世界で課題の「汚染を悪化させる」リサイクルモデル。脱却するには?

Browse By

プラスチックごみによる汚染は、今や多くの人の関心を惹いている。世界各国でリサイクル政策が進むプラスチックだが、ブラジルをはじめとしたグローバルサウスの国々では、回収モデルに課題も多く、ただごみを集めてきても他のものに活かせないケースが報告されている。

今回は、世界経済フォーラムが2023年7月14日に掲載したコラムを紹介する。ブラジルのリサイクル会社の代表を務めるFelipe Cardoso(フェリペ・カルドソ)氏の寄稿をもとに、決して他人事ではないブラジルの現状について考えていきたい。

(以下、世界経済フォーラムが運営するアジェンダページの「汚染を悪化させるリサイクルモデルからの脱却」の全文掲載)


世界自然保護基金の調査によると、毎年1,000万トンのプラスチック容器包装が海洋に流入しており、これは、2万3,000機ものボーイング747型機が海に着水することに相当します。

世界銀行のデータによると、ブラジルのプラスチック廃棄物排出量は1,130万トンで、米国、中国、インドに次ぐ世界第4位です。このうち1,030万トン以上(91%)が回収されていますが、効果的にリサイクルされ、二次製品として生産チェーンの中で再加工されるのは、わずか14万5,000トン(1.28%)に過ぎません。平均9%の世界のプラスチックリサイクル率をブラジルは大きく下回っており、調査結果の中で最もリサイクル率が低い国のひとつでした。

最終的に、770万トンのプラスチックが埋め立てられ、さらには、240万トンが何の処理も施されることなく、野外のゴミ捨て場に廃棄されています。

プラスチック汚染は、大気、土壌、水の供給システムの質に影響を与えます。プラスチックの燃焼や焼却は、健康に極めて有害なガス、ハロゲン、二酸化窒素、二酸化硫黄を大気中に放出する可能性があります。屋外投棄も、帯水層、水域、貯水池を汚染し、呼吸器疾患、心臓疾患、神経系障害を引き起す原因となります。

プラスチックリサイクルの課題

ブラジルでは、プラスチックごみの91%が主に自治体により回収されているのにもかかわらず、なぜ、実際のリサイクル率はわずか1.28%なのでしょうか。

プラスチックごみを効果的にリサイクルし、新しい製品に生まれ変わらせるためには、まず、完全にきれいな状態にする必要があります。長い間、一般的な方法として水洗いによる洗浄が世界中で行われてきましたが、環境を汚染する力の強い汚染プラスチックに対してはこの方法を用いるのは適切ではありません。

プラスチックから汚染物質を効率的に除去することができない上に、何千リットルもの水を使用し、排水とさまざまな種類の廃棄物を生成し、高い環境リスクが伴うためです。その結果、プラスチックは、品質、用途、経済的価値を失い、リサイクルチェーン全体の価値を低下させます。特に、回収業社や協同組合にとって、その影響は大きいでしょう。

世界中で、毎年350億本のペットボトルが廃棄され、その中には10億リットルもの油が残留しています。ブラジルだけを見ても、年間10億本の潤滑油のプラスチック容器包装が廃棄されていますが、そこから200万リットルの残油が出ます。こうした油は、わずか1リットルで100万リットルの水を汚染する可能性があります。

例えば、潤滑油で手を汚したとしましょう。油は水だけで落とすことはできないので、少し洗剤を使って洗います。しかし、手はきっとまだ洗い足らず、使った水も油で汚染されています。使った洗剤も油と混ざり、危険な残留物となります。これが、リサイクルの過程で、水で洗浄を行った場合に起こることであり、世界中でこの方法が取られれば、環境リスクは増大する一方です。

油で汚染されたプラスチック廃棄物

油で汚染されたプラスチック廃棄物 Image: Eco Panplas

ブラジルのソリューション:水を使わないリサイクル

Eco Panplasは、エコロジカルな方法でプラスチック容器包装の汚れを取り除き、リサイクルする、技術的なソリューションを開発しました。私たちが開発したエコロジカルな脱脂剤は、水を使うことも、廃棄物を生成することもなく、プラスチック容器包装の油分を取り除くことができます。汚れが取り除かれたプラスチックは、新しい容器の製造などに再利用され、回収した油は販売されます。

ブラジルで6年かけて開発されたこの技術と設備は特許を取得しており、高い生産能力を持つ自動生産ラインで洗浄・リサイクルが行われています。この方法により、残留油はすべて回収・リサイクルされるため副産物となり、環境リスクを排除しています。

さらに、このリサイクルの工程で、優れた品質の再生プラスチック原料が生成されるため、100%再生材料による新たな容器包装が、既存の価格よりも最大10%安く製造することができ、真のサーキュラーエコノミーを実現しています。

当社の工場があるサンパウロ州オルトランディア市で生産された1,000万個の潤滑油容器からは、500トンの再生プラスチックが回収され、新たな潤滑油容器の製造に利用されました。また、170億リットルの水が節約され、530トンの汚染プラスチックが埋め立てられることなく処理されたと同時に、温室効果ガス排出量は800トン、エネルギー消費量は75%削減されました。

私たちの取り組みは、米州開発銀行(IDB)、メキシコのFemsa Foundation、国連グローバル・コンパクト、エネルギーグローブ、B corpなどによる32の国内外の賞の受賞を通じて、革新的なソリューションとして認められています。

今後の目標は、より高い生産能力をもち、ブラジルでのリサイクルを拡大すると同時に、国際的に技術ライセンスシステムを提供することです。

効率的かつエコロジカルな方法でリサイクルし、環境汚染を防ぐことができないのであれば、プラスチック廃棄物を回収する意味はほとんどなくなってしまします。この課題を解決することなしには、リサイクル率の向上や、インパクトのある社会的・環境的利益を生み出すことはできないでしょう。

著者:Felipe Cardoso(Founder, Eco Panplas)
※ この記事は著者の意見を反映したものであり、世界経済フォーラムの主張によるものではありません。

【関連記事】サーマルリサイクルが「リサイクルではない」と言われる理由
【関連記事】サーキュラーエコノミー(循環経済/循環型経済)とは・意味

FacebookTwitter