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国際プラスチック条約とは?

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国際プラスチック条約(The Global Plastics Treaty)とは?

国際プラスチック条約(The Global Plastics Treaty)とは、国際的なプラスチック汚染を2040年までに解決するための条約である。2022年3月の第5回国連環境総会(UNEA-5.2)において採択された歴史的な決議に基づいて進められている。

この条約の主な目的は、プラスチック製品のライフサイクル全体にわたって、海洋を含む環境への影響を減らし、2040年までにプラスチック汚染を根絶することである。そのため、プラスチックの設計、生産、使用、リサイクル、廃棄の方法を変革し、循環型経済(サーキュラーエコノミー)を推進することが重要な要素となっている。

この条約は、国際的な法的拘束力を持つものであり、2022年3月2日のナイロビ国連環境総会(UNEA-5.2)で175カ国以上が承認した。プラスチックの使用や廃棄に関する包括的なアプローチを取るために、政府間交渉委員会(INC: Intergovernmental Negotiating Committee)が設置された。INCは、プラスチックのライフサイクル全体にわたる取り組みを議論し、2024年までに条約案を完成させる予定だ。これには、プラスチック製品の設計変更、効果的なリサイクル技術の開発、廃棄物の削減などが含まれる。

また、国際的な条約に基づくこの取り組みは、プラスチック業界全体での新たな協力関係やイノベーションを促進し、持続可能なプラスチックの利用と管理に向けた重要な一歩となることが期待されている。

プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会(INC)とは?

INCは、国際プラスチック条約の策定を目指して進行している重要な会議だ。最新の会議は2023年11月に開催されたINC-3(第3回会合)で、全体で5回の会議が予定されている。

INC-1(第1回会合): 2022年11月28日から12月2日まで、ウルグアイのプンタ・デル・エステで開催された。プラスチック条約の基本的な枠組みや議論の方向性が確立された。

INC-2(第2回会合): 2023年5月29日から6月2日まで、フランスのパリで開催された。プラスチック問題に関する具体的な提案や議論が進められた。

INC-3(第3回会合): 2023年11月13日から19日まで、ケニアのナイロビで開催された。条約案の具体的な内容や方針がさらに詳細化された。

INC-4(第4回会合): 2024年4月21日から30日まで、カナダのオタワで開催予定。この会合では、条約案の最終的なまとめや最終確認が行われる予定だ。

INC-5(第5回会合) 2024年11月25日から12月1日まで、韓国の釜山で開催予定。この会合では、最終的な修正や合意形成が行われることが期待される。

全5回のINC会合が、国際プラスチック条約の具体的な策定に向けた重要なステップとなっている。これらの会議で議論される内容や合意される条文が、プラスチック問題の解決にどれだけ貢献できるかを決定する鍵となるのだ。今後の交渉は、条約の効果的な策定に向けた非常に重要な段階である。

プラスチック汚染の現状

プラスチック汚染は現在、世界的な脅威として広く認識されている。プラスチックは難分解性であり、リサイクルされる割合が10%以下であるため、地球上には現在約60億トンものプラスチックが汚染物として存在している。この廃棄物には、発がん性物質や神経毒、内分泌かく乱物質など、1万500種類以上の化学物質が含まれている。これらの化学物質はプラスチックから溶出し、健康や環境に悪影響を与えている。ボストンカレッジの研究によると、米国では毎年8万5,000人以上の早期死亡、100万〜500万人の心血管疾患、6,750億米ドルの健康関連費用の原因となっていると推定されている(※1)

海洋には毎年推定1,000万トンから1,200万トンのプラスチックが流入し、海洋生物や生態系に多大な影響を及ぼしている。海洋プラスチックはマイクロプラスチックやナノプラスチック粒子に分解され、生態系を破壊し、食物網に取り込まれ、やがて人間が摂取している。

プラスチック汚染は、生産量の増加が主な原因となっている。プラスチックの生産量は1950年から急激に増加し、現在は4億トン以上に達しており、2040年までに更に倍増し、2060年には3倍になる見通しだ。また、使い捨てプラスチックは現在の生産量の35〜40%を占め、その割合は年々増加している。プラスチック生産により大量のCO2が排出され、地球温暖化を加速させている。

プラスチックの生産や汚染は国境を越えており、世界中の最貧国にも大きな被害をもたらしている。このような状況を受けて、プラスチックサプライチェーンの循環経済への移行が求められている。国際プラスチック条約企業連合によれば、既知の循環型経済ソリューションを最大限活用すれば2040年までに年間のプラスチック汚染量を80%削減し、2060年までにプラスチック汚染をほぼゼロにすることが可能であるという。

そのためには、循環型経済を実現するための全体的なシステム変革が必要である。つまり、プラスチック汚染問題の根本的解決には、すでに排出されたプラスチックごみの処理・廃棄問題だけに焦点を当てるだけでは到底不十分で、そもそもごみを出さないように生産段階から設計する必要がある。また、「買い物は投票だ」とよく言われるように、消費者一人ひとりの意識改革や、グリーンウォッシュに騙されないサステイナビリティ・リテラシーの向上も不可欠である。

世界プラスチック条約締結へ向けて

進捗状況

プラスチック汚染に対する世界的な取り組みの進捗状況は以下の通りである。

2017年
国連環境総会が、海洋ごみとプラスチック汚染の長期的な根絶をサポートするための世界的な行動の可能性を探る専門家グループを設置。WWFは他の環境団体とともに、プラスチック汚染に対抗する世界的で拘束力のある協定に向けた史上初のビジョンを発表。

2019年
ナイロビで開催された国連環境総会で、海洋プラスチックに反対する世界的な合意を求める動きがあった。
G20大阪サミットでは、「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が広く共有された。大阪ブルー・オーシャン・ビジョンは、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加汚染をゼロにすることを目指している。

2020年
世界的企業29社が、プラスチック汚染に関する新たな条約を求めるビジネス・マニフェストを発表。プラスチック汚染に関する新たなルールの必要性を強調した。

2021年
113カ国から700以上の市民社会グループやNGOが国連加盟国に対し、法的拘束力のあるプラスチック条約の交渉を求める宣言に署名した。

2022年
70以上の主要企業や金融機関が、包括的で強固な法的拘束力のあるプラスチック汚染に関する条約を各国政府に要請した。
第1回会合(INC-1)がウルグアイで開催され、145カ国以上がプラスチック汚染防止のための強力な世界的ルールを支持した。

2023年
第2回会合(INC-2)がフランスで6月に開催され、134カ国の政府がプラスチックのライフサイクル全般にわたる世界共通のルールを求め、条約のゼロドラフト作成のマンデートが確保された。
9月には世界プラスチック汚染条約の包括的な第一次草案である「ゼロ・ドラフト」が発表された。

ナイロビで行われた最新の会合(INC-3)での焦点は?

第3回会合は2023年11月13日から19日までケニアのナイロビで開催された。

INC-3には、約160の国連加盟国、国際機関、およびNGOから合計約2,000人が参加した。日本からは、外務省、経済産業省、水産庁、環境省からなる政府代表団が出席した。

主要な議題は、条約の目的と年限目標、一次プラスチックポリマーの生産制限、化学物質やポリマー、プラスチック製品の規制、国ごとの行動計画、新たな資金設立に関する議論などであった。

INC-3での日本の立場

日本はINC-3で以下の立場を主張した。

1. 2040年までの追加的なプラスチック汚染をゼロにする目標を条約の目的に組み込むべきこと。
2. プラスチック資源循環メカニズムを構築し、プラスチック製品のライフサイクル全体にわたる対応を義務化すべきであること。
3. 一次プラスチックの生産制限について、国ごとの事情を考慮しつつ、再利用やリサイクル、廃棄物管理に取り組むべきであり、一律の規制ではなく、国別の対応策を検討するべきこと。
4. 科学的根拠に基づく対応が必要であり、他の国際条約との重複を避けるべきこと。
5. 支援は効果的な措置を必要としている国々に対して優先的に提供されるべきこと。

しかしながら、日本政府はプラスチック汚染問題について比較的消極的な立場をとっているようだ。プラスチックの有害性やリスクの存在に対する疑念を表明したり、プラスチックの生産や使用を禁止することを自主的な施策とするべきだと主張している。

この消極的立場には、日本が一人当たりのプラスチック容器包装廃棄量が世界第2位であり、2021年の非OECD諸国への廃プラスチック輸出量が世界第1位であるなど、多大なプラスチック依存が影響していると考えられる。

この状況を受けて、グリーンピース・ジャパンは、日本が力強く実効的な「国際プラスチック条約」に向けた交渉を進め、プラスチックの生産から使用までを大幅に削減する、法的拘束力のあるプラスチック条約への支持を求める署名キャンペーンを開始した。残り2回のINC会合が、国際的なプラスチック問題の解決を左右する非常に重要な機会となる。プラスチック問題に対する日本の積極的なアプローチと包括的な取り組みへの支持は、以下のサイトで表明できる。

【参照サイト】「国際プラスチック条約」で使い捨てにさよなら: リユースの時代を始めよう

国際プラスチック条約企業連合(Business Coalition for a Global Plastics Treaty)とは?

国際プラスチック条約企業連合は、プラスチックのバリューチェーンに関わる企業、金融機関、主要な非政府組織(NGO)の連合体である。この連合の主な目的は、プラスチック汚染をなくし、プラスチック製品や素材の価値を経済的に維持する循環型経済を推進することです。

この企業連合は、国際的な法的拘束力を持つプラスチック条約の策定を支援することを目指しており、UNEA(国連環境総会)の「プラスチック汚染を終わらせる」を含む決議や政府間交渉委員会(INC)の設立を歓迎している。連合は、条約がプラスチックの循環型経済への進展を促進する重要な機会であり、条約交渉において先進的な企業やNGO、金融機関の声を反映させることで、野心的で効果的な条約の策定を支援することを目指している。

国際プラスチック条約企業連合は、プラスチックのバリューチェーンに携わる160以上の企業、金融機関、NGOが参加し、具体的な政策提言を行っている。2024年末までの国際条約の内容確定を目指しており、サーキュラーエコノミーへの移行やプラスチックの環境への影響を最小化するための取り組みを推進している。

日本の企業連合

日本国内でも、2023年11月1日に国際プラスチック条約企業連合が結成された。日本の企業連合には、食品や日用品などの分野で活動する10社の企業が参加しており、WWFジャパンが事務局を務めている。連合は設立日に、日本政府に対して「法的拘束力のある野心的な条約」の策定を求める声明を発表した。日本の連合の主な目的は、国際プラスチック条約の制定を促進し、プラスチック汚染の問題解決に向けた具体的な行動を推進することである。

日本の参画企業一覧

Uber Eats Japan合同会社
株式会社エコリカ
キリンホールディングス株式会社
サラヤ株式会社
テラサイクルジャパン合同会社
日本コカ・コーラ株式会社
ネスレ日本株式会社
ユニ・チャーム株式会社
ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社
株式会社ロッテ

プラスチック汚染問題において、企業連合が期待されるのは、プラスチックの生産段階と消費促進における責任の自覚と、本質的な行動変革を行うことだ。それは美辞麗句やグリーンウォッシュではなく、具体的な取り組みや実践によるものである。

まとめ

国際プラスチック条約は、その国際的な法的拘束力、プラスチックのライフサイクル全体に対するアプローチ、幅広い関係者の参加、2040年までの具体的な期限設定など、革新的な取り組みを特徴としている。

しかし、当然ながら、条約の締結がゴールであってはならない。真に期待されるのは、目標を達成するための具体的な行動や取り組みが実施されることである。

それに加えて、一人ひとりの意識変革も極めて重要だ。一人ひとりが最新情報を追い、自身の行動や積極的な参加、意見表明を通じて、プラスチック汚染問題に取り組むことができる。

※1 PJ Landrigan, H Raps, M Cropper, et al. ‘The Minderoo-Monaco commission on plastics and human health’, Ann Glob Health, 89 (2023): 23. In Philip Landrigan, Christos Symeonides, Hervé Raps, and Sarah Dunlop, ‘The global plastics treaty: why is it needed?’. The Lancet.
【参照サイト】竹山 栄太郎 「国際プラスチック条約の企業連合、国内10社で発足 日本政府に『野心的な条約』求める」 朝日新聞
【参照サイト】国際プラスチック条約 企業連合(日本)声明 WWFジャパン
【参照サイト】「プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第3回政府間交渉委員会の結果概要」経済産業省
【参照サイト】「国際プラスチック条約企業連合、日本版発足」ESG Journal
【参照サイト】Landrigan, Philip., Christos Symeonides, Hervé Raps, and Sarah Dunlop. ‘The global plastics treaty: why is it needed?’. The Lancet.
【参照サイト】Global Treaty to End Plastic Pollution, WWF
【参照サイト】Business Coalition for a Global Plastics Treaty
【参照サイト】‘Historic day in the campaign to beat plastic pollution: Nations commit to develop a legally binding agreement’ UN
【参照サイト】The Global Plastics Treaty, Plastics Europe
【参照サイト】Intergovernmental Negotiating Committee on Plastic Pollution, UN
【参照サイト】「国連環境総会(UNEA)におけるプラスチック汚染に関する決議について」環境省
【参照サイト】「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」環境省
【参照サイト】「国際プラスチック条約」で使い捨てにさよなら: リユースの時代を始めよう
【参照サイト】「マンガでわかる!『国際プラスチック条約』〜プラスチック汚染のない未来がやってくる〜」グリーンピース
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