 (2010)
【参照サイト】‘Conflict and Natural Resources’. United Nations Peacekeeping
【参照サイト】‘What are conflict minerals?’. Responsible Minerals Initiative
【参照サイト】‘Conflict Minerals Regulation: The regulation explained’. European Commission.
【参照サイト】‘Definition of Conflict Resources’. Global Policy Forum
【参照サイト】「紛争鉱物と、日本の消費者はどうつながっている? 『解決へのつながり』に目を向け丁寧に知ることが始まり。」『af Magazine〜旭硝子財団 地球環境マガジン〜』公益財団法人 旭硝子財団
【参照サイト】「【vol.2】見えない“つながり”から、平和に貢献できることを自分事として考える!」三菱グループ
【参照サイト】「【コンゴ民】紛争鉱物に依存しない、オルタナティブな仕事を創る〜養蜂ビジネスが立ち上がりました!〜」認定NPO法人 テラ・ルネッサンス
【参照サイト】OECD(2011 年)、OECD 紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス、OECD パブリッシング。

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